いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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第三十三話

 その存在は常に空腹だった。家も家族も名前すら無い。何時から存在するのか、どうやって存在するのか本人すら理解していない。いや、考えた事すら無かった。

 

 腹が減った、何か食べたい。考えるのはそれだけで、只食べる為に存在するそれが幸運だったのは『欠落』を食べるという性質を持っていた事。人であれ、物であれ、壊れない時も存在も皆無である。特に二天龍の戦いは周囲に甚大な被害を与え、多くの欠落を発生させた。

 

 何時しか深淵龍(アビス・ドラゴン)と呼ばれるも本人は認識せず、神に封印されても封印で失った物、つまり欠落を食べて復活した時、少しだけ考える事を覚えたそれは思った。身体が有るからお腹が減るのだと。だから身体を捨てても食欲は消えない。誰にも認識されず、ただただ食欲を満たし続ける……その筈だった。

 

 

 

「君は誰だい? 新しい仲間……じゃないか」

 

 彼はその存在に気付いた。何度も話をしてくれ、存在をちゃんと認識して接してくれた。そして、名前をくれた。だから、ずっと一緒に居たいとそれは……シュアンは思ったのだ。食べたい、それ以外の願いを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、どうして此処まで事態が深刻なのかしら? 被害者は多くないでしょ?」

 

 イリナが襲撃を受けてから数日が過ぎ、同様の事件が各地で多発した。戦争後も何度も起こった小競り合いで死んだ悪魔、堕天使、悪魔祓い、はぐれ悪魔祓い。犯人はそんな者達の家族であった。

 

 其れについて書かれた記事を控え室で読みながらエリザベートは首を傾げる。マネージャーに少しは時事ネタを仕入れて炎上を避けるようにしろと言われて渋々新聞を読むのだが、大々的に取り上げられている理由が理解できなかった。

 

「うーん、君に理解できるかは分からないけど、今回は加害者が親を失った子供だっていうのが厄介なんだ。これが成人なら情勢を考えろって意見を気にして、これを理由に和平への疑問を口に出来ないけど……哀れな子供の仇討ち話って言うのが口にする大義名分になるんだ」

 

「あっ! 成る程。……だからこんな事態になってる訳ね」

 

 説明を受けて理解したらしく、とある記事を示すエリザベート。其処には異例の速度で和平という重要事項が決定された事への抗議デモが取り上げられ、他の派閥の息がかかっているらしい新聞は朱乃がバラキエルの娘な事や、シェムハザが悪魔との間に子を作っている事を協定と結びつけ、一部の個人的利益の為の協定だったのではと書いていた。

 

「ぶっちゃけスケープゴートでも良いから小競り合いの責任者をそれぞれ処罰するとかしておけば良かったんじゃない? 死んだのって大抵は魔王とかが顔も知らない下っ端でしょ?」

 

「エ、エリザがマトモな事を言ってるっ!?」

 

「失敬ねっ!? それよりエルゥ、結構情勢も荒れて不安が広がってるし、此処は私の大規模なライブで元気付けるってのはどうかしら! 何なら私の手料理が食べられるディナーショーにしてギャラをチャリティーってのも構わないわよ?」

 

「その組み合わせだけは絶対に阻止しろって厳命されているから無理」

 

「デジマっ!?」

 

 自信満々の提案が即座に却下されショックを隠しきれないエリザベートが固まる中、話が聞こえたのか呆れ顔のマネージャーが入ってきた。

 

「ほらほら、一応大切な看板アイドルな訳ですし、あんま苛めないでやってくださいよっと。ほら、頼まれてたアイスティーだぜ、お嬢様。ったく、店まで指定とか面倒ですわ」

 

 タレ目でハンサムなマネージャーは軽薄そうな態度で手際良く世話を焼いていく。飲み物にストローを刺し、次の撮影のスケジュールを教えつつ、仕事後に行くレストランの予約までしていた。

 

「ああ、それと去年から向こうに頼み込んでた京都での写真集の撮影ですけどね、修学旅行で悪魔を受け入れている期間中なら構わないそうですわ。強行スケジュールになりますんで前後の仕事少し調整しますぜ? ……っで、わざわざ俺にまで話したい事って奴ら関連ですかい、旦那?」 

 

