*強すぎて英雄の世話係がこなせずに窓際
*一番長くオーディンのお付きをこなす
*周りが次々に結婚して婚期の焦り
*教師が出来る程度の学力
*ただし十代
……北欧神話は十代前半で結婚が普通なのか? 英雄って十代ばかりな筈がないし……
これ少なくても高校入学程度の歳には就職してるんじゃ
二十代半ばまじかなら違和感ないんだが……
放課後、エルゥは路地の外れにある喫茶店に立ち寄っていた。木造の古めかしいレトロな空気漂う店であり、少々薄暗い店内にはジャズが流れる。強面の店主が拘って選んだ茶葉やコーヒー豆だけでなく、自家製のパンケーキやフレンチトーストも絶品なこの店は知る人ぞ知る名店であり、エルゥも常連の一人であった。
(……偶には一人でのんびりするのも悪くないや)
久々に貰った有給、しかも連休である事に対して休み明けの仕事量への不安を感じつつもエルゥが選んだのは静寂な時間であった。ヴァイオレットやパッションリップ、メルトリリスやBBとのデートも考えなかった訳でもないが、偶には一人になりたい時もあると、そういう事だ。
店内では店長が作業をする音以外にはジャズの音色くらいしか聞こえない。この店で騒いだりお喋りをしないというのは集まる客の間の暗黙の了解であった。エルゥもカプチーノを飲みながらジャズの音色に耳を傾け、店内に置かれていた新聞の記事、外国で井戸掘りや支援物資の配給などを行う集団の写真に剣の師匠や兄弟弟子である少女の姿を見つけながらも特に声を出さない。
「なあ! ちょっと相談に乗ってくれ!」
突然の騒音、店内に響く慌ただしい足取りの音と声。新聞から目を外したエルゥの目前には兵藤一誠の姿があった。
(消えて欲しいけど……無理だろうな)
一誠の性質を短期間で理解しているエルゥ、少なくても彼の認識下において一誠は帰れと言われて大人しく帰る性格ではない。下手に騒がれて出禁を食らってはたまらないと諦めたエルゥは渋々諦めると一誠を連れて店外へと出るのであった。
「……アルジェントさんの様子が変?」
「そうなんだ! ハーレム野郎のお前なら何か分かるかもって思ってよ!」
ディオドラが裏切って行われた襲撃事件から数日になるが、帰宅してからずっとアーシアの様子が変だと一誠は語る。今まで一緒にお風呂に入ろうとしたり同じベッドで寝ていたのに急に別々にするようになっただけでなく、リアスに対抗して一誠にくっつくなどもしなくなったのだ。学校でも側にいる時間が減り、何かしたのかと周囲から言われて困っている一誠に対し、エルゥは休日を邪魔された怒りもあってか適当に答える。
「……世間知らずが世間を知って恥ずかしいことだと思ったのか、ディオドラの件で男性恐怖症にでもなったんじゃないのかい?」
「そんな! あの野郎、死んだ後もアーシアを苦しめやがって!」
憤慨した様子で拳を振るわせる一誠にこれ以上関わり合いになるのも嫌だとエルゥは背を向けて歩き出すが一誠の手が肩に伸ばされる。捕まれる前に身を翻して避けるが追ってくるだろうと仕方無く振り向いた。
「……言っておくけどガギラだって仕事が忙しいんだ。ウラディ君の他に彼女もってのは無理だからね。老人だし、働き過ぎは駄目だからさ」
「じゃ、じゃあ何か協力して貰えねぇか? アーシアが苦しんでるなら助けたいし、あのゲームの後から様子が変だったんだからそっちにも責任が……」
「責任? あるわけ無いだろう」
一誠の言葉は喉元に指先を鼻先に突きつけられて止められる。まるで剣の切っ先を突き付けられたかの様な威圧に言葉を詰まらせる一誠に対し、怒気を僅かに発したエルゥは厳しい声で静かに言い放った。
「そんなに大切なら最初から戦場に出すな。せめて自衛手段を身に付けさせろ。……それと、悪魔としての会話なら僕には上級悪魔への態度を取るべきだよ、下級悪魔」
正直言ってエルゥは一誠が嫌いだ。主であり親友でもあるゼファードルは素行の悪さから凶児等と不名誉な呼ばれ方をしている。そのこと自体は自業自得だとしても、貴族社会によって齎されている特権は享受しようとしているのに貴族社会におけるルールは無視する言動が目立つ一誠は気に入らないのだ。
『……待て、小僧』
