元全世界の敵のなんだかんだ奮闘記   作:天然黒酢

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お久しぶりです。



襲撃

 

「どーすっかなぁ…」

「ラグナ、どうしたの?」

「悩み事?」

 

 ラグナが滞在する孤児院から程近い丘の上で、もはや恒例となった子供達への武器の指南の休憩中、独りごちたラグナ。ここ数日、赤黒い棘のグリムについて雀の涙ほども進捗がない事に、さすがのラグナも思い悩んでいた。

 

「いや、お前らが気にすることじゃねえよ」

 

 不思議そうな顔で覗き込むリンとロイの2人に、ラグナはしまったとバツが悪そうに誤魔化しながら2人の頭を撫でた。2人はこそばゆそうに目を細める。そこへ、孤児院へ飲み物を取りに帰っていたアレンが帰ってきた。

 

「ラグナ!次は俺の槍見てくれよ!」

「おう、いいぞ」

 

 子供達の中で1番の年長者であるアレンは、先日ラグナが持ってきた槍に興味を持ち、剣に加え、槍の扱いも練習していた。木製の棒を槍に見立てた練習用のものであるが、くるくると回した後に棒を前に構える姿は、中々に様になっている。

 ラグナにとって、最も強い身近な槍使いといえば、ノエルの友達の1人であるマイ・ナツメであるが、他にも棒術を使っていたライチ・フェイ・リンや、こちらの世界の友人であるサンなど長物の扱う知り合いは多い。

 専門では無いが、それでもラグナの戦闘経験から本当に基本的な事は教えることができる。もし、極めるのであれば、成長し、体が出来てきた頃に然るべき師を仰げば良い。そんな事を思いながらアレンの攻撃を避けつつ相手をしていると、まだ槍の重さや長さに慣れていないのか、徐々に息が切れ、動きが鈍くなってきていた。

 しばらくして、汗だくでヘロヘロになったアレンが地面に大の字になって倒れ込む。

 

「クッソー!当たらねー!」

「まだまだ槍に振り回されてるな。槍は『振る』っつうよりも『突く』、『払う』動作が基本だ。相手の動きを見て、リーチを生かしつつ立ち回るのが良いぞ。剣でもそうだが、アレンは攻め一辺倒じゃなく、『待ち』を作るのを意識してみろ」

 

 涼しげな表情のラグナを見上げながら、悔しそうに足をバタバタさせるアレン。そんなアレンにラグナは笑いながらアドバイスをする。

 リンから、「アレンに待つなんてて出来るかしら?」とおちょくられると、「俺だって待つぐらい出来るわ!」と反発する。「そうやってすぐ向きになる人には無理よ」と返され、「上等だ!やってやる!」とアレンとリンの立ち合いが始まった。

 

「じゃあ負けた方は体力作りのランニングな」

 

 そう言いながら、始まったアレンとリンの試合を眺めるラグナ。その横にテテテッとロイが陣取った。

 

「リン姉さんはわざと?」

「だろうな。こういう、戦いの最中以外の策もある。リンは実直に見えて、こういう搦手(からめて)も上手いな」

「僕もカラメテ使いたい」

「グリム相手にはあんまり使えないと思うぞ?

まあ、将来、人間相手に戦う機会もあるかもしれんが、お前達ぐらいの歳で搦手を使われるのはちょっと複雑……ッ!?」

「?

ラグナ?」

 

 急に言葉を止め、黙り込んだラグナをロイが不思議そうに見つめるが、ラグナの表情は黙り込んだまま、険しいものに変わった。

 

(この近づいてくる気配は敵意…というよりも殺気…

村の…外からか!まずい!)

 

 過去の経験上、自身への害意や敵意を敏感に感じ取ることできるようになってしまったラグナは、村の塀の外から迫り来る殺気を感じ取ったのである。一体何が?どうして?といった疑問達を消化する隙は無く、ラグナは声を荒げる。

 

「アレン!リン!

今日は終わりだ、家に戻れ」

「え?なんで?」

 

 当然の事ながら、突然の事に子供達は戸惑いを見せる。しかし、ラグナからはそれに応じる余裕は失われていた。

 

「いいから早く!」

 

 ラグナの慣れない怒号に、子供達がビクリッと肩をすくませてしまう。

 

(くっ、避難は間に合わねえか…

アラマサも…)

 

 村に帰還し、子供達に稽古をつけるために出てきたラグナは、自身の武器であるアラマサを孤児院に置いてきてしまっている。

 ラグナは咄嗟に傍にいたロイを抱き抱える。「うわあっ!」と驚くロイを連れて、子供達と殺気を放つモノの間へと割り込んだ。

 

