ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第十一話 名手

 

 

 しかし前衛の隊にはキルヒアイスが置かれている。

 さすがにキルヒアイス、一方的にやられて終わるわけではない。

 冷静に間合いとタイミングを取り、怪物の動きを心で計算し、目を開けた瞬間すぐに攻撃できる態勢をとる。その結果、石化される直前に目潰しの呪文を怪物の片目だけにでも当てることに成功した。

 

 怪物にとって一方的な狩り、ただの暇つぶしに過ぎないものだったのに思わぬ反撃を受けてしまうとは。

 そのダメージに怒り、咆哮する。

 かえってそこに生じた隙を見逃さない者がいた。

 

 遊軍に置かれたファーレンハイトが瞬時に決断し、前衛の方に走り込んでいた。

 

 帝国軍随一の烈将ファーレンハイト、行くべき時と判断したら一分の迷いもなく電光の迅さだ。石に変えられた前衛の者たちの陰に滑り込み、そこから躍り上がって怪物の死角から接近した。

 その迅さとタイミングに怪物も石化が間に合わないと悟ったのかもしれない。

 別の攻撃法を繰り出してきた。牙を見せ唸り声を上げながら、尾を横から飛ばしてきたのだ。

 ファーレンハイトは石化攻撃と頭部の牙に注意を奪われていたため、まさかの尾の攻撃を避けきれない。いや、あえて尾を避けるよりも怪物への攻撃を優先する。ラインハルトを信頼し、後を託すのだ。

 

「レダクト!」

 

 ファーレンハイトの挑んだ接近戦の末、やっと怪物の胴体に呪文を命中させた。

 だが何と簡単に弾かれてしまう!

 怪物の魔法耐性によって渾身の粉砕魔法もうろこを飛ばす程度にしかならない。怪物は強い。しかし逆に言うなら攻撃が全く無効というわけではないのだ。

 だがもう一撃と思ったところで怪物の尾に当てられ、軽く吹き飛ばされ、そこで意識を失う。

 

 

 この攻防をうっすら見ていた本隊のラインハルトが指示を出す。

 

「よし、前衛が踏みとどまっているうちに攻撃態勢をとる!」

 

 戦術を次々と繰り出す。それは陣を変え、艦隊運動をしながら行う宇宙での戦いと同じ、覇王ラインハルトの戦いだ。

 

 先に前衛の場所とやられていく様子から、怪物の位置を割り出す。

 広間は前衛がほぼ壊滅したことで杖先の光が減り、全体が元の薄暗闇に包まれている。

 

「敵の位置は大体分かった。しかし、全員で一度にそちらを見てはならない。必ず交代で見ることだ」

 

 それは怪物の気が変わって本隊の方を先に石化しようとしたら一気に全滅する、それを避けるためである。

 

「だが攻撃は総員で斉射をもって行う。それが最大限効果的かつ唯一の方法だ」

 

 皆は怪物への恐怖に駆られながらも逃げ出さない。

 普通ならば腰を抜かし、無様に小便を垂らしていてもおかしくないところだ。魔法学校の生徒は命の危機など今まで遭ったこともなく、本気の戦闘など見たこともやったこともないのが当たり前である。

 

 しかしそうならないのはラインハルトが少しも敵を恐れていないことが分かるからだ。

 指揮官ラインハルトの気迫が伝わってくる。それが戦いの恐怖に負けそうになる心を支え、怪物に立ち向かわせる!

 

 それはかつて率いた帝国艦隊と同じことだ。

 ラインハルトの覇気は恐れを消し去り、付き従うものを常に奮い立たせ、勇者に変える。

 常勝の提督、常勝の艦隊はそうして生まれたものである。

 

 

「総員、撃て!」

「ステューピファイ!」

 

 本隊から失神呪文が一斉に放たれ、怪物のいるであろう暗闇に飛んだ。

 幾筋もの赤い光が同じ方向に向かう。

 尾を引いて伸び、無音のうちに暗闇に消える。

 

「もう一度!」

「ステューピファイ!」

 

 今度は無音では終わらなかった。

 はっきりと怪物の唸り声が聞こえた。命中弾があったのだ!

 しかし、手応えを感じたものの、まるで斃せてはいない。

 怪物はここで前衛の残りを捨ておいて、本隊の方に向かってきた。

 

 すぐに本隊からも闇の中にその光る片眼が見え出した。やがてその巨大な蛇の姿も明らかになり、皆は驚かざるを得ない。禍々しく凶暴さをその姿に現している。

 当然そうなれば本隊にも被害が出てくる。

 本隊の中で、怪物の姿に驚いて凝視してしまったジニー・ウィーズリー、スーザン・ボーンズが続けざまに石化され倒れる。

 

 その時だった。

 前衛の隊でまだ倒されず残っていたコリン・クリービーが何かの攻撃を仕掛けた。

 

 それを見事に怪物の残された片眼に当ててのけたのだ。もう距離が離れ、しかも小さい目に命中させるとは尋常ではない。

 ラインハルトが見るとそれは呪文ではなく、小さな棘のようなものらしい。薄暗闇でよく確認できないが、コリン・クリービーは手に小さく何かを持っていて、それはボウガンにしか見えない。だとするとお手製のボウガンなのだろうか。おそらく新一年生は攻撃呪文などうまく使えないからだろうが、そんな道具を作って用意していたとは。しかもこの重大な局面で当てるのは凄い。

 

 怪物はひときわ大きな咆哮を上げた。これでもはや両目が使えなくなってしまった。だがしかし、依然として脅威が去ったわけではない。怪物は目が使えなくとも音と気配で敵の位置を察知できる。

