いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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第十六話

 位の高い僧侶が待ち構える場所に幼い少女が連行されて来た。何日も風呂に入っていないのか髪はボサボサで、ボロ布のような服を着た体には無数の汚れと傷。何より特徴的なのは目だ。絶望と諦念、それだけしか彼女の目から感じ取れはしない。舗装も満足にされていない道を素足で、手枷を乱暴に引っ張られながら彼女が向かうのは火刑の準備が成された場所。

 

「これより魔女ターナを火炙りに処す!」

 

 多くの男を誘惑し堕落させ、魔法によって伝染病を広め多くの命を奪った。読み上げられていく少女の罪状は恐ろしく、周囲を取り囲む民衆は口々にターナを罵り、一刻も早い死を望む。幼い少女の所業だと信じて疑う者は居なかった。彼女は魔女などではなく、裕福な商家に生まれただけの平凡な少女であるにも関わらず。嫌疑など全くのでっち上げでしかないのに。

 

「火を放て!」

 

 縛り上げられたターナの足元が燃え始める。脚を焼いていく熱に呼吸を阻害する煙。この苦しみは長時間続き、民衆は彼女の死を心から喜び、憎き魔女を成敗した教会を賛美する。少女の絶叫が響き渡る中、極普通の民衆である彼らは神に祈りを捧げていた……。

 

 

 これは魔女狩りが行われていた時代において、多くの地域で繰り広げられた光景。魔女と呼ばれ尊厳と命を奪われた彼女達の祈りは届かない。

 

 

 

 

「うおっ!? 資料で見たけど現物は迫力が違うなっ! 嬢ちゃん、今夜暇か?」

 

 三竦みの会談当日、コカビエルが事件を起こした場所という事で森の中に急遽建設された会談の為の建物にエルゥ達もやって来ていた。事件解決の功労者として話を聞くためであり、イリナも主であるリアスと一緒に呼ばれている。まさか各陣営のトップが集う会談に重役出勤等常識的に考えれば出来るはずもなく、会場の警備及びもしもの時の戦力として来た悪魔達と同時に会場にやって来ていた。

 

 未だリアス達がやって来ていない時間帯にも関わらず最初に会場入りしたのは堕天使陣営のトップであるアザゼル。銀髪の青年の護衛を引き連れた彼の第一声はリップへのセクハラであった。

 

「ひゃうっ!?」

 

 その巨乳という言葉でさえ不足して思える巨大な胸を巨大な手で咄嗟に隠したリップは涙目でエルゥの背後に隠れる。アザゼルの表情からして悪戯だったらしく、その反応を楽しんでいたが同年代の堕天使が小言を言ったらしくバツが悪そうだ。

 

「……自分のペースに持って行く為の作戦かな?」

 

 海千山千の相手に謀略や腹のさぐり合いで勝てるとは思っていないエルゥは今の言葉だけで此方の関係をある程度把握されたと認識する。リップを庇おうとした自分やアステリオス、特に反応しなかったデイビットやメルト、油断禁物だと気を引き締めていると他の陣営のトップやリアス達もやって来る。一誠がリップ胸に過剰に反応したがリアスが耳を引っ張って叱咤して騒ぎは大きくならなかった。ただ、会場で悪魔の恥を晒した結果になってしまったが。

 

 

 

 

「以上が私とゼノヴィアが悪魔側に任せた経緯です」

 

「……おいおい、まさかとは思ったが、そこの仮面、『欠落の棘舌(ヴォイドイーター)』かよっ! 詳細不明の幻の神器じゃねぇかっ! なあ、俺の所に来る気は……」

 

「……アザゼル」

 

 途中、シュアンについて話が及ぶと神器の研究を趣味としているアザゼルが酷く興奮する。大まかな見た目と僅かな能力の情報しか無い幻の神器であり、アザゼルもシステムに残ったデータの資料の一部が流出した事によって存在を知っただけだ。後ろの堕天使が言葉を掛けなければ席から立って身を乗り出すだけでは済まなかったかも知れない。

 

「じゃあ次は俺……私と眷属とコカビエルの交戦についてお話しいたします。先ず、森にて……」

 

 不慣れな言葉遣いに苦戦しながらもゼファードルが説明を続ける。フォルビウムが直ぐに許可を出した(という事になっている)事にリアスが不満を隠そうともせず、アザゼルが悪魔も一枚岩じゃないな、と茶々を入れつつも説明が終わると一番先に口を開いたのはアザゼルであった。

 

「その歳でコカビエルを倒せるっつんだからすげぇよ。まあ、お前さんについては前から注目してたがな。……んでだ、事前の情報で軽く知らされて、大体進んだら教えてくれる事になっている『魔人計画』について教えてくれよ」

 

