ギャスパー・ウラディはリアスの眷属であり、日々成長していく魔力と神器の力がコントロール出来ずに封印された半吸血鬼だ。もし彼がルシファー派でなくアスモデウス派の悪魔の眷属ならばガギラによって視界に対する時間停止の能力を持つ『
まあ、リアスには一生扱えないと魔王が認める事になるのだからグレモリー家の威信の為にもどちらにしても無理だっただろうが。
「おや、頑張っていますね」
そんな彼だがアズリィ作の魔眼殺しによって普段は能力を封印し、匙の神器で余分な力を吸収する事で封印の解除が許された。勿論訓練をすることが条件だが、引き籠りの彼からすれば怖い外に出たくはないのに親しくもない相手との苦手な外での訓練は精神的に辛かった。
そんな折り、訓練中の彼らの元にアズリィが現れる。停止用のボールを投げていた一誠は手を止め、ギャスパーは知らない相手の来訪にパニック気味だ。顔を引きつらせて今にも逃げ出しそうである。
「ひぃいいいいいいいっ!? 誰ですかぁあああああっ!?」
「この服装、そんなに変かしら? ちゃんと町中に出るのに相応しい格好なのですが」
Tシャツにデニムのズボン、日差しが強いので日傘を差したアズリィは聞いていた以上の人見知りな反応に戸惑い気味だった。
「こら、ギャスパー。お前のその眼鏡を作ってくれたお姉さんだぞ! ちゃんと挨拶しろ」
「こらこら、人が苦手なら仕方ないわ。心の問題は複雑ですから。それに魔法で若返っているだけでお姉さんって歳じゃないですよ? 貴方くらいの孫が居ても……忘れましょう。それで魔眼殺しの調子はどうかしら? サイズは自動的に合う設定だけど、キツかったら言ってくださいね?」
一誠が思わず声を出すもアズリィは和やかに穏やかにそれを制する。年齢について聞いていても信じられなかった一誠と匙だが、その姿には年を重ねたご婦人の貫禄を確かに感じた。まるで長年生徒を見守ってきた老教師の様だ。
「こ、こんにちは。ご、ごめんなさい。折角アイテムを作って貰ったのに怯えちゃって……」
「ええ、こんにちは。良いの良いの、苦手なことは誰にでもあるし、私も対価は貰ったもの。神滅具の一部なんて凄くレアな研究資料ですよ?」
アズリィの穏和な人柄故か少し警戒心が和らいだ様子のギャスパーに彼女は笑いかける。彼女がリアスに要求した対価は赤龍帝の籠手の宝玉一個と欠片少々。砕いて出した欠片は直ぐにアズリィによって保存され、宝玉も研究に使われている。その成果は契約相手であるエルゥにも流れており、その結果は近い内に一誠も知る事になるのであった。
「……はあ。支給された費用を絵画を買う金に使ってしまったと。つまり貴女は仕事に支障が出る事よりも、自分が絵を手に入れるという欲望を優先した訳ですね。それとも、貴女の信仰心は物に由来するのですか?」
エルゥとのランチタイム中、水腹で飢えを凌ごうとしているゼノヴィア達に遭遇したヴァイオレットは心底呆れ果てていた。エルゥが余計ないざこざを避ける為に悪魔の気配を隠したのだが、それで二人が人間だと思った彼女達は信仰心の薄い日本人ではないのでいけると思い、神の僕である自分達へお恵みを、と、懇願してきた。
一般人と思ったのか聖剣の類の話は避けて事情を話すイリナだが、デートを邪魔された腹いせか、何時ものヴァイオレットなら無駄不要余分と言い切る様な嫌味を言っていた。どうせ余るからと分けられたサンドイッチを食べながらなのでイリナも文句は言えず、ゼノヴィアも不満があったのかフォローする気は皆無だ。
「で、でも、主ならきっと助けてくださると思うわ。ほら! こんな風に親切な貴女が助けてくれたし」
「つまり神を試したと。……ああ、確か神が人を試すのは良くても、人が神を試すのは駄目だった筈。……それと一つ」
最後の一個に手を伸ばしながら自己弁護するイリナだが、それより先にヴァイオレットの手がかすめ取ってエルゥの口に運ぶ。一個でも多くをエルゥに食べて貰いたかったという乙女心を満たした後、イリナの顔に自分の顔を近付けて視線を合わせる。吸い込まれそうなヴァイオレットの瞳からイリナが目を離せない中、氷のように冷たい無感情な声で言った。
「私達は貴女達が所属する教会によって人生を狂わされました。飢え死にしかけた身として一度は助けましたが、それを神の思し召し等と言われればと反吐が出ます。……行きますよ、エルゥ」
「待て、今のはどういう事だ……?」
