元全世界の敵のなんだかんだ奮闘記   作:天然黒酢

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温かいメッセージありがとうございます。
ブランクからかめっちゃ書くスピード遅くなってて草なんだ。
また徐々に取り戻していきます。


アンバー

 修練場から出たラグナはオズピンのいる学長室に向かおうと足を向ける。

 

「よお、ブレイク!

大丈夫か?」

 

 そう思った矢先に聞こえた、聞き覚えのある声のした方に目を向けるとサンがブレイクを呼び止めていた。

 

「大丈夫…」

 

 そう応えるブレイクは、とても大丈夫そうには見えない。クマも酷く、顔色も悪いし、声にも覇気がない。先程の授業でも、グリンダに声をかけられた後でさえ、意識が遠のいていた様子があった。

 

「あー…

今度の日曜日にダンスパーティーがあるらしいな。ダンスなんて超ダルいけど、俺とお前ならOKだって思わねえ?」

「はあ?」

「今度のダンスパーティー、一緒に行かないか?」

「遊んでる暇なんてないから。そんな事に使える時間なんてないの。あなた達なら分かってくれてると思ってた」

 

 サンの誘いを一蹴して、足早に去っていくブレイクに、サンは肩を落とした。ここ最近の事件の内容を考えると、ブレイクの心情も察するに難くなく、思い詰めるのもやむを得ない。とはいえ、このままではいずれ限界が来る事は容易に想像出来た。

 

「部屋に戻ってもずっとあの調子か?」

 

 そんなブレイクを憂うように見つめるRWBYの面々に、声をかける。

 

「うん…

というか、この土日は部屋にもほとんど戻って来ないの。ずっと図書館に籠って、情報をかき集めてる」

「見ていられませんわ。あんな状態、保つはずありません」

「なんとかダンスパーティーには来てもらって、気分転換して欲しいんだけど」

「そうだな…

そういや、ヤンとワイスが幹事になったんだったか?」

「ええ、チームCFVY(カフィー)の任務が長引いているらしく、私達が幹事を引き継ぎましたの」

「なるほどな」

 

 チームCFVYはラグナ達の1学年上の先輩に当たる。メンバーの中には以前、ファウナスである事でチームCRDLにいじめを受けていた兎耳の少女、ヴェルヴェットが在籍している。2年生はハンターとしての任務実習が本格的に始まっており、2年生内で他の学生に幹事を引き継ぐのは難しい。

 ヴェルヴェットは2年生ではあるが、以前、単位取得のため、ウーブレック博士の授業にラグナ達と同じ枠で出席していた。そのため、学年は違うがチームRWBYと面識があり、今回、白羽の矢が立ったという。

 

「楽しみにしててね。めちゃくちゃ楽しい夜にしちゃうから!」

「あ、ああ…」

 

 ウィンクするヤンに歯切れ悪く応えるラグナ。ダンスパーティーとなると相手役が必要かになるし、元々ダンスも経験はない。会話の後、チームRWBYはブレイクを追って寮の方へと向かいながら、ラグナに手を振った。それを見送りながら、ラグナは頭をひねる。

 

(どうすっかな…)

 

 結果、考える事が増えてしまったラグナは、とりあえずそれを保留にし、ひとまずはと気を取り直して、改めて学長室に向かったのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 学長室の入り口となるエレベーターの扉が開く。部屋の奥で椅子に座り、いつも通りココアを手にしたオズピンがラグナへ笑顔を向ける。

 

「やあ、よく来たね、ラグナ。飲むかい?」

「ああ、長くなりそうだし、貰うとするか」

 

 オズピンから勧められたココアを受け取り、オズピンと対面する形で椅子に腰掛ける。

 

「今日はどうしたんだい?」

「メールで報告はしたが、昨日、以前会った仮面の男から秋の女神を襲った奴等が、力を掌握しきれてないっつう話を聞いた」

「…そうだったね」

「前に聞いた話だと、今代の秋の女神が襲撃された。敵の目的としては、襲撃を受けた秋の女神が、死ぬ間際に目の前にいる襲撃者の事を思い浮かべるように仕向け、女神の力を継承するっつう流れかと思ったんだが…」

「それで大凡(おおよそ)合っている。しかし…」

 

 オズピンはそこで言葉を止めると、顎に手を当てる。そのまま数刻の沈黙の後、立ち上がった。

 

「ふむ…場所を変えようか。その方が、君にも飲み込んでもらいやすいだろう」

「何処に行くんだ?」

「地下だ」

 

 オズピンはラグナにエレベーターに乗るように促し、ラグナもそれに従う。エレベーター内の操作盤にオズピンが手を当てると、「地下」という言葉の通り、エレベーターは下方向へと動き始める。

 

「襲撃された秋の女神、今代のフォールは敵に敗れてしまった。ギリギリの所でクロウが助けに入り、一命は取り留めたが、秋の力の一部が失われている事がわかった。ジェームズがアトラスの最新技術でオーラを科学的に研究していてね。最近、オーラを捕捉する事にも成功した事で、秋の力の源となっている彼女のオーラ自体が弱まってしまっている事も分かったそうだ」

「…それが力が奪われたって言ってる理由か」

「ああ、敵は女神の力を直接奪おうと試みたと考えるべきだろう。簒奪者が最後に思い浮かべる人物を自分に出来るかどうかは不確定要素が多すぎる。だから確実な方法を見つけた。そして、その術を自由に使う事が出来る」

 

 下へ下へと沈んで行ったエレベーターが停止し、扉が開く。そこは薄暗く閑散とした空間が続いており、オズピンが奥へと歩くのにラグナも続いた。

 