 場の空気が一変する。既に説明を受けている魔王達や、BBやエルゥの言葉から察したミカエルとは違い、アザゼルはまだ聞かされていない。会談が進めば話す予定であったが、待てないと彼は主張しているのだ。ペースを握って会談を有利に進めるパフォーマンスなのか、本当に知りたいのか不明だが、このままでは話が進まないと理解したミカエルは頷いた。

 

「天界側は了承します。悪魔側は……?」

 

「こっちも構わないよ。じゃあ、当初の予定通り幹部以外は退席して貰えるかな?」

 

「ヴァーリ、お前も出てけ。話して良いって思ったら話してやるよ」

 

 アザゼルの言葉に渋々ながら銀髪の彼、ヴァーリも退席し、説明を求められたエルゥは口を開いた。

 

 

 

 

「魔人計画とは、資料の様に他の神話の怪物、例えばアステリオスなら死後に影響を受けて変化した程度の多くに知られている劣化種ではなく、正真正銘本物の、ゼウスの血を引くミノス王でさえ手を焼いた怪物、ミノスの牛ことミノタウロス、その力を与え……他の神話を滅ぼす為の兵士にする為の計画なんです……」

 

 

 

 

 

「んなっ!? そんなのが他の神話に知られたら腰の重い奴らでも流石に動くぞっ!? ……おいおい、超ド級の爆弾じゃねぇか。こりゃヴァーリには教えられねぇな」

 

 流石に予想外だったのか口をあんぐり開けて絶句するアザゼル。ミカエルやサーゼクスが話しにくそうにしていた理由を悟った。

 

「既に研究者は被験者の暴走で死亡、関わっていた上層部の捕縛も完了しています。弟子殺しの罪で追われているヴァスコ・ストラーダは彼らの不正に気付き正そうとした結果、事情を知る仲間を暗殺され、その罪を被せられたようです」

 

「コカビエルがやらかした事の比じゃねぇぞ、それは。下手すりゃ、いや、確実に俺達堕天使や悪魔もついでにってなるだろうしよ。……こりゃBBって嬢ちゃんが力を貸したって奴らも気になるが、俺が調べてる厄介な組織もあるし、結ぶか、同盟?」

 

 今回の会談においてミカエルはトップにだけBBの情報を知らせていた。聖書の神が残したシステムを支配する少女と彼女が力を貸す者達という最大の爆弾だからこそ、後で知られるよりは、と、開示したのだ。当然、彼が言わなくてもBBが誤解されるように教えていただろう。

 

 だからこそアザゼルが行った提案はミカエルも切り出す気であった。それ程までに自分達は弱っていると、このままでは共倒れだと理解しているのだ。ミカエルだけでなくサーゼクス達も賛同し、室外に出した者達を呼び寄せようとした時、放送を知らせる音楽と共に場違いな声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「おやおやー? アレだけ下の者を戦わせて来たトップ陣……あっ! 悪魔は老人達の担ぐ御輿でしたね、訂正訂正 。そんな方々が自陣での協議も無しにあっさりと決めた同盟。なーんか波瀾万丈そうで不安です。それではそれではー!」

 

 時折毒を吐きながら好き勝手言い募るその声は耳を塞いでも聞こえてくる。音を届けているのではなく、感覚器官に直接認識させているからだ。そして予想通りの声が響く。

 

「BBー! チャンネルー! 始まり、です!」

 

 歓声と飛び散るテープや花吹雪共に室内が予算が少ないバラエティーのセットに変化する。姿を現し、トップ陣が囲むテーブルの変化したステージの上に降り立ったBBはミカエルに背を向けて残った二陣営のトップに向けてお辞儀をする。ただ、その表情は小馬鹿にする印象が見て取れた。

 

「本日のBBチャンネルは、ドキ! 戦争一歩手前!? 三竦みの会談に密着スペシャル、をお送りしまーす! 司会は皆のデビル系アイドル、超絶美少女BBちゃんでーす!」

 

 再び鳴り響く歓声と拍手の効果音。ステージ後方に設置されたモニターには番組タイトルに続いてBBの顔がドアップで映し出された。実に楽しそうにやっているが、水を差す者が二人。

 

「自分で彼処まで言うとか恥ずかしくないのかしら? って言うか、あのノリは一体何なの?」

 

「ほら、姉さんってその場のテンションで行動して、後で悶える人だから。あと、メルトも同じだよ? 二人揃って恥知らず、だね」

 

 辛辣な言葉を投げかける妹達にBBの動きは止まり、今にも泣きそうな顔だった。恐らく横合いから何も聞いていない様に話しかけられなければ泣きながら逃げ去ったかも知れない。

 

 

「君がBB君だね? 私がサーゼクス・ルシファーだ」

 

「おやおや、既にBBちゃんを知ってるって、私も有名人になったものですねぇ。……あーはいはい。分かってますよ」

 

