いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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第二十八話

 賽の河原、と呼ばれる場所がある。三途の川のほとりであり、親より先に死んだ子が送られる場所であり、子供達は償いのために石を積まなければならないが完成する頃にやってくる鬼によって崩されてしまう。だから子供達は何度も石を積み直すのだ。何度も何度も何度も……。

 

 

「うわっ!?」

 

 そんな場所を思わせる霧の立ちこめる河原のほとりを一誠は小猫と一緒に進んでいた。このルートを進み始めた頃には出ていなかった霧。特に害があるわけでもなかったので気にせず進むのだが、踏みしめた石が動いて危うく転びかける。川のせせらぎや二人が砂利や石を踏みしめる音しか聞こえない濃霧の中、彼の驚いた声はよく響いた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「な、何とか。にしても三人も不参加とか舐められてるよな。此処は思い切りぶっ飛ばしてやらねぇと。……出来ればあの凄い胸の子を脱がして生で見たかったぜ」

 

 声を掛ける小猫の方を振り向いた一誠は不服そうな顔の後で下品な顔になる。鼻の下を伸ばし鼻息を荒くしてリップの全裸を妄想していた。

 

 

 

 

 

「ひぃっ!? あ、あの人、気持ち悪過ぎます! 死んでくれたら良いのに!」

 

「……大勢に観られているのによくあんな顔が出来るわね。レオナルド、貴方はああなったら駄目よ?」

 

 その発言を観覧していたリップとメルトは不快そうな顔で耳にして、咄嗟に耳をメルトに塞がれたレオナルドは不思議そうに二人の顔を見る。どうしてそんな顔をするのか幼い彼には理解できなかった。

 

 

 

 

 

「……新技ですか?」

 

「ああ! 禁手には至れなかったけど、皆があっと驚く技を開発したんだ!」

 

 じゃあ何故リアスに伝えておくなり仲間に事前に披露して作戦に組み込める様にしていないのか、と、小猫は首を傾げたくなる。リアスへの貴族としての評価が関わるのに驚かせたいという理由で黙っていたなら問題だと顔をしかめたくなった時、川縁を歩いていた筈の二人の足首までが水に浸かる。話に意識を持って行かれた数秒間で川の水が押し寄せていた。

 

「敵かっ!?」

 

『リアス・グレモリー様の『騎士』二名リタイア』

 

 咄嗟に構えようとした一誠の動きはアナウンスの内容によって止まってしまう。別働隊として合流を信じて疑わなかった二人の早々のリタイアに思考が追いつかず、故に全く対処出来なかった。

 

「先輩っ!」

 

 小猫の叫びに一誠は足下に視線を向ける。水が湧き出るように足元から吹き出し、飛び退くより前に間欠泉の如く吹き出す。水の柱は一誠を包み込み、直径五メートル程の球体になって浮かび上がった。

 

「がぼっ!?」

 

「待って下さい直ぐに……っ!?」

 

 驚いた一誠の口から気泡が大量に吐き出され、小猫は破壊しようと水球に殴りかかったが、弾け飛ぶと思った表面は弾力のある物質の様に彼女の拳を受け止め弾き返した。矮躯がはね飛ばされて一誠から距離をとる中、内部は荒れ狂い乱気流の様に一誠を振り回す。こうなっては倍加に集中できず、水流のなすがまま。一誠を振り回しながら水球は上昇を続け、五十メートル程で停止、勢い良くリアス側の本陣の方向に吐き出した。

 

「うわぁあああああああああっ!?」

 

 彼は飛べないが、仮に飛べたとしてもこの状況はどうにもならなかっただろう。放物線を描きながら飛んでいく一誠を見るだけしか出来なかった小猫の背後から笑い声が聞こえてきた。

 

 

「わははははっ! 成功成功! ゼファードル様が倒したいって言ってたし、オイラ達の戦いの邪魔になりそうだったから消えて貰ったぜ、お嬢ちゃん」

 

「……え? なんで、貴方が……?」

 

 川の上で胡座をかいているその姿を見た小猫の顔に驚愕の色が浮かび上がる。ヌラヌラ光る緑色の皮膚に手足の水掻き、背中の甲羅に頭の皿、そして逞しい四肢と大きなお腹。誰もが河童だと理解する見た目だ。但し、体つきは力士の肉体である。

 

 

「妖怪大横綱鬼胡瓜っ!」

 

