書く力になります。
その夜、ダンスホールに集まった新入生達は思い思いに過ごしていた。明日の実力試験の為に早くから休む人、本を読む人、手紙を書く人、半裸でじゃれ合う男子達など様々だ。そんな中、ラグナはホールの片隅で座り、目を閉じていた。ダンボールがあればどこでも眠れるラグナにとって、平らな床、背を預けられるもの、そしてブランケットがあればそこは立派な寝床だった。何故、マットレスで寝ないのかというと、人数分敷かれている筈のマットレスが1つ足りなかったのである。
その原因はルビーにある。実は、数ヶ月前から入学が決まっていたラグナと違い、ルビーの入学が決まったのはついこの間。元々ビーコン・アカデミーでは新入生を定員ギリギリまで取っているため、急に増えた上限オーバーのルビーの分まで用意出来ていなかったのだ。そんな事はつゆ知らず、ラグナは足りないのならば仕方ないと壁に背を預けていたのである。まぁ、知っていたとしても、結果は変わらなかったであろうが…
ふと、スクロールのバイブレーションが作動し、画面を見るとピュラからのメールが届いていた。文面には何故マットレスで寝ないのかを尋ねる文章と、大勢の目があるから話せなくて残念だという文言が綴られていた。
マットレスが足りなかった事と、あまり悪目立ちしたくないラグナへの配慮の礼を5分程かけて打ち込み、送信する。ホールの反対側の方向にいるピュラはそれを微笑ましく眺めていた。
その後すぐに、明日からスクロールの使い方講座が始まる旨が返信され、ピュラは周りの人との交流に戻ったようだった。慣れない事をして、少しむず痒い思いをしていたラグナの元に、2人の少女が向かって来た、ヤンとルビーである。
「どうも〜
ねえ、この子覚えてる?
今朝会ったでしょ?」
「こんばんは、ラグナ」
「ああ、そっちはーー」
「私はヤン。ルビーのお姉ちゃんです!」
「おう、よろしくな、ヤン」
「「「………」」」
3人の沈黙が続く。ヤンとルビーは苦笑いを浮かべ、どう接したらわからないようだった。それはラグナも同じで、今日やっとこさ2度の人生を通して初めての「友人」を手に入れたラグナに、関係構築のコミュニケーションなど上手くとれる由もなかった。しかし、気まずい空気を感じて、相手を思いやるぐらいには常識人である。それがラグナという男だった。
「あー、とりあえず座るか?」
「そ、そうね」
ラグナの勧めで、同じように壁に背中を預けて座るルビーとヤン。ラグナ側から会話の受け入れ体制を整えてくれたとあって、ヤン達も少し気まずさが取れたようであった。
「朝、妹を助けてくれたんだって?ありがとね」
「別に、ルビーが勝手に着いてきただけだ。礼を言われる事なんざしてねぇよ」
「もっと早くにお礼を言いたかったんだけどさ、ルビーが貴方のこと怖がっちゃって」
「お、お姉ちゃんだって、『あの人は後回しにしよう』っていって避けてたじゃない!
ああ、ごめんなさい。悪気があった訳じゃないの、本当よ」
「いいさ、柄があまり良くないのは自覚してる。それに、過程はどうあれお前達は礼を言いに来た。十分だ」
ラグナが穏やかな顔で言ったその言葉に、ヤンとルビーは少しの間唖然としていた。ラグナはジトッとした目で2人を見つめ返す。
「なんだよ?」
「あんた、見かけによらず良い人ね」
「あぁ、もっと早くラグナに話しかければ良かったよぅ…」
「おいヤン、見かけによらずは余計だ」
ヤンとルビーは笑い、それにつられてラグナも笑みを浮かべた。ひとしきり笑った後、ルビーが何かを見つけたように声をあげる。
「あ、あの子…」
「どうしたの?ルビー」
ルビーの視線の先にはブレイクがいた。蝋燭に灯をともして今から本を読むつもりらしい。
「あの子、今朝ワイスと揉めた時に見てた子。話してはいないけど」
「そっか、じゃあ今話そう!じゃね、ラグナ、いい夢を!」
「うわぁ!?ラグナ、おやすみぃぃ〜…」
ヤンに手を引かれ、遠ざかりながらも手を振るルビーにラグナも手を挙げ返し、慣れないコミュニケーションを過去に無い程行ったラグナは、明日に向けて休もうと、ブランケットに体を包んだ。
意識が途切れる刹那、またもやワイスの怒鳴り声が聞こえた気がしたが、それにより睡魔が居なくなる事はなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、実力試験を行う為、ロッカーに入れていた武器や道具を各々準備を行っていた。ラグナもいつもの赤いコートにアラマサを背負い、指示を待っていた。ロッカー内は騒がしく、どうやら「チーム」というものを組みアカデミーにいる間、行動を共にする仲間となるらしいという事で持ちきりだった。そんな中、ワイスとピュラの姿が目に入った。そして、
