いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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第二十六話

 帝釈天が希望したエルゥとの対談だが、予想と違い同席する魔王はアジュカではなくフォルビウムだった。会談場所へ向かう車の中、眠そうに欠伸をしながら眠気覚ましのドリンクを呷る。エルゥの意外そうな視線に気付いたのか、先程からウトウトして一切口を開かなかった彼は眠そうに口を開いた。

 

「……本当はセラの仕事だけど、この前の魔王主催のパーティーの時にまたやらかしてさ。どうも大王家のお爺ちゃんは本格的に魔王を手駒で揃える気みたい。前までは放置だったのに……」

 

 先日あったパーティーは実質的に好きに騒ぐ為の場であったが、名目上は魔王主催、要するに魔王は公務で出席しているに等しい。だが、セラフォルーの服は何時ものコスプレで、他の勢力のトップに着替えないまま対応した上に顔を見せたオーディンにも普段の口調で接した。それを新人の顔合わせの件と合わせて問題行為だと糾弾されたのだ。

 

 普段、ゼクラム・バアルはその程度のことで口を出さない。一応は自分達が選出した魔王であるからして公的に罰を受けるのは政治的に避けたい筈だ。だが、最近になって選出当初と違って扱いにくくなって来た現魔王をすげ替える気ではとフォルビウムはにらんでいる。

 

「あー、やだやだ。僕は一日中寝ているための人材は集めたから良いけど、政治って面倒だよ。……所でセラと言えば妹のソーナちゃんだけど、勝てると思う?」

 

「普通なら勝機はあっても、夢のために勝ち方が制限されているから難しいかと。誰でも夢を掴めるための学校の先生になるって事は、生まれつき持った神器や特殊な力、血と共に受け継いできた秘術を使わないで特別な相手、今回は相手の王だけだけど、実際は眷属も特別な場合が多いから……」

 

「……圧勝が最低条件だよね。起源上、政治的評価とは切り離せないから勝敗が家の関係で決まるのは避けれないし、魔王に力を集中させて貴族は形骸化するか、他の勢力の参加を認めて出来レースを困難にするか、此処までして最低限の下地が出来るだけって分かってるのかな、あの子?」

 

 不正試合を抑制し、低い身分の者にチャンスを与えたとして、問題はそこからだ。上位の者と戦えるようになるためのトレーニング法が確立されたとして、こなせるだけの肉体や精神、時間やお金の問題が付きまとう。更にショーとしての人気の面から華も必要で、当初は同類として庶民から人気を得ても、数が増えて希少価値が下がればどうなるかの予想は容易い。

 

 中途半端に夢を見せるのは残酷だ、眠そうな顔でフォルビウムが呟くと車が止まる。帝釈天が指定したのは悪魔側の最高級ホテルのデラックススィートであり、足元を見られていると分かっていても力の関係上従うしかない。恐らく好き勝手に布教した教会への恨みも混じっているのではと思いつつ、ルチルを連れたエルゥはフォルビウムと共に帝釈天が待つ部屋に入る。この時点で強烈な酒の臭いが漂ってきた。

 

「HAHAHA! その猫と小僧が噂の奴か。中々面白そうな奴だZE」

 

 インドやその辺りが勢力圏な割には時折発音がエセアメリカ人っぽい何故かアロハシャツの男性。テーブルの上には高価な酒の瓶が幾つも並んでおり、酒に弱い者なら既に軽い酩酊状態に陥りそうな酒気が部屋に満ちている。この男こそ沙弥山のトップである帝釈天、またの名をインドラである。

 

「初めまして、フォルビウム・アスモデウスです。こっちが身内の女王で今回面談をご所望のエルゥと、その使い魔のルチルです」

 

「お初にお目にかかります、帝釈天様。エルゥです。諸事情で名字はありません」

 

「ルチルですニャ」

 

 

 同盟交渉の条件としてエルゥとの対談を望まれた為、費用は機嫌取りのためか悪魔が負担する事になっている。後から天使や堕天使に要求する予定のフォルビウムだが、交渉はセラフォルーに丸投げして綺麗に分割できなかった場合の差額は絶対に払わせる気であった。

 

 外交担当ではないので初対面の挨拶を済ませたフォルビウムに促されて二人も挨拶を済ませる。帝釈天は高価な酒の入ったグラスを傾けながら値踏みするような目を向けていた。

 

 

「こりゃ凄ぇ。話に聞いたがこれが『バニシング・ドラゴンキラー』かよ。ってか、この猫ちゃんが持ってた『回復笛』、どんな原理だ? 何も感じねぇし、サッパリわからねぇ。何で味方にだけ効果が及ぶんだよ」

 

