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ラグナがこの町「アーガルム」に住み着いて半年と少しが経った。住み着いた当初はジリジリとした日差しが照りつけ、凶悪な暑さであったが、現在はコートが手放せない気候へと変わっていた。
ラグナは町の人間から少しずつ受け入れられ、今では町の用心棒代わりとして、町中の人から慕われるようになっていた。更に、噂が噂を呼び、近隣の町からも依頼が転がり込むようになった。
そんなある日ーー
「君がラグナ君かな?」
1人の男がラグナに声を掛けてきた。
「ん?ああ、そうだけど」
「初めまして、私はピンス。君がこの町でさまざまな仕事を請け負う便利屋をやっていると聞きまして」
「……それで?要件は?」
「はい。私はグリムに関する研究をしておりまして、依頼というのはこれから今日一日、日が沈むまでの間、町の外に出て、遭遇したグリムを討伐していただきたいのです。グリムの生態、危険度を調査するために」
ラグナはピンスと名乗った男をじっと見つめる。帽子を目深く被っており、目元はサングラスで隠している。雰囲気は決して若くはないが、表情は読み取れない。
「そういった依頼は、普通のハンターに依頼した方が良いんじゃねえか?グリムの研究者ってんならお得意先ハンターの1人や2人いんだろ?それに、あんたここら辺の人じゃねえな?何が目的だ?」
男の怪しさに、ラグナも警戒心を露わにする。町の人間からの依頼は快く引き受けるラグナでも、どんな人からもすんなり依頼を受けるほど無警戒では無かった。
「目的は先ほど申し上げた通りですよ?お得意先のハンターは…まあ、いない事は無いのですが…」
「じゃあそいつらに頼めばいいだろ。知ってるとは思うが、俺はハンターじゃない。そんな奴からとったデータが研究に使えるとは思えないしな」
話を区切ると男を無視して、手に持ったコップに口をつけるラグナ。ふと尻目に厚い封筒がスッと置かれその中身が垣間見えた。その瞬間、ラグナは口に含んだ飲み物を盛大に吐き出した。
「ぶっ!?ゴホッゴホッ!!
あんた!なんだその金!?」
厚い封筒の中身は金。それも6桁は下らない額が入っていた。
「今回の依頼の報酬です。ハンターではない貴方だからこそ、今回の研究に見合うのです」
いかがです?と帽子の男はニヤリとした口元を見せる。ラグナは怪しいとは思いつつ、再び口を開いた。
「俺は遭遇したグリムと戦うだけで良いんだな?」
「はい。他には何もしていただく必要はありません」
「……わかった。受けてやるよ」
「ありがとうございます」
ラグナは怪しみつつも依頼を受けた。それは報酬に心が傾いたというのもあるが、依頼内容がどんな事があっても自分にしか被害を被らないようである事と自分なら余程のことがない限り危険があっても問題はないという自信の表れでもあった。
その後、ラグナはピンスと共に町の外へ出た。ピンスの要望で通常の道から外れ、グリムが多く生息する森に足を踏み入れる。しかし、ラグナはこの半年間、この近隣のグリムを毎日のように相手にしていたため、苦戦をする事は無かった。
「よっと、こんなんで良いのか?」
「ええ、ええ、十分過ぎるぐらいですよ。しかし、凄いですねぇ。ハンターじゃないのにこの実力…どうやって身につけたんです?」
「昔色々あったんだよ」
「そうでしたか、お若いのに大変でしたね」
「……まぁな」
「ラグナ君は今おいくつなんですか?」
「答える義理はねぇな」
ラグナはぶっきらぼうに応える。
「それがそういう訳にもいかなくてですね。研究を発表するには、研究対象を正確に記さないといけないんです。是非協力して頂けませんか?」
「……16…って事になってる」
「…なに?…
あ、いえ、なるほど…本当にお若い。高等教育アカデミー入学年齢前じゃないですか?