「おっ! 猫妖怪っぽいからもしかしたらと思ったけど、オイラを知ってたか。でも、今のオイラは横綱じゃなくってゼファードル様の兵士の三平だ。……でもまぁ、目を輝かせて見られちゃ不意打ちした負い目を感じるし先に一発入れて良いぜ?」

 

 喜色の籠もった声と輝く瞳にファンの一人だったと理解した三平は気まずそうに腹を掻くと腰を落とし両手を左右に広げる構え、横綱土俵入りの不知火型の構えを取った。

 

「掛かって来い! 横綱相撲を見せてやらぁ!」

 

「……行きます」

 

 熱中して観戦していた妖怪相撲の大横綱を相手に小猫は途轍もない圧力を感じていた。確かに鬼熊などの大柄な妖怪と渡り合える体格だが、それ以上に大きく見える。引退して尚衰えず現役のまま、そう感じさせられた小猫は胸を借りる積もりで拳を振るう。戦車のパワーが籠もった踏み込みからの腹部への一撃。硬質で重量のある物質を殴った感触と同時に小猫の拳に痛みが走る。一方の三平は微塵も動かず。まるで巨山の如しであった。

 

 

 

「……うーん。やっぱり戦車で付与された力に頼り切ってる感じだよな。元の種族や体格的に元々パワータイプの相手には力負けするし、ハンマーとかの重量のある武器を使うなり、特性は猫妖怪の身軽さの補助程度にした方が良いぜ? その場合、ナイフとか良いかもな」

 

 まるで先輩力士が新人に優しく教える様に語り掛けた三平は腕を振り上げ、突っ張りを胸に叩き込む。小猫の胸部が三平の掌の形にヘコみ、矮躯は地から浮き上がって飛んでいく。内臓に損傷を食らったのか口から血を吐き出した小猫は着地するより前に消え去った。

 

『リアス・グレモリー様の『戦車』一名リタイア』

 

「うっし! ノルマ達成だ」

 

 三平が気分良さそうに右足を上げて四股を踏んだ頃、一誠は陣地でアーシアの治療を受けていた。振り回された時に飲んだ水は吐き出し、怪我は落下による打撲のみ。すぐに治療は終わったが表情は浮かない。苛立ち紛れに一誠は横にあった木を殴りつけた。

 

 

「クソッ! 小猫ちゃんまで負けるなんてっ!」

 

「相手は女王を含む三名が欠場なのにこの結果。私の評価は既にボロボロでしょうね」

 

「まだです、部長! まだ俺や朱乃さんが残っています! 此処から逆転してやりましょう!!」

 

 一誠の励ましに落ち込んでいたリアスは立ち直り、彼への信頼や依存を深める。落ち込んだ状態での言葉は心に染み込んだようだ。

 

「そうね。勝負はここから。私達の力をみせつけるわよっ!」

 

 リアスの言葉の下、仲間の敵討ちだと意気込んで一気に敵陣まで進む。不思議なことに多少の罠はあっても妨害や待ちかまえる敵は見当たらず、リアス達は順調にゼファードルの陣地まで到達する。切り株に腰掛けて待ちかまえていたゼファードルの横にはアステリオスとスピネアだけがいた。

 

「あら、他の仲間は隠れて居るのかしら?」

 

「いや、スピネアはこれが初陣だから性能をもっと試したいし、アステリオスは未だ誰も倒してないから居るだけだ。……なあ、リアス、お前はちゃんと最善を尽くそうとしたか? 吸血鬼の偵察以外は陽動も待ち伏せもせずに敵陣に切り込むだけだし、赤龍帝だって陣地で倍加からの譲渡をしておけばもっとマシな結果だった筈だ。仲間がいるならサポートに回った方が其奴の消耗も抑えられるだろう。限界まで高めた力で戦うなんて将来体壊すぜ?」

 

「……何が言いたいのかしら?」

 

 ゼファードルの言葉に苛立った様子のリアスが一歩踏み出した時、足元に文字が出現する。一文字で意味をなす文字、北欧のルーン魔術によるものだ。この文字の意味は拘束。文字から出てきた光の帯がリアスを縛り上げ、ゼファードルが指を鳴らすと文字も帯も消え去った。

 

「努力が足りない、そう言ってるんだ。其奴の神器や滅びの魔力の威力に頼りすぎてるんだよ、お前。今、お前を集中して狙えば眷属は良い的になって終わってたぞ」

 

