「おいおい、あいつ等は嬢ちゃん達の仲間か?」
突如出現した魔法陣から転移して来たのは大勢の魔術師達。中級悪魔程度の力を見追っていると推測され、天使のみを執拗に狙っていたワイバーンと違って悪魔や堕天使にも攻撃を仕掛ける。このタイミングでの襲撃者の追加にウンザリした様子のアザゼルの問い掛けはもっともだが、ジャンヌ・オルタとBBは心外そうな顔だ。
「BBちゃんはあくまで天界への嫌がらせの為に力を貸してるだけであって、この人の仲間じゃありませんよ。私の仲間は研究所から逃げ出した皆だけです。他は有象無象に過ぎません」
「天使は全て私達の獲物よ。あれは私が今の姿になる前に所属していた組織の奴ら、無限龍オーフィスを利用して担ぎ上げた『
オーフィス、その名を聞いたアザゼル達に戦慄が走る。とある存在を除いて世界最強のドラゴンであり、二位以下とは隔絶した差がある。そんな存在を担ぎ上げたというのだから警戒もするし、事態が思っていたより深刻だと知らされる。このような場でさえふざけた口調を正さないセラフォルーの顔からも緊張が伺えた。
そんな彼らとは違いBBの口からは溜め息が漏れ出る。まるで買い物に行く寸前に雨が降ったような、予定が急に変わってウンザリしている様な表情だ。ワザとらしく肩を竦めると支配の錫杖を一度振る。アニメの効果音の余蘊は音と共に可愛らしい扉が出現した。
「なーんか予定狂ってやる気なくなっちゃいましたし、BBちゃんは帰って優雅に読書でもしますね。オルタさん、今帰らないのなら置いて行きますけど?」
「はぁっ!? こんな所に置いてくとか貴女鬼ですかっ!? 帰るわよ、帰るに決まってるじゃないっ! ……そうそう、まだ名乗ってなかったわねっ! 私達の組織の名は『エデンの林檎』! 覚えておきなさい!」
BBならば本当に敵中に置き去りにすると悟ったのだろう。ジャンヌ・オルタは扉の取っ手に手を掛けたBBに慌てて駆け寄り、残ったワイバーン達も光に包まれて即座に消え去る。
扉を開けるとうねうねした謎の空間とつながっており、ジャンヌ・オルタが腕を入れると空間に埋まるように腕の先が見えなくなった。半分ほど体を入れた所でミカエルの方に振り向いた彼女はビシッと指をさすと敵意の籠った声で告げて完全に空間の中に消えていった。
「あれれ? 今朝の段階で組織名の決定会議が揉めに揉めてた様な? ジークさんは『イスカリオテ』、ガングロ神父さんは『
「BB、貴女恥ずかしくないの?」
BBの演技がかった言葉が恥ずかしいのか冷たい声で訊ねるメルトと、その横で頷くリップ。姉の威厳が地に落ちた瞬間であった。
「おおっとっ! 辛辣な妹の発言に大ショックですのでもう帰りますね。……あっ、そうそう。どっちの味方でもない事を示す為、今回死んだ天使の三倍の人数の新しい天使を誕生させておきます。まだ幼子ですからかわいがって育ててあげて下さいね?」
ニッコリと形だけの営業スマイルを浮かべながら感情の籠らない言葉で告げるBB。最後にウインクをすると扉と共に煙に包まれて消え去っていた。扉が軋んだ音を立てたのは直ぐ後で、外から扉を破って先程外に出されたリアス達が慌てて入ってくる。少し疲れた様子なのは先程から異変を感じ取って入ろうとするも入れなかったのだろう。
「お兄様っ! ご無事ですかっ!」
「ああ、特に問題ないが、襲撃者をどうにかしないとね」
外では突如の襲撃に押されながらも建て直し、種族ごとに連携を取って応戦する警備達の姿があるが、絶え間なく現れる魔術師達によって被害が出ている。
「こりゃ首謀者を炙り出す為にもさっさと片付ける必要があるな。じゃねえと犠牲が大きくなっちまう。……おい、エルゥだったな? お前ならいけるだろ?」