…して…16『ということになっている』とは?」
年齢を聞いた瞬間、ピンスの声色が変わった。ピンスはそれを隠すように次なる質問を投げかけてくる。ラグナは初対面の時から、ピンスの立ち居振る舞いや、気配などでただの依頼人ではない事は確信していたため、気づいていないふりをし、それに応える。
「物心付いた時から親がいねぇから正確な年齢はわからねぇ。拾われた頃、俺を育ててくれた人が歳を判断して、俺もそう思って生きてる」
これも嘘ではない。獣兵衛がラグナ達を保護し、セリカに預けた際、セリカがラグナ達の年齢を考えて決めたのだった。この世界での年齢は蒼から決められたので正確ではあるのだが、断言すると逆に怪しいと考えて、ラグナ自身ぼかして応えることが多かったのである。
「なるほど」
「で?結構狩ったが、このぐらいで良いのか?」
「そうですね……
実はこの近くに、最近は主だった被害は無いものの、以前から恐れられているヌシがいるんですよ。貴方ならヌシも倒せそうだ。それを最後にしましょう」
「ヌシだぁ?ったくめんどくせぇな。本当にそれで最後なんだな?」
「もちろん」
ピンスの案内でヌシがいるという洞窟へと足を運ぶラグナ。洞窟の奥へと進むと、少し開けた場所へ到達した。そこは中心に大きな岩が天井近くまで突き出ており、それを円状に囲んだ空間だった。
「ここが1番奥みたいですが…何もいませんね…」
「……おっさん、下がってな」
ラグナはピンスへ、下がるように指示し、剣を抜くと中央にある大きな岩に向け、剣戟を繰り出した。大きな岩の中にとてつもない気配を放つモノを見たからである。
剣戟によって岩が崩れる。すると中から、ズズ…と巨大な怪物が姿を見せる。体は外殻に覆われ、2つのハサミと棘のある尻尾を持つサソリ型のグリム「デスストーカー」。
「で、デスストーカー!?
このサイズは見たことがない!地中で成長し続けていたのか!?」
ピンスが驚愕し、声を荒げている傍らで、ラグナは静かに、デスストーカーを睨みつけていた。デスストーカーはその名の通り、1度敵意を向けた相手には、息の根を止めるまで追ってくる。逃げ延びる事は困難で、生半可な攻撃では外殻に阻まれ、ダメージを与える事も出来ない。巨大であればあるほど、外殻の硬度は増すと言われ、ハンターにとっても油断が許されない凶悪なグリムとして有名だった。
そんな中で、ラグナはニヤリと笑みを浮かべる。
「へっ…おもしれぇ…
この頃は普通のグリムじゃ手応えが無くなってきた所だ。ぶっ飛ばしてやらぁ」
チラリとピンスを見やると、何やらメモを書き込んでいる。デスストーカーの注意を向けないようにすれば心配は無さそうだ。
デスストーカーはハサミと尾を大きく広げ、ラグナを威嚇する。しかし、ラグナはそんな事意にも介さず、剣を構え直し接近。デスストーカーもラグナを迎撃しようと、ハサミを開き、ラグナへ向け振りかざした。
「遅え!」
ラグナは迫り来るハサミを体を捻り、剣を這わせる事で防ぎ、そのまま体とハサミが結合する節の部分を叩き斬った。
デスストーカーは堪らず声無き叫びをあげ、ラグナへ向け、尾を振り抜く。ラグナはそれに対し、
「へ…やるじゃねぇか…
おし、久々に…やるか」
そう言い放ち、剣を1度背中へ納める。
「ラグナ君!?何をしているんだ!またすぐに襲ってくるぞ!」
そんなピンスの忠告を受け流し、右手に意識を集中させる。
「第666拘束機関解放、次元干渉虚数方陣展開、イデア機関接続。
ラグナのドライブ「ソウルイーター」の根源である「
デスストーカーはラグナの発する気配に一瞬たじろいだように見えたが、すぐさま自身を奮い立たせ、襲いかかってきた。ラグナは残ったハサミでの攻撃を、跳び上がって避け、逃さないとばかりに追撃を行ってきた尾に狙いをつける。
剣の形状が、黒い刃を持つ鎌へと変化し、その鎌を振りかぶると尾へ向かって一気に振り抜く。
「ブラッドサイズ!!」
デスストーカーの尾はまるで野菜か何かのようにスパリと斬られ、ラグナはそのまま、デスストーカーの体を足場にして、再度跳び上がる。尾を斬られ、ソウルイーターにより、生命力すらも刈り取られたデスストーカーには、目に見えて気力が失われており、最後の抵抗をする力は無かった。
大鎌を振りかざす男と、死を悟ったデスストーカーはさながら処刑人と罪人のようでもあった。
「眠れ」
大鎌で体を真っ二つに裂き、霧散した事を確認する。剣を背負い、右腕を振り払うような仕草をすると、腕を赤黒く染めていた物質は消滅した。
「これで終わりだな。帰るぞ、おっさん」
