今年もよろしくお願いします。
餅は太る(戒め)
酒場への道すがらで、子ども達を皮切りに町の様々な人から声を掛けられたラグナだったが、ひとまず挨拶のみに済ませ、酒場へと到着した。酒場の扉を開けると、そこはラグナがいた頃と変わらない穏やかな雰囲気に満ちている。昼のピークを過ぎたところだったのか、席はちらほらと空いており、小休憩をしていたのであろう女将が「いらっしゃいませ~」と歩み寄ってきながら、ラグナに気付いたらしい。
「あら~!ラグナじゃない!
久しぶりね~、元気だったかい?」
「おう、女将さん、何とかやってるよ。この村の近くで実習させてもらう任務があってな。ダンから、今は親父さんと神父さんがまとめ役だって聞いて、滞在許可と詳しい話をしに来たんだ。
今、ダンが神父さんと自警団の奴らを呼びに行ってるんだが、場所を借りてもいいか?」
「もちろんよ。ラグナならいつでも歓迎するわ。いつもの場所でいいかい?」
「助かるぜ」
ラグナがこの村に腰を下ろしていた頃、依頼を受けるのに使っていたテーブルへと案内される。その間も、酒場にはラグナの事を知っている人が次々に訪れ、注目を集めたが、女将の見事な手さばきによって、酒場が野次馬で溢れるような事態にはならなかった。
ウィンターが席に着いた後、ラグナは、酒場の主人に挨拶をするために、厨房が覗けるカウンターへ向かっていった。
「この村や周辺に詳しいため、案内役として参加とのことでしたが、どうやらそれだけではなさそうですね…
しかし……」
村に入ってからの短い時間で、ラグナがアーガルム中の信頼を一身に集めている事をありありと目の当たりにしたウィンターは、ラグナへの推察を深め、呟く。ラグナは酒場の主人に挨拶するや否や、酒場にいた人々に囲まれていた。穏やかな顔で村の人々と会話を交わすラグナを神妙な面持ちで見つめていると、飲み物を持ってきた女将がウィンターへと笑顔で語りかけた。
「はるばるご苦労様でした。粗茶ですが、どうぞ」
「ありがとうございます」
「村の入口に兵士さんたちが待ってるんですってね。あとでその方たちにも持ってってあげてください」
「そんな、お構いなく。そこまでお世話になるには及びません」
「私たちのために来て下さったんですもの。これぐらいはさせて下さい。遠慮なさらず、どうか、ね」
「……では、ありがたく」
女将の柔和な雰囲気に、やんわりと押し切られたウィンターは小さく会釈し、礼を告げた。女将は嬉しそうに続ける。
「ラグナの元気な姿も見せてくれて、感謝しかありません」
「…彼は慕われているのですね」
「ええ、それはもう。あの子がこの村にいた時間は1年にも満たないけれど、それでも、村の人は口をそろえて、ラグナを『恩人』だと言うと思います。それだけ、あの子は数えきれないぐらい私達を助けてくれました」
「彼は、この村に来る前は何を?」
「さあねえ…あんまり自分の事は話さない子だから…
最初は、そんなラグナをみんな少なからず警戒してたんですけどね。それでも、一つ、また一つと村の為に働いてくれるあの子をいつしか村のみんなが頼るようになっていきました。
あんなに優しい目をしてる子を、私は見たことが無かったし、あの子の『過去』は知りようもないけれど、あの子の『今』を私たちは知っている。それだけで十分なんです」
「………」
ウィンターは女将の話を静かに聞き終えると、ラグナから視線を外し、女将が淹れてくれたお茶に口を付けた。
それから少しして、アイギスが教会の神父と自警団のメンバー数人と共に、酒場に到着した。自警団メンバーの中にはカインの姿もあり、ラグナとの再会に顔を明るくする。挨拶もほどほどに、任務についての話し合いが始まった。
「---というわけで、今回、特異なグリムの調査のために、この村への滞在許可を頂きたく思います」
