いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

13 / 45
なんかセリフだけ思い出して何で使われたのか分からないセリフが

一人の弱さを嘆くか(詳しくはうろ覚え 無力を だったっけ?)   なんか敵に向かって言われたセリフだったかと

なんだっけなぁ





第十二話

 グシャラボラス家の屋敷に存在するエルゥの私室兼執務室に入った者の目が先ず行くのは壁一面に配置された天井まで届く高さの本棚だろう。専門書から始まってエッセイや各ジャンルの小説、絵本や漫画や各種雑誌も揃っている。ちなみに大人向けの写真集や漫画の類はこの本棚には見受けられなかったし、有っても処分されただろう。

 

「……お早う。何日眠ってた? 祝勝会の後で寝ちゃったのは覚えているけど……」

 

「三日ね。随分とお寝坊さんだこと。私を待たせるだなんて良い身分だわ」

 

 そんな部屋の片隅にあるベッドの中で目を覚ましたエルゥ。消灯台に置かれたデジタル時計は彼が最後に起きていた日付から三日後を指し示しており、ベッドの隣の椅子で視線入力のパソコンを使ってフィギュアの新作発表会の公開放送を視聴していたメルトの言葉が真実であると告げている。非常に素っ気ない態度の彼女ではあるが、目元の隈が睡眠不足を告げており、起きるのを待っていたのが伺えた。

 

「そうなんだね。心配かけて悪かったよ。……それにしても流石は神滅具、いや、二天龍の力と言うべきだね。変容に慣れるこんなに負担が掛かるなんて驚きだよ」

 

「貴方馬鹿? あくまでも『天の鎖』の力のみを与えられただけの元人間って忘れているでしょ? 初めての変容は戦闘中の高ぶりを感じている時に限るし、一度成ったら体が慣れるまで意識を失う。……アステリオスとの組み手ででも使えば良かったじゃない」

 

「最初はそのつもりだったんだけどね。コカビエルの件が終わってからの予定だったけど、戦っていると使わずには……」

 

 呆れたように溜め息を吐いて動画を止めるメルトに対し、エルゥは左腕を持ち上げながら言い訳をするが、メルトの手がそっと重ねられた事で言葉を止めた。彼女の顔は何時もの余裕が無く、今にも泣き出しそうだったからだ。

 

「……あの人に続いて貴方まで失いたくないの。お願いだから無茶はしないで」

 

 今ここに他者を見下しながら話す少女は居ない。今居るのは大切な存在を失う悲しみに耐えられず不安に押しつぶされそうな只の少女だ。エルゥの手に自分の両手を重ね、今にも泣き出しそうな声で肩を震わせる。エルゥの手がその肩に優しく置かれ、強く握られる。感覚の薄い彼女でも感じられるように。そのまま抱き寄せれば二人の顔は間近に迫る。メルトは驚きつつも抵抗はしなかった。

 

 

「そうだね。約束は出来ないかな? 僕はもっと強くなって、皆に降りかかる火の粉を全て払いのけたい。皆がどんなに強くなっても、その気持ちは変わらないんだ。だから君が約束してくれるかい? ずっと僕の側に居てくれるってさ」

 

「……五十点。陳腐にも程があります。そんな安い言葉で私が喜ぶと思わない事ね」

 

 優雅さを感じさせる余裕綽々な声と共にメルトはエルゥの腕の中から抜け出す。殆ど感覚がない指先でも彼の肩を押さえて力を込めれば離れる事が出来た。只、余裕があるのは声だけで、顔には確かな喜色が浮かんでいる。それこそ今にも鼻歌を歌い出しそうな程に。まるで製造中止してネットオークションやレア物専門の店に置いていないフィギュアをふと立ち寄った玩具屋の片隅で、通常価格での販売をしているのを発見した、そんな時の顔にそっくりだった。

 

「でも、エルゥにしたら上出来ね。私が貴方の側にいるのは当然だから評価に値しないけど、言おうとした事は評価してあげる。ご褒美をあげても良いわ」

 

 嬉しさを隠し、あくまでも上から目線での態度を崩さないままメルトはエルゥの顔に再び顔を近付けるとそっと目を閉じる。その後、傲慢さに不安と期待が入り混じった声で告げた。

 

 

 

 

 

「キスする事を許可します。先程よりはマシな言葉を忘れないように」

 

 光栄でしょう? と言いたそうに鼻を鳴らすメルト。このまま放置すれば不安を隠しつつ上から目線で苛付きをぶつけて来そうだと感じ、それはそれで面白そうだと感じたエルゥだったが、流石にメルトに悪いと止めておく。次に浮かんだのはゼファードルの言葉。ちゃんと向き合え、その言葉に従う事にした。

