いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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つい書いちゃった 





第十話

「本命が来るまでの時間稼ぎ……だけではないな。其処のデカい小僧に小娘二人はただ者ではないし、緑の髪の小僧は見覚えがある。アザゼルが注目していた奴だな」

 

 宙で腕を組み、今か今かと開戦の時を待ちかまえていたコカビエルは一瞬だけ落胆した様に見えたが、直ぐに思い直す。アステリオス達の異形の見た目、戦歴を耳にしたエルゥの姿に興味が湧いたらしい。

 

「こぞう……。しらないひと、からの、こどもあつかい、ひさしぶり」

 

「ちょっとアステリオス、嬉しいのは分かるけど気を緩ませないの。……それにしても軍を相手にする事が分かってるのに平然としている馬鹿と思ってたのだけど」

 

 巨体のせいで実年齢を知っている者以外から子供扱いをされるのが久しぶりなアステリオスはコカビエルを眺めながら表情を綻ばせ、メルトは溜め息混じりに注意しながら認識を改める。魔王の妹達を襲撃するとなると軍が出張ってくるのは予想できるがコカビエルは本部に戻ってなし崩しに同朋を巻き込もうとする様子を見せずに留まっている。

 

 偶にどの勢力にも存在する種族至上主義の、大戦を運良く生き残っただけの馬鹿かと思いきや若いという理由で此方を見下して侮りきる様子もない。高い自信を持ちながらも敵の力量を正確に把握できる、そんな真の戦士であり、だからこそ現状に不気味さを感じさせられた。

 

「おい、オッサン。この四人が強いのは当然だ。何せ教会が行った『魔人計画』とかいう奴の成功例の中でも特に優秀で、エルゥ達三人に至っては神クラスを素材……げふぅ!?」

 

 ゼファードルにとってエルゥ達は自慢の仲間であり、それを一目で認められれば当然嬉しい。注目した者に自分が入っていないのは腹立たしかったが、ついつい嬉しくって口から自慢話が飛び出る。その途中で後頭部をリップの巨大な拳で殴られて地面に叩きつけられたのだが。

 

「良くやったね、リップ。……あのねぇ、敵に自慢話とか情報を垂れ流しにするだけだから今後は止めてよ?」

 

「えへへ……」

 

「今ので死んだのではないか……?」

 

 エルゥに頭を撫でられてご満悦のリップ。思わず照れながらはにかんでいる。その一方でコカビエルは今の一撃が凄まじい威力であり、それを不意に食らったのだからゼファードルが死んだのではと本気で思う。それほどの威力をモロに食らった張本人だが、突如ムクリと起き上がった。

 

「悪かったよ。でも殴ることはねぇだろ」

 

「君は丈夫だから平気だろう?」

 

 地べたに胡座をかいて不満げに唇をとんがらせるゼファードルと、彼の文句を気にも止めないエルゥ。敵を前にしての緊張感のないやり取りに見えるが、コカビエルはゼファードルへの認識を改める。あれを食らって平然と話す事が出来る、そんな強者であると。こみ上げて来たのは歓喜。奴らなら自分の願いを叶えてくれるのではと期待した。

 

 

「おいおいおい! 敵を前にコントかよ、糞悪魔共っ!」

 

「フリード、行って良いぞ。お前らも襲い掛かれ」

 

 だが、コカビエルと違ってエルゥ達のやり取りが見逃せなかった者もいる。フリード・セルゼン、はぐれ悪魔祓いの少年だ。腰に差すのは三本のエクスカリバー。協力者であり聖剣計画の首謀者であるバルパーの手によって既に力を引き出せる様になっていた。

 

 本来ならばゼノヴィア達のも奪って結合する予定だったが儀式の準備が間に合わず七本に分割したまま。それでも悪魔を消し去るには十分な力を秘めている。コカビエルの許可を得たフリードは待っていましたとばかりに走り出し、ケルベロス達も獰猛な唸り声をあげながら駆け出した。

 

「死ねっ!」

 

