嗚呼、平和ボケしたのは堕天使だけでなかったのだな、コカビエルは自分に対抗するために派遣された聖剣使いの少女達を見て嘆く。
趣味に走る同胞、レーティング・ゲーム等という戦闘ごっこに興じる悪魔、人への過干渉を嫌う他の神話を恐れてか天界からの干渉が減って久しく、上層部が敵味方の戦力の比較さえ満足に出来ない教会。
「俺を出し抜いて聖剣の奪還が出来ると思ったのか? 神の祝福と伝説の聖剣があれば堕天使如き倒せると本気で判断したのか? ……くだらん」
もはや怒りすら湧いてこないと嘆息しながら見下ろす。
「お前達、聖剣さえ使えば歴代の強者に並べるとでも夢想したか? 阿呆が。奴らは聖剣が有るから強いのではなく、強い上に聖剣を持っていたのだ。だから今、そのような醜態を晒している」
イリナの手から剣が弾き飛ばされ木に突き刺さっている。擬態の聖剣を光の剣で弾き飛ばし、顔から地面に叩き付けた後で右の太股に光の槍を突き刺して縫いつけられていた。激痛で気絶も出来ないのか悲鳴が耳障りだった。
ゼノヴィアは破壊の聖剣が破壊されるがいなや投げ捨てデュランダルだけでの戦闘に移ったがコカビエルに一蹴された。跳躍からの振り下ろしに合わせて羽で切り裂き、腹部に蹴りを叩き込んだ。血と胃の内容物が混じった物を吐きながら此方を睨む気概は評価できるが、もう剣を杖にして前のめりに倒れないのがやっとの状態だ。
「ふん。お前達と先に入ったお前達以下の雑魚だけで任務達成が可能だと思った教会の上層部は腹立たしいが、貴様等には失笑を通り越して憐憫すら感じるよ」
「黙れ……。堕天使の貴様に憐れまれるなど主の僕である私達には屈辱でしかない」
「ああ、そう言えば知らなかったのか。先の大戦で魔王と共に神も死んでいるぞ。今はミカエルが神が残したシステムを運営している。……もっとも此処五年の間、神器を宿して生まれる者が皆無な辺り、崩壊も近いか?」
そこまで言って二人の反応を待つコカビエル。イリナはショックを受けながら否定しようとしているがゼノヴィアは違う。笑い声さえ聞こえてきた。
「くっ、ははははは……」
「何だ、気でも狂ったか?」
「いや、私は正常さ。此処数年、ずっと思っていたんだ。何故神は教会の蛮行をお止めにならないのか? 時に神は私達など興味がないのでは、とさえ思ったが、死んでしまったのなら当然だ。……侮るなよ、コカビエル! 殆どの者は神の声など幻想ですら聞かない。なのに何故神が信仰されるのか。それは神とは己の心に存在するものであり、人が許せない己の邪悪さを律する為、裁いて欲しい為だ! 神の死、その程度で私の信仰は揺るがない!」
ヴァスコの最後の言葉、そして教会への疑念。それがゼノヴィアの心を乱していたが、神の死を知って納得した。神は人を見放さなかったと。この瞬間、彼女は少しだけ変わり、主の為ではなく自分の意志で戦う覚悟を決めた。
「……ふむ。折れた心のまま放置するのも一興かと思ったが、お前は戦士として死なせてやる。本望だろう? さて、これが終われば次は魔王の妹達だ。貴様との落差を見て失望するのも不快だし、さっさと殺しに行くか。戦争の再開の為にもな」
だが、覚悟一つ上乗せしても被我の差は絶対。コカビエルの右手に光の槍が出現し、立ち上がろうとするゼノヴィアへ投擲する構えを取る。その腕が銃弾に撃ち抜かれた。
「ぬっ!?」
弾は腕を貫通し、血と肉が傷口から飛び出る。撃たれた事に動揺するコカビエルだが、彼の驚愕を誘ったのは傷から感じる痛み。間違いなく聖剣によるダメージだった。
「伏兵? それよりも教会は聖剣を銃に加工する技術でも持っていたのか?」
ゼノヴィアの表情を見る限り、極秘の技術な上に囮として援軍を知らされていなかったか、それとも第三勢力か、どちらにしても嬉しかった。此処にきて自分を殺しうる敵の存在が明らかになったからだ。こみ上げてくる歓喜に冷静さを失いそうになりながら必死に押し殺す。何せ長らく体験していなかった殺し合いだ。
「さて、このまま空中にいては良い的だ、地面に……ちっ!」
