いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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第十五話

 アズリィの家に突如響きわたる騒がしく明るい音楽。まるでバラエティー番組を思わせるそれに見合った番組のセット風に変化した部屋。その中心に立っているのはヴァイオレットに似た容姿を持つ少女だった。

 

「おやおや、驚いて声も出ない様ですね。はい! 皆さん、十年ぶり。皆のラスボス系アイドルBBちゃん登場でーす!」

 

 響き渡る歓声の効果音と飛び散る紙吹雪。スポットライトを浴びて教鞭片手にポーズを取るのは黒いコートを学生服の上から着た少女。ヴァイオレットが生真面目を、パッションリップが気弱さを、メルトリリスが絶対の自尊心を感じさせるなら、BBは気紛れな小悪魔の印象を見る者に与える。

 

 その顔をエルゥ達は忘れない。力の使い過ぎや無力さから戦えなかった仲間を守る為、殿となって消息不明になった仲間、ヴァイオレット達姉妹の少女、桜の花が好きだと言っていた少女が目の前に居た。

 

「ね、姉さん……」

 

 最初に声を出したのは実妹のヴァイオレットだ。ずっと生存を信じ、彼女の代わりに妹達を見守ってきた。気持ちが溢れ出しそうになった時、BBは慈しむ様な表情で抱き締めた妹の頭を撫でる。

 

「はい、お姉さんです。よく頑張りました。ずっと会いたかったですよ」

 

 プライドからか泣き出すのは堪えたヴァイオレットだが、暫くの間BBを抱き締め続ける。漸く落ち着いたヴァイオレットが気恥ずかしそうに咳払いをするとBBは彼女から離れて仲間達を見回した。

 

「アナちゃん、パツシィ君、エリザベートちゃん、タマモキャットちゃん、……そしてエルゥ君。皆、変わりませんね。他の三人が居ないのは本当に残念です」

 

 先程までのふざけた言葉遣いも相手を小馬鹿にするような声も忘れ去り、忘れがたい昔を懐かしみ再会を心から喜ぶ少女へとなるBB。そんな姉に対してヴァイオレットは少し不満をぶつけた。

 

「……姉さん、今まで何処に……」

 

「えーと、秘密です♪ 秘密は女を美しくする物ですよ、ヴァイオレット。……あー、分かりましたー。言うから怒らないで怒らないで。時間稼ぎに使った力の暴走で自分を封印してたんですよ」

 

 最初はふざけて誤魔化そうとするも、ヴァイオレットだけでなく他の仲間からも睨まれたBBは仕方無さそうに理由を話す。本人からすれば赤っ恥な内容なのか最後の辺りは自棄になった様子で話していた。だが、ふざけた態度は此処までで、急に真面目な表情になったBBは、先程から、口を挟んでは駄目だと思ったのか黙ったままのミカエルに向き直り、見せ付ける様に教鞭を向けた。

 

「封印が解けたのが六年前。直ぐに皆の消息を探したけど、悪魔の世話になってるって知って接触を諦めました。なにせ私は魔人計画の中でも最重要の五体、神や神に匹敵する存在の力を持った内の一人にして、唯一聖書の陣営の存在の力を持つ美少女。……貴方ならば誰の力か分かりますよね?」

 

「……はい。まさか教会の研究者がそこまでの事をするとは。それとその教鞭はまさか……」

 

 精神的ショックからミカエルは顔面蒼白で、自分の予想に心底恐ろしいとさえ思ってしまう。人の持つ狂気を思い知らされ、人を上辺でしか見ていなかったのだと嫌でも知らされた。

 

「ちなみにこれは拉致や洗脳を崇高な目的のための尊い犠牲とか抜かしてた、募金活動やボランティアもしていないくせに英雄を名乗ってたお馬鹿さんから貰った物を改造したのです。相方の眼鏡と一緒に記憶と力を奪って放逐しましたけど、職歴や学歴が禄にない二人の今後を考えると同情で泣いてしまいます」

 

 余りにも大根役者すぎる泣き真似だった。ヨヨヨ、と棒読みでの泣き声をあげながら両手で目元を覆う。ヴァイオレットなど十年ぶりに再会した姉に早くも絶対零度の視線を送っている始末だ。BBも分かっているのか直ぐに泣き真似を止め教鞭を振るう。またしても景色が変わり、神聖さを感じさせる空間になっていた。

 

「此処が何処だか分かりますか? そう! なななな、なーんとぉ! 神が残したシステムを管理する為の聖域なのでしたー!」

 

「姉さん、早く本題に入ってください」

 

「BBさんって昔から話が回りくどいよね」

 

 BBがポーズを驚いた様なポーズを取れば、驚いた声の効果音が流れる。ヴァイオレットとエルゥは反応せず、淡々と感想を述べるだけだ。そしてミカエルも同じだった。既に答えを出している事を確認する様に問い掛ける。

 

「この五年間、神器所有者が生まれないのは貴女がシステムに干渉……いえ、完全支配しているからですね?」

 

「せいかーい! 五年前は無茶してしまいましたけど、この『支配の錫杖』またの名を『十の支配の王権(ドミナ・コロナム)』さえあれば聖書の神同様、いえ、それ以上にシステムを動かせます。新たな天使の誕生や祝福の不足さえ解決できる。……だからゲームをしましょう。私が既に力を貸している、天界と教会に正当な恨みを持つ方々と戦って、勝った方の味方になって差し上げますよ」

 

 敵として用意した者達について告げる時、BBは殆ど興味なさそうな声で告げ、勝利報酬について告げる時には残酷な笑みを浮かべて告げる。どっちが勝っても彼女には構わなく、天界や教会が大きなダメージを受けるのは間違いない。ただ天界が勝った場合はシステムを管理するという関係上、支配下におけるという事だ。

