いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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エルゥの出番と言ったな 変更だ!(土下座)


第三十二話

 その日は九月に入った事もあって涼しく、夏の暑さによる熱中症を危惧して公園に行かせて貰えなかった子供達が楽しそうに遊んでいた。母親達も我が子を見守りつつ仲の良い人達とグループになって井戸端会議に精を出す。

 

「それにしても最近は……」

 

 彼女もそんな母親の一人だ。数ヶ月前、シスターの少女が息子の怪我を魔法のような力で治した事を夢か何かだと言い聞かせて忘れ、息子も誰も信じてくれないので何時の間にか言わなくなって忘れたらしい。近道なのかデートなのか時折高校生の姿もチラホラ見るが子供達に不必要に接近しないのなら特に気にしない。

 

 だから知らない少女が女子高校生に花束を差し出すのが視界に入っても当然意識せず話の続きに夢中になっていた。

 

 

「待て、逃げるなっ!」

 

 だが、男子高校生の怒鳴り声が聞こえたのなら話は別だ。誰もが自然と声のした方に意識を向け、その光景を目にしてしまう。腹部を赤く染めて倒れる女子高校生と、男子高校生に掴まれ勢い良く引き倒される幼女の姿を。見かけ以上に力のあるらしい彼によって倒された少女は当然受け身もとれずに大きな音を立てて倒れ込み……鮮血が散った。

 

「き、きゃぁあああああああああああああああっ!?」

 

 最初に叫んだのは誰だったか分からないが、母親達は呆然と立ち尽くす我が子を暴漢から護ろうと駆け寄って抱き上げるなり逃げ出す。数人の学生が慌てた様子で警察に連絡を入れたり写メを撮る中、誰かが思い出した様に口にした。

 

「あっ! 彼奴、イッセーだっ!」

 

「彼奴が刺したのかっ!?」

 

 他校まで広まるほどの変態行為の常習犯、その事が犯人の素性を直ぐに暴き立てる。警察に連絡する者が犯人の名前を伝える中、彼は何が起きたのか分からないという様子で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 一誠にとって悪夢の様な出来事だった。屈んだイリナの懐まで入り込んでの強襲だった為に犯人である少女。イリナの方を見ていた為に腹に短剣が深々と刺さるのも、聖剣の類なのか浄化された際に出る煙がイリナの腹から出ているのも彼だけが気付いていた。

 

「待て、逃げるなっ!」

 

 だからこそ、何か呟いて逃げようとする彼女を取り押さえようとするのは当然の帰結であり、悲劇は彼の未熟さ故に起きてしまった。ディオドラの件とイリナが倒れた事で冷静さを失った事、相手をなるべく無傷で取り押さえる捕縛術など会得していない事、手加減が必要な格下との戦闘経験がなかった事、これが彼を追いつめた。

 

 抑えるべき時は制御している悪魔の力、駒八個で強化された力を満足に制御せずに力任せに未熟な肉体の少女に掴み掛かればどうなるか、当然の帰結であった。頭を無防備に打ち付け少女は血を流す。力無く四肢を投げ出した彼女の体と地面の間から血が滲み出して来た。

 

「……え?」

 

 何があったか理解できない彼の耳に届く悲鳴、恐ろしいものを見る目で自分を見てくる人達、そして自分の名を警察に知らせていると理解した時、一気に混乱が押し寄せた。

 

 

「ち、違うっ! この子がイリナを刺したんだっ!」

 

「騙されるかっ!」

 

「どうせセクハラを責められての逆ギレでしょ! それとも無理矢理脅して迫ったにきまってるわっ!」

 

 自己弁護に走るも普段から年頃の男子なのを理由に覗きなどを繰り返して反省せず、悪い噂ばかり広まっている彼を誰が信じるのか? 少なくても幼い少女が凶行に及んだなど誰も信じない。人は信じたい物を信じると言うが、この場の誰も一誠の無実を信じたいと思うはずがなかった。

 

 

 

「逃げ…て…。部長が…きっと…どう…にか……」

 

 顔を隠すように腕で庇い後退りする一誠の耳にイリナのか細い声が届く。それを聞いた彼は思わずその場から走り去ってしまった。

 

 

 

(救急車を呼んでたし、家にはアーシアも居るからきっと大丈夫だ。今は状況を切り抜けないと……)

 

 

 

 

 

 

「イッセー!」

 