バスケットと本を手早く纏めたヴァイオレットはエルゥの腕…掴むと歩き出す。その背中にゼノヴィアの声が掛けれた。アリエルの言葉が響いたのか、それともある人物の言葉の為か、怒りからではなく戸惑いからの言葉だ。ヴァイオレットは答える気は無いと歩みを止めず、エルゥが代わりに答えた。
「……そうだね、教えてあげるよ。教会が行った人道に反する研究は聖剣計画だけじゃないのさ」
「えっ……」
「……」
聖剣計画の事はイリナも知っていたが、他にも何かをしていたとは思っていなかった。恐らくアリエル同様に口振りからして二人がそれに関わっていることも察したのだが、ゼノヴィアは驚いた様子を見せず何処か納得した様子だ。この時、彼女はとある人物の言葉を思い出していた。
『お前の信仰は教会を通さなければ意味がないのか、それを考えておけ。今の教会を盲信しては駄目だ』
この後、彼は弟子である部下を斬り殺したとして手配されて行方不明。上層部は再調査を拒み、彼に師事していた悪魔祓い達は猜疑心を抱くのであった。今思えば自分とイリナだけしかエクスカリバーに対抗できる戦力が居ないのも……その考えを振り払おうにも振り払いきれなかった。
「ねぇ、ヴァイオレット。君は今の自分に腹が立って居るみたいだけど、何時も感情を押し殺して居るんだし、別に構わないよ。偶に自分に素直になってもさ」
ゼノヴィア達と別れて町中を歩いていた時、不意に投げかけられた言葉に全てお見通しかと、ヴァイオレットは溜め息を吐く。珍しく感情のままに行動して合理的でなかったと嘆いたが、その言葉で少し救われた気がした。
(私のことを分かっているのですね、貴方は。素直にですか……あっ)
ふと手元を見れば手は繋がれたまま。思わず手を離しそうになるもギリギリで踏みとどまる。数秒の逡巡の後、腹にグッと力を入れて気合いを込めた彼女は少しだけ勇気を出せた。
「エルゥ、今日一日は私に付き合う約束です。時間は有限、次に行きますよ。……失礼」
繋いでいた手を引き寄せ、腕を組む。この時点で限界に近かったのだが必死に耐え抜き、上擦りを抑え込んだ声で平静を装いながらエルゥに少しだけ体重を預けた。
「次はどこに行くんだい? 何処でも一緒に行くよ」
「……なら、ホテルにでも行きますか? 歓楽街で出来なかった事程度、私がしてあげましょう。その方が合理的です」
「え? あっちに行くのかい?」
当然、冗談だ。年上の余裕を見せたかったのだろうが、エルゥに押し付けたリップ以下メルト以上の胸を通して鼓動は伝わっているし、声は必死に取り繕っても顔には余裕の欠片も無い。知らぬは当人ばかりなりの中、エルゥは驚いたように右の道を指差す。その方向に立ち並ぶのはどういうのとは明言しないが、そういう目的のホテルである。
「さて、別の道に行って喫茶店にでも行こうか」
冗談に対して冗談で返して満足したエルゥはヴァイオレットの羞恥心がこれ以上刺激されない内にと道を変えようとするも、ヴァイオレットはそのままエルゥが示した方向に歩き出す。普段の堅物な彼女からは考えられない行動だ。
「……知っていますか、エルゥ? 普段私が口にしている、こうすべき、こうあるべき、は理想で、こうしたい、というのは欲求です。理想を目指すのが賢い選択であり、欲求に従うのは愚かな行為ですが……偶に愚かな真似をするのも面白いでしょう」
余裕のある声色で告げるヴァイオレット。顔は結構ギリギリだった。
「ちょっとゼノヴィア、何処まで進むつもり? 何か迷いそうよ、この森」
ゼノヴィアはエルゥの言葉を聞いた後、人気のない場所で考え事がしたいと言って町外れの森の中を突き進んでいく。イリナが慌てて追い掛けて止まるように言うも彼女は歩を止めず奥へ奥へと進んでいった。訓練や任務で森や山の険しい道を何度も歩いて慣れているイリナは足を取られる事はなく軽快に進むも、時間が経つに連れて少し不安になって来た。
そんな時、廃墟の近くで急に立ち止まるゼノヴィア。彼女は不安そうな声で言った。
「……なあイリナ、主は絶対に正しい、それは間違いない。……だが、教会は絶対的な正しさなんて持ってないんじゃ無いか? ……こんな悩みを持った事への罰か、それとも無一文で困らないように導いて下さったのか、どちらにしても食後の運動にしてはハードだな」
上を見て剣を構えるゼノヴィアに釣られてイリナも廃墟の屋根に視線を向ける。十枚の黒い羽を持った男が二人を見下ろしていた……。
後二話程度で三巻が終了 騎士の募集もそこまで 候補は幾つか 五巻のプロットもチラホラ
三巻終わったらオリジナルの更新、その次はダンまちかなぁ・・・