 口にした言葉は三流で、剣技と歩行術は一流、何せ追放前は天才と賞されていた戦士だ。一切迷わず殺意を漲らせ、されど技に曇り無く聖剣を振り下ろす。目標は一番前にいたゼファードル。大将であり、怪我を負っても捨て置けない存在。仕留め損ねても重傷なら格好のお荷物として敵の足を引っ張ってくれる。だから彼を狙った理由に間違いはない。両手で天閃の聖剣(エクスカリバー・ラビットリィ)の柄を握り、一切のブレがない見事な真上からの一撃を放つ。聖剣の能力で超加速した刃は確実に獲物の命を絶つだろう。

 

 

「え、えい!」

 

 襲い掛かってきたケルベロスの一匹と対峙するリップは両腕を我武者羅に振り回す。技も技術も無い力任せの一撃ではあるが、超硬質超重量の手の鋭利な爪による一撃は強力無比。圧倒的な暴力には小手先の技など必要無いのだ。爪がケルベロスの強靭な毛皮を引き裂き、只の平手打ちが骨を砕いていく。

 

 それでもケルベロスは仕留めきれない。その巨体に付随する爪や牙も、口から吐き出す強力な炎も武器ではあるが何よりの武器は生命力。三つある頭の一つを切り飛ばされても、胴体の一部を吹き飛ばされても背にを失わず戦い続ける貪欲な戦闘本能とタフさこそが最大の武器だ。

 

「それっ!」

 

 リップの両手が中央の頭を挟み込む。グシャリという骨と肉が潰れる音と共に肉片や血が飛び散るが、それでもケルベロスは戦える。残った顔でリップを睨み、前足を振り下ろそうとした所で異変が起きた。

 

「ガ…ガァ……!?」

 

 潰された中央の頭部は未だ両手で挟まれたままであり、繋がっている部分から徐々に引き摺り込まれ始めたのだ。身を捩って逃れようとするも逃れられず、ケルベロスの巨体は放電するような音と共にリップの手の間に収まっていく。やがて完全にその体が吸い込まれると漸くリップの両手が開かれた。その中央にあったのは無残な肉の塊……ではなく小さいキューブ。真四角のサイコロの様な物体が何故か存在していた。

 

 

「え、えっと、生き辛いですけど我慢して下さい」

 

 まるでケルベロスが生きているような口ぶりのリップ。その様な状態で生きている筈が……あった。小さいキューブに圧縮されて尚、生きていた。これがパッションリップに与えられた力。完成系には程遠い未熟な力だが、上級悪魔でさえ倒すのは容易ではない魔獣を圧倒する力。

 

 名を『トラッシュ&クラッシュ』。両手で包める程度の物なら重量無視で超圧縮してキューブに変えてしまう。この両手で包めるだが、遠近法を利用して視覚的に包めるように見えたなら空間ごと圧縮可能なはずだが、研究の途中で脱出した為に訓練途中であり、包めるように見えても、今は直接触れないとキューブには出来なかった。

 

 

 

 

「うあああああああああああっ!!」

 

 それは正しく恐ろしい怪物の雄叫びであった。牙を肉に突き立てて食い殺そうと噛みついて来たケルベロスに対し、アステリオスは上顎の牙を片手で掴み取り、無造作に放り投げた。その巨体に見合った重量を持つケルベロスにとって投げられるというのは生れて始めただっただろう。空中で必死にもがくもどうにもならない。猫のように身軽でもなく、空を飛べもしないケロべロスは重力に従って落ちて行くだけだ。

 

 だが、中々落ちない。上へ上へと速度を上げながら飛んで行くばかりで重力と減退して行く投げた時のエネルギーは釣り合わず、落下が開始する兆しがない。結局、ケルベロスが落下を開始したのは投擲のエネルギーが重力で相殺されたのではなく、結界の天井にぶつかった事によるもの。ついに始まる落下、迫りくる地面。だが、ケルベロスが地面を見てもアステリオスの姿は見当たらない。その代わり、直ぐ真横を巨大な物体が通り過ぎて上へと昇っていく。

 

 

「ごめん……」

 

