いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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第二十五話

「さて、いよいよ明日がゼファードル・グシャラボラスとの試合の日だが……」

 

 アザゼルの用意した特訓プランの内、一誠に用意された元龍王とのサバイバル生活など、考案者本人が出来るとは思っていないと発言する様な無茶な内容は修正しつつ指導を行ったバラキエルはリアス達一同を見回して少々言葉を濁す。一誠・朱乃・小猫の三名は力不足やトラウマ、反発心等の理由によって目標達成が出来ないで居た。

 

「所でバラキエル……副総督、貴方から見て私達の勝率は……どうでしょうか?」

 

「少なくてもゼファードル・グシャラボラスは数年前に若手ナンバーワンのサイラオーグ相手に善戦した。映像も残っていないし、どれだけ変わっているかは分からないが最大まで力を高めた一誠君でも正面から倒すのは困難だろうな。それ以上は分からんな……」

 

 悪魔以外では同盟相手の幹部であっても対等の様な言葉を使っていたリアスだが、流石に注意してからはミスしそうになりながらも言葉を改めていた。コカビエルを撃退しヴァーリを圧倒したエルゥが不在という彼女からすれば舐められていると感じる屈辱的な条件だが、それ故に尚更負ける訳にはいかない。彼女の問いに対し、バラキエルも答え倦ねる。他のメンバーの情報が少な過ぎた。

 

「……幹部だというのに頼りにならないわね。あの時に居なかったみたいに」

 

「朱乃……」

 

 今の彼は名目上は私的な立場とは言え、公的な試合の為のアドバイザーなのだから扱いは重要だ。個人的な関係があったとしても、それを忘れては対等なはずの関係が揺らぐ。故に娘であっても朱乃の責めるような言葉は非難されるべきだが負い目がある、自分に恨みを持つ者が不在時に娘の前で妻を殺した、故に彼は何も言えなかった。

 

 木場は何とか禁手に至り、ギャスパーも吸血鬼としての能力を向上させた。だが、バラキエルはリアス達の勝利を確信できず、アザゼルが期待した親子の関係修復も出来ないまま最終日を迎えるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして。アビゲイル……あっ! バアルです。よろしくお願いします」

 

 その頃、グシャラボラス家にバアル家の少女が到着していた。家名を名乗るのを忘れかけるなど貴族にあるまじきミスだが、他者に名乗る機会が無かった、もしくは名乗ることを許されなかったか、恐らくは両方だとエルゥは思いながら少女を観察する。中央で金の前髪を左右に分けているので少々広めに見える前髪に袖の長さが合っていない服、大切そうに持っているのは古ぼけた熊のヌイグルミ。間違いなく事前に知らされた少女であった。

 

 慌てた様子で急遽仕込まれた様な辿々しい動き、出来るならば事故や病気に見せかけて始末したいと思われていたアビゲイルがどの様な教育を受けてきたのか、想像に容易かった。マトモに教育を受けず、鳥籠の鳥のように飼い殺しにされていたのだ。

 

「おうっ! ゼファードル・グシャラボラスだ。よろしくな」

 

「女王のエルゥです、ミス・アビゲイル。宜しくお願い致します」

 

 だからか、腰を屈め視線を合わせ友好的に二人が接してきた事に彼女は戸惑いの色を見せる。今より幼い頃に両親と過ごして居た時期、平民だった時には同じ立場で接する同年代の子供達も居たが、貴族でもっとも力を持つ大王家の一員、名ばかりのそれ、になった後は出来るだけ関わりたくないのか腫れ物のように扱う使用人達に最低限の教育を受けさせられ、身の回りの世話を焼かれる以外は殆ど他者との接点などない。

 

「さて、レディ。そのお友達のお名前は?」

 

 にっこりと笑いながらヌイグルミに視線を向けるエルゥ。笑顔を向けられるなど久しくなかったアビゲイルは更に戸惑っていた。どう返して良いか分からないのだ。

 

「ラ、ラヴィニアよ、エルゥさん。貴方の事は知っているわ。『暴君』でしょう? メイド達が話しているのを聞いたもの」

 

 幸せだった頃、母親が作ってくれた物だ。どう接して良いのか分からないままヌイグルミを見せるように差し出す。一方でメイド達が噂していたレーティング・ゲーム、実際に観たことはないが知っては居て、数年前までたった一人での蹂躙試合が多かった選手にその異名が付けられたとも知っていた。

 

「……うーん、あの異名かぁ。暫く呼ばれてないから忘れられたと思ってたのに……」

 

 背後で必死に笑いをこらえているゼファードルに後で何をしてやろうかと思いつつ、エルゥはアビゲイルにどう接するべきか決めていく。最初は最低限の契約内容で終える予定だったが、今見た彼女の表情が演技でない限りそれは流石にしたくはないと、そう思える程度に同情していた。或いは人生を他人の都合で歪められたという共通点が有ったからかも知れない。

 

 

「では、オヤツにしましょうか、ミス・アビゲイル。パンケーキはお嫌いですか?」

 

「パンケーキ! パンケーキは大好きよ。フワフワのパンケーキにカリカリのベーコン、トロトロのバターなんて最高だもの!」

 

 途端に子供らしい表情で反応した少女を見てエルゥは面食らいながらも評価を改める。この子は案外図太い子だと。

 

(クリームとフルーツがたっぷりの予定だったけど、今から連絡して間に合うかな?)

