いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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第三十五話

 一体如何してこうなった? エリザベートのマネージャーである半吸血鬼の青年、ロビンフッドは目の前で自信満々に京の町を案内する幼女を見ながら頭を掻く。

 

(本来ならナンパでもしてる所だったんですけどねぇ)

 

「む? どうかしたのか、ロビン殿? ほれほれ、あの店の綿菓子が有名なのじゃ!」

 

 彼を急かす様に袖を掴んで引っ張っているのは狐の耳と尻尾が生えた少女であり、遠くからは複数の妖怪の気配がする。何故この様な状況に陥ったのか、それは二日前の晩まで遡る必要があった。

 

 

 

 

 

「仕事が終わるまでは観光はお預けっすね。取りあえず今日はホテルに入って軽く酒でも……」

 

 最近、彼は大忙しだ。エリザベートはアイドルをやってはいるが歌関連の仕事は回ってこない。最初の仕事の時点でひどい惨状であり、実際に体験した者の話を聞いても大げさなだけで編集でどうにでもなると勘違いした者達が何度か悲惨な目にあって漸く誰も彼女に歌わせては駄目だと悟ったのだ。

 

 だが、どうやら基本的に阿保の子なれど歌以外の仕事で人気を稼ぎ、写真集などの売り上げは凄まじい。最近ではレーティング・ゲームの大規模な大会の公式キャンペーンガールに選ばれた程だ。だからこそマネージャーである彼は忙しく、この日も夜中に京都で行われる写真撮影の為の下見に来ていた。

 

 仕事は明日からだとコンビニで適当にノンアルコールとツマミを買い、近道をしようと通った裏路地で見事に迷った先で彼は不審な者達を発見する。ヒーローのコスプレに見えるお揃いの衣装で身を包んだ彼らは幼い狐妖怪の少女を追い詰めていた。

 

「下郎めっ! 妾をどうするつもりじゃ!」

 

「決まっているだろう。お前を使い、妖怪達を支配下に置くんだ。化け物を従えるのも英雄に相応しい功績だからな」

 

「俺達英雄は化け物を越えてこそ。ふふふ、居なくなった奴らより俺達の方が英雄らしい行動をして……いや、俺達のする事が英雄に相応しい行動なんだ」

 

 自分達の言動に酔いしれている彼らは年の頃なら十代後半、まだ親の庇護下にいてもおかしくない年齢であり、この様な時間に警察と出くわせば学校は何処だと職務質問されるだろう。だが、恐らくそんな普通のことなど思い当たりもしない。自分達が生まれ持つ力に対する自信を前のリーダーに埋め込まれ、迷いなどないからだ。

 

 恐怖を浮かべながらも矜持からか男達を睨む少女は育ちが良いのか高貴な生まれを感じさせる。故に屋敷を抜け出して遊びに出た所を悪者に見付かって追い詰められているのだ。下非た笑みを浮かべながら囲むように寄ってくる狼藉者の意のままになってたまるものかと少女が狐火を放とうとした時、鈍器で殴打するような音が立て続けに響いたかと思うと男達は前のめりに倒れ込んだ。

 

 

 

「ふぃ~。休めるかと思った後の一仕事は疲れますねぇ。……中途半端な化け物の俺に倒されるんだ。オタク達は英雄じゃ無いってこったな」

 

 虚空から軽薄そうな声がし緑の手外套を脱いだロビンフッドが姿を現す。透明化の効果がある神器『顔の無い王《ノーフェイス・メイキング》』を解除して姿を現した彼は服の下に仕込んでいた金属製のロッドを再びしまうと少女と目線を合わせ相変わらずの軽薄な笑みを向けた。

 

 

「大丈夫ですかい、お嬢さん? おっと、俺は怪しいモンじゃねぇっすよ。只のアイドルのマネージャーですからね」

 

「……妾の名は九重、京妖怪の姫である八坂の娘じゃ。世話になったな。礼を取らすから屋敷までついて来ると良いぞ」

 

(……あ~、こりゃ偉ぶりたい年頃だな。ま~た怖いのと遭遇したら嫌だからって護衛が欲しいって所か。俺みたいのを信用してどうすんだよ、全く)

 

 少女の態度に微笑ましい物を感じながらも呆れるロビンフッド。此処で礼は結構だと去る振りをするのも面白いかと思いつつ、相手が子供なので取り敢えず母親の部下を見付けて渡そうと判断するのであった。

 

 

 

 

 

「んじゃ行くとしますか。オンブで良いですかい?」

 

「うむ! 苦しゅうないぞ」

 

 この後、丁度屋敷を抜け出した九重を探していた部下の妖怪に彼女を引き渡したロビンフッドは面倒だと思ったのか所属だけ告げると、拘束した英雄派の構成員の居場所を教えてホテルへと戻っていった。次の日、予定されていた仕事が少しスケジュールを詰めれば三日目が丸々空くので頑張って終わらせたロビンフッド。何故一日自由時間が出来る様になっていたのかを察しつつ、久々のオフを楽しむ予定であった。

 

 

 

 

 

 

 

「通り魔事件発生から数日。帰宅途中の女子高生と小学生の少女を襲った犯人は未だ逃走中。……警察も大変だねぇ。捕まらない犯人を探すんだからよ」

 

 ホテルのモーニングを適当に胃に収め、雑誌で調べた店のパンを片手に公園で新聞を広げると、先日の一件を洗脳によって誤魔化した記事が載っていた。事件の迷宮入りは確実だと、この手の人外が関わった事件を調査する一般の警察に同情しつつ、京都での休日をどう過ごそうかと思っていた時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

