夜の街を駆ける。オーラを纏い、センブランスの効力を活用して、建物から建物へと屋根をつたって男を追う。
ラグナが見た限り、ローマンよりもこちらの男の方が強大な気配を感じていた。オズピンに無用な心配をかけまいと、伝える事は無かったが。
「何処に向かってやがる…
ん?」
ラグナはふと立ち止まる。男の動きに妙な違和感を感じたのである。ほんの僅かだが、移動する速度が遅くなっている。まるで、ラグナを待っているように…
そして男は、地下へと入って行った。
「あいつ…追われてる事に気付いてやがったな…
誘い込んでやがるのか?
上等だ」
勘づきながらもラグナも地下へと入っていく。ラグナが数日前この辺りを散策した時、ここは貨物列車の積荷が運び込まれる所だったはずだ。
しかし、今は警備もおらず、閑散とした空間が広がっている。その奥で、フードの男は佇んでいた。
「貴様か…俺を追っていたのは…
何者だ…?」
「…………」
ラグナは応えない。オズピンに正体を隠すのが得策だと言われたため、声を発する事も躊躇われた。代わりに、アラマサを背中から抜き、男へと向けた。
「問答無用か…
まぁ、俺も…する気は無いがな!」
男もラグナに応えるように剣に手を掛けた。
ギィィン!!
動き出したのはほぼ同時だった。ラグナが男へと接近した刹那、男は剣を鞘から抜き、居合いによってラグナへと一閃を繰り出す。ラグナはそれに対抗してアラマサを振り下ろした。
衝撃によって、風圧が円状に広がり、2本の剣がギリギリと音をたて、拮抗、相対する2人は鍔迫り合いになりながら、至近距離で向き合った。ラグナはその男の顔を一目見ようと試みたが、男もラグナと同じように仮面をつけていた。そしてそれは、以前オズピンから聞かされた「ホワイト・ファング」が着けている、グリムを模したものであるように見えた。それに気付いた仮面の男は、地を蹴り、後退した。仮面をつけているとはいえ、注視されるのはあまり面白く無かったのだろう。互いの間合いが開き、仮面の男の口元がほんの少し弧を描いた。
「生半可なハンターであれば、今ので死んでいた。中々の腕前だ。しかし…次で終わりだ」
男の纏う気配が変わった。もう一度剣を鞘に納め、居合いの構えを取る。その瞬間、男はラグナの目の前に現れた。剣を抜き放ち、先程と同じように一閃がラグナへと迫る。ラグナは先程と同じように受け止めようと剣を剣閃の間に入れて待ち構える。しかし、ぞわりと背筋に悪寒が走り、男が先程言い放った「次で終わり」という言葉が頭をよぎる。
(っ!
さっきとは違う…!やべぇ…!)
ラグナは嫌な予感を察知すると、剣での防御をキャンセルし、剣を地面に叩きつける。それと同時に脚力を強化して、反動を利用しながら後方へと跳躍した。
地面を叩きつけた事により、飛び散ったコンクリートの破片達がラグナの身代わりに剣戟を受けた。破片はまるで豆腐か何かと錯覚するかの様にその悉くが斬り裂かれた。コンクリートが1つの大きな塊であれば、ラグナであっても斬る事は可能であるが、対象が小さければ小さいほど、しっかりと剣で対象を捉え、凄まじい速度、力でなければ斬ることが出来ない。少しのズレで斬る力が対象から外れ、逸れてしまうからである。
もし今の斬撃を剣で防いでいたら…
そう考えると、頰に冷や汗が伝った。驚愕するラグナを前に、仮面の男も驚きを隠せないでいた。
「よもや、今のを避けるとはな…
思った以上に聡明のようだ。いや、それとも本能か?」
(あの剣に変わった所はねぇな。初撃が普通だった事を考えると、あれがあいつのセンブランスの効果って事になる。何故、初撃であれを使わなかった?
殺すつもりなら力を出し惜しむ理由がねぇ…
だとすると、発動には何らかの条件があるって事だよな…
分からない事が多過ぎる。あれの発動条件が分からない以上、直接的な衝突は避けたほうがいいか…)
2人は向き合ったまま、硬直状態が続く。ラグナは仮面の男の未曾有の攻撃を警戒し、男もまた突如現れたラグナの予想以上の強さに手を出せずにいた。
「………互いに…詮索しながら戦うのは不毛だな。今回はこれまでだ。また会うだろう、名も知らぬハンター」
男は左の手で服の中から粉の入ったビンを取り出す。ダストだ。赤と青のダストが触れ合い、爆発が起こる。砂埃とコンクリートがラグナの眼前を遮り、ラグナは視覚に頼らず、目を閉じ気配を追った。気配を感じた方へソウルイーターの力を滾らせた剣を振りぬく。黒い衝撃波が刃の形を成して煙を割るが、煙が晴れたそこには仮面の男の姿は無かった。
(逃げられたか…
しかし、何だったんだあいつは…あの身のこなしに剣のキレ、まるでお面野郎みてえだ。
センブランスも分からなかった。もっと色んなことを知る必要があるな…
2度と…あんな思いはごめんだ…)
地下から出ると、頭の上をヘリが飛び去っていくのが見えた。ヘリが来た方角は丁度、ローマンが入っていったダスト店の方向だった為、そちらへと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ラグナが見たヘリの内部には、ローマン・トーチウィックと赤いドレスの女、そして先程までラグナと対面していた仮面の男が乗っていた。
「クソッ!あの赤ずきんのおかげで手に入ったダストは限りなく少ない。黒服も全員やられた」
「まぁ、あの女の子だけならまだしも、あの魔女までいたんじゃ計画はどのみち失敗だったわ。何故、あんなにも早く到着したのかしら…?」
「ローマンと接触した後、俺と同じく仮面をした男に追われていた。その前から見つかっていたとなれば、ローマンの事も発見していてもおかしくはない」
「何!?