「ご忠告どうも。確かにそうしてたら私の負けだったけど……そうしなかった事を悔やみなさい!」

 

 放たれる大量の滅びの魔力はリアスの視界一杯に広がる広範囲攻撃だ。 これなら避けられないと思ったリアスだが、ゼファードルの声が背後から聞こえてきた。

 

 

 

 

「だから無闇に放つなっての。前衛の動きを阻害するし、敵を見失うだろ」

 

 足に加速を意味するルーンを浮かび上がらせたゼファードルは腕を組みながら呆れ顔だ。

 

「貴方、一体何を……」

 

「うん? ああ、何か知らないのか、これ。まあ、試合が終わったら調べろよ……アステリオス、そろそろ動いて良いぞ」

 

「わかった。ぼくも、てきをたおす!」

 

 人工神器『領域の主(ラビュリス)』である大斧を両手に巨大が動き出す。咄嗟に朱乃が雷を放ってアステリオスの体を飲み込んだ。

 

 

「ふふふふふ。良い的ですわ。頑丈そうですし、虐めがいが有りそう……」

 

 Sっ気がある彼女はアステリオスの苦痛に満ちた顔を期待して消え始めた雷に視線を向け、絶句する。傷一つない彼は悠然と歩を進めていた。

 

「このっ! このっ!!」

 

 続けざまに雷を放つもアステリオスの動きは衰えず、こうも放たれてはゼファードルへの警戒もあって一誠が前に出られない。斧が怪しく光る中、アステリオスの腕が朱乃の突き出した腕を掴む、いや、握り潰した。

 

「きゃぁあああああああああっ!?」

 

「むだ。じじんの、ぼくは、とてもつよい」

 

 アステリオスの掴んだ部分の骨は砕け、周囲と太さの変わった部分に突き刺さり奥へと入り込む。そのままアステリオスは朱乃を振り上げ、地面が砕ける勢いで叩き付けた。

 

「朱乃さんっ!」

 

 パニックを起こした声で叫ぶアーシアが朱乃に駆け寄ろうとしてアステリオスと目が合う。思わず悲鳴が出ようとする中、アステリオスの蹴りが迫った。

 

「かいふくやく、じゃま」

 

「アーシア!」

 

 受け止める積もりか間に割り込んだ一誠。だが、そのまま二人同時に蹴り飛ばされて彼は地面を転がる。アーシアは背後の木々をなぎ倒しながら進み、突き出した枝に背後から腹を貫かれて止まった。

 

『リアス・グレモリー様の『女王』一名『僧侶』一名リタイア』

 

「おっ! まだリタイアしないけど、神器の影響か、それとも八個の駒をプロモーションした影響か」

 

「……許せねぇ。絶対にぶっ飛ばしてやるっ!」

 

 血を吐いてふらつきながらもゼファードルに殴りかかる一誠。だが、その拳は易々と受け止められた。

 

 

「怒りの力だけで勝てるほど温い訓練は受けてねぇよ」

 

「ぐふっ!」

 

 加速、そして貫通のルーンが浮かび上がったゼファードルの手刀が一誠の脇腹を貫いて引き抜かれる。大量の出血と同時に一誠は崩れ落ちた。

 

『リアス・グレモリー様の『兵士』一名リタイア』

 

「そんな、イッセーまで……」

 

 膝から崩れ落ちて涙を流すリアス。スピネアの感情の感じられない瞳が彼女に向き、向けられた右腕の拳が内部に収納されて砲口が姿を現した。

 

「エネルギーチャージ率九十%、対反動装置機動、ロックオン完了、射程内に味方の不在を確認、チャージ完了」

 

「すぴねあ、なんで、こうげきするの?」

 

「未だゲームは継続中。反撃の恐れがあるとして対象を撃破します。圧縮魔力砲『イレイザーバスター』発射!」

 

 戦意喪失し呆然とするリアスに対して脅威の可能性を捨てきれないと容赦なく攻撃を行うスピネア。砲口から緑色の濃縮魔力が一直線に放たれリアスを飲み込む。チャージされたエネルギーが全て出た後、ボロボロになったリアスが倒れていた。

 

 

 

『リアス・グレモリー様の投了を確認。この試合、ゼファードル・グシャラボラス様の勝利です』

 

 

 

 

 

 

 

「……のぅ、ロスヴァイセ。提案があるのじゃがお主、儂の養子になる気はないか?」

 




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