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「素晴らしい出来だっ!」
「これならば異端の愚か者共を根絶やしに出来るぞっ!」
名を奪われ記号でしか呼ばれなかった頃、狭い部屋の堅いベッドの上で研究者達が騒ぐのをエルゥは無表情で眺めていた。同じ部屋には四つ子の姉妹が居て、幼いからか、それとも人として見ていないからか、彼らは実験体の中でも特別な存在だからか、兎に角五人は同じ部屋に押し込まれていた。
研究者が賞賛しているのは暴走も実験に耐えきれずに死んでもいないエルゥ達でなく、そんな結果を出した自分達の頭脳と信仰心で、良心の呵責など有りはしない。彼らは狂信者であり、狂人だった。
「またお話が聞きたいな……」
最低限の精神状態を保つための世話係が飴と鞭の飴として偶に語ってくれる物語や、集団での実験の際に話すことが出来る別室の子供達だけが希望であり楽しみで、少なくても研究者達の崇める神に祈る気は起きなかった。
「その時の夢を見て起きたら、手を差し出しながら、『貴方の仕事、休息、食事、全てを私が管理します。私の徹底的な管理下こそが幸福なのです。さあ私と清く正しい交際を』、って言われた時は焦ったよ。メルトはリップじゃなくて彼女に似たんだって再認識さ」
「君も言っていたが少し依存しているのではないか? 男女の事は良く分からないので何とも言えないが……」
「うーん。三人は一緒に逃げた皆の中でも特に顕著かな? 姉妹だから似たんだろうけど……」
修行の合間、休んでいる最中の会話の内容に困ったような顔をした老人。彼が悪魔であるエルゥに修行を付けていると知れば多くの者が絶句するだろう。何せこの老人、ヴァスコ・ストラーダは伝説級の悪魔祓いであり、今は仲間を斬り殺した狂人として教会から追われる身であり、その来歴から悪魔や堕天使にも狙われている。
彼を擁護する者からすれば人間の世界にワザワザ来て無辜の民に手を出す方が悪いと言うだろうが、友や家族を殺される悲しみや憎しみは理屈で耐えられる物ではない。そんな彼は今、エルゥの手によって匿われていた。
ヴァスコとエルゥが出会ったのは二年前であり、彼が追われる身になったのは出会ってから数カ月後の事だ。そして彼は知っている。自分達の組織がエルゥ達に何を行ったのかも。それこそが彼の現状に繋がっているからだ。
「そう言えば聖剣計画の生き残りかもしれない人と、聖女アーシア・アルジェントがリアス・グレモリーの眷属に居るよ」
「……そうか。なら出来れば伝えて欲しい事があるのだが……」
確かにヴァスコは敬虔な信者だが、闇の部分から目を逸らす愚か者ではなく、犠牲者に対し祈りが足りなかったと責任を押しつける程に盲目的でもない。何より神への信仰を非道な行為の免罪符にする事に義憤を感じる程に正義感が強い男であり、彼が殺したとされる仲間、手塩にかけて育てた愛弟子達も彼の同類であった。
「……何度も聞くが神は憎いかね?」
「僕達の過去は神の無力と怠慢によって引き起こされた。復讐するは我にあれと言うけど研究者達に天罰を落として救ってくれなかった。死んだ子達を理由にはしない。僕は僕のために神を憎む」
「……そうか」
ヴァスコは悲しいとは思うが止める権利は自分には無いとも思っている。自分も無自覚なだけで彼らにとっては加害者の一人なのだと自覚しているのだ。知らなかった、止められなかった、そんな言葉に一文の価値もないと理解しているからこそ、信仰に反することになっても力になりたいと修行を付けていた。
「では、そろそろ続きと行こうか」
「うん。そうだね。宜しく頼むよ」