 ケルベロスを殺すのが心苦しい、そんな気持ちを感じさせる声で謝罪したアステリオスが両手を振り上げると巨大な斧が両手に出現した。本来は一つの斧を二つに分けたそれの名は『深淵の主(ラブリュス)』。敵地であるこの場所では十全に効果を発揮しないがアズリィがアステリオスの為に作り出した人工神器である。

 

 ラブリュスを大上段に振り上げ、力任せに振り下ろす。本来武器も徒手空拳も地に足が着いてこそ十分な力を発揮する。だからこそ空を飛べる悪魔は魔力での攻撃を好む傾向が強いのだろうが、アステリオスの圧倒的な腕力による力は十分に発揮できない状態であってもケルベロスの体を完全に断つには充分であった。三つに分かれ臓腑と血肉を巻き散らかしながら落下していくケルべロスの死骸。僅かに遅れてアステリオスも着地する。落下の際に土埃と振動が起きたが、少し陥没した地面に立つアステリオスは平然としていた。その悲しそうな表情を除いて……。

 

 

 

「行くわよ行くわよ行くわよっ!!」

 

 ケルベロスのの肉体に次々と深い傷が刻まれて行く。対峙するメルトの速度を目で追うことすらできず、一切反応出来ずに切り刻まれていくケルベロスだが、上記の生命力によって未だ健在。アステリオスとは裏腹に愉快そうな声で攻撃を続けていたメルトも、リップが既に倒しているのを横目で見て舌打ちをする。少し遊びすぎた、と反省ではないが自分の行い後悔していた。

 

「……はぁ。まさかリップに遅れるなんて情けないわ」

 

 敵の眼前で立ち止まり深い溜息を吐く隙だらけの姿をケルベロスは見逃さない。体中の傷を与えた憎き敵を殺さんと至近距離で炎を吐き出す。威力や射程を考えない溜め無しでの攻撃。だが、メルトの体をすり抜けた。いや、擦り抜けて見えたのだ。余りの速度に残像が残り、その残像に火炎が発射されただけだ。

 

「アステリオスもそろそろ終わりそうだし、さっさと溶かして私の一部にしてあげる」

 

 光栄でしょうと言いたそうな声色で、ケルベロスの胴体の上に飛び上がっていたメルトは嗜虐的な笑みを浮かべ、膝から胴体に降り立った。分厚い毛皮に強靭な肉、骨すら貫通して深く刺さるメルトの膝の刺。ケルベロスは苦悶の声を上げないが、効かなかったのではない。本来なら生きていられる程度の傷にもかかわらず、巨体は音と立って横倒しに倒れる。メルトが空中でヒラリと身を翻して着地した時、刺された部分からケルベロスの体がゼリーのように溶けだした。

 

 メルトがそれを踏みにじると吸い込まれるようにして消えていく。これがメルトが研究によって得た能力。本来は別の名前であったが彼女はこれを『メルトウイルス』と名付けた。自分の力を他人が名付けるのが気に入らないという誇りの高さからの行為である。

 

「ああ、この感じ、相変わらず堪らないわ」

 

 体に漲る力を感じ恍惚の表情になるメルト。次の瞬間、アステリオスが倒したケルベロスの血が彼女の上に豪雨の如く降り注いだ。最後に頭にベチャリと大腸が乗っかり醜悪な臭気が漂う。

 

「……アステリオス」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 メルトにジロリと睨まれて身を竦ませるアステリオス。まるで気の強い小型犬の成犬に怯える気弱な大型犬の子犬の様であった。

 

「……まったく。帰ったらエルゥに洗わせないと駄目ね。体中に変な香りが付着してるわ」

 

 血にまみれた服の臭いを嗅ぎながら呟くメルト。ちなみにメイドやアリエルに頼むという選択肢は今の彼女には存在しない。姉との情事を察し、独占欲が強い彼女は嫉妬しているようだ。

 

 

 

 

 

 

「……まだ子供だな。戦場で敵を殺すことに感情を介入させるなど無駄だ」

 

