第4部隊はアイギスの指揮と能力によって、位置を入れ替えながらも包囲を解かず、着実にベオウルフ体力を削っている。その様子を観ながら、ラグナは赤黒い棘を持つベオウルフについて、考えを巡らせていた。
(狼に似てるって話に聞いていた通り、今回はベオウルフだったな。ネヴァーモア、アーサときてこれで3体目、赤黒い棘が生えてるのが共通点か…
仮面はネヴァーモアが白、アーサが棘と同じような赤みのある黒、こいつは白。種族ごとに決まりがあるのか、それともその他に要因があんのか…
なんにせよ、赤黒い棘のこいつらが総じてゴライアスよりも強えのは間違いなさそうだ。早めに情報共有しねえと、被害が出るのも時間の問題かもな…)
ラグナがオズピンへの報告内容を思案していると、眼前ではベオウルフが再びアイギスへと飛びかかった。
「私が倒れん限り、他の者には向かわせんぞ!」
ベオウルフによる、何度目かの爪撃をしかと受け止めながら、アイギスは仲間を鼓舞するように声を張り上げる。それに呼応するように、アイギスの後方から飛び出た斧使いの隊員の一撃が、ベオウルフの左後足を捉えた。ベオウルフは飛び退いて着地するが、重量武器の一撃を浴びた左後足は着地するベオウルフの体躯を支えきれず、戦闘開始から初めてベオウルフの体がよろめく。
「好機だ!押し切るぞ!」
アイギスの号令に、部隊の面々は一斉に攻勢に出る。アイギスは一息にベオウルフへ接近すると、自身のセンブランスの能力を強め、自身にベオウルフのヘイトが強く向くように仕向ける。他の4人は四方から同時に武器を振り上げ、斬りかかろうとした。しかしーーー
ウオオォォォォォォオオン!!
第4部隊の刃がベオウルフを捉える寸前、ベオウルフの遠吠えが木々に反響して轟き、ベオウルフから黒い波動が放出された。
「ーー!?」
波動は一斉に襲いかかっていた兵士達をほんの刹那の時間ひるませる。それと同時にラグナには、全く別の驚きを与えていた。その驚きを咀嚼する間もなく、それまでアイギスの方向に意識を吸い寄せられていたベオウルフは、ズズッと背中を丸める。
「ッ!?全員
村までの道中で、ウィンターと共にラグナの話を聞いていたため、次なる行動を察することが出来たアイギスの指示が兵士達の耳に届く瞬間、ベオウルフを中心に破裂するかのように、棘が全方位に飛散した。棘の射出などの特殊な行動は、ラグナが最初のブリーフィングでも伝えているとはいえ、あの状況でラグナからの提言を心に留めていた人間はほとんどいなかったのである。
「おおぉぉぉお!!」
アイギスは咄嗟に、既にオーラのバリアが貫通されている槍使いの兵士の前に体をねじ込み、後ろに庇う。至近距離からの棘の射出はアイギスの盾を大きく弾き飛ばし、数メートル先の地面に突き刺さった。それと共にアイギスも体勢を崩し膝をつき、他の3人の兵士も同じく、アイギスの警告によって致命傷は避けたものの体中に傷を負っている。ベオウルフは体を丸めた姿勢から、むくりと起き上がって自身の周りを見渡し、そして、無防備によろめくアイギスの方へと顔を向けた。射出されたはずの棘も既に元通りに再生されている。
ラグナは地面を蹴り、アラマサを抜いてアイギスの前に立ち塞がる。気配を感じ、視線のみを横に運ぶと、自分と同じようにアイギスを背に自身の武器であるサーベルを構えるウィンターの姿があった。ウィンターの目が一瞬、ラグナの方へチラリと動いたが、何も言わずにもう一歩前へ踏み出しながら、ベオウルフに視線を戻した。
ベオウルフはアイギスを守るように立ちはだかる2人をしばし睨むように見つめていた。ラグナとウィンターは、ベオウルフを迎撃するべく武器を握り直す。しかし、ベオウルフの次の行動は、予想を外れたものであった。
ベオウルフは四足歩行に移行し、
「なっ!?」
「逃走だと!?」
後方で陣形を取っていた兵士達が口々に驚きを表す。グリムが人間を前にして逃走を図るなど聞いたことがなく、その場にいた全員が驚愕と戸惑いの入り混じった表情を浮かべた。ウィンターが咄嗟に、自身のセンブランス「グリフ」の応用である召喚で、青白く光る鳥を数羽放つが、ベオウルフは木々を縫うように駆けていき、召喚された鳥たちを蹴散らしながら鬱蒼とした森の奥に消えていった。
「追いますか?」
そうウィンターに問いかけたのは、第1部隊のリーダーだった。ベオウルフの逃走に伴い、第1、第2部隊ともに陣形を解いて、アイギスと第4部隊の救護を開始している。幸いなことに、アイギスや他の兵士達には細かい傷はあれど、今後に支障をきたすような被害はないようだった。
ウィンターは少し考え込むようにして間を置き、答える。
「いいえ。今の戦闘の内容を鑑みると、人を分けてまで追うのは下策でしょう。一度帰還し、対抗策を練ります」
