いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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感想は明日返します


第三十八話

「……では、引き続き殲滅を続けます」

 

 魔王の血族であるクルゼレイの討伐という重要事項をサーゼクスに通信で伝えたエルゥは無表情で連絡を終える。彼の死亡を聞かされたサーゼクスの反応は残念そうであり、まだ和解の余地があると思っているという口ぶりであった。

 

「お嬢さ……ヒルデさん、どうも様子が変ではないですか?」

 

「呆れている様に見えますが……」

 

 背後から聞こえてきた二人の会話、ヒルデの正体に気付いている為についつい敬意を払ってしまうロスヴァイセとエルゥの態度から何かを察したヒルデ、その二人に気付かれた事で自分の演技不足に腹立たしく思うエルゥ。事実、彼はサーゼクスに呆れていた。

 

(他勢力のトップとの会談を襲撃されて、他の神話の神さえも戦闘に巻き込んで、まだ恩赦の余地があると思うなんて……)

 

 仮に降伏を相手が受け入れたとして、その後はどうするのかという疑問が浮かぶ。今まで通り僻地に追いやって放置、見張り付きの軟禁及び監禁、役職を与え政府の一人に、どれも内外からの不満を招きそうだ。悪魔も天使も堕天使も他の神話に恨みを持たれており、トップが了承していても同盟に不服を持つ者は多い。余計な火種になるのは明らかだ。

 

 敵のトップであるオーフィスとテロリスト達のどちらが働きかけたのかは不明だが、どちらにせよテロリスト組織の派閥のトップなどに許しを与えるなどあってはならないというのに。

 

「居たぞっ!」

 

「偽りの魔王に従う愚か者とオーディンの養女達だっ!」

 

 大きく溜め息を吐き出したいのを我慢していると前方に大勢のテロリスト達が臨戦態勢で出現する。エルゥは無表情のまま腕を振り上げ振り下ろす。呼応するかのように巨人騎士達が動き出し、力任せではない本物の剣技によって駆逐を開始した。

 

 

 

 

「おうおう、荒れてんな。……流石に有給やった方が良いな」

 

「……有給ですか。私、オーディン様の養女になったけど雇用形態って変わってるんでしょうか……。このまま婚期を逃してズルズルと……」

 

 ゼファードルの呟きに対してロスヴァイセは思わず呟いてしまう。元々は強すぎて迎え入れた英雄の魂のお世話という戦乙女の勤めを上手く果たせず窓際に追いやられ同僚が結婚していくのを見て婚期を焦り、誰も長続きしなかったオーディンの秘書の職務を歴代で最も長く勤めるも介護ヴァルキリーと馬鹿にされたりオーディンからセクハラを受けたりと安月給で頑張ってきた。だからか、名ばかりの中間管理職のように手当を削減しつつ職務を激化させるのではと不安なようだ。

 

 ……尚、こんな経歴の持ち主であるが未だ十代である。北欧神話の住人の婚期は十代前半と極めて早いのかも知れない。彼女が気にし過ぎな可能性もあるが。

 

「なに、アンタは優秀な美人だし直ぐに良い相手が見つかるだろ。……っと、今はセクハラって言われる内容か?」

 

「い、いえ、大丈夫です。それにしてもゼファードルさんもお強かったですね。接近戦も魔力もルーン魔術も使えていましたし」

 

「まぁな。一芸だけじゃ貴族としてやっていけねぇし、政務も戦闘も頑張ってるって訳だよ。どうも結婚には恵まれないでいるけどな」

 

 手を出す必要はないとロスヴァイセとの会話を続けるゼファードル。苦労人同士話は弾み、時折言っては駄目な事まで口に出しそうになりながらも談笑を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 この様にエルゥや各神話のトップが蹂躙を続けるも戦闘場所によってはテロリスト側が優勢の場合もあり、要請を受け一番近い場所にいたサーゼクス達が救援に向かったのだが、戦闘を視認するやいなや、横合いから現れた巨人によってテロリスト達が吹き飛ばされた。

 

「……あれは一体」

 

 サーゼクスは思わず呟いて巨人を見詰める。逞しい鉛色の巨体の各所には赤い文様が血管のように現れ、振り乱した黒髪や手に持った巨大な両刃の斧にも赤と黒が入り混じったオーラが纏わりつく。

 

「■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーー!!」

 

 耳をつんざく理解不能で理性の感じられない雄叫びと同時に振るわれる斧から発生する衝撃波はテロリストの体を引き裂き、斧が触れた者は挽き肉となる。暴風等の災害が人の姿を取った怪物、そう説明されるのが一番納得が行くだろう。本能から恐怖を感じさせられ動きが停まる彼らだったが背後から落ち着いた若い男の声が聞こえ漸く体を動かせた。

