この調子で続けて行けたらいいなぁ。
「やっと接触できた。ピュラ・ニコスに」
「ピュラ…?
ああ、噂の無敵の少女ね」
ビーコンアカデミーの留学生寮の一室で、エメラルド、マーキュリーはウェーブのかかった黒い髪の女性、シンダーと共にいた。エメラルドの言葉にシンダーは興味を示して答える。
「確かに実力はある。でも無敵ってわけじゃない」
「へぇ…詳しく聞かせてくれる?」
その要望に二人はコクリと頷いて続けた。
「彼女が無敵と言われる所以はたぶん、センブランスの分かりづらさにあると思う」
「彼女のセンブランスは金属を操る能力だ。模擬試合で俺のブーツの軌道を好き勝手に動かしやがった。直接触れなくても意識を集中すれば、金属の動きを自由に出来るみたいだな」
「強力な能力だけど、彼女はそのセンブランスをひけらかさない。戦闘の時も、マーキュリーのブーツの時みたいに側から観てたら気付かない程度のさりげない使い方しかしない。自分のセンブランスをうまく隠して、戦闘能力の高さで相手を圧倒する。圧倒された相手は、彼女の強さの根幹にあるものを理解する暇なく倒されてしまう」
「それに相手だけじゃなく、周囲の奴等もその勝利を疑わない。多分、一部の人間にしかあいつのセンブランスは知られていないんだと思う」
「誰も彼女の力を正確には把握出来ない。にも拘わらず、圧倒的な戦闘能力を見せつけられるが故に、周りはどうせ彼女が勝つと思いこむ。彼女が懸命に自分の全てを出し切っても、その努力を正しく評価してくれる人間はいない。そして、彼女はその周囲からの諦念を帯びた『期待』という重圧にいつも圧し掛かられている、というわけね。
なるほど、面白い、彼女をリストに加えて」
シンダーの言葉に従い、エメラルドは自身のスクロール画面を操作し、表示されたリストに「ピュラ・ニコス」の名前を加えた。
「センブランスの詳細を知る為には、あいつと関係の深い人物達から情報を聞き出す必要があるな」
「それには、当てがある。ピュラの所属してるチーム〈
「ありがとう、エメ。
常に身の程を超えたプレッシャーに耐えている者は、ほんの少し切っ掛けを与えるだけで、簡単に負の感情に支配される。ふふ、楽しみね」
妖しく笑うシンダーに、エメラルドが思い出した様に声を挙げる。
「そういえば、チーム〈
「妙な奴?」
「ああ、あいつだろ?
白髪にオッドアイの男」
「そうそう、そいつだよ」
「妙…というのは?」
「うん、その外見も珍しいと思うんだけど、その他にも、〈
そいつ、アカデミーにいるくせにチームを組んでいないんだってさ。なんでも、入学直後の試験の時にハブられたらしいよ」
「はは、なんだそりゃ」
「確かに珍しくはあるけれど、人数に欠員が出て、チームを組むメンバーが合わない事は稀にあるわ。
それで、その子は強いのかしら?」
「今はヴァイタル・フェスティバルの開催前だから、授業の模擬戦もトーナメントに出る人の調整が中心になってて、実際に戦ってるところは見た事ないんだけど、話してた〈CRDL〉の奴等は『大したこと無い』って言ってたよ。普段からよくチーム〈JNPR〉や〈RWBY〉と一緒に行動してるみたい」
「点数の高いチームにすり寄る金魚のフンってところじゃないか?」
「そうねぇ。それなら気にする必要もないわ。引き続き、リストアップした人物の調査を進めなさい。あとダンスパーティーの日は手筈通りにね」
「「了解」」
シンダーの指示に、エメラルドとマーキュリーは妖しい笑みを浮かべて頷いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ダンスパーティー当日まで、残すところあと1日となった。ピュラをダンスに誘えたことで、ラグナも腹をくくったように、この数日間、オズピンのダンスレッスンに本腰を入れた。大勢の前で恥をかくのを避けたいのはもちろんだが、自分が情けない姿を見せれば、パートナーであるピュラも笑い者にされかねない。それを避けるためである。
「うん、良いだろう」
今現在は午前にダンスレッスンの仕上げを行うと告げられ、なんとか形になったダンスをオズピンの前で披露した直後である。オズピンのダンスレッスンも日に日に厳しさを増し、先日にはラグナの為にどこから持ってきたのか、ダンスレッスン用の動く人形まで用意してきた程である。過去に様々な教育を受けた経験から、オズピンからの合格が出るまで終われないと知っていたラグナは、大粒の汗を浮かべながらもなんとかお墨付きを貰うことが出来たのだった。
「ふぅ…
何回やる事になるか気が気じゃなかったぜ」
「やはり細やかな動きはまだ苦手みたいだね。君は比較的大柄だから、パートナーと合わせるように心掛けなさい」
「ああ、今回も助かった。今までダンスなんて縁がなかったからな」
「しかし、リズムを捉える筋はなかなか良かったと思うが、音楽に関係するものに触れたことがあるのかい?」
