二章クリア 札86 石540 張り切って欲しいの回そう
聖杯下姉とニトクリスが大活躍だったよ
絶対絶命、風前の灯火、幼子の頃ならいざ知らず、成長すると共に才覚を発揮した今のヴァーリには無縁だった言葉だ。神器の効き目が薄い神とは戦った事はなく、戦闘狂ゆえに強い相手に挑んでも、相手の力を半減させて、その分を吸収する、という神器の力で直ぐに力の差が逆転する。
だが、今に限っては違う。まさに絶体絶命の状況に陥っていた。内臓にまで深刻なダメージを与える一撃を受け、自分を殺す事だけに特化した聖剣を向けられ、彼の命はもう直ぐ刈り取られそうだった。
「さてと、君は危険な力を持つ上に、この様な場で裏切ったという事は三竦みの勢力全てを敵に回すって事だ。何が目的……かは別に聞かなくって良いか」
ヴァーリの事はある程度噂やら何やらで情報を入手しており、そこまで深くテロ組織に関わっていないだろうとエルゥは推察する。大体、裏切って味方になった者に重要な情報を簡単に渡す筈もない。幹部しか知らないような重要情報を知ってないであろう以上、それほど価値はないのだ。
「やれやれ、しくじったね。強い奴と戦う為に裏切ったのに、まさか簡単に追い込まれるとは思わなかったよ」
ヴァーリは気を逸らすつもりなのか言葉を投げ掛けつつ足の力を溜める。頭上では転移してくる魔術師の数が減ってきて援護は期待出来そうにない。一旦距離を開け、起死回生を狙おうと瞬時に後ろへと飛び退くべく溜めた力を開放し、その場から一歩も動けなかった。
まるで根を張ったかのように地面が靴と癒着して飛び退くのを阻害する。エルゥから目線を外さない様にしていた為気付かなかったらしい。崩れる体勢、思考を奪う動揺、エルゥが彼の心臓目掛けて聖剣を突き出すには十分な時間だった。
「待ってくれっ!」
刃はあと数センチで急停止する。間近に迫った白龍皇殺しのオーラが表面を撫でただけでヴァーリの全身を途轍もない倦怠感が襲い、微睡みに落ちて行く様に意識が定まらない。このまま眠る様に永眠しそうな彼の命を寸前で救った声の主、それは彼が今しがた裏切ったばかりのアザゼルの声であった。
「……サーゼクス様」
別にエルゥ自身にヴァーリを見逃す理由はない。寧ろ危険な力を持つ背徳者を殺せる時に殺さないのは馬鹿馬鹿しいと、殺す理由なら存在した。だが、今は襲撃で中断したが三竦みの会談中で、止めたのは一勢力のトップ。上空には彼に従う堕天使が多く存在し、彼らの前で総帥の言葉を無視するのは主であるゼファードルの将来にも響く。
だから責任を取れる相手に判断を仰ぐ。ヴァーリは飛び退き損ねた反動で地面に尻を突き、今は自分へ向けられた呪詛のオーラを僅かに喰らって意識朦朧な状態。何時でも殺せるまな板の上の鯉。後はサーゼクス
「頼む、サーゼクス。俺が責任を持って監視するから……」
「……分かった。エルゥ君、彼を殺さないでくれ」
「ご命令のままに……」
アザゼルの懇願にサーゼクスは頷き、ヴァーリの全身を競り上がって来た地面が包み込む。大地の柱の中に閉じ込められ、顔だけ出した状態でヴァーリは捕縛された。今後、彼が脱走し、剰え被害が出れば責任はアザゼル達堕天使と、彼を殺さないように命じたサーゼクスに向かう。エルゥは魔王の命令に従っただけで何一つ責任等ない。
「……あっ。もう打ち止めかな?」
まるでヴァーリが捕縛されるのを見届けたかの如く、先程まで際限なく湧いて出ていた魔術師達が転移して来ず、転移用の魔法陣さえ消え失せる。結局、襲撃の首謀者は現れず、護衛の者達の中に天使を中心に幾人かの犠牲者、襲撃者側に多くの死人と捕虜を出して襲撃は終わりを見せた。
この後、正式に和平が結ばれ、町の名前から『駒王協定』と名付けられた、だが、此処で大きな問題が発生する。町の管理者がリアスのままで本当に良いのかと疑問の声が上がったのだった……。
「これは大きな問題ですよ、ジャンヌ」
司祭服で身を包んだ青年は机に肘を置いて不貞腐れるジャンヌ・オルタに諭す様に告げる。まだ二十代や十代後半でも通る顔つきの彼であるが髪は老人のように白い。肌が日に焼けたような色だけに髪の白さが強調される彼は、普段は温厚な表情を一変させ机を両手で強く叩く。乾いた音と共に上に乗せた物が揺れ動いた。
