今日はビーコン・アカデミーの入学式。様々な方角から、飛空挺や船が港に到着しているのを、ラグナはオズピン邸の窓から見ていた。
「いよいよ入学だね?緊張するかい?」
「いや、しねぇよ。そんな繊細な心の持ち主に見えるか?」
「……繊細な君というのは想像がつかないね」
いつもと同じような冗談混じりの会話。しかし、今日に限っては少し違った雰囲気を醸し出していた。
「オズピン、世話になったな。ありがとよ」
不意のラグナの感謝の言葉に、オズピンは少しだけ目を見開き、そして微笑む。
「珍しいね。君がそんな事を言うなんて」
「あんたが居なかったら、俺は今何処で何をしていたか分からねぇ。行き場の無かった俺に戸籍も職も与えてくれたあんたには、なんと言ったらいいか…」
「君は柄の悪い見た目に反して意外と律儀だね」
「『柄の悪い』と『意外と』は余計だよ!」
「ははは!そんな君だからこそ、私は君に恩を売っておいた。これから先、私の力になってくれる存在だと思ったからね。
それに、共に過ごした時間は短いが、息子がいたらこんな生活になるのかと楽しい時を過ごさせて貰ったよ。いきなりこんなに大きい息子は要らないがね」
「そうかよ…」
オズピンはしんみりした空気を払拭するかのように、いつもの調子で冗談を口にする。ラグナはそれに対して、微笑みながら返事を返すのだった。
「ああ、そういえばこれを渡そうと思っていたんだ」
思い出したかのように部屋の棚の上に置いてあった。箱を持ち出し、それを開ける。そこには、小型の「スクロール」と呼ばれる電子機器が入っていた。電話にメール、ネットの接続まで行うことが出来るこの世界のオーソドックスな連絡ツールであり、1人1台は持っていると言っても過言では無いが、高価な代物である。
「入学祝い…というのは建前でね、君もビーコンの寮に入る以上、これまでの様に会うのは難しくなる。さっきも言ったが、君は私にとって息子の様な存在であり、頭脳、戦闘能力共に、私の隠し玉ともなり得る存在だ。出来るだけ連絡を取れる様にしておきたい。
私の連絡先は入れておいた。受け取ってくれ」
「…わかった、貰っておく。ありがとよ」
スクロールを受け取り、玄関へと向かうラグナ。「息子」と言われたラグナも、オズピンの事は好ましく思っていた。
(シスターといい、師匠といい、オズピンといい…
育ての親には恵まれてんな)
「じゃあ、行ってくる」
「ああ、また学校で」
そう交わし、オズピン邸を出る。ビーコンアカデミーへ向かい歩いていると、徐々に子供達の人影が増えた。
「信じられませんわ!こういう事が起きたら困ると申し上げてましたのに!」
「ん?」
前方から怒鳴り声が聞こえ、そちらの方へ目を向ける。
「あいつらは…
そうか…ここはあいつらの世界だったか…」
目に入ったのは、以前、アルカード家のキーストーン騒動で出会った、ルビー、ワイス、ブレイクの3人だった。声をかけようと近寄るが、ふと違和感に気づいた。
「ワイス・シュニー。その子は世界的に有名なエネルギー会社であるシュニー・ダスト・カンパニーのご令嬢ーー」
「ふふ、ようやくお分かり頂けたようね」
「酷い会社よ…
社員をこき使って怪しいやつらとビジネスをしてるって噂があるわ」
「なっ!?よくもそんな!酷い…」
ワイスはルビーを怒鳴り散らし、ブレイクはワイスの家を貶し、それを聞いたルビーは嘲笑を浮かべる。違和感の正体にはすぐに気付いた。キーストーン騒動の時、この3人の関係性は良好な友人であり、チームメイトだった筈だ。それが今はどうだろう、関係性は最悪、しかも初対面であるかの様に見える。
(どういう事だ?
まさか…時間が巻き戻ってやがるのか?
カグツチでニューと戦い、ループしていたあの時みたいに…)
考えを巡らせていると、ワイスとブレイクはそれぞれ別の方向へルビーを置いて去っていく。ルビーは力無くへたり込み、その場へ倒れ込んだ。
(確かめてみるか…)
ラグナはルビーへと近寄り、声をかけた。
「大丈夫か?」
「え?
えっと…貴方は?」
ルビーがラグナの方を見る。ルビーの目には如何にもな不良が絡んできている様にしか見えなかったが、威圧的な態度は無く、声をかけてきた相手という事もあり、体を起こしながら問うた。そのやり取りで、ラグナは自身の仮説が正しいことを知る。
(やっぱり、俺の事を知らねえ…
さっきのこいつらの会話を考えると、時間がキーストーンの事件の時よりも前って事になるな)
「ラグナだ」
思考の後にそう答え、ルビーに向けて手を差し伸べる。少し戸惑った様子のルビーだったが、ラグナの手を掴み、立ち上がった。
「ルビーよ」
「さっきの奴らとは知り合いか?」
「いいえ、初対面よ…
ワイスとは…最悪の出会いだったけど…」
ルビーはしょぼんと肩を落とし、悲しそうな目をした。その表情に、妹サヤの面影を見たラグナは無意識にルビーの頭をポンと叩いた。
「え…?」
「あ、いや…」
(しまった…!ついにサヤへの癖で…!)