 

「……BBさん。僕達の所に来てくれないのかい? リップやメルトだって……」

 

「……大丈夫。BBちゃんは皆の所に絶対に戻ります。ちょーっと浮き世の義理というか、無視できない想いを聞かされたから野暮用を済ませるだけですので。……だから」

 

 エルゥに対して先程までとは別人の様にしおらしくなったBBは彼を手招きし、ヴァイオレット同様に優しく抱き締める。違う所は最後に彼の顔を両手で挟んでキスをした事だ。

 

 

「えへへ、ファーストキスあげちゃいました。じゃあ、戻った時にはエルゥ君からお帰りのキスをお願いしますね。……ってな訳でBBチャンネル、今日はここまでー!」

 

 恥ずかしそうに微笑んだBBが支配の錫杖を振るうと効果音と共に景色が切り替わる。アズリィの家に戻っており、BBは最初から居なかったかのように消え去っていた。

 

 

 

 

「何それ。天界側に拒否権なんてないし、相変わらず性格悪いわね、BB」

 

 姉と再会できなかった事か、それとも置いて行かれた事が不満だったのか、屋敷で報告を受けたメルトはエルゥの膝の上に座りながら顔を歪ませる。相変わらず、という言葉にエルゥもBBがどんな少女だったかを思い出した。好きな物は姉妹とエルゥと研究所に居た被験者の一部で、それ以外には冷酷さすら感じる無関心を貫いていた。

 

「メルトも姉さんくらい性格が悪いし、人のこと言えないんじゃ……」

 

 BBに再会できなかったのが残念だったのか落ち込んでいたリップだがメルトの発言に思わず毒を吐いていた。BBの性格が悪いと言うことを否定しない辺りは非常にアレだ。発言に苛立ったのかエルゥの膝から飛び退いて詰め寄ろうとしたメルトだが、途中で動きを止めると今度は向かい合う状態でエルゥの膝に乗って首に手を回す。

 

「ねぇ、今夜は体が空いてるわよね? いえ、何かあっても空けなさい。体重がトン単位あるリップじゃ出来ないことをたっぷりとしてあげる」

 

「メ、メルトだって靴の重量を入れれば結構重い癖に! 体重では入れないのに身長では靴の高さを入れるなんて見栄っ張り! 私だってメルトみたいに貧相な体じゃ出来ない事してあげられるもん!」

 

 軽く口付けをして匂いを付けるように体を擦り付ける等エルゥを誘惑しながらも横目で挑発する笑みを向けてきた妹にリップも涙目で対応する。思い掛けない修羅場にエルゥが内心焦った時、ルチルがスピネアを連れて入ってくる。スピネアの手には聖剣が握られていた。

 

「これが修羅場ですね、ルチル様。では、対処法を学ぶために観察に入ります」

 

「観察しなくて良いから止めるニャー!? ほら、メルトさんも旦那さんから降りるニャー!」

 

 冷静な声で無表情のまま修羅場を観察しようとするスピネアとは打って変わって冷静さなど欠片もない様子で飛び跳ねて怒っているルチルの愛くるしい姿にメルト達も毒気を抜かれ、この場は一旦収まった。

 

 尚、このルチルだが実は並の下級悪魔よりは強い。それは彼女の来歴や出身に理由があるのだが、語るのはもう少し先だ。

 

「それでルチル、どうしたんだい?」

 

 メルトが退いた膝の上に今度はルチルを乗せながらエルゥはスピネアの持つ聖剣、ミカエルからお礼の品として貰ったアスカロンに視線を向ける。聖剣ならば神器で創れるのでアズリィに加工して貰う予定だったが、加工の様子はなかった。

 

「それは私が説明いたします。その前にパッションリップ様、アスカロンを圧縮して下さいませ」

 

「え? は、はい」

 

 手渡されたアスカロンを戸惑いながらも両手で包み込んでキューブに圧縮するリップ。コンソメキューブ大になったそれは未だ聖剣のオーラが健在で、スピネアは躊躇せずにそれを飲み込んだ。当然、彼女の体から浄化された事による煙が出るが直ぐに収まり、手刀の構えを取った彼女の右手にアスカロンの特性である龍殺しの聖なるオーラがまとわり付いていた。

 

「あのご説明だけでは私の能力を正しく把握できないと博士から告げられましたので実践致しましたが、何か問題でも?」

 

 僅かに小首を傾げて訊ねるスピネアにエルゥは軽く首を横に振る。

 

「いや、別にないよ? ……あっ、僕ちょっと用事があるから」

 

「用事ならお供致しますニャー」

 

「いや、別に構わないよ。じゃあ、行くから!」

 

 慌てた様子のエルゥは後に続こうとしたルチルを手で押し止め、珍しく慌てた様子で駆けだしていく。その背中をリップとメルトはジッと見詰めていた。

 

「怪しい」

 

「怪しいです。でも、メルトが追跡したらヒールの音が五月蠅くって見付かるから駄目だよね。本当、迷惑だな……」

 

「……駄肉ブラブラぶら下げて重苦しい音響かせているアンタが言う? 上等ね、表出なさい!」

 

 火花散らし合い互いを睨む姉妹。スピネアはその姿をジッと見ていた。

 

「成る程。これが恋敵との戦い。データを採取します」

 

「天丼は止めてニャー! その二人の姉妹喧嘩とか冗談じゃ済まなんだニャー! あ~も~! ヴァイオレット様は何処ニャー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か私を呼ぶ声が聞こえた気がしますが……今は休憩中ですし気にしないでおきましょう。……エルゥは未だでしょうか?」

 

 その頃、自室のベッドの上でネグリジェ姿になったヴァイオレットは合い鍵を持ったエルゥが来るのを待っていた……。




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