「ジョーン貴方、その方をご存知の無いの?」
「全然、スノーエンジェル」
「この方はピュラですわ」
「よろしくね」
「サンクトゥムを主席で卒業したエリート」
「知らないなぁ」
「ミストラル地区大会で4年連続優勝した方」
「なにそれ?」
「パンプキンピートマシュマロフレークのパッケージを飾った人ですわ!」
「えぇ!?あれって君なの!?人気アスリートやアニメキャラしかなれないのに!」
(ピュラのやつ…本当に有名人だったんだな。あの様子を見るに昨日話した事は嘘じゃねえみてえだ)
ワイスから紹介がなされる度、少しずつ困った顔に変わっていくピュラ。それを見て、良い肩書きに縛られてしまうのも難儀なものだと心の中で息を吐いた。
金髪少年、ジョーンがワイスの言葉に促されたピュラの手によってその場から遠ざけさせられる。ピュラの投げた槍は少年を一切傷付けず、フードを貫いて壁に打ち付けた。腕は確かなようだ。
『1年生はビーコン・クリフに集合して下さい。繰り返します。1年生はビーコン・クリフへ集合して下さい』
ジョーンはルビーの肩に背負われ、力無く外へ向かっていった。
「さて、俺も行くか」
ラグナも腰を上げ、外にあるビーコン・クリフへ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ビーコン・クリフ』、ビーコン・アカデミーの敷地内にある切り立った崖で、その崖下には『エメラルド・フォレスト』という森が広がっており、その森の中には大小様々な多数のグリムが存在する。
試験を始める前に、オズピンとグリンダから試験の説明がなされる。
「君達は何年も戦士になるため訓練を積んできた。今日は君達の真価をここ、エメラルド・フォレストで試させてもらう」
「さて、クラスをチームに分けると聞いた人もいるでしょう。そう、その通りです。各自のチーム分けはこの試験の後に発表します」
「今後、ビーコン・アカデミーで過ごす間、君達はチームで行動する。皆気の合ったメンバーと組むのが良い。それが君達にとって1番だろう。
ということで、森に着地した後1番最初に『目が合った』者、そのメンバーとペアを組む。その相手が今後とも4年間の相棒だ」
『言ってる事とシステムが噛み合ってない…』
心の中でそう言った人は果たして何人いるだろうか。とりあえずルビーは声を上げて嘆いている。
「この試験は我々によって監視されているが、教員は一切の介入を行わない。
ペアを組んだら、森の北部の奥深くまで進む事。その途中には敵が待ち構えているはずだ。行く手を阻む者は全て倒せ。もし倒す事を躊躇えば…命を落とす。
森を進むと突き当たりに古い寺院があり、そこに
質問はあるかな?」
中々にハードなワードが並んでいたが、ビーコンに入学する生徒はそんな事では物怖じしないのか、皆やる気に満ち溢れていた。ただ1人を除いて…
「あの、先生ーー」
「よろしい!それでは、位置について」
「すみません…質問が…いい…ですか?」
ラグナの左側にいるジョーンがオズピンに対して質問を試みる。それと同時に左端の生徒の台が前に射出され、生徒達は森へと飛んでいく。ちなみにラグナの位置は右端、1番最後のいうことになる。
「森に着地って仰ってましたけど、パラシュートとかも何も無しにどうやって着地したら良いんでしょっ!うかあああぁぁ!!!」
質問も虚しく、問答無用で飛ばされていくジョーン。ラグナは心配半分、呆れ半分といった表情で見つめ、自分も前に飛ぶために右足を踏ん張る。
しかしーー
「……あ?」
ラグナの台が射出されたのは
「テメェ、覚えてろよおぉぉぉ!!」
察したラグナは叫びながら森へと落ちていき、そして見えなくなった。楽しそうなオズピンとは対照的に、不測の事態に焦るグリンダ。そんなグリンダに気取られぬように、オズピンは必死に表情を隠した。
「どうやら射出台に不具合があった様ですね。ラグナ=ザ=ブラッドエッジを回収しますか?飛ぶ間際に何か言っていたようですが…」
「…まぁ、不具合なら仕方ない。そのままにしておきなさい。このぐらいのアクシデントに対応出来ないようでは、ハンターとしてやっていくのは不可能だ」
オズピンはグリンダに見られぬように森を見つめながら、再び口角を上げた。
今回はちょっと短いですかね?
チーム単位での生活の事なのですが、17歳から男女が1つの部屋って危なくないです?ヴァイタル・フェスティバルで女子が1人しかいないチームとかあったんですけど…
下衆な大人の勘ぐりですか?( ´_ゝ`)
では恒例の謝辞を
今回も読んで頂き、ありがとうございました。
また次回。