前回の感想返しは明日
コレは少し前の事、この日のエルゥは仕事が珍しく休みで暇になり一日中ゴロゴロする気であった。だが、そうは問屋が卸さない。ヴァイオレットが怠惰に過ごすのは駄目だと自分とのデートを分刻みで予定を立てた上で提案し、メルトが上から目線で自分の為に働く権利をあげると言ってガレージキットの制作を依頼する。
「あ、あの、ワタシとお花畑に行きませんか? メルトは予定も考えずにまとめ買いして計画性が無いし、姉さんはちょっと重いし、ワタシと一緒の方が楽しいですよ?」
同時に誘った事で牽制する姉妹の間に割って入って火に油を注ぎつつ最後に誘ってきたリップの言葉で誰を選んでも後が面倒で、逃げれば更に厄介だ。折角の休日が面倒になったと辟易しつつ、一番楽ができそうなリップとのデートを選んだ彼は二人で一緒に慌てて逃げ出した。帰った後が怖いと理解しながら……。
「似合ってるよ、リップ。本物のお姫様みたいだね」
花の腕輪に花の冠、リップの要望でそれらを作ってあげたエルゥは嬉しそうにはにかむ彼女を優しい声で誉めてあげる。内心では自分のような腕の持ち主には似合わないと思っていたリップであったが、かけられた言葉が嬉しくって照れてしまう。
(うん。やっぱりエルゥはワタシの王子様だよね。姉さんやメルトは横恋慕してみっともないけど……)
エルゥが手に持った鏡を見てそんな事を思いつつドキドキと高鳴る胸の鼓動を感じていた時、頭上から何かがひび割れるような音が聞こえてきた。折角の雰囲気が台無しだと憤りながら見上げれば空に罅が入り、ピキピキ音を立てながら徐々に罅が広がっていく。異常事態であり、速急な対応が必要だとリップでも理解できた。いや、理解してしまったと言うべきだ。
「……折角のデートなのに。エルゥがワタシを選んでくれたのに……」
「ちょっと落ち着いてっ!?」
俯いてブツブツ呟く剣呑な雰囲気のリップは徐に握り締めた右の拳を上空に向ける。ターゲットは罅の中心。慌ててエルゥが止めようと腕を掴むが、今の彼女は止められない。恋路を邪魔された乙女の怒りは誰にも止められない。怒りの叫びと同時に右腕が猛スピードで放たれた。
「潰れて下さいっ!!」
ロケットパンチよろしく飛んでいく拳に腕から伸ばした鎖を絡ませようとするエルゥだが僅かに遅れ、空の罅の中央に拳は見事に命中、ガラスが割れる音と共に空が割れた。まるで空を描いたガラスが割れる様に割れた場所には形容しがたい空間が存在し、そこから何かが落ちてくる。悪魔の視力によってそれが猫であると。
「ウニャー!?」
ただし、喋るし武器と防具を身に付け肉球マークのポシェットとまで首から下げている。ひび割れた空の内部の空間は猫を弾き出すと画面が切り替わるように元に戻る。猫は凄い勢いで落ちてきたが、すんでの所でエルゥがキャッチして助けると地面に降り立っていただきますお辞儀まで行った。
「どうも助かりましたニャー。ニャーはアイルー族のルチル。これでも研修期間を終えた立派なニャンターですニャー」
誇らしげに胸を張るルチルだが、エルゥ達は彼女が口にした単語に聞き覚えがない。適当に言っているという可能性もあるが、それでも限度があるだろう。結果、話し合いの末、相互が認識する常識に食い違いが見られたのでルチルが持つ物に手掛かりを求めてガギラがいる研究所に向かうことになった。
「これは凄い! どれもこれも龍種でありながら一切の特殊な力を持っていないとは! 龍でありながらごく普通の生物として存在する世界。……だが、それ故に奪える力には期待できないな」
ルチルの持ち物である狩りの道具や武器、剥ぎ取ったという龍の体の一部や能力、彼女自身は鍛えれば出来ることや幾つかは貴重ではあるが唯一無二の物ではなく、探せば比較的容易に手に入ると語った物を見てガギラはテンションを急に上げ、直ぐに戻った。
「ど、どうしたんでしょう? やっぱりボケた上に興奮して脳の血管が切れちゃったんじゃ。こんなのを年寄りの冷や水って……」
「うぉっとっ!? 相変わらず毒舌だね君は。これらを見て私が出した結論、それは異世界の実在なのだよ」
「あっ、やっぱり……」
リップが追撃するもガギラは気にしない風を装って説明を始める。この世界の存在としてあり得ない物品、異なる理が働く能力、それらを説明するには異世界が一番であった。