ヴァスコが握るのは全盛期に振るっていたデュランダルと酷似した聖剣。エルゥの周囲の地面からも同等の剣群が刃を覗かせていた。鳴り響く剣戟と、余波で荒れる大地。二人の手合わせは日が暮れるまで続くのであった。
「さて、頼まれたのは良いけれど実際どうしようか困ったね」
ヴァスコも出来ればと言っていた通り、彼との繋がりを悟られないようにするのは困難だと悩むエルゥ。案を募ろうとヴァスコとの繋がりを知る数名を呼んでいた。
「危険を冒す必要はありません。彼も無理にとは言わないでしょう」
真っ先に冷徹に言い捨てるのはリップやメルトに似た顔付きで高身長の女性。指先で眼鏡の位置を直しつつ、ハッキリと言い切った。
「相変わらず固いなあ、ヴァイオレット」
「頭が固いのではなく事実を言っているまでです。第一、危険を冒してまで匿っているのですから頼みを聞く義理はないかと。彼が追放されたのも信念によって動いた結果です」
取り付く島もないとはこの事で、女性は一切の躊躇も感じさせない。エルゥも彼女の言い分は正しいとは思うし、どうにかしたいというのは我がままでしかないと分かっていた。
「でもさ、木場君の方は僕達の同類だ。せめて伝えてあげても良いとは思うよ? ……どうしたんだい、レオ?」
エルゥも特に訴えかける様な真似をしないで更に意見を述べた時、隣に座っていた白髪の幼い少年が彼の服の裾を引っ張った。
「……なんだ?」
この日、オカルト研究部の部活動として一誠の家で彼の家でアルバムを見た帰り、木場祐斗は燻っていた憎悪の炎が再燃し始めていた。聖剣エクスカリバーの使い手を作り出すという聖剣計画の被験者の一人だった彼は失敗として処分されそうになるも仲間の手によって一人だけ逃げ延びた。
悪魔としての新しい人生、平和な日常、忘れ掛けていた生きる目的である復讐を、写真に写る聖剣を見て思い出したのだ。そんな帰り道、彼の頭に鳥が止まる。何の変哲もない普通の鳥で、誰かの使い魔という気配も感じない。その嘴に手紙を咥えていなければ彼も普通の鳥で済ませただろう。
「……え?」
手紙を受け取ると鳥は直ぐに飛び去って行き、祐斗は何となく手紙を開く。そしてたった一行の文章を見て固まった。
『一人だけ神器の力で生き延びた少女がいる。数年間目を覚まさないでいるが、聖剣計画の生き残りは君だけではない』
つい手紙を取り落としそうになり、慌てて読み返すも内容は変わらない。誰からかも、真偽も分からない内容、だが、それでも信じられた、信じたかった。自分を生き延びらせる犠牲になった仲間が一人だけとはいえ生きているのだという事を……。
涙が流れ出し、思わず目で拭くも止まらない。この日彼は少しだけ救われた気がした……。
「まさか隠蔽に長けた魔獣を作り出せるとはね。成長したじゃないか、レオ」
「……うん」
エルゥの手に先ほどの鳥が止まり、少年が念じると煙の様に消え去る。本当に只の鳥ではなく、神器によって作り出された存在。神滅具『
「じゃあ屋敷に戻る前にケーキでも食べに行こうか。ヴァイオレットは無駄遣いだって怒るだろうけどね」
「エルゥ、モンブランが食べたい」
「そうかい。じゃあアステリオス達の分も買って行こう」
エルゥはレオと呼んだ少年、レオナルドと手を繋いで歩いて行く。神器という常識外の力を望まないにも関わらず与えられ化け物扱いを受けた幼子。そんな彼を保護したのは彼と同じ化け物達。だからこそ彼はエルゥ達に心を開き、幼心で役に立ちたいと思うのであった。
「なあ、俺の扱いおかしくないか? 俺、貴族だぞ? お前らの主だぞ?」
「君、君足らぬなら、それを正すのは悪に非ず、だよ」
何かをやらかしたのか屋敷の庭の木に鎖で逆さ吊りにされているゼファードル。文句を言うもエルゥは解放する気など毛頭無い。