「勝手に組織名を宣言するなど! まだ話し合いの最中でしょう!」
「はんっ! 顔見せに来ない方が悪いのよ。残念ですがエデンの林檎に決定しました~」
小馬鹿にするように舌を出し、顔の横の持ってきた両手の指を動かす彼女に彼は歯噛みをし、援護を求めるようにジークの方を向く。先ほど彼が机を叩いた衝撃でコップが倒れて零れたアイスコーヒーが膝を濡らして困っていた。
「……すまない。会談の件はBBが一人しか連れていかないと言ったからと話し合いに参加したい、股間が濡れたから着替えに行かせて貰う。すまない」
何一つ悪くないのに腰の低さを見せながら去っていくジーク。その態度で喧嘩するのが馬鹿げた気になったのか彼は静かに席に座った。
「じゃあ、元英雄派の構成員達にも組織名を伝達しておくわね、四郎」
「……まあ、仕方ないでしょう。所で三人は何処に?」
四郎は渋々ながら納得を見せ部屋を見渡す。この部屋は幹部の会議室であり、偶に顔を見せる支援者であるBBの席の席と合わせて計三つの空席。その一つは超巨大な上に拘束具まで備え付けられている。質問を受けたジャンヌ・オルタはストローを咥え机に脚を乗せながら投げやりに答える。背もたれに体重を預ける彼女が椅子ごと倒れるのは三十秒後の話だ。
「あのデカブツは部屋で大人しくしてるし、リーダーはお墓参り、BBは何処かに行ったわ。そもそも支援者であって構成員じゃないし、好きにすれば良いでしょ」
「それもそうですね。彼女は偉大なる主の仕事を引き継ぐ方ですし、束縛は止めておきましょう」
エデンの林檎は教会や天界の犠牲者と呼ぶべき者達で構成されている。当然、ジャンヌ・オルタも含めて聖書の神が嫌いだ。だが、四郎からは聖書の神への敬意と崇拝の念が感じ取れ、彼が熱心な信者であるのは疑いようがない。既に知っているジャンヌ・オルタが不機嫌な表情を浮かべた瞬間に椅子ごと倒れても涼しい顔をしたままだった。
「だから行儀の悪い座り方は止めるようにとあれ程言ったではないですか。それと私の信仰が気に入らないようですがお忘れ無く。……神の不在を隠すことにより祝福が行き渡らないのを神や信者の信仰心の不足のせいだと思わせる、そんな主を侮辱し貶める天界は憎いですから。復讐するは我にあり、本来は復讐を止める言葉ですが……」
そっとジャンヌ・オルタに手を差し出すが、彼女は四郎の手を強めに払いのけて自力で起きあがり、彼が言おうとする言葉を口にする。
「代わりに復讐する神様が居ないってんなら私達が自分の手でするしかないわね。……にしても禍の団の奴ら、どうして幹部の一人も顔を出さなかったのかしら? あんな血統と誇りだけの連中が臆したとか無いでしょうし……」
この疑問を感じたのは彼女だけでなく、三竦みの会談に主席した者の多くもだ。ただ魔術師達が現れ続けるだけで終わった襲撃。次々にやられていく姿に警戒して顔を出さなかったのだと言われればそこまでだが、どうも納得が行かない。……事実、本来ならば旧魔王派の幹部の一人であるカテレア・レヴィアタンが襲撃を掛ける予定だった。何故姿を現さなかったのか、それにはとある男が関係している。
「うぇ。汚ねぇ。靴に血が付いちまった」
カテレアは事切れ自分の血による血溜まりに沈んでいる。一人の男が彼女の亡骸を踏みにじり靴に付着した血液を拭っていた。銀髪で顎髭の生えた老人で、背後には銀髪の青年が控えている。漸く血を拭い切れたのか男は満足したように背後の青年に向き直った。
「なぁ、ユークリッド。笑えると思えねぇ? この女、転移を妨害したのを怒った上に、絶対に負けたとか教えてやったら向かってきたんだぜ? うひゃひゃひゃひゃ! オーフィスの蛇を飲んでも初代の上程度の癖によ」
「実に愚かなことですね。ですがリゼヴィム様、どうして妨害を? 死んで問題はないでしょうに」
ユークリッドの問い掛けにリゼヴィムは笑みを向ける。悪戯を自慢する悪童の様な、そんな邪念だらけの笑みであった。