何故それを伝えなかった!?」
「言ったはずだ。追跡に気付いたのは、貴様と接触した後だ」
3人はピリピリとした視線をぶつけ合い、此度の計画の失敗を憂いていた。その中で、女が口を開く。
「それで、貴方を追っていたのは何者なのかしら?」
「分からん。しかし、俺の剣を見切っていた。それに退却するとき、煙の中でも正確に俺に向かって剣を振るっていた。かなり腕に覚えがあるハンターであるのは確かだ」
「おいおい、たった1人のハンターに手こずっているようじゃあこの先が思いやられるぜ」
ローマンはここぞとばかりに仮面の男を責め立てる。しかしーー
「ローマン、彼の強さは貴方も知ってるでしょ?
彼と対等に戦うなんて普通じゃないわ。まずは名前が通っているハンターをリストアップして、そいつの正体を突き止めましょう?
もしかしたら、行方不明になっているハンターを隠し玉としている可能性もあるわ」
女がローマンを諌め、これからの対策を建てる。しかし彼等は知らない。
彼はまだハンターに非ず、しかし、神をも打ち倒した全世界の敵だった存在であると………
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ラグナ君!無事かい!?」
「ああ、だが逃げられた」
「今はそんなことは良い。私達もローマンを逃してしまったしね。しかし、君の助力が無ければ、ローマンにはあのままダストを奪われていた事だろう。
ありがとう、無事でいてくれてよかった」
オズピンと合流したラグナは、オズピン邸に向かいながら、先程戦った男についてオズピンに話した。
「精錬された剣術を使う仮面の男か…
その男はグリムも模した仮面をつけていた。間違いないんだね?」
「ああ、それに明らかに初撃と二撃目じゃ威力が違った。殺すつもりなら手を抜く必要はねぇし、センブランスの能力だとは思うんだが良く分からなかった」
「ふむ…
その二撃目の前に何かしていたかい?」
「いや、初撃で剣同士で打ち合った後は特に何も…
その後に『次で終わり』とかなんとか言ってやがったな。終わらなかったが」
ラグナの皮肉たっぷりで自慢気な表情に、オズピンは苦笑した。その後顎に手を当てて、少しの間呻くと言った。
「では、衝撃を吸収して力に変えるようなセンブランスかもしれないね」
「マジかよ…そんなのもあんのか…
何でもありだな…」
「そういうわけではないよ。センブランスは自身本人の『光』と『闇』に起因する。センブランスがどのようなものになるかはその者次第という訳さ。言っただろう?
オーラは『闇を打ち払い、光を助けるモノ』だとね。
では、明日の講義はセンブランスの種類についてにするとしよう。君は先に戻っていなさい。
私はこれから、やんちゃな赤ずきんに話を聞きに行かなくてはならないからね」
そういうとオズピンは帰り道から外れ、歩みを進めて去っていった。
残されたラグナはそれを見送りーーー
「やんちゃな赤ずきん?」
1人呟いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、オズピン教授。聞かせていただきましょうか、一体どんな情報源からローマン・トーチウィックの目撃情報を手に入れたのですか?
私の所へはそんな情報は全くもって入ってきませんでしたが…」
グリンダ・グッドウィッチはオズピンを問い詰めていた。先程まで現場に居合わせた少女から事情聴取を行ない、終了した途端からこの調子のグリンダにオズピンは頭を悩ませていた。
ラグナの事は事情が事情なだけに出来るだけ伏せておきたいし、ましてや、まだアカデミーに入学してもいない子供にローマンの仲間を追わせたとあっては、何を言われるか分かったものではない。
何よりも規律を重んじるグリンダからの小言は、正論であるが故に耳が痛いのだ。
「落ち着いてくれ、グリンダ。何も複雑な事はない。私の協力者からの目撃情報だよ」
「では、何故その目撃者は現場にいないのですか?
協力者とやらは、さっきの少女ではないようですし…」
「危険だから安全な所に避難するように私が指示したんだ」
本当はローマンよりも危険な相手に向かわせていたなどと、口が裂けても言うことが出来なかった。
この2人を因縁付けたのはやりたかった事の1つです。日本語版の声優的にw
後は時系列なのですが、シンダー達とホワイト・ファングが手を組んだ正確なタイミングが不明なので、この話をするために、この時の少し前に手を組み始めたという事にします。この時のもう背中に紋様あったから大丈夫だと思います。
今回も読んで頂きありがとうございました。
ではまた次回。