いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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第四十二話

「はわわっ! とても可愛らしいのだわ」

 

 とある休日、貴族としての礼儀作法の授業を終えたアビゲイルは人間界の雑誌を猫をモデルにした小物を取り扱う雑貨屋やクリームとフルーツがてんこ盛りのパンケーキが人気のカフェの特集であり彼女は目を輝かせる。だが、それだけだ。小学生である自分が一人で遠くに買い物に行くなど無理だし、この屋敷に来るまでの生活が我がままを言えなくさせていた。

 

 諦めた様にページを閉じた時、近くでファッション誌を読んでいたアリエルが手を止めて微笑むとアビゲイルの頭に優しく手を乗せた。

 

「あら、行きたいのなら連れて行ってあげるわよ? 子供だけで行かせるわけにはいかないしね」

 

「……良いのかしら? 私、別に底迄行きたい訳じゃ……」

 

 ないの、と本心を隠して言おうとするも両頬を引っ張られて言えないアビゲイル。大王家から行儀稽古の名目で預かっている子女なのでエルゥが居たら慌てる光景ではあるが運が良いのか悪いのかこの場に居なかったし、アビゲイルも驚きながらも嫌がっている様子はない。

 

「子供が遠慮するものじゃないわ。お勉強を頑張っているのだもの、ご褒美や社会勉強とでも思いなさい?」

 

「はい! あっ、はしたないのだわ……」

 

 思わず飛び上がって返事をしてしまい慌てるアビゲイルを微笑ましそうに見つめるアリエル。見た目が少女な為か歳の近い姉妹の様であった。

 

 

 

 

 

 

 

「……やれやれ。これも仕事と割り切れば良いのだろうが釈然としないものではあるな」

 

 数日後、目的の雑貨屋やカフェに行く事にしたアリエルとアビゲイルではあったが流石に二人で行くのにはエルゥが反対した。結果、選ばれた護衛役がデイビットである。不服そうにしながらも周囲への警戒を怠らない彼の眼力のかいあってかアリエル目的のナンパなどは遠ざかる。

 

 途中、アビゲイルが他の店に気を取られて立ち止まったり人込みに押されてはぐれそうになるも即座に手を伸ばし、今も片手に荷物を持ちながらも空いた手にも意識を集中させて襲撃に備えている彼をアリエルは楽しそうに振り向いた、

 

「あら? こんな美少女二人との買い物が楽しくないのかしら?」

 

「君は二十代だろう? 少女と呼ぶには些か歳を重ねているではないか。それにアビゲイル嬢は大切なお客人だ。一緒に居て楽しいなどと思う暇は……冗談だ。落ち着け」

 

 冷静な彼が慌てたのは迷惑をかけているとアビゲイルが泣きそうになったからか、アリエルが笑みを浮かべたまま発している何かか。とにかく慌てて取りなそうとした時、彼の視界に個人的に好ましく思っていない相手が映る。リアスとイリナが変装のつもりなのかサングラスを掛け、隠れるつもりなど感じさせない下手な尾行をしていた。

 

「完全に不審者だな。……さて、流石に止めておくか」

 

「本気? 私、関わりたくも無いのだけど?」

 

「私もだが……アレを見られる訳にもいかんだろう」

 

 腰に手を当てて不平そうなアリエルに同意したいデイビットではあるが、相手は一応公爵家の次期当主。それが護衛もつけずに今の不安定な情勢下に不審な行動をするなど他の勢力に見られれば、忘れ去りたい理由を語ればアリエルも渋々受け入れる。

 

 

「そう言えば前に挨拶しただけでちゃんとお話はしていなかったわ! ネットで見たけど凄い人気なんですってね」

 

 そんな中、無邪気なアビゲイルだけは今まで接点がなかった従姉との会話に心を躍らせるの。見た目や立場から評判は良いし、流石に彼女の前で非難するような言葉を話さないので憧れの女性らしかった。面倒そうに溜め息を吐くアリエルや肩を竦めるデイビットと違ってリアスに悪感情を抱いていないアビゲイルは二人の前を駆けて進みリアスへと近寄っていく。

 

 

 

「こんにちは、リアスさん! スパイごっこでもしているのかしら?」

 

「あら? アビゲイルじゃない。久しぶりね。……イリナ、一旦お願いね」

 