「えるぅ、おろしてあげて」
「あら、駄目よアステリオス。悪い子にはお仕置きしないと。レオに歌を歌ってあげる約束をしてるから一緒に行きましょう。ほら、肩に乗せて」
「う、うん」
眷属の中で唯一の味方であるアステリオスはアイリスに言われるがままに去っていき、ゼファードルをチラチラ見ながらも助けてくれそうにない。仕方ないので諦めた彼だが、自分を吊したまま放置しないエルゥの姿に少し察した。
「でっ、聞かせたくないか、うっかり話すかも知れないから聞かせられないか、どっちだ?」
「後者。どうもだいぶ上の方の堕天使が町に入り込んだみたいで、悪魔祓い数人が後から入るけど殺されてる。……流石に中級悪魔の僕じゃ魔王様とアポは取れないから頼むよ。流石に当主様が動けば他の派閥も気付くし、政争は避けたい」
「任せろ。何せ俺は魔王の身内だからな。あまり身内びいきする人じゃねぇがアポ程度ならどうにでもなる。……んじゃ、降ろせ」
渋々といった様子でエルゥが鎖を外すとゼファードルは地面に頭から落ちる前に片手で体重を受け止めて飛び上がる。空中で半回転した彼は華麗に着地、そのまま深い落とし穴に落ちた。
「なぁあああああああっ!?」
「あっ、言うの忘れてた。落とし穴有るから危ないよ」
「遅いわぁああああああああああっ!!」
穴は深く幅は翼で飛ぶには難しい絶妙の狭さ。落ちる際に引っかからないようにと塗られた油が壁に手を当てて登る邪魔をする。エルゥが三時間掛けて準備した特性のトラップだった。
「ったく、俺だから良かったけど、メイドやら庭師が落ちたらどうすんだよ。使用人の餓鬼共も庭で遊ぶだろうが」
「その辺は大丈夫。君以外には教えておいたから」
何とか脱出したゼファードルが連絡を入れた所、怠け者で仕事を眷属に丸投げして自分は寝たりしている魔王ファルビウム・アスモデウスと早速会える事になった。
(此奴が眷属だったら殴って仕事させたんだろうな。いや、袋叩きにした上で首から下を埋めるか)
(何故眷属の人達は袋叩きにした後で首から下を地面に埋めないのかな?)
主従が知らない間に通じ合っている中、フォルビウムの執務室に通される。ノックをして入った時、机に突っ伏して寝ている魔王の姿があった。
「……殴るなよ?」
「流石に魔王は殴らないよ」
「……斬るのも蹴るのも無しだからな?」
エルゥがフォルビウムを叩き起こすのを阻止したゼファードル。殴らないとはいったが、本気で信じていなかった。
「んー、サーゼクスは兎も角、セラが知ったら暴走しそうだねー。リアスちゃんから報告有ったって聞いてないけど、教会を牽制する盾にするために侵入したなら下手に動けば藪蛇かー。あの子、直情型でプライド高いから教えたら拙いよねー」
結構な事態だというのに間延びしたままのフォルビウムは時折眠りそうになりながらも机の中から一枚の書類を取り出す。サインと捺印だけされた白紙の書類だ。
「取り敢えず様子見で、何かあっても縄張りの関係で下手に動けないって時に好きに書いてー。じゃあ、僕は寝るから……」
そのまま本当に眠り出すフォルビウム。渡されたのは自由に動いて良いという許可書であった。
「フォルビウム様、良かったのですか?」
「んー?」
二人が帰った後、後ろに控えていた眷属の問いに目を覚ましたフォルビムは相変わらず眠そうな声で返答した。
「大丈夫大丈夫。リアスちゃんの性格は把握してるし、教会側の動きも予想がつくから、展開はさっき考えた通りになると思うからさー。サーゼクス達には悪いけど堂々と怠け続ける為に手柄は僕達の陣営が貰っちゃおうよ」
感想お待ちしています
フォックステイルのシンジ・・・漢だった ゲームでもだけど