「ラグナ…?ど、どうしたの…?」

「怖いよ…」

 

 子供達はラグナの強張った顔を涙ぐみながら見上げる。ロイを下ろしながら、ラグナは咄嗟の事とはいえ、子供達を怖がらせてしまった事に申し訳なさを感じた。

 

「お前ら、俺が合図するまで、そこを動くなよ」

 

 しかし、すぐそこまで迫った危険に対処するため、短く告げる。その時、村を取り囲むグリム避けの仕掛けが施されているはずの塀を軽々と飛ぶ超える影が、子供達に声をかけるラグナのすぐ後ろに着地した。

 

「やっぱりか…

あれだけの殺気と威圧感、てめえだと思ってたぜ」

 

 ラグナは襲撃者へと向き直る。襲撃者、もとい、凝固した血のような棘を持つベオウルフは、子供達を背に庇うラグナの張り詰めた雰囲気を察してか、恐怖心を煽る様に獰猛な牙を見せつけた。

 子供達は、唐突に現れた本物のグリムに悲鳴をあげ、足を震わせる。しかし、最年長のアレンだけは身体を震わせながらも、下の子供達を守るように1番前で手を広げている。

 

「アレン」

「え?」

 

 ラグナはベオウルフから目を離さない様にしながら、自身のスクロールをアレンへと投げる。アレンは「わわっ!」と慌てながらもスクロールをキャッチした。

 

「俺が合図したらみんなを連れて孤児院まで走れ。孤児院に着いたら、院長に言って、そのスクロールでウィンターとアイギスって人に電話をかけて、助けを呼ぶんだ」

「わ、わかった!」

「頼んだぜ」

 

 ラグナは子供達に役目を科す。混乱状態にある子供達に、明確な目的を与える事で、竦んだ足を動かす事が出来るし、ラグナを残して逃げる事に、後ろ髪を引かれる事を防ぎ、素直に逃げてくれると思ってのことであった。

 アレンの返事を聞いたラグナは木刀を2本持ち、双刀の構えでオーラを木刀に通す。アレン達が使っていた子供用の木刀。リーチの短さに加え、強度はもちろん、オーラの伝導率もアラマサには当然劣るため、武器としては心許ないが、あのグリムの特異性を考えれば、ステゴロで挑むよりはマシである。

 

 緊張が走る中、先に動いたのはラグナだった。

 ラグナが地面を蹴り、ベオウルフへと肉薄。両手の木刀を左右上段から同時に振り下ろした。それに対して、ベオウルフは右の前脚を振り、剣を弾く。初撃でオーラを木刀の通した木刀が壊れない事を確認したラグナは、右へ弾かれた反動を利用して回転。左下から二刀による切り上げを行う。

対してベオウルフは、今度は左の前脚をラグナに向けて振り下ろした。両者の攻撃がぶつかり、ガッという鈍い音と共に膠着(こうちゃく)状態となる。

 

「今だ!孤児院まで走れ!」

「……え、う、うん!」

 

 ラグナはベオウルフがぐぐぐっと前脚に力を込めるのを感じながら、子供達へと号令をかけた。子供達は、少し遅れたものの反応し、孤児院へ向けて走り始める。

 ラグナは元々、この膠着状態を狙っていた。ベオウルフが自由な状態で子供達が動き出した時、ベオウルフの狙いが子供達に移ってしまうのを危惧したためである。

 この特殊なグリムについてはわからないことが多い。以前のマウンテン・グレンの時のように、予想だにしない行動を取られた時、万が一にも子供達を巻き込まない為、こちらから攻勢をかけ、ベオウルフがラグナに釘付けになるように仕向けた。そして、ベオウルフの自由を奪った状態を作り、子供達を逃したのである。

 

(さて…ここまでは狙い通りだが…)

 

 子供達が無事に孤児院の方へと走っていったのを確認したラグナは、一先ず息を吐き、ベオウルフとの力比べに意識を戻した。今までベオウルフが他の動きをしないように、膠着状態を作っていたラグナだったが、腕に力を込め、ベオウルフの左前脚を押し返し始める。

 ベオウルフはラグナのパワーの上昇に不意を突かれたのか、短い鳴き声と共にほんの少したじろぐ。その隙をついて、ラグナが一気に押し切った。

 ベオウルフの左前脚がラグナの木刀によって上へ弾き飛ばされ、その衝撃でベオウルフの上体が浮く。後ろへとよろけたベオウルフの喉元へ向け、右手に持った木刀でそのまま突きを見舞った。

 

ガッ!!