 

 

 

「メルト、僕は君も好きだ。だから今からキスをするよ」

 

 耳元で囁いたエルゥはメルトの唇に自らの唇をそっと重ねる。薄い感覚でもキスをされていると僅かに感じられたのかメルトは唇に全神経を集中し、何も言わずされるがままにしていた。唇が離れたのは触れ合ってから十秒後。暫く余韻に浸って幸せそうなメルトであったが、ふと我に返るなり右手の袖で口元を隠しながら少し不満そうな声で抗議する。耳元まで真っ赤にしながらだ。

 

「ちょっと! こういう時は君がって言うべきでしょ!? ……あー、もう、乙女心を理解しろっていうのが間違いだったわね」

 

「うーん。だってヴァイオレットもメルトもリップも好きだしさ。そうだね。皆、僕のお嫁さんにしたいかな?」

 

「……言っておくけど貴方は私だけの物よ? 二人は貴方の物だけど、貴方の所有者である私が唯一無二の存在だって忘れないようにしなさい」

 

 堂々と一夫多妻発言をするエルゥの胸を力が入っていない手で数回ポカポカ殴った後、メルトは言い聞かせるようにしながら溜め息を吐く。これが彼女の妥協点。自分は特別で、二人はオマケ程度の扱いだと自分の中だけでも納得しようというのだ。

 

 元々姉妹揃って恋愛に強い興味があり、研究所で自分達を支えながら共に過ごし、皆を先導して脱出に成功した事によって恋の炎は燃え上がった。それは十年の付き合いで消えることなく燃え続けている。更に特に危険視していなかったヴァイオレットに先を越された事による焦り、自分達を逃がすために行方知れずになった長姉の言っていた皆揃ってお嫁さんになる、という幼い頃の約束。その全てがプライドが高く独占欲の強いメルトに了承させる理由となった。

 

 そっと身を乗り出したメルトの体がエルゥに預けられる。再びキスが出来そうな距離に顔を持って行き、誘惑するように囁いた。

 

 

「ヴァイオレットで()()は済ませたでしょう? じゃあ今から本番ね。……身も心も私が与える快楽で徹底的に溶かしてあげるわ」

 

 優雅な表情と声色でエルゥを誘惑するメルト。自分の美しさは完成された美であると微塵も疑っていない。緊張もしていない。完璧な自分がその様なものする必要が無いからだ。それ以上の誘惑の言葉も投げ掛けない。既に自分に夢中の筈だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……練習とは言ってくれますね。私ももう一度といったところで中断させられましたし、途中で混ざりましょうか? その方が時間の短縮と意趣返しになりますし……」

 

「メルトにも先を越されるなんて。誰が見たって、実年齢より上に見える姉さんやお子さま体型のメルトよりもわたしの方がずっと魅力的なのに。絶対比べものにすらならないのに……」

 

「メルトといい、リップといい、私の妹達はどうしてこうも……」

 

 エルゥが眠ってからずっと付きっ切りのメルトを心配し、交代しようと扉を少し開けた所で入るに入れなくなった姉妹は扉をそっと閉め、他の面々が入るのを止めるべく待つ。途中でリップの無自覚の煽り癖が発動し、そっと額に手を当てるヴァイオレットであった。

 

 

 

 

 

「やっぱテメェが目を覚まさねぇのを特に心配してたのは研究所出身の奴らだな。あの爺さんもちょくちょく様子を見に来てたし、アナやバッシィは起きた時の為にって肉や内蔵が滋養に効く魔獣を狩りまくったり、キャットも副料理長だってのに料理を失敗しまくったり、慌ててやって来たエリザが目覚めの歌を歌うって言ったからアステリオスが変身してでも止めようとしたり……」

 

 病み上がり後、真っ先に任された仕事はゼファードルが期日ギリギリまで貯め混んでいた書類仕事の手伝いだった。算盤責めをされながらペンを進めるゼファードルだが遅々として進まず、エルゥは慣れた手つきで終わらせていく。今回はコカビエルの件もあって忙しかっただろうからと軽めのお仕置きで済んでいた。

 

「うん。歌われてたら永眠してたかもね」

 

 赤い髪に赤い角、龍の翼に尻尾を持つ吸血鬼の少女、エリザベートの歌を思い出してエルゥは顔を引き攣らせる。エリザベートは踊って戦えて演技も出来るアイドルで、今は主演を務める大人気の特撮番組の映画第三弾『劇場版・鮮血少女ドラゴンガール 爆誕のメカエリチャンと謎のチェイテピラミッド姫路城』の舞台挨拶で各地を回っている。

 

