ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第十六話 狂女対覇王

 

 

 一方のラインハルトら偵察隊はこんな者が突然現れたら驚く他はない。

 その格好も、場所も、言うことも想像の範囲外、場違いに過ぎる。

 

 たまらずルッツが問いかけた。

 

「な、なんだ女。誰だ、そして何を言っている」

「妾に対し誰と問うたか。そちこそ帝国貴族か? 先に名乗れ、無礼であろう」

「貴族? いや、俺は将官だが平民の出身だ。コルネリアス・ルッツというもの」

 

 いくばくかの疑問が浮かんだ。

 そのため、思わず慣れた言い方で自分をコリン・クリービーという新しい名ではなくルッツの名で答えてしまったではないか。それは、この女が帝国貴族という単語を口にしたせいだ。

 

「いったい誰だ!」

 

 今度は焦れたラインハルトが横から口を出した。

 女はまっすぐその方を向き、ようやく名乗る。

 

「おお、あの女の弟! よう会えた。どうせ死ぬのじゃがその前に聞いておくがいい。妾はシュザンナ・フォン・ベーネミュンデ、フリードリッヒ四世陛下の寵愛をただ一人受ける者じゃ!」

 

 この言葉に偵察隊の皆は衝撃を受けた。

 それはこの女がシュザンナだからという理由ではない。

 これまで見つかってきた元の世界の者は、みなラインハルト麾下の新帝国の者だった。つまり味方の陣営である。

 しかし、ここで初めて敵手になるものが存在していることが明らかになった!

 

 

「なるほど、確かに味方ばかりでないのも道理。改めてその事実を確認できた」

 

 ラインハルトが驚きから立ち直る。

 シュザンナ・フォン・ベーネミュンデ、その名と共に思い出す苦いことがある。もちろん怒りをも伴う。

 

「ではお前はかつて宮廷にいて、姉上を殺害しようと企んだ女だな。違うか!」

「陛下が妾を寵愛するのに嫉妬し、横取りせんとした女、ようも手練手管を使うてくれたものじゃ。そんな女を妾が罰することこそ正義! 何が悪いと申すか!」

 

「おのれ、姉上を愚弄するか!」

「その方とて姉を利用して陛下に取り入り出世を計った妖物、姉弟ともに陛下を騙し奉りおって!」

「何を!」

 

 もはやこれ以上ないほどラインハルトが激昂する。出世は自分の能力だという自負もあるがこの場合はどうでもいい。

 自分のことを言われるならまだしも、姉がフリードリッヒ四世の寵愛を奪ったなど、これほど事実と違うことはない! 姉アンネローゼは一方的に後宮に召し上げられ、寵愛を得てもなるべく質素な生活を続け、野心や贅沢とはまるで縁のない姉なのだ。

 

 そんなことを口にするとは赦し難いにも程がある。

 だが怒りが増し、目が細くなるにつれ言葉は静かになる。

 

「嬉しいな、とても嬉しい。よく出てくれた。また死んでくれるのか。もちろん姉上を愚弄した罪、二度死んだくらいで償えると思うな!」

「ほざきおって、罪を言うなら陛下の寵愛を奪った罪、妾がお前もあの女も百度殺してやるからそう思え!」

 

 

 シュザンナとラインハルトの気がいきなり張り詰める。

 向こうの世界からの因縁、どちらも相手を憎む理由が充分ある。

 二人の魔法力がこの場を圧し、ボルテージを上げていくのがはっきり分かった。

 

「ラインハルト様!」

 

 キルヒアイスが近寄ろうとするが、足が出せない。今やケタ外れの力が渦巻いている。

 触れればどんなことになるか分からない光の帯が出現し、シュザンナとラインハルトの周りに幾筋も浮かんでいた。そこから白金の微粒子が舞い散っている。

 

 ラインハルトの覇気は途方もなく凄まじい。

 しかし、シュザンナも決して負けてはいない。

 

 大きな目を輝かせ、ラインハルトの気を受け流す。陛下の寵愛を信じる心に一筋の揺らぎもない。その元からの精神力に加え、体は純血中の純血、狂女ベラトリックス・レストレンジの血が流れている。それゆえの絶大な魔法力を操る身なのだ。

 

「なんじゃ、がっかりさせおって。その程度か弟。ここがノイエ・サンスーシーならば妾の指先一つで首を跳ね飛ばしてやるものを」

 

 この様子を見て、キルヒアイス、ファーレンハイト、ルッツが何とか援護しようとするのだが……

 

「ふん、小物どもが。妾に寄るでない!」

 