 しかも目による石化攻撃以外に、その強靭な体を使って攻撃を仕掛けられる。

 物理攻撃でも人間などたやすく殺戮できるのだ。牙で噛み砕き、尾を振って跳ね飛ばし、胴体を使って締め上げられる。魔法学校の生徒で何とかできるようなものではない。やはり恐ろしい怪物である。

 

 怪物は見えないはずなのにぴたり正確に本隊に向かい、更にスピードを上げて迫ってきた。

 

 ここでラインハルトが先頭に立ち、なぜか怪物の進行方向の床に向かって呪文をかける。

 

「アクアメンティ!」

 

 床に水をばらまいたのだ。冷静に戦術を考えていた

 これで匂いや気配を察知される危険が減る。そして怪物の突進をラインハルトは横に飛んで躱す。

 だが尚も怪物は聴覚に頼りながら暴れ続けている。皆は近寄るどころか逃げるのに精一杯だ。

 一人、ケイティ・ベルが横殴りの尾に触れてしまった。

 

「レヴィオーサ!」

 

 間一髪、飛ばされたケイティが落ちる前にハンナ・アボットが浮遊術をかけることができた。そうでなければ床に激突して命に関わる怪我だったろう。

 

 

 この戦闘の最中、ラインハルトは落ち着き払っていた。

 

「囲むよう散開し、斉射用意!」

 

 ラインハルトにはもう勝機が見えているからだ。

 ディーン、ラベンダー、ケイティ、ジャスティン、ハンナ、残った全員が足をもつれさせながらも怪物を遠巻きに囲む。

 

「照準を怪物の頭部に定めよ。攻撃を一点に集中するのだ」

 

 戦いは最終局面だ。

 これで終わらせる。本隊の面々は魔法の打撃力を重視して選んでいた。それはこの時のためだった。

 

「斉射、撃て!」

「ステューピファイ!」

 

 全員が一斉に撃ち、赤い光が誤たず怪物の一点に命中する。

 怪物の動きは止まった。

 高くあげた首もそのままだ。しかし、やがてゆっくりと怪物は倒れ、動かなくなる。魔法耐性があってもさすがに多数同時着弾には耐えられなかったのだ。死んだわけではないが、このまま教師に引き渡せば事は済む。

 

 

 苦闘の末、ディー・エーは見事に怪物退治を果たした!

 

 それは偶然や幸運ではない。皆で力を合わせ、勇気と知恵を使い、何よりも適切な戦術指揮の下で戦った結果だ。

 

 怪物が失神し倒された瞬間、石化された人間に変化がある。

 皆みるみる石化が解けていく。ここでスーザン・ボーンズが頭を振って飛んでいた記憶の間の出来事を把握しようとする。

 キルヒアイスもパドマ・パチルなども同様である。そしてキルヒアイスは直ちに唯一怪物の物理攻撃で怪我をしたファーレンハイトに治癒呪文をかけている。

 

 おそらくは学校の医務室にいるハーマイオニー・グレンジャーたちも石化が解けていることだろう。

 

 

「怪物を退治したぞ!」「やった、俺たちがやった!」「ああ、よかった。これでみんな助かるわ!」

 

 怪物を倒した興奮に当然ながら全員で大はしゃぎだ。

 

「伝説の怪物なんて、間抜けよね。大したことないじゃない」

 

 そう言ったラベンダー・ブラウンに二人のお調子者が声をかける。

 

「ラベンダー、小便ちびりそうな顔だったくせによく言うな。いやもうちびってたんだろ?」

「なんだ漏らしたのかラベンダー、こっそり乾かし呪文を使うんじゃないだろうな。その前にパンツ見せろよ」

 

 この日最後の強力な攻撃がディーン・トーマスとシェーマス・フィネガンに当たり、二人とも床にのびてしまう。これは自業自得だ。

 

 

 そんな皆から離れて、ラインハルトは第一の功労者に近付いた。

 

 ラインハルトの見るところ、怪物の目を潰したのが最大の勝因である。それで最大の脅威である石化攻撃を封じると共に態勢を立て直すことができたのだ。だからこそキルヒアイスはそれを狙った。しかしやっと片眼だけ何とかしたのであり、それではあまり変わらない。

 もう片眼を無効にしたのは別の者だ。

 コリン・クリービーである。ラインハルトは相手が何年生でもどういう姿であっても正しく評価する。

 

「見事だ。それは自作のボウガンなのか。それを使ってよく怪物の目に当てたものだ。あれほど動く標的なのに。射撃が上手なのだな」

「魔法などよりは、目に見える武器の方を使いたかったので。しかしこれくらいしか用意できませんでした。火薬式銃でもあればもっと良かったと思いますが、それは作るのが難しい」

 

 ラインハルトは何か妙な違和感を感じた。

 それを確かめる。

 

「火薬式銃? 不思議な言い方だな。それでは、まるで火薬式ではない銃があるかのようだ」

 

 コリン・クリービーはなぜか急に慌てだした。

 

「いや、それは、何と言うか、ちょっとした例えで」

 

 ラインハルトは少し意地悪をしたくなった。

 

「普通にある銃とは、例えばエネルギーパックを使うブラスターなどのことか。ここにはゼッフル粒子などないからそれもいいだろう」

 

 コリン・クリービーは目を見開き、驚いた表情をしている。取り繕うこともできない。

 やはり感情が顔に出やすい、相変わらず嘘も演技も下手過ぎる男だ。

 

「驚くことはないだろう、帝国軍随一の射撃の名手。卿はかつて余に火薬式銃の講義をしたではないか。そして、最後はその射撃で余を助けてくれた。おかげでウルヴァシーの森から逃げることができたのだ。感謝している、ルッツよ」

「あ、こ、これは陛下!」

 

 

 

 

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