「ギャスパー君がもうやられるなんて……」
膝の高さまで草が鬱蒼と茂り足下が覚束無い獣道をイリナと木場は進んでいた。一般人なら前に進むことすら困難な荒れた道でも、そこは曲がりなりにも元悪魔祓い。任務や訓練で歩きなれているのか共に進む木場よりもやや足取りが軽やかだ。
ただ、木に手を当てて立ち止まった彼女の声色はやや落ち込んだ様子。トラウマを克服し、メキメキ頭角を現していたギャスパーの早々のリタイアは仲間達に少なくない動揺を与えている。ゲーム用の空間特有の本来とは違う色の空に目を向けて踏み出した時、急に地面が沈んだ。
「きゃっ!?」
「危ないっ!」
咄嗟に木場がイリナの腕を掴んで引き戻せば落とし穴の蓋だけが中に落ちて底が見えてくる。木を削って作られた鋭利な突起物が無数に仕込まれ切っ先を天へと向けている。もし落ちていたらとイリナが青ざめた時、草の中に身を隠すようにして矢が飛んできた。ギリギリのタイミングで避けるも、今度は避けた先の上から拳ほどの大きさの石が雨霰と降り注いだ。
「痛っ!」
咄嗟に木場が創って渡していた魔剣を盾にして頭を庇うも庇いきれなかった手足や胴体に石が打ち付けられる。中には砕かれ鋭利に尖った物も含まれ、イリナは無数の裂傷や打撲傷を負ってしまった。
「……罠、それも牽制や足止めじゃない殺傷目的の物か。此処から先は慎重に進もう」
「取り敢えずアーシアさんに治して貰わないと……」
ある程度の罠の知識はあっても、本格的な物とまではいかない二人。よく見ればあからさまに仕掛けられた罠が点在してあり、恐らく巧妙に隠された罠も存在するのだと嫌でも悟る。ズキズキ痛む体を押さえるイリナを庇うようにして木場が先導し始めた時、美しい声が聞こえてきた。
「貴方達の体は重いわ。徐々に徐々に重くなっていくの。走るのさえ難しいほどに」
「この声はっ!」
目を凝らせば草木の緑に混じって見える紫色。遠くから聞こえるのに耳元で囁く様な声を聞いていると陶酔感と同時に言葉通り体が重くなっていくように感じる。まるで意志を持つ石が少しずつ纏わりついて来るかのように。この状態の理由、それはバラキエルから聞かされていた。
「アザゼルが言うにはアリエルという少女の神器『
直接的な戦闘力は無いが要注意だと言われている相手の出現だが遠く、罠を警戒して一気に接近も出来ない。二人とも遠距離攻撃は苦手だった。アリエルも攻めてくる気は無いのか姿を隠し、これ以上声も聞こえてこない。徐々に体が重くなる中、二人は罠を警戒して体力と精神をすり減らしながら進むのであった。
「……未熟だな。中途半端な力で今まで強敵とは戦わず変に自信がついている様だ」
そんな二人を遠目に観察するのはゼファードルの兵士であるデイビット・クロウザー。淡々と感情を交えずに二人への評価を下した彼が全体に火傷痕がある右手の拳を何度か開いて閉じれば音が鳴りだした。聴診器を胸に当てた時に聞こえる鼓動の音に似ており、徐々に大きくなっていく。何時の間にか彼の右手の平には茨で作った十字架の様な傷跡が出現していた。
「ゲームだろうが貴族同士の試合だろうが関係ない。これも戦いなのでね。容赦はしないから、恨むなら主を恨みたまえ」
そっと右手を二人に向ければ傷痕に血が滲み、真っ赤な何かが放たれた。
「おい、大丈夫かっ!?」
「子供を発見した! 酷い火傷だ、医者を呼べっ!」
常識や価値観は環境に左右される。裕福な家の子と貧しい家の子、宗教色が強い国の国民と信仰の薄い国の国民、平和な国の子供と……紛争地帯の少年兵。その少年にとって銃弾飛び交う戦場は日常の場であり、その事に何も疑問を抱かなかった。この国では人の命の価値は低い。特に彼のような使い捨ての、上の地位に立つ者からすれば消耗品程度の認識の存在は特に。
この日、見捨てられ壊滅的な被害を受けた小隊、少年兵だけで構成されたその中で一人だけ生き残りがいた。爆撃によって酷い火傷を負うも運良く、或いは運悪く仲間と、迷い込み巻き込まれた一般人が盾になって直撃を僅かに免れた彼は瀕死の重傷を、常人なら既に死んでいる程の状態の中でも気が狂いそうな激痛を感じながら生き延びた。
「流石に悪いとも思ったが、死者に物は必要ないと思ったのでね。拝借させて貰ったのだよ」
後にこう語る彼は、与えられた装備のままでは敵兵に見つかって殺されるだけと判断した彼は民間人の荷物を拝借、同じ年頃の少年の服を着てその場から去り、NGOの保護を受けて祖国を脱出した。使い捨て故に戦うことは教えられても、狂信的な愛国心は時間がないからと植え付けられなかったのは幸運だったのだろう。
その後、名を変え各地を転々としながら傭兵稼業を続けていた彼は己が生き残った理由、その身に宿す神器『
後にアズリィの思い付きと彼の承諾によってある力を手に入れる事となる。その力の名は『化外の心臓』。常識外の量の血液の生成及び貯蔵、そして各所に存在する十字傷からの放出。ウォーターカッターを凌駕する圧力で放たれる血は龍の強靭な肉体すら容易く切断する。
少年兵の名はデイビット・クロウザー。但し、偽名である。
『リアス・グレモリー様の『騎士』二名リタイア』
最初に気付いたのは木場で、彼の言葉を聞いてイリナも即座に回避の姿勢を取る。後は回避するより前に二人の間に放たれた血の十字架によって片足を切断された。二人に避けられる程に遅くなく、二人は満足に避けられないほどに遅くなっていた。脚の切断でバランスを崩した所に無数の追撃が放たれ、万が一にでも逃げられてアーシアに治療されないようにと切断した足を細切れにすると同時に二人の脇腹を深く切り裂く。
「さて、次に行くか」
デイビットは高揚感も達成感も感じさせない声で呟き、最近は収集が趣味になっている火傷を隠すための仮面の位置を直すと自陣へと向かうのであった。
その頃、酔っ払った帝釈天からある言葉が発せられた。
「いやいや、俺達も馬鹿じゃねぇぜ? 和睦も幽閉も処刑もしなかった前政権に、英雄派として残ってる力に溺れただけの聖書の神がばらまいた神器の使い手の残党、そして裏切り者。ぜーんぶお前らの不手際じゃねぇか。……協力して欲しいなら旨味を用意しな」
デイビットは投稿者さんと相談して能力を少し変更しています
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今回するはずの返信は明日です