ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第十二話 狂女レストレンジ

 

 

 ホグワーツに暗い影を落とした怪物の退治は無事に終わった。

 そんな大事件があったが、それ以降は何事もなく第二学年も過ぎ去ろうとしていた。

 

 ディー・エーは解散していない。

 いや、かえって怪物退治の英雄になったのだ。

 詳細を教師陣は発表しなかったが、生徒の噂に戸が立てられるわけがない。あっという間にその活躍は皆が知ることになった。

 それでディー・エーに後から加わってくる者がいる。

 ハッフルパフのアーニー・マクミランやレイブンクローのチョウ・チャンなどがそうだ。

 そして時々集まっては防衛術の訓練などをしている。組織は発展的に軍の雛型のようになった。これは願ってもないことだ。やや危険なはずなのになぜか学校側もそれを黙認している。

 

 しかしながらチョウ・チャンが呪文に失敗したりつまづいたりする度に付近の男子生徒が助けるのだが、仕方なさそうではあってもハリーまでそうしているのがハーマイオニーには苛立たしい。わざとハリーに聞くために失敗しているのかとさえ思ってしまう。

 

 ただし微笑ましいこともある。

 常にディーン・トーマスとラベンダー・ブラウンが組んで練習しているのだが、それがうるさいほどだ。

 

「ラベンダー、お前下手過ぎだぞ勘弁してくれ。どうして火炎呪文からナメクジが出

てくるんだよ!」

「何よ、いちいち細かいわね」

「ナメクジで倒せるのは野菜くらいじゃないか。ははあ、そうかキャベツに仕込んで相手を驚かせ、野菜嫌いにするのか。そうするとビタミン不足で相手を倒すのに十年はかかるぞ。気が長いな、ラベンダー」

 

「長過ぎるのはそんな下らないジョークの方だわ。あ、分かった、そんな陰湿なディーンが相手だから呪文もそうなっちゃったんだわ。きっとそうよ!」

「何を! 理屈にもなってないぞ。自分の失敗をこっちのせいにするな!」

 

 しかしそれならペアを変えれば良さそうなものなのに、なぜかいつも同じなのだ。本人たち曰く、「偶然残り物を掴んでしまった」とのことである。

 

 

 

 しかし、この時学校とは全く違うところで恐るべき危機が膨らんでいた!!

 それは魔法界の暗部、いわゆる堕ちた魔法使い、つまり死食い人のことだ。いつもは息を潜み、魔法界に同化し、逮捕を免れている。

 それらが今こそとある目的のために集おうとしていた。

 

 

「なぜ妾をレストレンジなどと呼ぶのじゃ! ふざけておるのか!」

 

 胸元が大きく開いているドレスを着た女が叫んでいた。

 

 顔は非常に整っている。色も白く、深紅の豪奢なドレスと際立っている。濃く化粧をして、おまけに髪飾りを幾つも付けているため一言で言えば派手過ぎだ。

 だが印象では大きく見開き、意志の強そうな目がなにより特徴的だった。

 

「なぜって聞かれても、お前はレストレンジではないか? 他に何がある」

 

 周りを囲む者が口々にそういってもなぜか当人が認めない。

 うんざりする。

 しかしそうとばかり言ってもいられない。うまく収めないと周囲に被害が拡大する。

 

「自分の名前くらい憶えておいてくれ。お前はベラトリックス・レストレンジだ」

「妾はそんな名前ではない! 妾はシュザンナ、シュザンナ・フォン・ベーネミュンデじゃ!」

 

 その女は黒髪を振り乱して叫ぶ。しかもそれだけで済まない。

 せっかく名前を思い出せてやろうとした者の一人マルシベールを、あろうことか攻撃してきた。マルシベールも慌てて防護の魔法を張るが、何とそれが薄紙のように破られてしまう。ベラトリックスを決して侮っていたわけではなく、渾身の力を込めていたのに。

 女が使ったのがどんな種類の攻撃魔法かさえ分からない。

 失神呪文でも切り裂き呪文でもなさそうだ。だがその異常に強い精神力から繰り出され、とにかく対象物に破壊的ダメージを与えるものらしい。

 マルシベールは吹き飛ばされ、そのまま地面にのびてしまう。平均よりはるか優れた能力を持つマルシベールでさえも全く抑えられない。

 女が叩きつけた攻撃が「アバダ・ケダブラ」でなかったのは不幸中の幸いなのだろう。

 

 周りの者、といっても全員死喰い人の群れなのだが困り果ててしまう。

 問題の女は純血中の純血、聖二十八家の一つブラック家の出身ベラトリックス・レストレンジだ。闇の帝王の元で行ってきた戦いで敵も味方も見境なく殺傷しまくり、「狂女レストレンジ」という異名がついた。そのため味方の死喰い人からも恐れられている。

 それが今、なぜか自分はレストレンジではないと言い張っているのだ。

 狂女の狂気がまた一段ギアを上げたかと思われた。これ以上狂いようがないと思っていたのは間違いだった。

 ただしそれでもなんとか宥めすかさないといけない。

 

 なぜなら彼女の精神力と比例するかのように魔法力が尋常なものではない。

 過去の戦いの場では常に圧倒的な強さを見せつけた。闇の帝王が隠れてからも、捕縛に向かった闇払い達を高笑いの中で薙ぎ払い、その全員を余裕で返り討ちにしている。

 その強さは少なくとも一対一で抗しえる魔法使いはいない。たった一人、あの闇の帝王以外には。

 そのためかつて闇の帝王の副官として唯一無二の存在だったのだ。この重要な場に呼ばないわけにはいかない。

 

 今日は闇の帝王が復活する日なのだ!

