いずれ刃が届く日を……   作:ケツアゴ

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第四十四話

 はぐれ悪魔黒歌。SS級、つまり最上級悪魔クラスに匹敵する強さを持っていたが仙術を暴走され闇に飲まれて主を殺害して逃走した憎むべき悪、それが彼女への評価……だった。

 

 

 

「それでは今までの行動は全て亡き主の為だったと言うのですね?」

 

「ええ、そうよ。大恩ある主、そして主の家であるネビロス家の為、私はテロリストの組織に潜入し、主の仇を討ったの」

 

 この日に行われた緊急会見によって彼女への評価は一変した。組織の存在を政府よりも先に察し、内通者のを探るために極秘裏に調査を行い、志半ばで死んだ主の為に主殺しの汚名を背負わされながらも単身任務に励み、遂に主の仇の首と情報を持って帰還した……それがフォルビウムとゼクラムの用意したシナリオだ。

 

「……正直、残された妹には申し訳ないと思ったけど、眷属悪魔として主を何より優先すべき、そう判断したの」

 

「其れほどまでに忠誠を誓うなんて立派な方だったのですね?」

 

「ええ、最高の主だったわ……」

 

 フラッシュが焚かれる中、しおらしい顔で小猫への心情を語り、其れを補足するような質問を息のかかった記者が行う。今まで部下を御仕切れず殺された者を輩出した貴族の恥曝しと裏で言われていたネビロス家の評判もこれで上向く。

 

 

 

 

 

「……ネビロス家がもっと精力的に動いてくれていれば処刑を大々的に行って見せしめやらが出来たのだがな。亡き身内の仇を討つなど民衆が喜ぶ話だろう?」

 

「積極的に動いていなかったネビロス家が偶然彼女と遭遇し、周囲に知られる事なく勝利した……うん、疑われる話だね~」

 

 会見の様子をモニターで眺めていたゼクラムとフォルビウムは見事に記者達を騙していく黒歌の演技に少しばかり感心しつつも今後のことに頭を悩ませる。英雄として眷属悪魔のあるべき姿を示した黒歌に注目の目は集まるだろうし、主を守れなかった自分がネビロス家の家臣に戻れないと他の家に仕える黒歌を引き取る先も熟考しなくてはいけないのだ。

 

 

「……取り敢えずグレモリー家だけはないな」

 

「うん、絶対にね~」

 

 

 

 

 

 

 朝を知らせる目覚まし時計のベルが鳴り、仰向けに寝ていたエルゥが目を覚ます。少々疲れから脱力感を感じながらも起きあがろうとすると右腕を引っ張られて右を向かされた。

 

「……もう起きるのですか? 少し甘えたい気分ですが……仕方がないですね。これで我慢しましょう」

 

 同じベッドで互いに素っ裸で寝ていたヴァイオレットは、エルゥの腕を掴んだまま身を乗り出して胸板に胸を押しつける様に密着してキスをする。少しだけ舌先を唇の隙間に押し込んだ後、悪戯が成功した時の笑みを向けてきた彼女に微笑み返したエルゥだが、左腕がやや乱暴に引っ張られる。見れば同じく服を着ていないメルトリリスが不機嫌そうな顔をしていた。

 

 

「……朝から見せつけないでくれるかしら? 昨日は貴方を独占できなくて物足りないから不満なの」

 

「いえ、随分と楽しんでいましたよ、貴女? 彼に跨がって随分と愉快そうにして一向に譲らないので縛ってなすがままにしてみましたが……エルゥ、メルトにもキスを」  

 

 ヴァイオレットに言われるがままにキスをすればメルトリリスは鼻を鳴らしてそっぽを向く。だが、嬉しさが顔に出てしまっていた。

 

「……この程度で私が機嫌を直すと思ったら大間違いよ。大体、貴方が私に何もしなくて良いの。私がなすがままにされなさい、エルゥ」

 

「じゃあ、今度は君からキスしてくれるかい?」

 

「……え? も、勿論よ。……ちょっと、ヴァイオレット。あっち向いていなさい。軽々しく見るものじゃないわ」

 

「……今更だと思いますが。最後には私が時間を止めて、解除した途端にその間にした事の快楽が一気に来たせいで……ふぅ」

 

 余計な事を言うなと睨む妹に嘆息しながらヴァイオレットは仕方なく背中を向ける。辿々しい動きでキスをしている音が背後から聞こえてきた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! エルゥさん、お早うございますわ!」

 