「…あー、大丈夫だ、心配ねぇよ。俺の知り合いに、最悪な出会いをしたが、その後親友になった奴らを知ってる。あいつとも、きっと仲良くなれる」
焦りながらそう言い、ビーコン・アカデミーの講堂へと再び歩き始めた。ルビーは撫でられた所に手を当てながら、少しの間キョトンとしていたがすぐにラグナの後を追った。
「ラグナは何年生なの?とても新入生には見えないけど…
あ、まさか先生とか!?」
「じゃあなんで俺に付いて来たんだ?俺が新入生じゃないと思ったんなら、俺に付いて来ても意味ねぇだろ」
「でも、他に頼れる人もいなかったし、それにアカデミーに向かう人に着いて行けば、講堂にも着けるかなって思って」
「……ったく…
そういう所は変わらねえのな……」
「え?何か言った?」
「なんでもねぇよ。講堂はこっちだ」
ラグナは仕方なく、ルビーを連れて講堂へと向かう事にした。その道中、ラグナも新入生である事を伝えると、ルビーは大声で驚愕した。
「ええっ!?ラグナも新入生なの!?」
「うるせぇ、耳元で叫ぶな」
「あぁ!ごめんなさい!
でも、背も高いし、落ち着いてるし、大人っぽいしでまさか新入生だとは思わなかったから…」
「よく言われる。年齢詐称してるんじゃねえかってな。そういうお前は、少し周りよりも幼いように見えるが?」
「う、うん…
私は15歳、本当はあと2年後にビーコンに入るんだけど、オズピン教授に誘われて飛び級しちゃって…
本当は元のアカデミーの友達と入学したかったんだけど…」
「そうか。まぁ、オズピン……教授がいうならお前にはそれだけの力があるって事なんじゃねえか?」
そう言いながら、ラグナはオズピンが言っていた、「ローマンと戦い、スカウトによって飛び級したやんちゃな赤ずきん」がルビーである事に気付いた。
そうこうしてる間に講堂に到着する。
「ルビー!こっちこっち!」
講堂へと入るとルビーの姉、ヤンがルビーへ向け手を振っていた。
「あ、お姉ちゃん!ラグナ、じゃあ私行くね。また入学式の後で!」
早口でそう言うと、走って姉の元へ向かうルビー。その様子を見ながら、ラグナも適当に列の後方へと混ざろうとする。
「きゃっ」
不意に胸の辺りに何かが当たった感覚、そして短い女の声。目線を落とすと、そこには炎の様に真っ赤な髪の少女がぶつかった頭に手を当てていた。
「わりぃ。大丈夫か?」
「ああ、良いのよ。私も前を見てなかったし…」
「そうか」
一言詫びを入れ、その場から離れようとすると、赤髪の周辺にいた少年少女達が騒ぎ立てた。
「おい!ピュラさんに向かってなんだその態度は!お前、今ぶつかったのが誰だか見えなかったのか!?」
「ああ?なんだ?こいつになんかあんのか?」
「はぁ?本気で言ってるの!?世間知らずもいい所だわ!
この人は我らがサンクトゥム・アカデミーを主席で卒業し、更にはミストラル地区のトーナメントで4年連続優勝を果たした超新星!ピュラ・ニコスさんよ!」
「へぇ、大層な肩書きを
わりぃが『興味ねぇな』」
「「なっ!?」」
「!!