 

 鈍い音と共に突きをまともに受けたベオウルフだったが、3メートル程後ずさったものの、ダメージを負わせるには至らなかったらしく、不快感を露わにしつつ、「グルルルル…」と唸り声を上げる。

 

「やっぱ硬え…

あいつらと同種なら訓練用の木刀(これ)じゃあ通用しねえよな…」

 

 以前討伐した2体の事を思い出し、口からもどかしさが零れる。しかしそれでも、少しでも時間を稼ぐためにと木刀を握り直した。

 

 一拍の見合いの後、今度はベオウルフの方からラグナへと飛びかかる。飛びかかってきたその懐に入り込み、腹部に木刀を打って弾き返したが、ベオウルフは軽やかに地面に着地し、その赤い眼は鋭くラグナへと向けられている。

 再び、ベオウルフが動き、ラグナへと肉薄。それに対し、ラグナはベオウルフの首を狙い、右手に持つ木刀を振るった。

 ベオウルフは、それを防御()()にラグナの木刀をそのまま首で受け止めた。

 

「なっ!?」

 

 ラグナが驚愕の声をあげる。戦闘前から、武器としては心許ないと思っていた通りに、木刀はベオウルフの首に当たったものの、全くといってよい程効いていない。木刀を首で受け止めたベオウルフの口元は、弧を描いている様に見えた。 

 べオウルフは受け止めた木刀を左前脚で上から踏みつけて押さえると、不意を突かれたラグナは体勢を崩し、前へとよろけた。ベオウルフの右前脚がラグナの頭に爪を突き立てようと迫る。

 

「くっ!」

 

 ラグナは右手に持つ木刀を諦めて手を離し、左手のもう一方の木刀でガードする。しかし、崩された体勢では受け止めきれず、後ろへ大きく弾き飛ばされた。ザザッと地面を削りながら、数メートル離れた位置で静止したラグナは頬を拭った。ベオウルフの爪が僅かに頬を掠めたからである。拭った手に血が付いていない事で、一先ずオーラによる防御は貫通されていない事がわかった。しかしーー

 

(問題は奴が気付いたって事だ。

いや…『学んだ』のか…)

 

 今の一連のベオウルフの行動は、ラグナの突きを受けたベオウルフがその一撃で、今のラグナの攻撃が脅威にはなり得ないと学んでしまった事を示していた。ベオウルフは「狙い通りだ」とでも言うように、ギャッギャッと喉を鳴らしている。

 

(あいつらも避難出来た…なら…)

 

 ラグナは子供達のいる孤児院までの距離を確認した後、残った木刀地面に突き刺し、右手に意識を集中させる。

 

「第666拘束機関開放。次元観象虚数方陣展開。イデア機関接続。『蒼の魔導書(ブレイブルー)』起動!!」

 

 詠唱と共にラグナから放出された赤黒い波動がビリビリと丘の空気を震わせ、ラグナの持つ「蒼の魔導書(ブレイブルー)」が起動する。それと同時に、ラグナの威圧感が激しく増した事をベオウルフも感じ取ったのか、ほんの少したじろいだ。

 ラグナは木刀を右手に持ち替えると、ベオウルフに斬りかかった。ベオウルフは「学んだ」通りに、木刀を無視してラグナを狙うため、正面から迫るラグナへ向け、口を大きく開けて首元へと牙を向けた。

 ラグナはベオウルフの直前に、上に跳躍する事でベオウルフの攻撃を避け、空中で前に宙返りしながら勢いをつけた木刀を振り下ろす。

 ゴンッという鈍い音が、木刀が間違いなくベオウルフの肩に直撃した事を示したが、ベオウルフは全く怯まずに右腕を斜めに振り上げる。それよりも前にラグナは後退し、ベオウルフの爪は空を切った。

 再び距離が開き、ベオウルフは「無駄なことを」とでもいうように、ラグナを忌々しげに睨む。しかし、次の瞬間、ベオウルフがふらりと足をよろめかせ、体勢を崩した。ソウルイーターの波動を纏った攻撃による生命力の簒奪が起こったためである。

 ベオウルフは何が起こったか分からないと戸惑うような様子を見せたため、ラグナはこれ見よがしに木刀を構え直す。

 それにより、ラグナへの警戒心を強めたベオウルフは、ラグナへと近寄る事を避け、飛び上がった。空中で体を丸めると体の至る所に生えた棘をラグナへと射出。ラグナはベオウルフを中心に円を描くように横に移動することで、飛来する棘を避ける。

 

(よし、上手くいった。後は、ウィンター達が来るまで耐えるだけだ。)

 