 答えは分かっているのか心底面倒そうに訊ねる彼の八重歯が怪しく光る。彼もまたエリザベート同様に悪魔でも人間でもない存在、吸血鬼だ。彼もそれなりの例が有るように攫われ妾にされた人間とのハーフであり、国を捨ててエルゥに仕事を世話して貰った身だ。実はエリザベートとは従兄弟らしい。

 

「あーうん。BBさん情報で幽世の聖杯(セフィロト・グラール)が吸血鬼の国に有ることは分かってるんだ。所有者まではシステムの掌握が七割程度だから分からないけどさ」

 

「……そりゃ面倒な話だ。奴ら、野良猫の一匹程度でも欲しいと言われたからっておいそれと渡しはしねーですからね。仮に有用に使ってりゃ尚更だ。危険だから渡せって言っても挑発にしかならねぇプライドの高い連中でさぁ」

 

「……それでさ、うちは色々やってるから貴族御用達の贅沢品関連の物流を中心に干上がらせようと思うんだ。多分庶民にも影響が出ると思うけど……良いかな?」

 

 エルゥは親の顔も故郷の景色も忘れたが、マネージャーの彼は国を出た時期からして故郷を覚えている。エリザベートも朧気ながら覚えていると語った事もあり、戻る気はなくても故郷に影響のある事を事後に教えるのに躊躇いが有ったのだ。故郷のことを自分は知らないが、大切に思うものだとは知っているからこその言葉だった。

 

 

 

 

 

 だが、杞憂だった。

 

「あっ、うん。俺は特に気にしませんぜ? 今は悪魔社会にお世話になってる身ですしね」

 

「あのねぇ、私は今は悪魔社会のアイドル、近い内に勢力関係ないトップアイドルになる逸材だけど、優先するのは今のファン(子ブタや子リス)達よ。……でも、出来れば所有者は保護の方向でお願いね。ハーフだろうし、扱いが想像できるから」

 

 BBによって神器が宿らなくなった以上、一番の安全策は危険な物を宿している相手を殺害する事だ。誰にも宿らない神器はシステムの中で眠り続けるらしく、時間をかければ上位の物でも完全破壊が可能との事だ。

 

 

「うん、出来ればそうするね。……テロリストと通じていて証拠が手に入れば楽なんだけどさ。元テロリストの証言があっても勢力上位の存在を証拠なしに糾弾できないしさ」

 

 既に帝釈天やハーデスが英雄派の支援をしていたのはBB情報で知っているが関係を示す証拠はないので口にすら出来ない。それを良いことに色々要求してきた帝釈天に少々苛ついているエルゥであった。

 

 

 

 

「ああ、それと僕の関係者って事で狙われるだろうから機動力や防御力重視の魔獣をレオナルドに創って貰うからね。……リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの能力には無意味だけど、どっちにしろ魔王クラスだから同じだし一応注意して行動して欲しいな」

 

 ゼクラムやファルビウムとの話し合いの最中で話題に出て、確実に絡んでいるであろう人物を警戒するエルゥ。神器を無効化するという局所的ながら強力な能力の上に素の能力は他の魔王の末裔と違って魔王クラスでも優秀な部類。当然、警戒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃひゃひゃ、初めましてだな、暴君? そっちの子がバアル家の忌み子だよな?」

 

「その異名は嫌いなんだけどね……」

 

 アビゲイルを案内している最中、そんな相手が駒王街の中で接触してきた事でエルゥは焦る。戦闘になれば間違いなく甚大な被害が出るからだ。其れと同時にゼクラムの()()()も思い出していた。

 

 

 

 

 

 

『私はリゼヴィム坊ちゃんにこそルシファーになって欲しかったが、流石に今回の件で民の支持は得られそうにないな。わざわざ名乗るとは何を考えて居るのやら。……例えばだが、坊ちゃんの隠し子、それこそ異種族の血が混じっていなければ貴族でなくても構わないから悪魔との間にそんな子が居れば相応しい教育を受けて頂いて後見人として動くのだが。知っているかね? 世の中には精子バンクや人工授精という物も有るのだよ』

 

 最後にこう付け加えていた。これ以上居るかも知れない純血の隠し子に影響する前に姿をくらませて欲しい、と。つまり、そういう事だ。悪魔は合理的な生き物なのである。

 




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