「こういう物ですニャー。ニャーも詳しい原理はサッパリですニャ」

 

「HAHAHA! そりゃ豪胆だ! 得体の知れない物を平気で使うなんざ、できる奴は俺の息子でも一人くらいしか居ねぇな」

 

 今回、同盟を組む気なら信用を寄越せと手の内の開示を求めてきた帝釈天。予め予想し決定していた開示内容だが帝釈天は随分とお気に召した模様。音色を聞けば治癒力が促進されて傷が治る笛などルチルの道具、それも帝釈天が試しに使っても効果がなかった事に爆笑していた。

 

「おい、猫ちゃん。俺のところに来るか?」

 

「……断ったら外交に響きそうだけど、旦那さんには凄い恩義がありますニャ……」

 

「そっかっ! じゃあしゃーねぇ。恩義を簡単に忘れる野郎なんざ要らねぇからな。お前、いい男だZE」

 

「ニャーは立派なれでぃですニャ……」

 

「そうかそうか! その内立派な雌を探してやるよ。ほれ、お前らも飲め飲め!」

 

 自分を膝の上に乗せてゲラゲラ笑っている帝釈天に圧されながらルチルは呟くも、酔っぱらいだからか元からか話を聞いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャスパー、貴方は引き籠もりから脱出したし、強くなった。流石は私の眷属よ」

 

 ゲーム開始直後、偵察に向かうギャスパーにリアスはそんな言葉を投げかけた。ギャスパーも張り切っていたし本人からすれば最高の誉め言葉のつもりなのだろうが、ギャスパーが張り切っている理由は別だ。

 

 

「大丈夫、僕なら出来る。だってガギラさんがそう言ってくれたんだ」

 

 逃げることを肯定し、一切何かをさせようとしない老人のカウンセリングで外出や吸血鬼の力を克服したギャスパーだが、少々依存傾向にあった。彼は自分を信じているのではなく、ガギラの言葉を信じているだけの危うい精神状態。だが、今まで眷属のトラウマと向き合ってこなかったリアスに気付ける筈もない。いや、ガギラが気付けない様に仕向けたのだろう。

 

 兎に角、無数の蝙蝠になって周囲を偵察していたギャスパーだが、深い草むらをかき分けて進む影を発見した。怪しいと思い、蝙蝠達を集結させる。木の陰に隠れて様子を伺っていた時、草むらからスピネアが現れた。ギャスパーに背中を向けて進むメイド服の彼女だが、急に立ち止まった事でギャスパーの蝙蝠の視線が集中する。

 

(よし! 此処で一人倒して……え!?」

 

 スピネアとギャスパーの目が合う。但し、彼女は背中を向けたままで、首が一回転の後、半回転したのだ。ホラーチックな光景にギャスパーの思考が固まり、頭が正気に戻るよりも前にスピネアの目が眩く光輝く。直視したギャスパーに目の奥が焼けたような激痛を与える程の光量だ。

 

「ぎゃぁあああああああっ!?」

 

 大量の蝙蝠に何かあればその場で変身が解ける。空中で両目を手で押さえ悲鳴を上げる彼に飛行する余裕など有りはしないが、落下よりも前に急接近して彼の首を掴んだスピネアによって地面ではなく背後の巨木に激突した。着弾面が破裂するほどの衝撃で、木の欠片が背中に刺さる。だが、まだ痛みは終わらない。

 

 

「リタイア時に停められても厄介ですし抉りましょう」

 

 一切の躊躇無くギャスパーの両目にスピネアの指が突き刺さる。取り込んだアスカロンの力で聖なるオーラを発する指先は刃物に形を変え手の甲を貫通して目玉深くまで突き進み、ギャスパーの目を浄化して消滅させた。

 

 

 

『リアス・グレモリー様の『僧侶』一名リタイア』

 

 アナウンスと共に消えていくギャスパー。最後のあがきの攻撃も出来るはずがなく、両目を失ったショックで完全に気を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「此方スピネア、任務完了です。所で復讐の危険は大丈夫でしょうか?」

 

 ギャスパー打倒後、リアスが試合後に兄や実家の力を借りて何かするのではと思ったスピネアから連絡が行われた。

 

「おうおう、ご苦労さん。シュアンなら治せるし……ゲームの恨みを試合後に持ち出すなんざソーナの夢を応援してるらしいから大丈夫だろうよ。そんなの認めてたら試合後の報復を恐れて庶民は貴族と禄に戦えねぇ。……駄目な時は考えるから萎縮せずに全力でヤれ」

 

「了解いたしました、マイロード」

 

 この日の試合は今まで行われたゲームの中でも特に陰惨な試合だと後に語られる事となる




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