 

 文句を言いつつ完璧にこなすであろう副料理長タマモキャットの顔を思い浮かべながらエルゥは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、アステリオス。口元に食べ滓が付いてるわ」

 

「うあ。ど、どこ?」

 

「普通のご飯……食べられない。食べて出来た欠落……食べる!」

 

「相変わらず上手ね、あの猫モドキ」

 

「キャ、キャットは大体のことが出来るから……」

 

「給仕を開始します。何かご入り用は?」

 

「あっ、オイラに紅茶お願い。……デイビットも誘ったのにな……って! どうして指から紅茶がっ!?」

 

「ドリンクバーを内蔵した方が便利かと思い自己改造したまでですが何か?」

 

(随分と騒がしいのね。でも……)

 

 アビゲイルにとって食事とは一人で黙々と摂る物でしかなかった。最低限以上の関わりを避けるメイド達は無表情で後ろに控えるだけ。だからワイワイとした食事など記憶に僅かに残っている両親との時間のみで、少々圧されながらも楽しいと感じていた。

 

 

「うまくやれますか、ミス・アビゲイル?」

 

「ええ、とっても! 楽しくなりそうね。それと畏まらなくても良いわよ、エルゥさん」

 

「うん。じゃあ、公の場所以外では」

 

 子供らしい笑顔を見せるアビゲイルに安堵するエルゥ。やっぱり図太い子だと、そう思った。

 

 

 

 

「今日は少し疲れたな……」

 

 アビゲイルについて余計な身構えで気疲れしたのもあるが、明日のレーティング・ゲームの時間帯に急遽入った帝釈天との非公式の面会、どうも孫悟空が所属する組織のトップだからか如意棒を返還した際にルチルについて耳にして、主であるエルゥにも興味を持ったとの事。公にはしないが、これから同盟を結ぼうという相手なので精神的負担は大きい。一応魔王が同席するとは聞いているのだが……。

 

「シスコン魔王が妹の試合を見逃す筈がないし、フォルビウム様が来るはずもない。っと言うことは……はっ?」

 

 誰が来るか見当を付けながら自室への扉を開けると、そこは南国だった。聞こえてくるのは押し寄せる波の音、入ってきた筈のドアは消え去り、前方の遮る物一つない場所以外は幾つかドアがあるだけで真っ白な壁になっており、澄み切った空や何処までも続く青い海は透明で美しい。南国のコテージを思わせる広い一室の中央に鎮座する巨大なベッド。その上に彼女が乗っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「BBー! チャンネルー! 夏真っ盛り、南国スペシャルー!」」

 

 白いビキニを身に纏ったBBはベッドの中央で高く飛び跳ねる。水着程度では押さえきれない二つの膨らみが大きく揺れる中、バラエティー番組を思わせるBGMが聞こえてきた。

 

「はぁい! エルゥ君独占生放送のこの番組、司会進行は今や世界一の女神系ヒロインBBちゃんが務めまーす!」

 

 聞こえてきた拍手と口笛の音、当然BBが用意した物だ。独占と言いつつ観覧者が居るような演出とは如何なものかとエルゥに思われているのにも気付かないBBの独り舞台はまだ続く。

 

「今日のBBちゃんはセクシービキニで美しさ200%増し! エルゥ君が獣欲に負けて襲ってこないか正直ドキドキしております。ではでは最初のゲームは『ドキッ! 水着BBちゃんVSエルゥ君のプロレス一番勝負!』を……」

 

「えっと、取り敢えず休みたいから場所空けて貰えるかい? 悪いけど遊びに付き合う気力は残ってないからさ」

 

 すっかり慣れた動きでBBの悪ノリをスルーしてベッドに上がり込むと寝転がるエルゥ。大きく外したBBは暫し呆然とした後、頬を膨らませて彼の真横に寝転がった。

 

 

「えー!? 折角遊びに来たのに酷ーい! ……遊び、じゃなかったら良いんですね?」

 

 途中からBBの声色が変わり、エルゥに体を擦り寄せる。エルゥの手も彼女の腰にまわされた。

 

「何だかんだ言って年頃の男の子ですね、エルゥ君も。……今回こそお姉さんにメロメロにさせてあげますよ。思いっきり甘えて下さいね?」

 

 余裕を持って笑いつつエルゥの服のボタンを密着したまま外していくBB。今宵、彼女はエルゥを手玉に取る気でいた。主導権は自分に有ると、妹たちへの牽制も兼ねて完全に甘えさせる気である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って言ってたのに甘えているのはBBさんだよね」

 

「え~? BBちゃん可愛いから分かんなーい。……そんな事より、さっきのもう一度して欲しいなぁ」

 

 三十分後、ベタベタと猫のように甘えるBBの姿があった……。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ行ってくるぜ、勝ちにな」

 

「うん。負けたら容赦しないから」

 

 ゲーム当日、帝釈天との用があるので観覧に行けないエルゥはゼファードルとは別の場所に向かう準備を済ませ、同時に出掛けようとしていた。拳と拳を軽くぶつけ、互いの健闘を願う。その様子をアビゲイルはじっと見ていた。

 

 

「あれが男の友情って奴かしら? 楽しそうね」

 

 

 

 

 そしてゼファードルは会場につき、試合の時間がやってくる。転移の魔法陣で移動した先は森の中だった。互いの本拠地に用意された簡易な地図によれば北側には山、南側には川がある深い森のフィールド。特に禁止事項はなく、フェニックスの涙は一個づつ用意されている。

 

 

 

「おい、分かってんな? こんな物使わせる余裕は与えねぇ。俺達は敵に勝ちに来たんじゃねぇ……ぶっ潰しに来たんだ」

 

 これから巻き起こる惨状を思い浮かべ、シュアンはご馳走の気配を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャスパー。貴方の能力なら偵察向けよ。頑張ってちょうだい!」

 

「は、はいいいいいいいいいっ!」

 

 先ずはギャスパー。最初の犠牲者は彼が選ばれた……。




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