 尚、役者の仕事以外はグラビアの仕事ばかり回って来て、歌の仕事は全く回ってこない。いやー、あれに歌わせたらブーイングの嵐っすからねぇ。上手い事煽てて誤魔化してますよ、とはマネージャーの青年の言葉だ。

 

 

「なあ、大丈夫か? 復讐するって言ってた神はとっくに死んでるって話だし、まさか棺桶から死体を引っ張り出して切り刻むって訳にもいかないだろ」

 

 そんな風に話しながらもペンを動かしていた二人だが、ゼファードルの言葉でエルゥの動きも止まった。これで張り詰めていた物が切れ、転生前の感覚のせいで早期に目標を失った他の眷属悪魔の様に燃え尽きてしまうのでは、そう心配したからだ。

 

 

「え? いや、とっくに死んでたのなら、復讐の対象じゃなかったんだって程度だよ? 綱吉の家臣に恨みを持つからって家康まで恨まないのと同じだよ。死んだ後の事まで責任を追及するほど小さくないからね」

 

「あっ、そうか。……今度行われるって会談の話は聞いたか? 俺達にも出席の話が来てるがどうするよ? お前達は天界の被害者だし、他の眷属だけ連れて出ても良いって言われてるけど……」

 

 あっけらかんと言い放つエルゥに心配して損だったと思いながら再びゼファードルはペンを動かして訊ねる。普段から冷静だと知っているか、いざ仇敵の一人を目にした時にどうなるか、そんな心配もしていたし、ファルビウムからは少しでも不穏な空気を感じたら連れて来ない方が良いかもと言われている。同時にもしもの時は戦力になるから必要かも、とも。

 

 

「出るよ。ああ、先に約束しよう。顔だけでも拝んでおくつもりだけど、君に迷惑が掛かるから手は出さない。もしもの時を除いてね」

 

「そっか。なら出ろ。……流石にメルトとリップは置いていくか。精神的にやべぇからな」

 

「随分と僕を信用するんだね。家を出た後に見つける女王の選別で困るんじゃないのかい?」

 

「……テメェ以上の女王なんざ絶対に居ねぇからな。まあ、ボチボチ探すわ」

 

 コカビエルの件で活躍したからかゼファードルを取り込もうと婿入り先の申し出は増加している。その中から肩身が狭い思いをしなさそう、財産や他の貴族との繋がりが十分、眷属からはぐれが出ないか、等と事細かいチェックを入れながらエルゥや当主が選別中だ。そしてゼファードルが婿入りする時、エルゥは現当主の眷属に戻る事になっている。つまり、その時が別れの時なのだ。

 

 友として、眷属として、エルゥはずっと彼を支えてきた。厳しめに教育しろと頼まれたので少しスパルタだったりしたが、ゼファードルの為に動いて来たのだ。だが、それも後数年で終わろうとしていた……。

 

 

 

 

 そんな次の日、表向きは少し眷属間で揉め事の種を蒔いたとして受けた謹慎処分が明けたエルゥだが、リアスの所に新しい眷属が誕生したからと顔合わせに向かった。

 

 

「お久しぶりね。紫藤イリナよ。騎士の駒で転生したわ」

 

「……ふぅん。君、勇気があるね」

 

 彼女の話によると神の死を知った事で教会を追放され、路頭に迷いそうな所をリアスにゼノヴィアと共に勧誘されたらしい。だが、そのゼノヴィアの姿は此処にはない。個人として世界を見て回り、自分の意志で誰かを救いたい、そう言って旅立っていった。教会の使いに悪魔から引き渡されたバルパーとエクスカリバーとデュランダルを渡し、親しい知人に詳細を話さずに金の無心をするのは苦労したようだが彼女の真剣な声に相手も納得したようだ。

 

「え? 勇気があるって?」

 

「いや、分からないなら別に構わないよ。宜しくね」

 

 そっと握手を求めるエルゥだが、彼のイリナへの評価はとても低い。神の為と言って悪魔や異端者を殺害し、今度は悪魔の民が収めた税で暮らして行こうというのだ。これから戦争になる可能性も捨てきれず、かつての仲間や天使を敵に回すか、戦えないと言って内通の疑いを持たれるか、何方にせよ考えが足りないと感じていた。

 

 

 

 そんな顔合わせがあった日の放課後、ゼファードルから連絡が入る。余っていた騎士の駒の最後の一個を使う相手が決定したと……。

 

 

「事前に相談して欲しかったけど、自立しようとしているのかな?」

 

 嬉しくもあり、寂しくもある。複雑な心境で冥界に向かうエルゥであった……。




感想お待ちしています

ぶっちゃけゼノヴィアとか戦争が始まってたらやばいよね 敵の信奉者とか アーシアもシスター服でゲームに出てたっけ・・・
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。