「秋の女神が回復する見込みは?」

「正直なところ難しいだろうというのが、我々の見解だ。今は容体が安定しているが、意識は戻らず、いつどうなるかはわからない。なにせ、今回のような力の分散は前例がないからね」

「力の一部が敵の手に渡ってるってなると、もし秋の女神が力尽きたら、残りの力も引っ張られる可能性が高ぇな」

「ああ…おそらくは…」

 

 らしくなくオズピンの沈んだ声が、ことの深刻さを物語る。奥へと進んだ先には、生命維持の医療機器であろうカプセルが設置されていた。そのカプセルの中には褐色の肌をした女性が眠るように横たわっている。

 

「こいつが?」

「ああ、今代の秋の女神(フォール)、アンバーだ」

 

 アンバーの左の目の下には、火傷の様な痕が残っている。

 

「火傷みてえな痕があるな…

ルビーが巻き込まれたダスト強盗の日、グリンダと交戦した女が炎を操ってたらしいが?」

「ああ、クロウからの情報と女性であるという女神の条件にも合致する事からその炎を操る女性が首謀者である可能性が高い」

「そんで、そいつはセイラムとやらの手先だと…?」

「少なくとも、我々はそう考えている」

「こいつを助けたクロウはそいつらの顔を見てねえのか?」

「その場に居たのは3人組だったという事は確認出来ているが、危険な状態にあったアンバーに気を取られて、細かい特徴までは確認出来なかったそうだ。その後、クロウの状況も切迫しているようで、彼からの連絡もめっきり減ってしまってね」

「そうか…」

 

 秋の力の一部が奪われ、女神自身も再起不能、敵の情報はこれといってない。秋の女神を取り巻く現状は控えめに言って「最悪」だ。敵は上手く陰に身を潜めながら、着々とこちらに刃を近づけている。

 

「それで、これからどうする?

まさか、秋の女神(フォール)が奇跡的に意識を取り戻すのを待つなんて言わねえよな?」

「ああ。それまでに彼女の容体が急変したり、敵にこの場所が露呈し、再び襲撃されるリスクを考えると、悠長に構えていられる程、我々に残された時間は多くはないだろう。

だから先手を打ちたいが…」

 

 歯切れが悪くなるオズピンにラグナは眉を顰めた。

 

「何か問題でもあんのか?」

 

 素直に疑問を投げかけるラグナに対し、オズピンは一つ息を吐いて続けた。

 

「アトラスのオーラの研究を応用し、彼女のオーラを他人に移植する。その後、女神の力を奪った敵を倒せば、彼女のオーラに引き寄せられて、移植したその人物が新しい秋の女神として目覚めさせる事が出来るだろう」

「………」

 

 ラグナはオズピンの話を冷静に聞くように努めた。しかし、ラグナの顔が徐々に険しく変わっていく。オーラとは魂を源泉とする個人固有の力、その者の生命力と言い換えても良い。そのオーラを移植するという事は、魂の融合と相違無い。

 

「『魂の書き換え』…か…」

「非人道的な行為である事は百も承知だ。しかし、このままでは女神の力が敵の手に渡ってしまう。それだけは避けなければ…

もちろん、そんな重大な役目を強制するつもりはない。あくまで彼女の意思を尊重すると誓おう」

 

 オズピンが口にした「誓い」と「彼女」という言葉に、ラグナは地下の天井を仰いだ。オズピンが指す人物が思い浮かんでしまったからである。

 力を持ちながら、驕らず、初代の女神達のように思いやりに溢れ、そして何より、覚悟を宿した魂を持つ人物。

 

「……ピュラ…」

 

 ラグナの呟きにオズピンも頷く。

 

「やはり君も彼女に行き着くんだね。

女神は自らを選ぶが、私も出会ったその日からずっと、彼女こそ役目に相応しいと思っていた」

「待ってくれ。もし仮に、オーラの移植が成功したとして、ピュラはどうなる?」

「分からない…

そもそも上手くいく保証も無いし、以降、彼女が彼女のまま居られるとも限らない」

「……だろうな…」

 

 「魂の書き換え」をしようというのだ、ピュラの魂とアンバーの魂が融合する際、全く別の人格として目覚める可能性すらある。

 

「いずれ彼女にもこの事を説明し、選択してもらう事になるだろう。重大な決断になる。優しいあの娘は、葛藤し、苦悩するだろう。

君には彼女の側にいて、彼女がどんな決断をしたとしても、その決断を肯定してあげて欲しい。

私達には出来ない事だからね」

 

 オズピンがラグナに頭を下げる。オズピンの言う通り、ピュラは自分が消えるかもしれない恐怖と世界を憂う想いの狭間で身を焦がすだろう。どちらを選んでも、自分の決断の結果を見て、自責の念に苛まれるだろう。それを「救える」のは、1人しかいなかった。

 

「言われるまでもねえな」

 

 ラグナの返事にオズピンも笑みを浮かべて、安堵するように頷いた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 その後、学長室に戻ったオズピンとラグナだったが…

 

「そういえばラグナ、ダンスの経験は?」

 

 この一言で、ラグナは身体をピキリと強張らせた。その反応にオズピンは全てを察した。

 

「そういえば、ダンスを教えた事はなかったね。もう教える事は無いと思っていたけど、盲点だった」

 

 ラグナの脳裏には、オズピンと暮らし始めた頃の彼のスパルタ教育の日々が浮かぶ。楽しそうに笑うオズピンとは対照的に、ラグナは冷や汗を浮かべる他無かった。それから暫くの間、学長室にはステップの靴音が鳴り続いたという。

 




如何でしたでしょうか。
ラグナの活躍によって物語がどう変化していくのか、皆さんに楽しんでいただけるように丁寧に書いていきたいと思います。

それでは恒例の謝辞を
今回もお読みいただきありがとうございます。
また次回。
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