 サーゼクスにわざとらしい演技で応対するBBのポケットから着信音が鳴り響き、電話に出ると怒った女性の声が漏れ出てくる。BBがウンザリした顔で支配の錫杖を降った瞬間、煙と共に黒い鎧を身に纏い旗を持った白髪の少女が出現した。この世全てを蔑み憎む様な冷たい目をした少女。ミカエルは信じられない物を見る目を向けてある名を呟く。

 

 

 

「ジャンヌ・ダルク……」

 

 神の声を聞き祖国のために立ち上がり、最後は見捨てられ魔女として殺された少女の名をミカエルは口にした。

 

「おや? 私如きの顔をご存知とは驚きです。てっきり使い捨ての道具など認識しないと思いましたよ」

 

「……あれは一部の天使が勝手に行動した事で、天界はあまり干渉をするわけにはいかず結果見捨てる事になったのです……」

 

 その顔を見たミカエルが呟いた言葉を肯定する様に皮肉混じりの声で話す少女は恭しくお辞儀をした。ミカエルは見た目だけでなく、天使に目を付けられる程の魂の力から本人だと察する。その言葉を聞いた時、彼女は心底楽しそうに笑った。

 

 

 

「あははははははっ! 何ですか、その表情は。つい殺してしまいます。……ふっざけんじゃないわよッ!! 利用だけして見捨てておいて、死んだら聖人として利用しておいて、今更申し訳ない? じゃあアンタも焼き殺してあげましょうかっ!!」

 

 激昂と共にジャンヌが旗を振るうと彼女の背後から黒い炎が吹き出し天井を吹き飛ばす。それに呼応するかのように空から十匹ほどのワイバーンが飛来した。

 

 

 

 

 

「私は聖処女の生まれ変わりが魔女の……いえ、財産を奪う為、教会の権威の為、そんな理由で魔女として殺された女達の嘆きによって力を得て龍の魔女と成った存在! ジャンヌ・オルタよっ!」

 

 ジャンヌ・オルタの叫びと共にワイバーン達は警備としてやって来ていた天使のみに襲い掛かった。突如の襲撃に戸惑いながらも、そこはトップが集まる会場の警備に選ばれた者達、迅速に立て直し迎撃に入る。

 

 

「何だっ!? 此奴ら変だ……ぎゃあっ!?」

 

「どうして止まらな……ぎぃ!?」

 

 だが、魔力で鱗ごと肉が弾け飛ぼうとも、堕天使の光の槍に貫かれようともワイバーンは一心不乱に天使のみを狙い、憎悪さえ感じる執念を見せる。一匹のワイバーンが正面から頭を貫かれようとも動きを止めず、脳漿を撒き散らしながらも天使に食らいつく。鋭い牙が腹を食い破ったまま諸共落下して互いに果てた。別のワイバーンも腹に風穴が空いているにも関わらず微塵も怯まず、鉤爪を天使の胸に深々と突き刺す。瞬時に周りの堕天使に首をはね飛ばされた。

 

 

「何だよ、あれは。洗脳でもしやがったか!?」

 

「いえいえ本人の意志ですよ。彼女達は復讐がしたいのですよ。……例えばこの子」

 

 憎悪のみに突き動かされているような異常な光景、狂気の極みと言える光景にアザゼルがつい言葉を漏らせば、ジャンヌ・オルタは口笛を吹いて一匹のワイバーンを呼び寄せて指差した。

 

「この子の名はターナ。裕福な家の善良な娘でしたが、生まれた時代が悪かった。当時行われた魔女狩りは教会が魔女の財産を手に入れる事が出来ましてね。……碌な食事も与えられず、拷問と陵辱を受け続け、最後は嘲笑と侮蔑を受けながら生きたまま焼かれて苦痛の中死にました」

 

 ジャンヌがワイバーンの頭に手を翳せば半透明の少女が胴体から抜け出る。十歳ほどの少女が浮かべるとは思えない憎悪と憤怒の表情をミカエルに向け、口を動かして何やら言おうとしている。声は聞こえなかったが、誰もが恨み言だと理解した。

 

「あのワイバーンは全て……」

 

「ええ、その通り。魔女にされた普通の女性達です。見捨てた神を憎み、天へ召されることを拒否して地上に残り続けた。だから私が力をあげた! 彼女達には天界に復讐する権利があるのです! さあ! 喝采をっ! 我らの憎悪に喝采をっ!! ……ちなみに天使を一人殺せば自らの怨念から解放されて成仏できますので、救いたいと思ったら殺されてあげて下さいね」

 

 その言葉はワイバーンと必死に戦う天使達の耳に届く様に響き渡り、戦意を確実に削いでいく。実際、天使を殺したワイバーンからは満ち足りた顔の女性達の魂が抜け出して天へと昇っていき、言葉を否定することを許さない。それを眺めるジャンヌ・オルタの嘲笑が響いた時、上空に巨大な転移用の魔法陣が出現した……。




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