「いやいや、異世界とか無いですニャー。ニャーは目の前の景色が割れて出来た渦に吸い込まれて見たこともない場所に来ただけですしおすし」
結局、ガギラに呆れたような視線を送るルチルはエルゥが使い魔にするという形で雇用することになり、問題であった異世界の存在であることは敢えて週刊誌などに他の噂と共に流す。突然変異のケット・シーや実験で生まれた新生物などの胡散臭い話に紛れ、何時しか人々の興味は失われていった。
余談ではあるが、ゼファードルの事をご主人様と、エルゥを旦那さんと呼びつつも、実際の力関係を見抜いているので扱いはゼファードルが下である。
「あっ、ヤバっ! 使い魔が捕まった……」
禍の団の構成員であり立場の弱さからパーティーの監視を任された二人組、孫悟空の血を引く美猴とSS級はぐれ悪魔である黒歌。実の妹である白音、現在名乗っている名前は小猫を誘い出すために使い魔の黒猫を差し向けた彼女だったが、レオナルドが用意した魔獣によって捕獲されたのを感じ取って言葉を漏らしてしまった。
「だったら帰るぜぃ。使い魔を助けに行っても魔王クラスが居たんじゃ……っ!」
風下であったが僅かに火薬の香りを嗅ぎ取って振り返ると、美猴達めがけ火薬が詰まっているであろう大樽を頭上に高々と担いで突撃してくるルチルの姿を発見した。だが、その走りは二人からすれば遅い。黒猫は表情一つ変えずに無言で魔力を樽に向けて放った。
「あっ……」
だが、魔力の弾が着弾する寸前に木の根に足を取られてルチルは転び、すっぽ抜けた大樽爆弾は二人めがけて放物線を描いて飛んでいき、ルチルの頭が先程まであった場所を魔力が通り過ぎる。
「いいっ!?」
「落ち着くにゃん。あんなの今度こそ……うげっ!?」
再び魔力が放たれるが、今度は突き出した枝にぶつかって大樽爆弾は軌道を変え、二人の目の前に着弾、引火と同時に爆発した。
「さ、作戦大成功ですニャー」
誰も聞いていなかったのを良いことに自爆特攻発言、何故か本人はダメージを受けないし、相手の強さに関わらず一定のダメージを与えられる爆弾の命中を作戦と言い切ったルチルは四足歩行で爆発地点まで駆けていく。すると爆炎の中から美猴の腕が伸び、ルチルの首根っこを掴み上げた。
「よくもやってくれたな、糞猫。三味線の皮にしてやるぜぃ」
「ギニャー! 変態痴漢異常性癖性的倒錯者ー!」
「はっはっは、全然効かないぜぃ。……ひでぇ言いようだな、おい」
必死の抵抗なのか猫パンチ連打を繰り出すもプニップニのモッニュモニュの肉球では効果が乏しい。肉球による癒しと容赦のない言葉の鞭に美猴が癒されながらも落ち込んだ瞬間、ルチルから僅かに意識が逸れた瞬間に彼女の目が光る。
「今ですニャー!」
ガリッという音と共に美猴の顔面に幾筋かの赤い線が現れる。ルチルの爪は彼の顔面を深く引っかいていた。
「ぎゃあああああああっ!?」
完全に油断した状態からの攻撃に美猴はたまらず悲鳴を上げ、ルチルは手を振り解いて逃げ出すが、今度は遙かに速い速度で黒こげでチリチリパーマーの黒歌が追い掛け、足元からカチリとスイッチが入る音が鳴る。
「ぎにゃんっ!?」
足下の未知の装置から迸る電流、シビレ罠に見事掛かった黒歌の全身は痺れて動けず、ルチルはこの隙にと地面に潜って逃げ去った。
「あーもう! あんなのにしてやられるなんて……あれ? 美猴、如意棒は?」
「何処か行った。あの猫に盗まれた訳じゃないんだけれどよ」
シビレ罠の効果が切れ、流石に逃走を開始した黒猫は頭を両手で掻き毟りながら声を上げる。そんな時、相方の先祖の代名詞というべき武器が消えているのに気付いた。少なくてもルチルは持っていなかったが……。実際、煙のようにいつの間にか消えていたのだ。
「あっ! 旦那さん! 何剥ぎ取ったかポシェットの中を見たら武器が手に入ったニャー!」
「前も聞いたけど、内臓とか武器とか、攻撃しただけでどうやって剥ぎ取って何時の間にポシェットに入っているんだい?」
「前も言いましたけど、アイルーの剥ぎ取りはそんな物ですけどニャ?」
エルゥと合流して戦利品を誇らしげに披露するルチル。その前脚で如意棒を高々と掲げていた。
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