そう言い、洞窟の出口へと足を向ける。その時、凄まじいプレッシャーがラグナの背中に注がれた。
「いや、このまま帰るわけにはいかないな」
「やっぱり只者じゃなかったか……」
そのプレッシャーを放っているのは、他でも無いピンスだった。ラグナがゆっくりとピンスへ向き直ると、ピンスは怪しげに口角を上げる。
「改めて、私はオズピン。ビーコン・アカデミーの校長をしている。君と話がしたくてね」
「相手を威圧しまくってる奴のセリフじゃねぇな」
ラグナは苦笑する。それは威圧感はあるものの、敵意を向けられているようには思えなかったからだった。オズピンは威圧感をスッと消し、帽子を取って会釈した。
「すまないね。君の足を止めるのに1番手取り早い方法がこれしか思いつかなかったんだ」
「で?わざわざあんな奴まで相手にさせて、要件はなんだ?」
「なに、半年程前からこの近隣からのハンターへの依頼が激減してね。その原因を確かめるために、私が調査にやって来たと言うわけだよ。確かに、君ほどの強さを持った便利屋がいれば、わざわざハンターに仕事を頼まなくても良くなってしまうね」
オズピンは先ほどとは違い、楽しそうに笑った。
「それで?ハンターへの依頼が減ったから、ハンターでもない俺にこういった事はやめろとでも言いにきたのか?」
「いや、人がどのような事を生業としてようが、私達にそれを止める権利はないよ。私は、依頼減少の原因を知りたかっただけだからね。
…しかし、さっきの君の話を聞いて考えが変わった。ラグナ君、ビーコン・アカデミーに来ないか?」
「断る」
即答したラグナにオズピンは怪訝そうな顔をした。多くの人間が憧れるハンター、その高等教育アカデミーにスカウトされたというのに、即答で拒否したのだから、オズピンの反応はある意味正常と言える。
「理由を聞いてもいいかい?」
「単純な話、金がない。それに正式にハンターになる事の必要性を感じない。今のままである程度生活は困ってないしな」
「ああ、なるほど。そういう事か。こちらからスカウトしているんだ。もちろん、学費、食費、住居は心配しなくていい。こちらとしても、優秀なハンターを輩出したいという、運営上の理由があるんだ。君はまだ16歳と言う事らしいし、学校にも行った事がないようだ。学園生活を経験しておいた方が良いと年長者からのアドバイスだよ。さらに、私が孤児である君の後見人になって、戸籍も準備しよう」
オズピンからの提案はまさに至れり尽くせりの内容であった。しかし、前の世界から1人で生きてきたラグナは疑い深く、裏があると勘ぐる。
「なんだって、俺にそこまでする必要がある?俺は身元がわからないただの孤児だぞ」
「言っただろう?我がアカデミーから優秀なハンターを1人でも多く輩出したい。有名ハンターの出身校はネームバリューを持つからね。今日見た限り、すでに君は現役ハンターに負けずとも劣らない実力を持っている。これを逃がす手はない。
それに…ただ単純に、私が君に興味がある。あの黒いオーラのようなものはなんだ?その武器は?そもそも何者だ?などね。私が研究者というのは嘘ではなくてね、知りたいという探究心は人一倍なんだ。
昨日までこの辺りで君の事を聞いて回ったら、悪い子ではなさそうだという事は分かったしね」
オズピンからの提案は、ラグナにとっても願っても無い。学校に通う事は、自分の為に生きる上で経験しておきたい事であったし、住食の充足が約束されている。加えて、目の前にいるオズピンの言葉からは虚言や悪意は感じなかった。
もっと世界を見て回る為にも戸籍は必要であるし、学校に通う事で、この世界について知ることが出来るかもしれない。未だに自分の関わりのあるどの世界に来たかわからないラグナにとって、それを知る事は優先したい事であった。
「……わかった。そろそろ町を出ようかと考えていたところだ。丁度いい、世話になるぜ」
「ありがとう、歓迎するよ。といっても、実際にアカデミーに入学するのはまだ数ヶ月先だけれどね。それまでは私の家に来るといい。入学までには戸籍なども準備しておくようにしよう」
「ああ、よろしく頼むぜ。オズピン」
この決断が、後に様々な者達の運命を変える事になるのだが、それはまだ、誰も知る由が無かった。
まぁ物語の本番はビーコン・アカデミーに入学してからなので、ここら辺は序章の序章です。とりあえず原作のイベントは端折らず、オリジナルイベントも追加していけたらと思っています。
では恒例の謝辞を
今回も読んで頂き、ありがとうございました。