腕を組み少し焦った様子のアザゼル。混戦状態である以上、下手に範囲攻撃は出来ないがチマチマ倒していたら手間が掛かる。だが、トップが出ていくのも政治的理由で難しかった。下手に巻き添えを出したり、自分達が怪我でもすれば下の者、特に和平に反対する様な者を騒がせる。故にこの場で動かすのに都合の良い相手に目を付けた。
上級悪魔を凌ぐ力と眷属悪魔でしかないという立場、動かすには十分だ。
「良いですか、サーゼクス様?」
許可を取るのは本人ではなく主であるゼファードル。堕天使の総督の指示ではなく、魔王の許可を得た主の命令という形式を取り、サーゼクスが頷いて許可を出した瞬間、ゼファードルの指が空を舞う魔術師達に向けられる。無数の聖剣が地面から出現し、まるで林の様になったのはその直後であった。
「串刺しだよ」
エルゥが腕を上に向けると剣が一斉に宙に浮く。先端をピッタリと揃え、切っ先を魔術師達に向けて微動だにしなくなった。
「分かるよね?」
エルゥが腕を下げた時、聖剣が一斉に射出される。向かうのは混戦状態の戦場。一歩間違えば味方を串刺しにするという状況の中、一切減速せずに突き進み、全ての聖剣が肉を突き破り血に染まる。放たれた百を優に越える聖剣は全て魔術師のみに突き刺さって味方には掠りもしていない。聖剣のオーラさえも微塵も触れていなかった。
たが、それだけではない。これで終わりなら精々が精密操作が得意なだけで終わる。串刺しにされた魔術師達が内部から凍り付いて地面で粉々に砕けても、氷結の力を与えただけだ、大した事はない。本番はこれから、次々と現れる増援が来てからだ。味方がどれだけ殺されても構わずに転移してくる魔術師達。愚直過ぎるとも感じられる彼らの視線の先、先ほど剣の林が出現した地面に同じ光景が現れる。
「凄いな……」
建物の中で見学している者の中で凄さが一番理解しているのは研究者のアザゼルではなく木場、同系統の神器を使い、数こそ劣るものの同じように創り出した剣を放つなどの戦法をとる彼だからこそ分かる。数も正確さも次弾の聖剣を創り出す速度も圧倒的に自分より上だと理解する。もはや護衛に来ていた者達は下手に動いて邪魔をしないようにと何もせず、現れては串刺しにされていく魔術師達を眺めるしか出来なかった。
「これはそろそろ来るかな? うーん、来るとしたら誰だろう?」
「こういう敵対してる奴らが手を組もうって時には邪魔する奴が出て来るからな」
セラフォルーもアザゼルも、いや、この場のトップ陣の誰もが外の光景と建物内部への転移にのみ気を取られている。目の前で行われている殲滅によって若干気が緩んでいたのだろう。だから咄嗟に動けなかった。外に視線を向けているエルゥの背中目掛け、ヴァーリが殴り掛かっても。
「悪いな、その辺にして貰おう……かぁっ!?」
彼の不意打ちに問題は無かった。攻撃に転じるまで彼を狙っている様な素振りは見せず、まさかアザゼルが態々連れてきて会場に入れた彼が裏切者になるだろうと一応考えはしても口には出さないし注視もしない。本人も自然な動きで攻撃範囲に入り込み、踏み込みと同時に殴り掛かったのだから成功すると思っただろう。その脇腹に一切容赦のないアステリオスの拳が叩き込まれるまでは。
「えるぅ、は、ぼくが、まもる」
ヴァーリの頭より巨大な拳は横からの一撃を全く予想していなかった彼の脇腹の中心を捉え、インパクトの瞬間、衝撃が体を突き抜ける。くの字に体を曲げて受け身すら取れずに飛んで行ったヴァーリは壁を突き破り、何度もバウンドを繰り返して地面を擦る様にしながら漸く止まる。骨だけでなく内臓に深刻なダメージを受けたのか手を使って起き上がろうとした彼の口から大量の血反吐が吐き出された。
