雨が滝の様に降り頻り、月が暗雲に隠され漆黒の闇が支配する山の中の洞窟に十人程の子供の姿があった。年齢はバラバラで、共通しているのは草臥れ切った白い服と幼い顔に浮かんだ物。疲労、不安、空腹、そして絶望。そもそも幼い子供達が何故山奥の洞窟に居るのか、その答えは彼らの体に有った。
「うっ……」
子供達の中でも一際体が大きく、顔立ちは下から数えた方が早い少年が悪夢に魘されて居る。彼が夢の中で居るのは数日前まで居た研究施設であり、暴れているのは仲間の子供
「うわ、うわぁああああっ!」
悲鳴と共にバッと飛び起き、冷や汗でびっしょりになった事で増した寒気を感じながら少年は胸を撫で下ろす。その皮膚褐色で頭や首周りには白い毛が生えている。そして彼の瞳は白目が黒く中心は赤く、頭には黒い大きな角が生えていた。
「あの……大丈夫、ですか?」
金属が軋む様な音と共に気弱そうな少女の声が投げ掛けられる。声の主は幼い少女、紫の髪をしており年相応の体格と打って変わって豊満な胸をしている。他の子供もそうだが、彼女は特に気弱なのか怯えが見て取れた。そしてまた、彼女も普通の姿はしていない。彼女の両腕は金色の金属で出来た巨大な物で、爪は鋭い凶器のようだ。誰よりも怯えている彼女こそ、ここの誰よりも恐怖を抱かせる姿をしていた。
「う、うん。ぼく、は、だいじょうぶ。りっぷ、は……?」
「わ、私も平気……」
舌足らずな喋り方をする少年の問いに返答した時だった。彼女の腹の音が鳴り響き、それに釣られるように他の子供の腹も空腹を訴える。微笑ましい光景のようだが事態は逼迫していて、三日の間誰も禄に食事を摂っていなかった。特に幼い子は栄養失調に陥り掛けていたし、それでなくても心身ともに限界が近い。
「だいじょうぶ、かな?」
少年が心配するのは一人で食料を探しに行った年長者の事。今洞窟に残っている子供達は揃いも揃って何処かが異形であり、人里で顔を恐怖にひきつらせた大人達から石を投げられ追い払われていた。自分達と同じ年頃の子を守るようにして自分達を追い払う彼らの姿に恐怖と絶望を募らせて逃げて来たのがこの洞窟だ。岩ばかりであり、雨を防げるが凍えるような寒さが空腹で低下した体力を更に奪っていく。
このままでは皆死んでしまうと、食料や寒さを凌げる者を探しに行ったのが年長者の少年であり、唯一
「……だれっ!?」
間近にいる相手との会話に差し支える程に大きな雨音に混じって近付いてくる足音を少年の耳が感じ取る。数日前、出会った集団を思い出した。
「化け物めっ!」
「神の名の下に成敗してやる!」
異形である自分達の姿を見て悪だと判断して襲ってきた者達。逃げおおせたが、その際に漸く見つけた食料の大半を紛失しており、何よりも普通に暮らしてきた子供達にとって武器を向けられる恐怖は計り知れない。大人に混じって青い髪の少女も刃を向けており、誰だか分からない足音は恐怖を加速させる。
「みんな、さがって。ぼく、が、まもる」
他の子供を背にして入り口に立ちふさがる少年だが、足音の主が誰か分かるなり緊張の糸が切れたのか崩れ落ちる。大量の食料を抱えた緑の髪の少年が驚いた風な顔で洞窟に入って来た。
「待たせたね。廃棄弁当や捨てられていた古着があったから、誰か火を出せる子に乾かして貰って……どうしたんだい?」
雨の中、頭に載せた荷物で体が濡れるのを防ぎながら戻って来た、緑の髪をした中性的な容姿の少年は安堵から力が抜けている彼を不思議そうに眺めていた。
「さて、じゃあこれからどうするかを考えようか」
幼い子供を寝かせ(起きている三人もさほど年上というわけでもないが)、行われた会議の中で出たのは今後の方針。途端に重苦しい空気が流れる。家に帰るという選択肢は無い。異形の身では帰ることなど出来ないと、そもそも研究所に売られた子供もいると理解している程度には彼らは聡明で、だから進むべき道が見えないと分かっていた。
「……かみ、さま、に、いのる?」
「どうだろ? 少なくても僕達を殺そうとした奴らが崇める神は頼れないよ。……他の神様は居るって話だし、僕達はそもそも……」
此処から先は言いたくないと途中で口を閉じた少年は、ふと思い出したように荷物を漁る。雨に濡れた筈なのに湿った様子すらない一枚のチラシ。其処にはこう書いていた。
『あなたの願い叶えます』
「このチラシがどうかしたんですか?」
「冗談で願ってみる? ほら、名前を決めた時だって気休めって分かっていたじゃないか」
その言葉に二人が思い出すのは研究所での扱い。記号と番号で呼ばれ、幼さ故に数年で本当の名前など忘れてしまったから自分達で名前を考えようとなったのだ。
「ぼく、は、あすてりおす」
彼は与えられた容姿にちなんでアステリオスを選んだ。雷光を意味する言葉であり、怪物としての名であるミノタウロスの本当の名前だ。怪物ではなく人でありたいと思い、この名前を彼は選んだ。
「私は……パッションリップ。どっちも好きなお花だから……」
パッションフラワーとチューリップを組み合わせた名であり、異形の腕を持っていても可愛くありたいとの願いが込められている。
「そうだね。じゃあ、僕は……エル……いや、エルゥだ。エルゥにするよ」
元からすっかり変色してしまった髪を撫でながら彼は自らの名を決めた。人であることを捨てさせられ、道具にされる運命を乗り越えようと足掻いた第一歩。この日こそ三人のオリジン、原点である。
そして冗談で願いを託したチラシ、その中央の魔法陣が光り輝いて身なりのよい服装の男が現れた。
「私を呼んだのは貴様達か? 人、ではないようだが……」
人に喚ばれる事を予想していた彼は困惑の表情を見せるも直ぐに余裕を取り戻す。この日、彼を呼びだした事で三人の、いや、世界の運命は変わっていく事になる。
感想お待ちしています
キャラ募集します