「いや、なかったと思う。音楽ってのに触れたのもあいつらに勧められてだったからな。ドラムかなんかを叩かされる夢なら見たことある気がするが、そのことを思い出そうとすると頭痛くなるんだよな」
「君の演奏か、機会があれば見てみたいね」
「まあ、そんときゃまた教わりに来るわ」
何気ない会話を挟みながら、ラグナは汗を拭う。
「あんたはこれからヴァイタル・フェスティバルの会議だっけか?」
「ああ、主に活動が活発になっているトーチウィックや〈ホワイト・ファング〉に対しての対策会議だけどね」
「対策会議ねぇ…
今までの感じからして、会議をしようが良い策が出るとは思えねえんだがな」
「そう言わないでくれ。確かに私の対策を共有するのがメインになってしまうが、情報を共有しておけば、協力や支援をしてくれる事もある」
「あんたも苦労してんだな…」
支援を行う「事もある」という言葉の裏に隠された意味を読み取り、ラグナが同情を呟くと、オズピンは肩をすくめた。
「明日のパーティーを楽しみに、私も自分の責務を果たすまでさ」
「そうか。じゃあ、また明日な」
「ああ」
オズピンの言葉に苦笑いを浮かべながら、学長室を後にした。一度、自室のシャワーで汗を流した後、食堂にて昼食をとりながら午後の予定を考える。今日は、幹事であるヤンとワイスは会場の設営があると、朝からホールへ向かい、ルビーも連れだって共にいると言っていた。ブレイクは相変わらず、目に濃いクマを残しながら、図書館のデータベースでローマンやホワイト・ファングの情報を調べているらしい。とりあえず、設営を行っているホールに顔を出すことにし、歩を向ける。
「お?ラグナじゃねえか」
「おう、サン、ネプチューンも」
ダンスホールに近づくと、偶然にもサン、ネプチューンと出くわし、向かう先は同じのようで合流する形となった。
「ワイス!昨日言ったよね!レースの敷物はなし!
ヒールに慣れてない子もいるんだよ!引っかかったら危ないじゃない!」
「レースがダメならスモークマシーンも却下ですわ。足元を曇らせることの方が危険だとわかりますもの」
ホール内からヤン、そしてワイスの言い争う声が聞こえて来る。サンとネプチューンに連れ立って、ラグナもホールへと足を踏み入れた。
「そんなんどっから持ってきたんだよ…」
「前に使った人がいたみたい」
ラグナの呟きに中央のテーブルで項垂れているルビーが答える。
「俺はいいと思うけどな、スモークマシーン。ミステリアスさもありつつ、荘厳な雰囲気が出る気がしないか?」
「だよね、さすがネプチューン、シティーボーイを演出してるだけある!」
「それ、褒めてる?」
軽い談笑しながら、ヤンとワイスも手を止め、中央のテーブルに集まった。
「みんな、おしゃれすんのすげえ楽しみだろ?」
「プハ、すごい楽しみ〜」
「茶化せばいいよ、明日の夜は悩殺しまくってやる」
サンの揶揄いを失笑混じりに受け流すルビーとヤン。続けて、ワイスからの問いが投げかけられる。
「貴方達の装いは?」
「あー、これ?」
「スルーしろ、コイツ馬鹿だから」
「俺はミストラルに住んでるけど、生まれはヴァキュオだ。シャツとかネクタイとか堅苦しいのは縁がない」
「そっか、だと思った」
サンがいつもと変わらない服装で行くと告げると全員が呆れるように肩をすくめた。
「ラグナは?」
「俺は普通にスーツだ。似合わねえのは分かってるからあんま茶化すなよ?」
「そんな事ないと思うけどな〜」
自虐的に言うラグナをルビーがフォローする。それに対して、ラグナは「ありがとよ」と返しながら苦笑した。
「でさ、ブレイクはどう思ってんのかな?
相変わらずブレイクっぽさ、全開?」
「そうですわね。今日も図書館のデータベースに張り付いているようですし」
「どうしたらブレイクの気分が変わるかなぁ?」
「ねえ」
暗い表情で悩みこむ面々に、声を上げる人物がいた。
「保証する。ブレイクは明日の夜、パーティーに来る」
ハッキリと言い切ったヤンがホールから出ていくのを、全員が呆気にとられて見つめる。ラグナを除いて。
(あいつがあそこまで言うってことは何かしらの考えがあるんだろうな。前に『目的に囚われて痛い目を見た』って言ってたし)
以前ヤンから聞いた経験談を思い出しながらそう考えたラグナは、まだ不安そうにするサンの肩に手を置いた。
「ま、そういうことらしいから、お前も明日のためにシャツとネクタイぐらい、準備しておけよ?」
笑みを浮かべて語りかけ、改めて設営の手伝いを始めるのだった。
今回のMVPは〈CRDL〉の皆さんです。情報撹乱ありがとう。
アンケートにご協力有難うございました。
いるor節目にまとめると回答していただいた方が多くいらっしゃいました。前話を更新するよりも節目にまとめた方が読みやすいと思いましたので、良きタイミングで幕間として投稿したいと思います。
では、恒例の謝辞を
今回もお読みいただきありがとうございました。
また次回。