 流石に少女、しかも従妹が相手なので尾行の相手、デートをしている一誠と朱乃の追跡をイリナに任せてアビゲイルの相手をするリアス。イリナも直接対峙はしなくても腕を切り下ろした相手であるデイビットに苦手意識が有るのか迷わずに進んでいき、リアスはしゃがんでアビゲイルと視線を合わせた。

 

「もしかして何か任務の途中だったかしら? ……邪魔をしたのならごめんなさい」

 

「だ、大丈夫よ! ちょっと眷属が勝手なことをしているので見張ってただけだもの」

 

 流石にデートの尾行をしていたとは言えない。堂々と言えるのなら変装などしないしコソコソ尾行せずに割り込んでいるだろう。故に何と言うべきか迷うリアスであった。落ち込んだ様子のアビゲイルに慌ててフォローを入れた時、イリナからメールが入った。

 

「ちょっとごめんなさいね。……見失った!? もう、何をやっているのよ!」

 

 酷く慌てた様子のリアスは別れの言葉もそぞろに走り去っていく。その様子を眺めていたアビゲイルは少し残念そうで不満そうだった。

 

「もっとお話ししたかったのに残念だわ。……でも、王なのに大変ね。あんなにこっそり見張らないと駄目だなんって。きっと我が儘な人達なのね。ゼファードルさんは大丈夫なのかしら?」

 

「まあ、私達の主は女王がしっかりしているからな。私も契約業務以外はしたくないが、勝手な真似は自分の首を絞めるからしないさ」

 

「少し忙しすぎる気もしないでも無いのだけどね。……ゼファードル様の眷属の穴埋めや自分の眷属探しも仕事に加わったし、残りの有給を有意義に過ごして欲しいものだわ」

 

 当初の目的であった迂闊な行動への注意はできなかったが、よくよく考えれば自分達がしても、更にアビゲイルの前なら反発を受けるだけで厄介なだけだったと思い直す二人。心配はアリエルの言葉通りエルゥへと向かい、そのまま目的地へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。有給ももうすぐ終わりかぁ。あっ、リップ。口元にクリームが付いているよ」

 

「はうっ!?」

 

 一方その頃、庭でパッションリップとティータイムを楽しんでいた。レジャーシートに並んで座り、キャット特製のクリームパイと自領の紅茶をアイスティーにしてゆったりと過ごす。途中、執務室を覗いた時に大量の書類仕事に励むヴァイオレットと業務用の部下達の姿を見たのは忘れ、エルゥは指先で口元のクリームを拭ってあげ、そのまま舐めとった。その光景を真っ赤になって見詰めるリップは高鳴る鼓動を押さえつつ、エルゥの肩により掛かった。

 

 

(……うん。耐えなきゃ駄目だ、耐えなきゃ駄目だ、耐えなきゃ駄目だ、耐えなきゃ駄目だ、耐えなきゃ駄目だ)

 

 前にも触れたが彼女は両腕のせいでとても重い。何時しか寝入りながら抱き付いて来た彼女の重量に耐えつつエルゥは空を見上げる。冥界の青くなく太陽が存在しない空を見上げ、風の心地よさに目を細めた。

 

「平和だなぁ。ずっと続けば良いのに……」

 

今の情勢では無理と分かっていつつ、少しの間だけでもと願うのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、朱乃っ!? どうしてその男と……それに今出てきた方向はっ!」

 

 この日、一誠は有頂天だった。何故かアーシアの救出作戦中にリアス達が言い争いを始めた理由である朱乃とのデートでは振り回され、リアス達の尾行を撒いた際に辿り着いたホテル街。今、その通りに入って暫く休憩……実際は体を動かしたのだが、を済ませて出てきた時、聞き慣れた男の声が聞こえて来る。

 

「……貴方には関係ないわ」

 

 朱乃のつっけんどんな言葉を向けられた声の主、バラキエルは何があったのかを察したのか憤怒の感情を必死に抑えている様子。その様子に一気に恐怖と焦りに襲われた一誠だが、バラキエルが抑えている理由である人物達に視線が向く。

 

 片方はアーシア救出の際に露払いを請け負ってくれた北欧の主神オーディン。そして隣にはオーディンの養女であり同じ立場の筈のロスヴァイセが何故か気を使いすぎている女性、ヒルダ。今日は私服姿であり、儚げな美女の胸や太股に視線が向いた時、心臓が止まるほどの殺気を向けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……小僧。儂の娘に随分な態度じゃな」




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