「了解しました」
第1部隊のリーダーは敬礼を返し、治療を受けるアイギスの方へと向かった。
その後、一行は村への帰路についたが、ラグナは怪訝そうな顔を浮かべている。
「ラグナ」
ふと自身を呼ぶ声に少し伏目がちな顔をあげて振り返ると、そこには厳しい表情のウィンターの姿があった。
「勝手な行動は慎んで下さい。あの状況でまだ学生の身である貴方が矢面に立つ必要はありません。
貴方は案内役としての役割があるし、あなたにもし何かあれば、我々にとってもはもちろんの事、貴方のアカデミーにとっても不都合でしょう」
「わ、悪い…」
ラグナとしても出過ぎた事をしたと自覚があったため、素直に謝る。すると、ウィンターは少し肩の力を抜いて言った。
「……何かあったのですか?」
「え?」
ラグナにしてみれば、ウィンターからの意外な問いかけに、あっけにとられる。
「貴方の行動は、学生として褒められたものではなくとも、ハンターとして見れば的確でした。ですが、あの時の貴方の反応速度はほぼ反射に近かった。加えて、先ほどから考え込むように目を伏せている様子。
何か、気にかかることがあるのでは?」
ラグナはウィンターの顔を見つめていると、ほとんど表情が変わらないながらも、その瞳に気遣いの色が見て取れた。前にワイスが姉の事を「誰よりも厳しく、優しい」と評していた事を思い出し、口元が自然に弧を描く。
ラグナの笑みに、今度はウィンターが片眉を上げて訝しんだ。
「なんですか?」
「いや、ワイスが言っていたことが良く分かるなって思って」
「愚妹から何を聞いているのかとても引っ掛かりますが…」
「悪い事では無えって。あと、考え事の件だが、まだ自分でも漠然と違和感があるってだけだから気にしないでくれ」
「そうですか。先ほども言いましたが、特殊個体と遭遇経験の多い貴方の情報は貴重です。
何かあれば共有してください」
「わかった」
言葉を交わし、ウィンターはラグナから離れ、先導する第1部隊の方へと向かっていく。
「よく見てんな」
ラグナはぽつりと呟き、自身の思考の結論に不穏な予感を抱いていた。
(前のアーサの時は気のせいかとも思ったが、今回のベオウルフからも感じたってことは間違いない…
あれは…『魔素』だ)
「魔素」ーーー
ラグナの元いた世界で世界中に存在した物であり、適量なら無害だが、多くに曝されると悪影響を及ぼす物質だ。実際、ラグナが「黒き獣」として引き起こした暗黒大戦以降に爆発的に増大し、生物や環境、あらゆるものに悪影響をもたらした。生き物は総じて寿命を減らし、動物たちは凶暴化し「魔獣」と呼ばれるようになった。穏やかな気候だった場所が、極寒の地になったり、灼熱の砂漠に変わってしまった事もあった。
その反面、ナインが開発した「術式」という魔法と人類の科学を融合させ、システム化した技術に使われていたエネルギー物質でもある。
ラグナがこの世界に来てからというもの、魔素を放つのは自身の右腕である「蒼の魔導書」のみであった。それが、あのベオウルフが放出した波動からも感じられたのである。マウンテングレンの地下トンネルで戦った、アーサの特殊個体を倒した時にも微かに感じたのだが、その時のラグナは「蒼の魔導書」から放出されたものを誤認したのだと考えた。しかし、今回は疑いようがない。
(自分でも良く分かってねえのに言っても混乱させちまうだけだしな。
こっちの世界に来てからはめっきり感じなくなったから無いもんだと思ってたが、こっちにも「
俺自身、境界のどっかにある「蒼の門」の中からシフトしてきた以上あり得ない話じゃないが、「全く別の理」とも言ってたはずだが…
オズピンの言ってたセイラムって奴の仕業か?
帰ったら、オズピンに魔素について心当たりがあるかそれとなく聞いてみるか。
とりあえず優先すべきは、あのベオウルフをどうやって捕まえるかだな。捕まえたら、あいつから感じた魔素も詳しく分かるかもしれねえ)
術式に利用されていたとはいえ、元々はあらゆるものに有害な「魔素」。焦りのような緊張と一抹の懐かしさを覚えながら、ラグナは特殊個体の捕獲に向けて気を引き締めるのだった。
古戦場が終わりました。
後はアイギスしながら奏章Ⅲやって、テリー•ボガード触りながら、ゼムリア大陸の危機に立ち向かうんで9月は忙しい…と思ってたらPS5壊れました…なんてことだ…
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私自身のキャラ理解向上の為、コミュニティにて皆さんのRWBYの推しキャラと推しポイントを書いて頂けると嬉しいです。同時に、皆さんの交流の一場所になれば幸いです。
では、恒例の謝辞を。
今回もお読みいただきありがとうございました。
また次回。