威圧され声も出ずに固まる一誠を無視して立ち去ろうとするも今度はドライグの声が響く。少々苛立ちが混じった声でエルゥを呼び止めたかの龍の要件にエルゥも予想がついていた。アルビオンを宿していたヴァーリ討伐の件だろうと。実際、その通りだ。
『貴様、よくも今回の白いのとの戦いを邪魔したな。ドラゴンの戦いを妨害するとは何を示すのか分かって居ての事かっ!』
やはりドライグの要件はヴァーリを倒した事だ。封印された経緯も戦争中に決闘に巻き込んで三竦みの勢力に袋叩きにされた程であり、今までも宿しただけの所有者が何故か争いあっていた。一誠も戦い事態は兎も角、殺した事には何か思うことがあるという表情だった。
「僕が倒したのはヴァーリって名前のハーフ悪魔であってアルビオンじゃないよ。……じゃあ、もう帰るから」
何時から龍の誇りをかけた戦いは力を使わせるだけの代理闘争で構わなくなったのか、や、化け物じみた姿のはぐれ悪魔を殺すことには躊躇しないけど人と姿が違う悪魔など沢山居るよ、とはわざわざ口にはしない。言うのすら面倒だとエルゥはさっさと屋敷に転移するのであった。
「臨時記者会見って聞いたから何かと思えば……随分と大物が出てきたね」
屋敷に帰宅後、通達があったのでテレビをつければ全番組で共通の会見の様子を流している。お気に入りのアニメが中止になったのを不満に思うレオナルドを宥めつつ画面に目を向ければアジュカとゼクラムの姿が映っていた。これは重要視されるはずだ、そう考えているとアジュカの口が開かれ、同時にチェスの駒、ただし悪魔の駒には無いはずの王の駒が取り出された。
「諸君らはテロリストの驚異に不安を感じているだろうが安心してくれ。私は新しい悪魔の駒を発明した。見ての通りの王の駒であり……使用者の力を十倍にする」
ざわめきと共にフラッシュがたかれる。テレビの前は騒然となるもエルゥは特に驚かない。ああ、これの事かとゼクラムの話を思い出した程度だ。只、あの時点で既に完成していたとまでは分かっていないが。
「静粛にしたまえ。詳しい話は私が続けよう」
ゼクラムの声に記者達はどよめきを止める。相手は大王家の実質的なトップ、機嫌を損ねる訳には行かないのだ。彼らが黙った事を確認したゼクラムは威厳のある声で話を続行した。
「さて、一見便利に見えるこの駒だが欠点もある。誰にでも使えるわけではないのだ。事前の調査でもゲームのトップランカーに適正者は居なかった。よって今後は大王家が管理をしつつ希望者である上級悪魔を対象に一斉検査を執り行う!」
再びざわめく記者達。その様な中、一人の記者が質問を口にする。その使用者のレーティングゲームでの扱いはどうなるのかと。力を十倍になれば其れほどの力がない者でも上位にいける可能性が高い。だが、この質問に対してゼクラムに揺らいだ様子はない。そもそも、質問をした記者は彼の手の者であった。
「ああ、勿論何らかの制限は掛けるだろうが……それなら転生悪魔が持つことの多い神器にも何らかの制限は必要ではないのか? 例えばリアス姫の眷属が持つ神器は十秒ごとに力を倍増させ数万数十万倍にもなる。十把一絡げの物は兎も角、強力な物にはこれを機会に制限を掛けるべきだ。……神が作った道具は良く、悪魔が作った道具は駄目というのは道理が通らないからな」
ふとレオナルドの方を見れば少々不安そうにしていたのでエルゥは彼の頭にそっと手を置いてクシャリと撫でた。
「大丈夫だよ、レオナルド。僕はゲームにそれほど興味はないし、君を道具に頼るだけにしないからさ。便利な道具がなければ戦えない奴に戦場に立つ資格は無いからね」
一方その頃、自室でアーシアは神器を見つめてた。表面が少しくすんだ色になっており、所有者の彼女は能力が変化していることを理解している。其れが楽しいことのように微笑んでいた。
「もう私しか癒せなくなってしまいましたけど、大切な家族なのですから構いませんよね? ふふふ、だってそうじゃなきゃ私を神器でしか見ていなかった事になりますから。役に立つ立たないなんて考えは家族には不要ですし……」
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