 どれだけ走ったか覚えていない。逃げる際に鞄を落としたので携帯も使えず、サイレンや警察の姿に怯えて逃げまどって隠れていた一誠の耳に待望の声が届く。物陰から顔を覗かせば必死で駆け寄ってくるリアスの姿。カットの最中だったのが分かる髪の状態にどれだけ自分を心配しているか理解した一誠は思わず駆け出した。

 

 

「部長っ!」

 

「ああ、良かったわイッセー! イリナは冥界の病院に運んだし、実家の者が後処理に動いているから安心して。イリナを刺した子も治療して捕まえているわ」

 

 正面から一誠を抱き締め、顔を胸に埋めさせるリアス。一誠も安堵からか下心を感じる余裕が出たのか鼻の下を伸ばして情けない顔だが、この世界では無かったが侮辱されたアーシアの為の決闘で相手を脱がすことを目的にスケベ顔で動いていた程だから仕方がない。喉元すぎれば何とやら、彼の喉元には超高速エレベーターでも備え付けられているらしい。

 

 

「あ、部長! 北欧の人との約束があるって……」

 

「可愛い貴方を優先させるに決まっているじゃない。大丈夫、ソーナに代役を頼んだわ。元々町の管理者だったから滞在する使者の相手を任されたのだし、ソーナでも構わないはずよ。……任せてくれたお兄様には迷惑をかけるけど……」

 

「ぶ、部長……一生ついて行きます!」

 

 そこまで自分を優先してくれるのかと感動に打ち振るえる一誠。彼の言葉にリアスも満更では無い様子だ。

 

 

「ちょっと大事になったから後一時間は家に戻れないし、走って疲れたし汗も掻いたでしょう? 近くのホテルにでも入って少し休みましょうか?」

 

「はい!」

 

 ホテルと聞いて更に情けない顔になった一誠は喜び勇み、リアスは彼と腕を組みながら近くのホテルへと入っていく。結局、一誠の肝心な場面でのヘタレとリアスの意地っ張りで進展はなかったが二人の絆は深まったのだろう。

 

 

 この数日後、何者かがビラを冥界にバラまく。リアスが魔王の命令よりも眷属との淫行を優先したと。顔を胸に埋めさせている最中やホテルに入る時の写真を掲載させてだ。一誠の表情が信憑性を深める結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳御座いません」

 

「は、はぁ……」

 

 緊急事態が発生したからと、暫く滞在する事になった町を熟知する存在であるリアスの代わりにやって来たソーナに平謝りに謝られて戸惑っている女性の名前はロスヴァイセ。オーディンの秘書という名のお守りを歴代でトップクラスの期間勤めているが未だ十代。にも関わらず婚期を焦って追い詰められている事から仕事の過酷さや他のヴァルキリーがどれだけ華やかなのかが伺える。

 

(……帰りたい)

 

 そんな彼女が押し付けれた仕事は今後協定を結ぶ可能性のある三代勢力との外交官。尚、本来の外交担当官が派遣されるまでに報告書を提出するだけの仕事なのではあるが、他の数名のヴァルキリー共々オーディンに教えられている今後について考えるとプレッシャーがのし掛かった。

 

「あの、時間もないことですしお店に入りましょう」

 

「は、はい! 申し訳御座いません!」

 

 どうも急に決まったのか代役のソーナは準備不完全な様子な上に自分同様にプレッシャーを感じているらしい。ヘマをやらかせば外交に響くのだから仕方が無いと思いつつ共感するロスヴァイセ。オーディンから伝えられた話は突飛すぎた。

 

(まさか政略結婚の為の養子候補に選ばれるだなんて……)

 

 オーディンは王であり、彼女の家は代々仕えてきた歴史を持つ。秘術すら受け継がれてきた程であり、名誉ある役目だとは理解するも重圧も凄い。最終的に嫁に行くかどうかの判断は意思を聞くとも言われているし、今回の仕事も成果を盛って箔を付ける予定とは聞いてはいるが……。

 

(それにしても優秀な人達が名簿に載ってたけど……知らない人も居たな。誰だろう?)

 

 同僚の名前を把握しているロスヴァイセも知らない名前がリストには記載されていた。持ち上げる為の比較対象として成果を出せない架空の人物をでっち上げたと言う先輩も居たし、オーディンが隠し子を正式に迎え入れようとしていると言う同期も居た。だが、ロスヴァイセは護衛や秘書を続けてきた身として何かが違うと感じるのであった。

 

 

 

 

 




一誠死亡で仕事を投げ出した彼女ならやりかねないと思います(言い訳) 一誠も原作で力のコントロールを苦手としてたしね

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