 デイビッドは右手を突き出した姿勢で呆れた様に呟く。彼が相手をしたケルベロスは無残な死骸となって血の海に転がっていた。何かが前方から全身を突き抜けたらしい傷をしており、入り口と出口の傷が全く同じ、力が集中しており一切の霧散が無い。その傷の形を例えるならば茨の十字架。ケルベロスの後方の地面には全身に血を一滴残らず搾り取っても到底足りない夥しい量の血がぶちまけられていた。

 

「さて、あっちも終わりか」

 

 特に感情を交えずに見詰める先にはエクスカリバーを振り下ろしたフリードと、それを素手で受け止めたゼファードルの姿があった。

 

 

 

 

「何だ、肩慣らしにもなりゃしねぇ」

 

 もう一度言おう。フリードがゼファードルを狙った理由に間違いはない。ただ、彼を狙った事が間違いだった。確かにゼノヴィアが使う物に比べれば一撃の威力は落ちる。だが、刃に纏った聖なるオーラと速度が乗った刃の一撃は確実にゼファードルの体を切り裂く筈だ。

 

 その筈なのにゼファードルの右手の手の平で受け止められた刃は幾ら力を込めても食い込まず、聖なるオーラは彼の体を覆う何かによって遮られている。これはヤバいと即座に反応して下がろうとしたフリードだが、エクスカリバーが固定された様に動かない。いや、固定された様、ではない。ゼファードルが指で刃の腹を掴んで固定していた。

 

 振り払おうとして力を込めるもカタカタ動くだけで引き抜けず、フリードの耳に嫌な音が聞こえる。ピキピキという、まるでガラスがひび割れるような、硬質な物体が破壊される直前の音。

 

「ちっ!」

 

 フリードが柄を離して飛び退くのと、ゼファードルが掴んだ部分から広がった罅が全体に行き渡って刃が粉々に砕けるのは同時だった。砕けた刃の欠片が地面に散らばり、ゼファードルは邪魔くさそうに足で蹴散らしていく。

 

「馬鹿なっ! エクスカリバーがあんな容易に砕けるなどっ!? それに刃が通らぬ等一体……」

 

「ああんっ? 一度壊れてんだから当然だろ、爺さん。其れとこの力だが、闘気って類のモンらしいぜ? ボコられながら身体鍛えてたらなんか使えるようになった。他にする事もあっからあの野郎には劣る上に、先ず良いの貰わなきゃスイッチが入らねぇ……」

 

 驚愕して拳を震わせながら叫ぶバルパーについ口が滑ったゼファードル。彼が体に力を籠めればオーラのような荒々しいエネルギーが溢れ出す。途中で口をつぐんで後ろに視線を向ければハリセン型の聖剣を作り出して素振りをしているエルゥの姿。アステリオスはあたふたしながら止めようとしているがメルトに邪魔をされ、後でお仕置きされるのは決定のようだ。

 

「……よしっ!」

 

 予想よりも軽いお仕置き内容だと判断したゼファードル。これ以上失敗する前に、と、視線をフリードに向ければ次の聖剣を鞘から抜こうとしている。当然、抜く前に接近して倒す。それが上策だ。

 

 

 

「面白れぇっ!! 正面からぶっ壊してやるっ!!」

 

 両手に別のエクスカリバーを持ち、同時に振りかぶるフリードに対し、ゼファードルも両腕を同時に突き出して迎え撃つ。刃と拳が激突し、ガラスが割れるような音と共に刀身が砕け散る。だが、それで終わらない。伸ばされたゼファードルの腕はフリードの肩を掴み、引き寄せると同時に自分の頭を大きく反らすと勢い良くフリードの顔面に頭突きを叩き込んだ。

 

「がはっ!」

 

 鼻骨が砕ける音が響き、フリードは息を吐き出す。ゼファードルが手を離せば気を失った彼は前のめりに崩れた。

 

「おっし! 快勝っ!!」

 

 歯を見せて笑いながら拳を振り上げる。残る戦闘員はコカビエルのみ。彼の前にはエルゥが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、コカビエル。君は本当は死にたいんじゃないのかい?」




デイビッドは投稿者さんの許可を得て考案した作者が同じのキャラの能力を足しています

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