「いやいや、此奴から俺が合流したのがヴァーリに伝わったら面白くねぇだろ? ヴァーリじゃ今回の赤龍帝は兎も角、グシャラボラスの女王には勝てねぇし、アザゼルおじちゃんなら庇うはずだ。……まあ、多分内通してる堕天使やら仲間が助け出すわな。アザゼルおじちゃんは責任を問われて、ヴァーリは後戻りできない状況で漸く俺の存在を知るって寸法よ」
ゲラゲラと笑いながらリゼヴィムは週刊誌のとある記事に視線を向ける。少し前の号で、エルゥの使い魔であるルチルについての信憑性のないオカルト記事。実際多くが信じていないが、彼は真実であると見抜いていた。
「異世界からの来客とか面白いよな。さて、この猫ちゃんを使い魔にした奴は今頃何をしてるんだか……」
リゼヴィムが興味を向けたルチルの主ことエルゥだが、今は夜ということでベッドの上で仰向けに転がっていた。ゼファードルの婿入り先探しは急に嫁探しになるが、純血貴族の年頃の娘で婚約者不在の上に派閥上の問題もない、その様な都合の良い相手も居ないので困っていた。
もういっその事、幼子と婚約を結ばせる方向で行こうかとさえ考えている。悪魔の寿命は一万年、十や二十の差など成長すれば小さな問題だと。
「おやおや~? 何かお悩みの様子、こんな時はキュートでデビルな私の出番ですね! ってな訳で……」
突如部屋に響く軽快な効果音と明るい声、エルゥにとって三度目のアレである。そう、自己満足の独り舞台の始まりだ。
「BBー! チャンネルー! エルゥ君限定放送、R18バージョンッ!」
急激に部屋の内装が変化し、照明はピンク、まるで病院の個室を思わせる部屋の中心にあるベッドに寝ころんだエルゥ。その上にナース服のBBが乗っていた。胸元を大胆に露出し丈は以上に短い、本職と言うよりはその手の店のコスプレだ。目が悪くないのに眼鏡を掛けているのもその一環だろう。
「BBさん、本当に元気で良かった。皆の前だから我慢してたけど嬉しくって泣きそうだよ。……二度と会えないと思っていたんだ」
「……えーっと、凄く嬉しいですけど、こんなシチュエーションですよ? くっ! ひゃっほー! ベリーベリーキュートなナースBBちゃんだ、辛抱たまらんっ! って、なると思ったんですけど」
エルゥの反応が予想外だったのか、歯噛みしながら目を逸らすBB。親指の爪を噛みながらブツブツと何かを呟き、舌なめずりをしながらエルゥのパジャマのボタンに指を掛けた。
「さーて。将来結婚するって約束していることですし、BBナースがエルゥ君の童貞を貰ってあげましょう。ふふふふふ、お姉さんに全部任せておいて良いですからね。ほら、脱ぎ脱ぎしま…しょ……」
余裕を見せつつエルゥのパジャマのボタンを外していったが、鎖骨が見えた時点で表情と言葉が止まる。石化したように固まった顔は耳まで紅潮し、余裕など一欠片も残っていなかった。
「え、えっと、エルゥ君も自分で脱ぐ方が良いですよね? BBちゃんはそのお願いを叶えて差し上げましょう。じゃ、じゃあ向こうを向いていますので脱いだら教えて……ひゃうっ!?」
目を逸らした瞬間、BBは腕を掴まれ引き寄せられる。慌てるBBの眼前にエルゥの顔があり、合わさった胸から高鳴る鼓動が伝わって余裕がないのがバレバレだ。
「えっと、ごめんね。僕、初めてじゃないんだ」
「ま、まさかメルトッ!? リップッ!? ヴァイオレットじゃ……ないですよね?」
「……全員」
流石に言いにくいのか言い淀むエルゥとショックを受けるBB。姉の威厳が云々と虚ろな目で呟いている。どうやら妹に先を越される等、微塵も疑っていなかった模様。
「……あーもー! 此処まで来たらヤケですっ! BBちゃんを好きにしなさい。……でも、初めてですから優しくしてくださいね?」
BBはエルゥの首に手を回して強く抱きつくと甘えるように囁いた……。
その頃、エルゥの部屋の前では開かない扉にイライラするメルトの姿があった。
「ちょっとエルゥッ!! 今日は部屋に行くから待ってなさいって言ったでしょっ! 早く開けなさい、あーけーなーさーいっ! ……リップを呼んで来ようかしら? 例の合体技でぶち破ってやるわ」
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