「ぐっ……とんでもない力だな。腕力だけなら限界まで力を吸収した俺を上回るぞ……」
深刻なダメージを受けながらも立ち上がるるヴァーリだが、立つだけで限界なのかフラフラとしており舌も上手く回っていない。アステリオスの凄まじい腕力からの一撃を不意打ちで食らった事で受けたダメージは真正面から戦えば簡単に此処まで追い込まれない彼を追い詰めていた。
「おいおい、まさかお前が裏切りかよ、ヴァーリ。それにしても坊主、良く分かったな、彼奴が裏切るって」
ヴァーリが動くと分かっていなければ反応できないタイミングでの一撃を見たアザゼルは驚いたようにアステリオスに視線を向ける。幼い頃からヴァーリを見てきた自分でさえ挙動に不信さは感じ取れなかったのに、脅威が初対面の彼が見抜いた事に驚いていた。
「ううん、ちがう…ます。ぼく、は、えるぅ、を、なかま、を、まもるのが、やくめ、だから」
称賛と驚愕の言葉に対しアステリオスは慣れない敬語に苦戦しながら首を横に振る。実際、彼はヴァーリが裏切るとは微塵も疑っていない。ただ、仲間に何かないかとずっと気を張っており、攻撃しようとするのが見えたので迷わず拳を叩き込んだ、それだけだ。
「助かったよ、アステリオス。さて、ヴァーリ。大人しく投降して情報を吐くなら良し。吐かないなら……」
「おいおい、勝ったつもりかい? まだ俺には切り札が残っているぞ?」
これはブラフではなく、エルゥもそれを理解している。今のヴァーリは神器である『白龍皇の光翼』こそ出しているが、禁手も、そして命を縮めかねないが二天龍と同等の力を持つ覇龍も使っていない。本当に奥の手であるそれをヴァーリが使えるかは知らないエルゥだが、禁手程度は使用可能と判断しており、コカビエルの様に戦って散るなら本望と暴れ回れても厄介だ。
「……皆、魔術師の迎撃代わってくれるかい? そうだね。投降しないのなら……これを使わせて貰うよ」
会話中も続いていた聖剣の連射が停止し、エルゥの手に出現したのは飾りのない片刃の剣。聖剣ならば質の善し悪しによって差があっても弱点とする種族ならば何かしら悪寒めいた物を感じるはずだが、エルゥの背後にいる悪魔や堕天使の誰もが何も感じない。隠蔽は意味がない。わざわざ他に使うリソースを割ってまで創造したからだ。
「何だ…一体何なんだ、それは……」
『気を抜くな、ヴァーリ。アレは拙いっ!』
そんな聖剣でさえないと感じてしまう剣を前にして、ヴァーリとアルビオンだけは警戒を通り越し、恐怖さえ感じさせる声を出す。彼らが見るその聖剣は他の者とは全く違う物に見えていた。
刃から立ち上るのは瘴気と錯覚しかねない禍々しい聖なるオーラ。目にしただけで身が竦み、反対側が歪んで見える。本能が全力で警戒信号を出す中、エルゥは独白するように呟いた。
「僕は前から思っていたんだ。二天龍の神器を宿すからってどうして宿主同士が何度も戦うのかって。多分ドライグ達の敵意に引っ張られて、更に代々の所有者の残留思念に影響を受けるんだろうね。……実際、報酬で貰った宝玉の中は怨念が込められていたよ」
この時点でヴァーリは違和感の正体に気付く。あの様な剣に対する皆の反応が妙だと。だが、今の話で合点がいった。アレに込められているのは自分達のみに向けられた敵意なのだと。
「分かったようだね。これは君を殺す為だけの聖剣。ドラゴンスレイヤーならぬバニシングドラゴンスレイヤーなんだ」
エルゥが聖剣を構えると同時に禍々しいオーラが膨れ上がった……。
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