 朝起きてからのことを想定して早い時間帯に目覚ましをセットしていたエルゥが着替えて食堂に向かっていると丁度アビゲイルと遭遇した。眠そうに目を擦りながらお気に入りの縫いぐるみであるラヴェニア片手にフラフラ歩いていたがエルゥを見るなり駆け足で寄って挨拶をし、直ぐに我に返って両手を頬に当てて恥ずかしがる。

 

「いけないわね、私。廊下を走るなんてレディーにあるまじき姿だわ」

 

「僕としては君が来た頃よりも仲良くなれたって事で嬉しいけどね? うん、お早う、アビー」

 

 随分と活発さが出てきたアビゲイルの姿に嬉しさを感じつつ頭に手を伸ばすエルゥ。乗せられた手にビックリしつつも抵抗する様子どころか嬉しそうだ。……子供らしく頭を撫でられるなど今までの人生でなかったからだろう。だが、途中で恥ずかしくなったのか顔を赤らめて離れる姿も可愛いと思うエルゥであった。

 

 

「今日はどんなご予定かしら? 放課後に何処か連れて行って貰えれば嬉しいのだわ。……ワガママかしら?」

 

「いや、君はもう少しワガママになった方が良いとは思うけど大丈夫だよ。……ああ、でもごめんね? 今日は放課後に予定があるんだ」

 

 少し……いや、かなり憂鬱そうにしながらエルゥは肩を落とす。今この瞬間ははアビゲイルだけが癒やしだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……書類は出来ているわ」

 

 放課後、用事でオカルト研究部を訪れたエルゥだったがピリピリとした空気が伝わってきた。正確にはリアスが不機嫌を隠さず一誠が萎縮して、木場とギャスパーが居心地を悪くして小猫が上の空、そしてアーシアが無関心で朱乃が不在、差し出された書類を動じる事なく読み出すエルゥがこの場所に来るに到った経緯が気に食わないのはリアスの表情が告げているのだ。

 

「……兵藤君の家を改築し、税金や電化光熱費等の諸経費を負担しているけど、ご両親が住んでいるのだし、本来掛かっていたであろう分はそっちから出して貰って欲しいかな? ああ、それに旧校舎内の設備維持費や会議等の茶菓代が結構しているけど茶葉の値段も少し高いね。貴族に相応しいレベルの茶葉でも少し安いのがあるからそっちで……」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!? 幾ら何でもそれは……」

 

「ああ、主と眷属は共に居るべきだって言うのなら男性陣も同居して、今暮らしている場所は売却か貸し出して貰いたいね。……随分と無駄が多いし、財政最適化への道は遠いよ」

 

 指摘要求に対して思わずリアスが口を挟むもエルゥは気にせず続け、最後の一項目に口を出し終えると共に立ち上がった。

 

「じゃあ、後日財政監査の担当者を派遣する事になりますので。大丈夫、ふくよかな見た目の陽気な男性です」

 

 最後までリアスの抗議に耳を貸すことなく去っていったエルゥ。リアスは閉じられた扉を睨んだ後で悲しそうに呟いた。

 

「……どうしてこんな事に」

 

 そう、何故今回のような事態に陥ったかというと、貴族の中でグレモリー家を紛糾する声が上がったのだ。いや、貴族だけでなく堕天使や天使の中にも声を上げる者は多い。自分達が命懸けで戦っている間にふざけた真似を晒した彼女達一行を、魔王や貴族には敬語を使うのに堕天使や天使の幹部には対等であるかのような口調のリアスへの不満が当然存在した。

 

 結果、下の者の不満を抑え組織内の結束の崩壊を防ぐためにバラキエルが下した決断で朱乃は心に変調を来し、グレモリー家は他神話への謝礼金の大部分を負担せざるを得なくなった。

 

「……あの部長、俺に出来ることなら何でもします。部長の、グレモリー家の力にならせて下さい!」

 

「イッセー……有り難う」

 

 だが、其れほどの金額を負担すれば財政が逼迫して民の暮らしに影響がでる。大規模な暴動に繋がる可能性を阻止する為と、財政に余裕のある家、特にグシャラボラス家が融資を行い、その代わりに財政管理の一部に口を出す事になったのだ。

 

 誇り高いリアスは其れが気に入らず落ち込むが、一誠から慰められ思わず彼を抱き締めた。朱乃と関係を持った事で嫉妬から拗ねていたが、この瞬間から元の関係に戻る二人。

 

 その姿をアーシアは一瞬だけ視線を送り、直ぐに興味がないように別の場所に目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……馬鹿みたい」

 

 誰にも聞こえないように呟きながら……。




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