 「自分が脅威になり得ると示し、ベオウルフの警戒心を煽ることで、足止めを行う」という狙いは今のところ上手くいっている事に、短く息をついたラグナ。

 棘の射出が終わると、ベオウルフはラグナへ向け、右前脚の爪を突き伸ばし肉薄する。対して、ラグナは木刀右下段に構え、ベオウルフの右前脚を切り上げるように弾いた。やはり、攻撃自体のダメージは気にならない程度であるため、ベオウルフは間髪入れずに左右の前脚でラグナへ乱撃を繰り出し、ラグナもそれに対応する。

 

 ラグナが初めから「蒼の魔導書」を使わなかったのには、大きく2つ理由があった。

 1つ目は、ソウルイーターについてである。元々、起動前であっても周りのあらゆるモノから生命力を無差別に奪ってしまっていた件は、根源である「蒼」に到達し、出力の調整を行えるようになったことで気を揉む必要は無くなった。しかし、詠唱を経て「蒼の魔導書」を起動すると、いくら制御訓練を欠かしていないからといっても、周囲からの生命力の簒奪は避けられない。

 意識的に奪おうとする対象以外に関しては、少しでもオーラによるバリアを扱えれば無効化出来るし、そうでなくても奪う量はほんの少しにまで抑えられるようになった。しかし、それでも、感じ取れないぐらい微々たるものであっても、「自分を慕ってくれる子供達から生命力を奪う」という事は、ラグナにとって何よりも避けたい事だったのである。

 もう1つの理由はーーー

 

ボキィッ!

 

 音を立てて、木刀が折れる。木刀を見るとボロボロと崩れながら、やがてサラサラと灰の様に変質してしまった。これこそが、もう一つの理由である。

 

(良く保った方か…)

 

 木刀はどこまでいっても木であり有機物である。以前、アカデミーの食堂の大掃除の際、ゴミの大部分をデッドスパイクで纏めて喰らった事があったが、波動を直接纏わせているが故に、木刀に対しても同じく、ソウルイーターの効力は発揮されてしまう。その結果、徐々に劣化していた木刀は、ベオウルフの爪によって砕かれてしまったのだった。

 ベオウルフは好機と見るや否や、ラグナへと飛びかかる。しかし、ラグナは木刀の劣化も想定していたため、冷静だった。素早く後ろに下がることで、飛びかかりを回避し、空振った事で前につんのめったベオウルフへ、左腕によるアッパーを見舞う。拳はベオウルフの顎を捉え、ベオウルフの体が打ち上がった。

 

「ガントレット…」

 

 ラグナは浮き上がったベオウルフへ、右腕を大きく振りかぶりながら飛び上がり、上から掌底を叩きつける。

 

「ハーデス!!」

 

 その勢いのまま、空中で回転し続け様に左足でベオウルフを蹴り上げ、ベオウルフを蹴り飛ばした。ベオウルフは空中でクルクルと回転しながら体勢を整え、地面へ着地。物理的なダメージはなくとも、蒼の魔導書(ブレイブルー)を起動した今のラグナの打撃にはソウルイーターの効果が乗っており、ベオウルフのエネルギーを着実に奪っている。その流れてくるエネルギーの中に、やはり間違いなく「魔素」が含まれていることを確認した。

 

(まただ…こいつらから「魔素」が…

いや、今は考えてる場合じゃねえ…)

 

 ラグナはベオウルフから目をベオウルフはソウルイーターの効果をなんとなく察したのか、ラグナを見据えながらも再び攻めてくる事はなかった。

 互いに見合いながらの緊張状態が続くかと思われた。しかしーー

 

「ギャ!?」

 

 それを崩したのは、突如として現れた()()()ベオウルフだった。白縹(しろはなだ)色のベオウルフはラグナと見合っていたベオウルフに横から飛びかかり、馬乗りになると肩に噛み付く。

 

「あれは…」

「無事ですか?

ラグナ」

 

 ベオウルフの現れた方角から、凛と透き通るような声が丘の麓から、ラグナの耳に届いた。

 




44→6A→214B→214D(格ゲー勢にしか伝わらん)

PS5が帰ってきたのでめちゃめちゃゲームしてました。
お待たせして申し訳ないですm(_ _)m
(モンハンワイルズのベータ版しながら)

RWBYの雑談コミュニティにも是非、ご参加下さい。
RWBY雑談コミュニティ招待リンク
https://discord.gg/E23QJ2376t

私自身のキャラ理解向上の為、コミュニティにて皆さんのRWBYの推しキャラと推しポイントを書いて頂けると嬉しいです。同時に、皆さんの交流の一場所になれば幸いです。

では、恒例の謝辞を。
今回もお読みいただきありがとうございました。
また次回。
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