「ヨーロッパで猛威を振るい数千万人の命を奪った黒死病。大流行の引き金は鼠の大発生だとされていますけど、その原因とされるのは何かご存じですか、ガブリエルさん」
「ええ、当然です、BB様」
天界でも一部の大天使のみ足を踏み入れることを許可された場所、心まで清らかになりそうなその場所で邪悪な笑みを浮かべたBBがガブリエル
何故らしきかと言うと、BBが彼女に向ける目が敵意に満ちあふれた物ではなく、ガブリエルが向ける瞳にも罪悪感や恐怖が含まれていないからだ。BBは路傍の石ころを見る目でさえなく、キッチンペーパー一枚程度の価値を認めた視線を向け、ガブリエルも忠義と崇拝の視線を向けていた。二人の関係は大きく向上して見える。
「なーんと! 教会の魔女狩りに伴う猫数百万匹の殺害とされているんですよ。つまり、黒死病の犠牲者の多くは教会に殺されたと言っても過言ではないんですよね」
「実にその通り。《前のガブリエル》は罰を受けましたが、他の大天使にもいずれは罰を?」
「……ええ、勿論。大天使を創るのは面倒ですから幾らかは生かさず殺さずですけど、次はどんなのが良いですかね? 象刑とか面白いかも。巨象の檻に縛り付けた魔女狩りの対象を入れる拷問でして……」
この様に他の大天使に対する仕打ちへの言及を聞いても気にした様子は皆無であり、寧ろBBの意見ならば絶対といった感じだ。BBは特に不満でも満足でもない様子で彼女を眺め紅茶で喉を潤すと立ち上がった。
「じゃあBBちゃんはエデンの林檎の皆さんとの約束の後で姉妹だけの女子会の予定が有るので去りますね。あっ、忘れるところでした。ガブリエルさんの死体は刺さった杭ごと燃やして灰を肥料にでもしておいて下さい、ガブリエルさん」
「了解です。全ては我が創造主の御心のままに」
恭しく頭を垂れるガブリエルにBBは特に関心を示した様子もなく去っていく。それでも彼女はまるで敬虔な信者が神託を受けたかの如く歓喜に打ち振るえていた。
「ミカエル達も新たなシステムの支配者であるBB様を信仰すれば良いのに。……さて、仕事仕事。私より幼い兄と姉のお世話もありますし、前の私の処分もしなくては。……そろそろテロリストも次の搦め手で来る頃でしょうか?」
BBは確かに約束を守って新しい天使達、そして大天使を創り出した。だが、彼女は一言も神の僕であるとは言っていない。彼女という希望に縋るミカエル達はその事に気付かず、ただただ新しい天使達の育児に勤しんでいた。古い仲間が
「……今、何と言ったのかしら?」
オカルト研究部の部室にてリアスは怒りを隠さずに聞き返すが、それを向けられたディオドラは何処吹く風、平然と笑みを浮かべたままだ。アポも無しに現れてアーシアを対象に駒のトレードを求めてきた彼に対する空気は友好的とは真逆であり、更に告げられた言葉は火に油を注ぐ行為であった。
「ああ、良いとも。もう一度言おう。僕は恩人であるアーシアを守りたい。だから君達の所に居るのを見過ごせないから駒の交換をしたい、そう言ったよ」
直接は言っていないがリアス達ではアーシアを守れない、そう言っているのと同じであり、リアス以上に一誠の顔に怒りが現れる。だが、ディオドラは平然とした態度で彼を指さした。
「ほら、仲間である彼は身分差を考えず感情に素直に動く。他の貴族の反感を買うだろう。更に言うなら災いを呼び込むとされるドラゴンを宿し、その上各方面に恨まれている赤龍帝の宿主だ。……白龍皇も生きているし、巻き込まれないって保証はあるかい? 僕には巻き込まれる可能性の方が高く感じるけどね」
「アーシアの仲間はイッセーだけじゃないわ! 私達皆で守るから余計な心配はご無用よ!」
「……余計な心配ねぇ」
一誠を馬鹿にされたと感じたリアスの怒気が増えるもディオドラは余裕を崩さない。貴族としてのやり取りは既に軍配が上がる中、静かに微笑んでいたディオドラの表情と声が急に真剣になった。
「じゃあ聞くけど、彼女の身を守る為に君は何をしたんだい? 障壁や相手の攻撃を相殺する為の魔力の訓練は受けさせたかい? 試合を見る限りは見受けられなかったけど盾になる使い魔や防具は与えたかい? 狙われやすい回復役の彼女を守りながら戦うフォーメーションの練習は当然しているよね? ……君はレーティング・ゲームのタイトルが欲しいんだろ? つまり格上との戦いに自分から身を投じるって事だよ。……眷属と共にね」
「……戦い」
ディオドラの言葉にリアスは反論できない。将来的には兎も角、現時点で指摘された事など満足に行っていないからだ。一誠も感情に任せて俺が絶対守るとは言えない。実際、今も身を竦ませるアーシアを守れなかった上につい先程貴族への態度を指摘されたばかりだ。
ディオドラはそんな姿を見ても得意そうにせず、真剣な表情のままアーシアに視線を向けた。
「……急に求婚したのは悪かったと思う。でも、僕は真剣なんだ。君が眷属になったのなら僕はレーティング・ゲームの出場を控えるし、出たとしても君の前まで敵が来たらリタイアしよう。今すぐじゃないから僕の所に来ることを考えておいてくれないかい?」
ディオドラの言葉にアーシアが迷いの表情を見せたのに満足したのかディオドラは去っていく。後に残ったのは何とも言えない空気だ。誰もが口を開けないまま時が過ぎ、仕掛けられていたアラームが鳴る事でリアスがハッとした表情になる。
「いけない! 今日は北欧神話の外交官と会食をするから美容院の予約を入れていたんだったわ! 朱乃も同席するんだから軽くセットして貰う予定でしょ。急ぐわよ!」
「あらあら、そうでしたわね。じゃあイッセー君。会食が終わったら新しい髪型を見て下さいね」
「イッセー! 私の方が先よ!」
何時もの様にイッセーを巡って荒そう二人。その空気に流され誰も先程までの会話を忘れたかの様に振る舞う。それは誤魔化しでしかないと分かっていながら。
「ねえ、お姉ちゃん。このお花あげる!」
リアスと朱乃が不在な以上は部活が休みであり、帰りに何処かに行こうとしていた一誠とイリナ。アーシアが少し疲れたからと先に帰る中、憂鬱な気分を忘れるように向かった公園で一人の少女が束になった野の花をイリナに差し出す。相手は幼い少女であり、イリナも警戒せずにしゃがんでそれを受け取った。
「ありがとね、お嬢ちゃん。でも、どうして……」
私に、そう言おうとしたイリナの顔が硬直する。少女が花束に潜ませていた短剣、それが不意に腹部に深々と突き刺されたからだ。
「……リゼヴィムってお爺ちゃんが教えてくれたんだ。パパを殺して笑ってた悪魔祓いがお姉ちゃんだって」
感想お待ちしています 次回は影が薄いエルゥ君の出番