 いきなり何かの攻撃がルッツに飛んできた。それは白熱の帯にも見えた。

 間一髪、避けることができたのは幸運だ。その攻撃が当たった先の森を見て驚愕する。

 帯が細くなり消えた後、そこには直径二メートルはある大きな穴が開き、全てを蒸発させたのか空虚が果てしなく続く。

 その先は深い暗闇に消えている。穴の縁は燃えたように薄紅色の光がかすかに残る。

 

 まるで戦艦の大口径砲の砲撃が当てられたかのようだ。

 

 ただしそれでも怯むような者たちではない。

 ラインハルトを除く三人は陽動の動きを仕掛けながらシュザンナの死角に回り込もうとする。さすがに死角からであればシュザンナに意表を突く攻撃ができるかもしれない。

 それを悟ったシュザンナが元いた木陰の方を振り向いて叫ぶ。

 

 

「フレーゲル男爵! 早う妾に加勢せんか!」

「ふ、ふええっ!?」

 

 シュザンナからの思わぬ言葉にまたしてもフレーゲルはひっくり返った。ラインハルトらに見つからずに済むと思ったのに、こっそり隠れていたのが無駄になったのだ。

 シュザンナの言う事は尤もだが、できれば自分は巻き込まないでほしかった。

 

「何? フレーゲルだと? なんと奴までいるのか」

 

 全員が反応したが、フレーゲル、つまり門閥貴族連合に遺恨のあるファーレンハイトが最も強く反応し、目を細くする。かつてのリップシュタット戦役において貴族連合に加わっていたファーレンハイトは作戦に何も関与できず、負ける戦いに巻き込まれ不本意ながらメルカッツ共々敗走する羽目になったのだ。

 

「ディフィンド!」

 

 シュザンナの呼びかけた木陰へ試しに切り裂き呪文を撃ち込んでみた。

 あわててフレーゲルが転がり出てきた。無様な薄毛の小男だ。

 

「これはようこそお越しを、フレーゲル男爵。かつては世話になった」

 

 害意を明らかにしながらファーレンハイトが近付く。

 それを見ているルッツも門閥貴族のフレーゲルを害さぬ理由はない。

 もはやフレーゲルは立ち上がることもできず、小便を漏らしている。ファーレンハイトとルッツという実力者相手に戦意など最初からあるはずがない。

 

「チッ、役に立たぬ男よのう」

 

 シュザンナにとってはあまりに誤算だった。フレーゲルが強くはなくとも雑魚を抑える、少なくとも牽制はできると当て込んでいたのに。

 もはや加勢どころではない。

 かえって助けねばならないお荷物になるとは。しかし助けるとはいってもラインハルトとの戦いはそんなに早く決着はつかないだろう。今目を離し、雑魚に向かえばそれこそ自殺行為だ。つまりフレーゲルを庇っては戦えない。

 せっかくの機会ではあるが戦いを棚上げにせざるを得ないと判断した。

 

 ただしラインハルトの側にとって戦いを止める理由はない。

 

 

 しかし、ここでディメンターと共に隙を伺っていたものが襲い掛かろうとしていた。

 蜘蛛の群れが数を増して層をなし、壁のようになっていたのだ!

 一気に攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。

 しかも薄明がまもなく完全に落ち、暗闇が包む時間になろうとしている。

 

 これは危険が大きすぎる。ラインハルトもやむを得ず撤退を優先させた。

 

「仕方がない。戦いは持ち越しだ、姉上の敵。今度会うまで謝罪の言葉を考えておくんだな。聞くだけ聞いてやる。どのみち手加減などするわけがないが」

「ふざけおって! いまさら怖くなったか、あの女の弟。口でごまかそうとするとは哀れなものじゃ!」

 

 どちらも最後まで相手の名を呼ぶことはなかった。そんなことはどうでもいいようだ。

 

 ラインハルトら四人と、シュザンナら二人はそこで分かれる。

 もちろんラインハルトらは学校に向かって走り去るが、何とシュザンナらはパチン!という音と共に消えた。おかしなことだ。この禁じられた森で姿くらまし呪文など使えるはずがないのに。

 最後の最後、シュザンナの叫びが聞こえる。

 

「どのみちその方らの命など長くないのじゃ。今、闇の帝王という名でルドルフ大帝陛下がおわす。その方らに必ずや鉄槌を下すであろう。無様に命乞いをする様を笑うてやる。その時が待ち遠しいわ!」

 

 

 陽が落ちるのと偵察隊が学校に戻ったのはほぼ同時だ。

 しかしここで解散はせず、ラインハルトは直ぐにロイエンタールとオーベルシュタインを呼び寄せる。今回の偵察では多大な情報を得た。もちろんディメンターのこともだが、なぜか共闘態勢をとっている蜘蛛の群れがいる。

 

 しかし、一番問題なのは人間の敵手、シュザンナとフレーゲルのことだ。

 ここから正しく分析をして、結論を導き全員で共有しなくてはならない。

 

 

 

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