 

 

 

「初めまして、皆さん。私はエデンの林檎の副リーダーを任されている者で、天草四郎という者です。……ええ、その顔からしてお察しのかの島原の乱に関わった天草四郎の生まれ変わりですよ。転生は認められていないので複雑な心境ですが、聖書の原本の著者が主の声を聞けなかったのだと思うことにしています」

 

 立っていたのは若白髪に色黒の神父服の男。首から十字架を下げ腰には刀を差している。天草四郎という名に聞き覚えがあったのかサーゼクス達が反応すれば何かを察したらしい彼は複雑そうな表情だ。自分の存在が聖書の内容と矛盾するのが落ち着かないらしい。そんな彼にシェムハザはとある物を感じていた。だが、天界と敵対する彼にはあり得ないものだ。

 

「一つ聞きたい。君は聖書の神を信仰しているのか?」

 

「ええ、勿論。魂と共にあの結末も引き継がれましたが神を信仰する気持ちは変わりません。仲間も理解してくれてはいます。……オルタは理解はしても納得して下さいませんが」

 

 あっけらかんと答えた彼からはサーゼクスやシェムハザへの敵意は感じない。背後で未だに暴れている巨人もテロリストのみを攻撃していた。

 

「じゃあ、何故天界と敵対する様な真似を? 君からすれば天使も……」

 

「救いがないと嘆く声を、神のためと行われ、主は望んでいないと制止されなかった教会の残虐な行為を、全てを神の御意志として責を押し付ける天使がどうかしましたか? 少なくとも私にとって天使は主の名を貶める敵でしかありません。……ですからシステムの管理権を天界を恨む者に支配され生殺与奪を握られていようが関係ない。私は忠実なる神の下僕として神の敵を討つだけです」

 

 彼の瞳に宿るのは悲哀でも遺恨でもなく、曇り無き信仰心と決意の炎。ミカエルが言い訳の言葉すら出ない中、四郎は背後の巨人を指差した。

 

 

 

「本日は彼の……ヘラクレス改めメガロスの御披露目と天界以外と敵対する気は無いと改めてお伝えに参りました。では、今日はこの辺で」

 

 四郎の一礼と共に敵を倒しきったメガロスと彼の身体は一瞬でこの場から消え去る。暫くの間、場を沈黙が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あら。随分と……ねぇ」

 

 アリエルが意味ありげに見つめる先、テロリストとの戦いが終了するも慌てた様子のリアス達と、囲まれながらも笑顔を変わらなく浮かべている……一見すればだが、そんなアーシアの姿があった。その傍らに立つのは彼女が禁手で生み出した存在。

 

一言で言うのなら赤いオーラで構成されたマネキンが緑色の魔女の格好をしている、だ。衣料品売場においてあるのっぺりとした凹凸の少ないマネキンが一般的なイメージで出てくるトンガリ帽子とローブと杖を身に着けており、杖から延びた無数の緑のオーラの帯が刺さった悪魔達の死骸からエネルギーを吸収していた。

 

 

「ちょっ!? どうしたんだよ、アーシア!?」

 

「いくら何でも……」

 

 敵を傷つけられる筈がなかったアーシアの行う行為、死骸を見る限り殆どが彼女の手によるものらしいが、其れを信じられないリアス達は慌てて問い質す。だが、アーシアは微笑むだけであった。

 

 

 

「だって、この子は私を守ってくれる為の存在ですし、()()()()や部長が優先することが有るように、それに繋がる事を何より優先するんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの子、心は助けて貰えなかったのね」

 

 彼女の目を見て何かを察したのか、アーシアを哀れむようにアリエルが呟く中、別の場所ではユークリッドがスピネアの膝に頭を乗せて幸せそうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、本当に幸せです。前の姉さんは厳しいお方でしたので膝枕など一度も……」

 

「そうですか。では、ゆっくりお眠りなさい」

 

 帝釈天が近くに居るにも関わらず奇妙な頼みをしてきた彼に対し、スピネアは受け入れるかのような態度を無表情無感情のままとり、心が既に壊れている彼は疑問すら浮かばずに従い、リラックスして瞳を閉じる。その首にスピネアの指がそっと添えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逝ってらっしゃいませ、ユークリッド様」

 

 スピネアの指は聖剣の刃に変形しユークリッドの首を容易く切り落とす。転がった彼の首は幸福そうな顔のままであった。




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