アイギスが大まかに任務の概要を説明し、滞在許可を求める。村のまとめ役の2人は、口を揃えて二つ返事で了承し、正式にこの村を拠点とすることが決まり、ラグナ達が入ってきた北門とは逆の、南門に拠点及び対策本部を設営する事となった。その後、カイン達自警団のメンバーがグリムの目撃情報について語り出す。
「あの変わったグリムの話を聞くようになったのは、ここ1、2週間になってからだ。幸い、村の人達が襲われたって話は聞いてない。この前、実際にそのグリムを見た奴の話だと、『遭遇はしたが、そのままどっかにいなくなった』って言ってたな」
「上手く隠れた訳ではないのか?」
『遭遇したグリムが人を襲わない』というグリムらしからぬ内容にアイギスが問いかけるが、カインは首を横に振って続けた。
「そういうわけじゃないみたいです。本当にバッタリ鉢合わせて、目も合ったって言ってました。牽制しながら、荷物を捨てて逃げようとしてたら、グリムの方から離れていったらしいんです」
「なるほど…そうですか…
おっと、いつまでもこの場所をお借りするのも忍びない。
それではさっそく、我々は拠点の設営に入ります。自警団の方々には、我々が拠点を設営している間に、そのグリムの目撃情報と出現場所を可能な限りまとめていただきたい。設営が終わり次第、ブリーフィングを行うので、そこで我々の部隊とも共有するとしましょう」
「わかりました」
アトラス軍の兵士達の移動と拠点の設営のため、その場は一旦解散。その後、流石はアトラス軍というべきか、拠点作成も機械化が進んでおり、ものの数時間で対策本部から簡易式ではあるが、兵士の寝床までを完成させてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
拠点が出来上がってからしばらくして、自警団も合流し、早速ブリーフィングが開始となった。自警団の代表として、カインが情報を説明することになったようだったが、傍から見ていてもガチガチに緊張しているのが分かる。ピシリとした軍人達に囲まれながら、こんな大掛かりな作戦会議に出席したことなどない彼にとっては無理のない話であるが。
「では、カイン殿、貴方方自警団が把握している情報を教えていただけますか?」
「わ、わかりました。自警団で把握してるのは、全部で9件です。そのうちの4件は、あらかじめ商人達から聞いているとのことだったので、直近の5件についてお伝えします」
アイギスからの言葉でカインは、正面に映し出された地図を用いて目撃情報の大まかな位置を指し、それをアトラスの兵士が印を付けるとともに、証言の概要をメモしていく。目撃証言の中には、ラグナがカインを初めて護衛した、隣の村への主要な道から数百メートル付近でのものもあった。カインが全ての証言を言い終えた後、9件全ての位置を見て、兵士の1人が手を挙げる。
「まずは目撃証言があった位置を円で囲い、それを目標の行動範囲と仮定して捜索するのが良いかと」
「そうだな…
しかし、商人から聞いた話よりも、直近5件の方がこの村に近い位置に集まっている。この村の人々の生活圏を考えれば、村寄りの位置での証言が増えるのは当然ではあるが、実際、村の人々がよく通る道の周辺でも目撃情報があるからな。幸い、道には防護柵が整備されているとはいえ、絶対に安全とは言い難かろう。目標の行動範囲が広がっていると仮定して、捜索範囲は少し広めに考えた方が良いかもしれん。」
「隊長!発見した暁には、我々第4部隊に捕獲をお任せいただけないでしょうか!」
話の中で威勢よくそう切り出したのは、前のブリーフィングでラグナを嘲笑った兵士だった。
「捕獲作戦のための訓練はこなしてきましたし、連携の経験もしかと積んできています。是非とも!」
「ふむ…」
ラグナが見たところ、この小隊ではハンターのチームと同じく、
「良いだろう」
「ありがとうございます!」