 

「どうやら暇のようじゃな! 何なら町を案内してやっても良いぞ?」

 

「……いやいや、どうして居るのさ?」

 

 新聞を畳んで向けた視線の先、其処には一昨日の夜に誘拐されかけたばかりの九重の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……成る程。助けられて礼をしないのは義に反するから何かお礼がしたいと。……それは俺の雇い主にって言ったじゃないっすか。部下の手柄は上司の手柄でもあるんっすから」

 

「うむ。 それは分かったが妾の気が済まぬからな。良い店を紹介してやる程度なら構わんじゃろ!」

 

 胸を張って堂々と言う九重だが、コブ付きではナンパが出来ないと何とか言いくるめようとするロビンフッド。だが、護衛なのか物影から此方を伺う妖怪の気配も感じているので無碍に断れない。恐らく九重は知らないのだろうが、自分の力で礼がしたいという彼女の意をくんだ結果なのだろう。

 

 

 

 

「……んじゃ宜しくお願いしますわ」

 

「心得た!」

 

 結果、下手に断ることも出来ず、ロビンフッドの休日は子守で終わるのであった。

 

 

(……これは追加の給金を請求すべきっすよね。あの旦那なら払ってくれるだろうし……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「京妖怪から礼状が来たよ。ボーナス査定にプラスしておこう」

 

 数日後、京都から届いた書状を読みながらエルゥはペンを動かす。机の上には大量の書類が積まれ、ヴァイオレットが後ろに控え、印が押された書類を片づけ次の書類を目の前に置いていた。

 

「……グレモリー側から武器の注文。ああ、あの戦車の女の子に持たせるのかな?」

 

「同じ戦車同士の場合、パワータイプの相手だと完全に力負けしますからね。……それはそうと次のゲーム……いえ、ディオドラとテロリスト達を撃退する時の事ですが……使いますか?」

 

「……そうだね。禁手は奥の手、隠しておくのは常套手段だけど……偶には使っておかないとね。アステリオスには悪いけど使用前の肩慣らしに付き合って貰わないと」

 

 この時、エルゥは心底嫌そうに深い溜め息を吐く。友人なら快く引き受けてくれるだろうが、アリエルが五月蠅いだろうなと思いつつ書類作業を進めていた時、一枚の書類を目にして手を止める。北欧神話が派遣している外交官……今回の成果を理由にオーディンの養女となって政略結婚の駒になるであろう女性達の資料だ。その中で一人、儚げな女性が居た。

 

 

「……ねぇ、最強のヴァルキリーに付けられる称号ってブリュンヒルデ……だっけ?」

 

「……ええ、オーディン様のご息女の名前ですね。主神の命令に背いた為、たとえ実子であっても重く罰するをえなかったと聞いています。確か今でも封印されているとか」

 

「そうだったね。……少し休憩しようか?」

 

 ペンを置いて立ち上がったエルゥの後に続くようにヴァイオレットも歩き出す。そのまま二人は書斎の横にある仮眠室に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「皆、今度こそ勝つわよ! 私達の本領を見せてあげましょう!」

 

 ディオドラとの試合当日、控え室で眷属達をリアスは鼓舞する。禁手に目覚めたのに使う間もなくリタイアした木場や身の丈ほどの大斧を背負った小猫が特に気合いを入れる中、アーシアだけは沈んだ顔をしている。理由はディオドラから告げられた言葉だ。

 

 

 

 

『今度の試合、僕が勝ったらデートしてくれないかい?』

 

 当然、一誠は反発して食ってかかるしリアスも良い顔はしなかった。……アーシアは一誠が好きだ。それは今でも変わらない。だけど、断ることが出来なかった。了承の言葉を口にしなかったので誰も何も言わないが彼女は迷っている。このままリアスや一誠の側に居て大丈夫なのかと……。

 

 

 

 

 

『時間になりました。リアス・グレモリー様とディオドラ・アスタロト様の試合を開始します』

 

 転移魔法陣が輝きアーシア達がフィールドに向かう時、一誠の声が聞こえた。

 

「大丈夫だぜ、アーシア。俺が絶対護るからさ」

 

 その言葉に嬉しさを感じるも不安が心の奥にくすぶる中、アーシア達が転移したのは神殿の様な建物の前。此処が自陣かと思った時、アーシアを誰かが抱えて飛び上がる。心底嫌悪感を感じさせる笑みを浮かべたディオドラだった。

 

 

「アーシアは貰っていくよ。返して欲しかったら神殿の最奥まで来たら良いさ。……まあ、彼らに殺されるんだろうけどさ、あはははは!」

 

 耳障りな笑い声が聞こえアーシアは再び転移する。この時、彼女の意識は奪われ目が覚めた時、宙に浮く魔法陣に磔にされており、神器を中心にして小さい魔法陣が展開されている。目の前にはディオドラと二十代前半程のゴスロリ衣装の女性、そして空中に映し出される一誠達とディオドラ眷属との戦いの様子……正確に言うならば相手の服を剥いて鼻血を出しながら喜ぶ一誠の姿だった。

 

 

 この状況はアーシアでも予測できる。自分を救出するために此方に向かっている最中であり、その最中に一誠が性欲を優先させたのだと。小猫から制裁を受けて居ることが必要だったからではないと嫌でも理解させられる。

 

 

「嘘吐き……」

 

 自然とそんな言葉が涙と共にこぼれていた……。




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