 この深い森の奥に次々と死喰い人らが転移魔法で集まっている。レストレンジも必須の一人だ。なんとか宥めて列に並ばせる。

 

 

 そこに一人、遅れて戸惑いながらやってきた魔法使いがいた。

 

「何だ、お前ごときが遅れてくるとは大した身分だな、ペティグリュー」

「うるさい! 身分だと? 誇り高き帝国貴族に向かって何ということを!」

「貴族? またわけの分からんことを言う奴だ。コンプレックスで脳が止まったか」

「何! この平民が!」

「いいから早く列に並べ。お前は端っこだ。裏切り者ピーター・ペディグリュー」

 

 周囲の者はその小男を嘲笑っている。

 

 しかしその子男には何も意味が分からず、反発するしかない。

 なぜ皆に蔑まれる? 裏切者とはどういうわけだ?

 

 そんな覚えはない!!

 自分は常に貴族の美学を追求してきたのだから。

 とうてい赦しがたい。

 

 憤然としてまた言い返そうとしたが、その時耳に入ってきた言葉がある。

 

「まだそんなことを申すか! 妾はシュザンナ・フォン・ベーネミュンデと言うておろうに!」

 

 小男は最大級に驚き、そちらの方にふらふら歩む。

 

 

「何ということか…… この世界に俺以外にもいたとは」

 

 狂女レストレンジの前まで行く。

 

「妾の前に立つとは、何だお前は?」

「これは失礼。私はフレーゲル男爵と申す者。ベーネミュンデ侯爵夫人とお見受けする」

 

 その姿はしっかりと足を引き、膝を折って深々と礼をする。これは小さい頃から慣れ切った帝国式の礼だ。

 

「おお、嬉しや!! そちは分かるのか! ようやくまともに話せる者がおったわ。皆も見よ。分かるものがおるのじゃ!」

「侯爵夫人、この奇妙な世界でどうしようかと思っておりました。平民ばかりの妙な世界で」

「そうじゃ、皆おかしなことばかり言うておるわ。フレーゲルとやら、そちの名は聞いたことがある。確かブラウンシュバイク公の甥じゃな」

「まさしくそうです。ベーネミュンデ侯爵夫人」

 

 

 シュザンナの方は、言葉通りフレーゲルについてうろ覚えでしかない。

 しかしフレーゲルの方はそうではない。かつてシュザンナのアンネローゼへの嫉妬心を利用して事件を引き起こした。ラインハルトを陥しいれるためのものである。

 それが実はシュザンナの死の遠因になったのだが、踊らされた側のシュザンナは知らない。

 だが今それを言っても怒りを引き起こすだけで良いことはなにもない。それ以上にフレーゲルはこの奇妙な世界であまりにも心細く、一人でも自分のいた世界のことを話せる相手がほしい。

 

 一方で周りの人間はこんな猿芝居のような会話についていけない。というよりなぜかペティグリュー相手に狂女レストレンジが小躍りせんばかりに喜んでいる、とても理解できない。だがそれで充分、何にしろこれでレストレンジが無駄に攻撃をしてくることがなければそれだけでありがたい。

 

「してフレーゲルよ、妾はせねばならぬことがある。陛下を探すのじゃ。陛下の寵愛を賜る身としてそれだけは忘れてはならぬ」

 

 これにフレーゲルは答えられない。

 早く死んだシュザンナが知らないのは当然なのだが、シュザンナの言う陛下、フリードリッヒ四世は心臓病で死んでいる。いや、銀河帝国はそれどころではなく勝手に幼帝を立てたラインハルト・フォン・ローエングラムに滅亡寸前まで追い込まれている。フレーゲルは帝国貴族としてそれに戦いを挑み、悔しいことにいともあっさりと斃されたのだ。

 それでもやっと少しばかり話をし始めた。

 だが、話がグリューネワルト伯爵夫人アンネローゼやその弟ラインハルトのことに差し掛かると、中断せざるを得なかった。

 

「アンネローゼ、アンネローゼ! その若さだけを武器に陛下をたぶらかし奉った女! 純真な陛下につけこみ、優しさを利用した腹黒い女! そして妾を遠ざけようと企みおった! でなければ陛下の寵愛が妾から離れるものか。寵愛は永遠に妾だけのものなのじゃ!」

 

 シュザンナにとってアンネローゼは忌まわしいものでしかない。その激しい反応はフレーゲルを後ずさりさせるほどだ。

 

「もうよいフレーゲル! その名を二度と口にするでない。怒りで目もくらむ。あの女もその弟も、この手で八つ裂きにしても飽き足らぬわ!」

 

 

 その時、ここに死喰い人が集まった理由である儀式の開始が告げられた。

 

「静まれ! 全員控えよ、これより儀式を始める。闇の帝王がもうじきお姿をお見せあそばす。賢者の石の雫、その力で甦るであろう」

 

 並んだ人々から少し離れ、奥にいた人物がそう言った。

 皆がそちらを見る。

 頭に大きなターバンを巻いた男が一番奥に立っている。

 

 しなびた右手をまっすぐ前に差し伸ばしている。何か黒い石を手の平に置いているようだ。

 

 

 

 

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