彼を囲むように地面の三カ所、三角形の頂点から水がわき出る。染み出した程度の量から急激に勢いを増し、遂に間欠泉の如く吹き出した水が巨大な蛇になってコカビエルに襲い掛かった。
「さっきの仕留められたんじゃないのかい?」
「いや、先程の一発で限界だ。この通りにな。それに俺がこの場で倒しては不都合が生じる」
先ほどの狙撃を行ったデイビッドは水の蛇の突進を避けながら反撃するコカビエルの姿を眺めていた。液体故に光の槍も突き抜け、弾き飛ばしても直ぐに再生する。そんな光景を眺めているのはもう一人。アジア系の顔立ちをした短髪の青年で、筋肉の上に脂肪を付けた相撲取り体型。彼の視線に連動するように水の蛇は動いていた。
デイビッドが彼にライフルを持った手を向けると銃身が変形し、中央に罅が入った聖剣へと変わる。軽く振れば音を立てて崩れて消え去った。
「あらら。流石に銃に変えるのは無理があったか。それにしても今倒したら駄目だなんて、同じ兵士なのデイビッドは色々考えているんだな。オイラには難しいことは分からないや」
「いや、奴の聖剣はそれなりの出来だった。最近酷使したのが原因だ。耐久性のテストも兼ねていたので問題はないが。……お前も少しは学べ。さて、連絡を入れるとしよう。残党は出さん。殲滅だ」
今が好機とゼノヴィアは這ってイリナに近寄ると槍を引き抜き、二人で逃亡を開始する。狙撃を警戒してか水の蛇に手間取っているのかコカビエルは追撃する様子を見せず、二人は徐々にだが離れていく。その様子を見ながらデイビッドは携帯電話を取り出した。
「 ……やはり貴方は私が管理する必要があると確信しました。貴方が昇格し、私が女王になった暁には今以上に厳しくさせて頂きます」
薄暗い部屋のベッドの上で疲労から四肢を投げ出しながらヴァイオレットはエルゥに告げた。長い髪は邪魔にならないようにと束ねられ、その魅惑的な肢体には何一つ纏っていない。荒い息と共に胸が上下する身体は汗とその他に塗れ、シーツに着いた血の染みと部屋に漂う香りが何があったかを告げている。
ヴァイオレットの発言と疲労している様子からして余程の内容だったようだ。二人がホテルに入ってから既に随分な時間が経過している事も要因らしい。
「昇格か。色々手がけて評価は貰ってるけど、ゼファードル様の成人までは保留って言われてるから後数年だね」
「構いませんよ。あの地獄で姉さんが言い出した約束、あの日からずっと貴方の側に居ると決めましたから。……此処から出たら皆揃ってエルゥ君のお嫁さんにして貰いましょうか、なんて冗談を言い出した人だけが居ないなんて皮肉ですね」
「……そうだね」
ベッドの横に腰掛けてエルゥは昔を思い出す。暴走した仲間に最後の最後で追いつかれた時、ヴァイオレットは力の使いすぎで倒れ、戦えるのは自分と彼女だけだった。だから一人残ると言い出したエルゥを気絶させ殿を務めた彼女。生死は不明だが、どこかで諦めている。
「……あの地獄で貴方が励ましてくれたから私達は狂わずにいられました。名を一緒に考え、道具ではなく人間なのだと思えた。それを忘れないで下さい」
何を思い出したのか察したのだろう。背後から抱き付いたヴィオレットは自分の方を向かせ唇を重ねると体を引き寄せた。
「……今日一日は私と過ごす約束の筈です。……未だ今日は終わっていませんよ?」
甘えるような、誘惑するかの声で囁いたヴァイオレットはエルゥをベッドに押し倒し、再び唇を奪う。その時、着信音が響いた。ゼファードルからの着信を示す音、それも緊急時のだ。
「コカビエルが動いたから休日は終わりだ、エルゥ。何をやっているかは知らねぇが大至急集合だ」
起き上がって仕事モードに気を入れ替えるエルゥ。その背後のヴァイオレットの影、その頭部の辺りが蛇のように蠢いて見えた……。
肝心のシーン? はっはっは モチベーション次第
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