「では、捜索は部隊を分ける。第1、第4部隊はシュ二―中将の指揮の下、ラグナの案内で目撃情報の場所へ向かい、捜索。第2、第3部隊は私の指揮下で隣の村までの道付近を捜索する。防護柵に異常がないかも確認しておくように。
発見次第、スクロールにて情報共有し、第4部隊によるアプローチを試みる。機兵は村の警備の強化とこの本部の警備に当てる」
『
「シュニー中将もそれでよろしいでしょうか?」
「問題ありません。しかし、今日はじきに日が暮れます。この辺りに詳しい者の案内があるとはいえ、慣れない地での夜の捜索は避けた方が賢明でしょう。明朝まで待った方が良いかと」
「そうですな。では、本日はこれにて一時解散とする。明日の朝、8時に南門に集合せよ。村への滞在許可は頂いているため、このアーガルム内での行動は自由だが、アトラス軍兵士としての自覚は忘れるな。そして、不測の事態に備え、有事の際は10分以内にここへ集合できるようにしておくこと。
以上だ」
アイギスがそう締めくくると、カインや兵士達は対策本部の天幕から出ていく。ラグナは自身のスクロールを手に取って、明日からの指揮について話し合っているアイギス、ウィンターへ歩み寄る。
「ラグナ、聞いた通りだ。明日の朝8時に南門に集合だ。その後はそのまま、シュニー中将の指示に従うように。
寝床に空きがあるため、こっちで休んでも良いが、この村に自分の家などがあるなら一度帰っても良い。先程も言った通り、すぐにここに来て合流できるなら、作戦中以外の行動に制限はしない」
ラグナに気付いたアイギスから、ラグナへの指示が告げられ、ラグナは一つ頷いて答える。
「了解。じゃあお言葉に甘えます。これ、俺の連絡先も送信しとくんで、必要な時は連絡をもらえれば」
「うむ。シュニー中将とも共有しておこう。ラグナも何かあれば、速やかに連絡をするように」
アイギスのスクロールに向けて、自身の連絡先を送信し、代わりにアイギス、ウィンターのものを受け取った。その後、本部を出ると、ラグナを待つ人物がいた。
「よう、ラグナ。元気そうで何よりだ」
「そっちもな。久しぶりだな、カイン」
「会議を聞いてた感じ、今日の夜はフリーなんだろ?
酒場に戻って飯にしようぜ。みんな話したがってたからよ」
「そうだな、そうするか」
「泊まる所は?
兵士達と同じくあのコテージみたいなので寝るのか?」
「いや、そこは自由らしくてな。チビ達の剣を見る約束もあるし、神父に聞いてみて、空いてるなら孤児院の部屋を使わしてもらおうかってな」
「それなら心配ねえよ。お前の部屋は今も子供たちのお気に入りみたいだから、なんも変わらずそのままらしいぜ」
「もう1年以上経つのにか?」
ラグナがアーガルムに滞在していた間は、一応ラグナも孤児という扱いであったため、孤児院に入る形になっていた。依頼の都合で宿場に泊まることもあったが、アーガルムでのラグナの家は、間違いなく孤児院だったと言える。
「それだけ大事に思われてるってことだよ。そういうことだからいつでも帰って来いよな」
「…ああ」
カインの言葉に、ラグナも自然と笑みを溢しながら応える。
その後、酒場に戻ると商店街や自警団の面々、神父、孤児院の子供たちなど大勢の村人の姿があり、食事をしながら、ヴェイルでの生活やアカデミーについて、そして、ここ1年のアーガルムの様子についてなど、様々な話に花を咲かせた。食事のあとは神父に話をし、予定通り孤児院の自分の部屋を使わせてもらえることになったラグナは、嬉しそうにはしゃいで引っ付いてくる子供たちを伴って、孤児院へと帰る。
孤児院では約束通り、子ども達の剣の訓練を見ることになり、上機嫌に剣を振る子ども達の姿を穏やかな顔で見守った。それと同時に、この村の人々を新たな脅威から必ず守りきる事を、改めて心に誓うのだった。
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また次回。