駒王町の一角に存在する学生に人気のオープンカフェ。其処に人目を付きそうにも関わらず誰にも気に求められていない三人組が居た。
「抹茶パフェのお客様~?」
「俺俺! それ俺の」
ローブを着た異国の老人というファンタジー作品に似合いそうな格好の老人、リゼヴィムは運ばれてきた注文の品を嬉々として受け取ると早速食べ始める。その向かいの席にはオレンジジュースを飲んでいるアビゲイルとアイスコーヒーを飲んでいるエルゥが警戒した表情で座っていた。
「それで話って何でしょうか? 貴方に流れる血と魔王様……正確には現ルシファー様が旧魔王の方々との和解を望んでいらっしゃるので話し合いには応じましたが」
言葉は丁寧だが胡散臭い物を見る目を向けており、相手が魔王クラスの実力者で場所が町中な上にアビゲイルが傍に居なければ即座に殺しに掛かっていたであろうとリゼヴィムは判断する。いや、そもそもそれを狙って街中で接触したのだ。
「和解とか馬鹿だろ。重要な和平とかの時すら声を掛けず、部下を率いて立ち上がって初めて話し合いを求めようとかよ。追放してからどれだけ経ってると思ってんだよ」
ゲラゲラ笑いながら愚かと嘲笑するリゼヴィムの考えにエルゥも内心では賛同する。勝てると思って発起した相手に対し、今までしなかった話し合いを求めるなど挑発と同じだ。全く話し合いをする気もなく、かといって殺す訳には行かないから無視していたのではない、それならば敗者として誇りを穢され怒りながらも考えの一つとして受け入れたかもしれないが、話し合う気があるのに放置、つまり他の事の方が魔王の血族よりも優先だったと、そう告げているのと変わらないのだ、と。
「そんなのおかしいわ! 話し合いをするに越した事はないじゃない」
「アビゲイルだったか? おいおい、大王家はどんな教育をしてんだ? まーったく何も分かっちゃいねぇ。っと、本題本題。君、俺の下につかねぇ?」
この時点でリゼヴィムはアビゲイルへの関心を完全に失う。仮にも大王家の者なら多少は政治の複雑さを知っていそうだが、十二まで育ってこれでは想定外で想定以下だと。
「嫌だね。貴方の部下になる事は僕に何の価値もない。何の為に天界への復讐を止めているのだと思ってるんだい?」
これは想定内。エルゥの口調が変わり、足元から無数の聖剣が飛び出して来る。周囲からは完全に人の気配が消え去っていた。人払いと周囲への被害を抑える結界。何時張られたのかは知覚出来なかった。
「おいおい、俺が接触するのを察してたのかい?」
だが、リゼヴィムは微動だにしない。彼に触れた瞬間に聖剣は霧散し、傷一つ付けられない。神器の完全無効化、それが彼を超越者の一人に数えさせている理由である。余裕の笑みを浮かべてパフェの残りを食べようとし、その顔面に拳が叩き込まれた。
「げふっ!? 目晦ましかよ、せこいな、君」
「子供を使って煽動してるそっちが言うかい? ああ、それと僕は貴方の接触を予期してたんじゃない。……敵として想定される全員の接触を予想していたんだ」
エルゥのその言葉が合図だったのか、リゼヴィムを囲むように現れる無数の魔法陣、武装した悪魔達が転移し、リゼヴィムに向かって構える。彼らを率いるようにして立つ者に対し、リゼヴィムは少々意外そうな表情を浮かべた。
「やあ。リゼヴィム・ヴァン・ルシファー。扇動の件は証拠不十分として曖昧にしてあげるから、君はここで消えてくれるかな?」
ルシファーの血族がテロリスト等と広まれば厄介なので、暗に捕らえはせず、絶対に殺してその事を秘匿する。そう告げているファルビウム。
「ファルビウム、面倒臭がりなお前が来るのかよ……」
リゼヴィムは確かに強い。魔王クラスの中でも流れる血故にトップクラスだろう。だが、ファルビウムも同様に魔王クラスであり、部下達と共に既に臨戦態勢。対するリゼヴィムは顔見せに来ただけであり、戦闘態勢に入るのに必要な僅かな時間が有れば十分倒せる。
「悪いが俺はこんな所で死ぬ気はねぇよ。あの猫ちゃんが来たっていう異世界で悪魔らしく好き勝手暴れるまではなっ!!」
だが、それは彼が今の状態だったらの話。袖口に仕込んだ小瓶を素早く口に運ぶ。中に入っているのはオーフィスの蛇。それさえ飲めば形勢逆転は可能だ。
「させないよ」
再びエルゥの足元から放たれる無数の剣。また誘導かと、今度は周囲の動きに警戒するが消え去る剣にはそれほど注意を払わずに。再び剣は彼の体に触れるなり霧散……しなかった。肉を貫く音に飛び散る鮮血。何が起きたか、リゼヴィムは理解できずに口から小瓶を取り落として固まった。
「……あ? 何だよ、俺の能力を無効化する力でも付けたのか。ぐっ、ぐがあああああっ!!」
ローブが赤く染まり、血が滴っていく。ファルビウムは無言で腕を上げ、止めを刺せと指示すべく振り下ろす。その僅か前に上空から強力な龍のオーラが接近して来た。
「リゼヴィムゥウウウウウウウウウウウウウウッ!!」
白い全身鎧に覆われた顔から彼の表情は窺えない。だが、声には憎悪と憤怒が溢れるほどに込められ、周辺被害など考えない魔力の乱射が地表のリゼヴィム目掛けて降り注ぐ。当然、近くにいたアビゲイルにも向かって行き、エルゥが咄嗟に彼女を抱き上げて離脱すれば居た場所がヴァーリの魔力で吹き飛んだ。
「あの時に殺しておけば良かったよ」
エルゥが呟きながら足下から剣を放った先は舞い上がる粉塵や土煙で遮られる視界。ヴァーリが全速力で降下し着地した為に衝撃と轟音が響いてリゼヴィムの姿は完全に見失われる。視界が開けた時、苛立ちながら立つヴァーリ以外に人影はなく、リゼヴィムは切断された腕一本だけを残して消え去っていた。
「……彼の突入で結界が破損、転移を許しちゃったか」
冷めた目でヴァーリを見詰めるファルビウムは上に向けた手をヴァーリに向けて振り下ろす。憎悪する相手に逃げられた苛立ちに気が向いていたヴァーリに集中砲火が放たれた……。
「……最後はバニシング・ドラゴンキラーで貫いたので聖杯ですら復活は無理かと」
「ふむ、そうか。逃げられたのは残念だが、懸念事項が一つなくなったのは幸いだ」
事の顛末を聞き、少々残念そうにするゼクラムであったが、差し出された資料を読んで表情を変える。嬉しそうな笑みであった。
「クローン、か。人の技術に魔術を合わせた物らしいが……時折人間には驚かされるな。それで、坊ちゃん……いや、坊ちゃんの御子の母親は決まっているのかね?」
「候補としては先日見つかった七十二柱の末裔、しかも純血です。どうも眷属にと狙っている悪魔が……」
「私が対処しておこう。同士の末裔は保護して手厚く扱わなくてはな。その上、坊ちゃんの子を腹に宿しているなら尚更だ。……設定はしっかり練っておかねばな」
この日、ゼクラムの中でエルゥの利用価値が再び上昇する。それが良いのか悪いのかは別であるが……。
「スピネアさん、どうですか? 腕をキューブにして飲み込みましたけど」
「成功です。さて、設定は博士開発の神器バリアにしておきましょう」
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今日は帰ったら前回のを