…………」
粗暴なラグナの態度に驚くピュラとその取り巻き達、しかしその驚きと同時に抱いた感情は少なからず違っていた。
「そいつが凄い奴なのはわかった。だが、俺達にとって大事なのは『今』だ。過去は振り返る物ではあっても、浸る物じゃない。
それにだ、栄光を振り返るのは良いが、それを本人じゃないお前達が言いふらすのは違うんじゃねえか?」
「なんだと!?」「なんですって!?」
「とにかくだ、他人の口から語られるそいつの過去じゃなく、自分の口から自分の事を語るのに話す過去なら、興味を持ってやるよ」
売り言葉に買い言葉ではあったが、ラグナはその言葉を最後に講堂の壁側に向かっていった。取り巻き達は、ラグナが去った後、口々にラグナを罵ったが、当のピュラだけは、壁に身体を預け、目を閉じるラグナをじっと見つめるのだった。
それも束の間、フォンという電子音がし、新入生全員がステージの方に向き直った。
『んん、それじゃあ、手短に伝えよう。
新入生諸君、ビーコン・アカデミーへようこそーーーー』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
講堂での入学式は、入学式らしい事は校長挨拶程度で、慎ましく終わった。そして、初日の新入生は全員、ダンスホールに宿泊する事、明日の実力試験の事を言い渡され、あっという間に解散。ぞろぞろと講堂から生徒が出て行く中、ラグナも他の生徒と同じように外へ出る。
その時、ラグナの側に足音が近づいて来た。
「ごめんなさい、ちょっと良い?」
背中を叩かれ振り返ると、そこには先程言い合いをしたグループの中心人物であるはずのピュラが立っていた。ラグナはまた面倒事かと警戒を露わにする。
「なんだ?まだ何かあんのか?」
「いや、そういうんじゃないの。ただ…
少し話がしたくて…」
「あ?お前正気か?結構きつい事言ったつもりだったんだが…」
「ははは…
まあ、それを含めての話なんだけど、ね、この後時間ある?」
「まぁ、予定はねえが…」
「じゃあ少し付き合ってくれないかしら?」
「……わかったよ。だが、あまり人目につかない所にしろ、さっきみたいに絡まれたら敵わねぇからな」
ピュラの少々強引な誘いに付き合わされ、ビーコン・アカデミーを出て、少し遠目の喫茶店に入ったラグナとピュラ。
「で、話ってなんなんだ?」
「ええ。とりあえず、さっきはあの子達がごめんなさい。貴方にひどい事を言ったわ」
「気にしてねえよ、慣れてる」
頭を下げるピュラ。それに対し、ラグナはぶっきらぼうに返す。それを見て、ピュラはクスクスと楽しそうに笑った。怪訝な顔を向けると、それに気づいたのか慌てて口を開いた。
「ああ、ごめんなさい。貴方のように自然体で接してくれる人って居なかったから…」
「そうかよ…
あんたも大概変わってんな」
そう言ってラグナも笑い返した。
「ねぇ」
「なんだ?」
「さっき、私の過去に興味はないって言ってたわよね?」
「正確には、その過去を表面的にしか見てないあいつらの言葉に興味はない、だな。
手前の過去はそいつ自身の言葉で聞かねえと話にならねぇ、その過去をそいつ自身がどう思ってるのかをな。そうじゃねぇ情報はただのイメージの押し付けにしかならねぇし」
「そっか…」
ピュラは少しホッとしたように、そして嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。え〜と…そうだった…
名前、まだ聞いてなかったわね」
「ラグナだ」
「ありがとうラグナ。良かったら私の初めてのお友達になってくれない?」
「『初めての』ってなんだよ?まるで友達がいねえみてえじゃねえか」
「私に本当の意味での友達はいなかったわ。みんな私の表面だけを見て、仲良くしてくれただけだった。『今』の私自身を見てくれる人はいなかったわ。だから、貴方が初めて…」
ラグナはこう言った才能に恵まれたエリートというものは、自分とは全く逆の存在であると思っていた。しかし、その者達も同じように悩みを抱える人間なのだと感じ、それと同時に、自分から状況を変えようと動くピュラに興味を抱いていた。
「ま、友人がいねえってのは、俺も似たようなもんだからな。断る理由がねぇ。よろしくな、ピュラ」
「本当!?ありがとう、ラグナ!」
嬉しそうにはしゃぐピュラに、ラグナも穏やかに微笑んだ。その後はピュラと共に昼食を取り、店を出た。ピュラの持つスクロールが鳴り、コールが入った事を示す。
「あ、ラグナ、ごめんなさい。あの子達が待ってるわ。私行かないと」
「気にすんな。あとピュラ、お前は謝ってばっかだな、もっと気楽にしやがれ」
「…そうね、分かったわ。あ、そうだ、連絡先を交換しておきましょうよ」
「あー、すまねえ。持ってる事は持ってるんだが、慣れてねえもんで使い方がわからねえんだ」
ラグナはオズピンから貰ったスクロールを取り出す。
「そうなの?じゃあ今度私が教えてあげる。今日は貴方の連絡先を見せてもらうわね」
ラグナのスクロールを覗き込み、自分のスクロールに連絡先を打ち込んでいくピュラ。それが終わるとラグナにスクロールを返し、手を振りながら去っていった。
「じゃあまたね、ラグナ」
「おう」
ピュラが去った後、ラグナは「友達か…」と呟きながら頭を掻いた。馴れ合いを避けて来たラグナにとって、同年代の友人というのは初めて出来た他人との関係性だった。
ピュラ可愛いです。その反面、シーズン1の後半以降はともかくとしても、ジョーンのあれは普通に接してるんじゃ無くて残材に扱われてるって言うのでは…?とか思ったり…
ラグナも友達はいなかったと思うので、まずこの2人を引き合わせました。
ルビーもヤンも可愛いです。ラグナのお兄ちゃん成分が発揮出来ます。
では、恒例の謝辞を
今回も読んで頂き、ありがとうございました。
では、また次回。