ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

18 / 58
第十八話 結界修復

 

 

 もちろんラインハルトは皆にシュザンナらのことを話さないという選択肢もあった。

 しかし、それでは戦いの最中に出くわした場合に動揺が生じ、此方が被る被害は計り知れないものになる。本気で犠牲を出さないつもりのラインハルトにそんな不誠実なことをするつもりはなく、ある程度正直に話し始める。

 

「そうだ。このディメンターや蜘蛛は勝手に出てきたものではない。密かに森の結界を破り、ディメンターを送り込むことを企んだ者がいたからだ」

「え、そいつはいったい、なんのために」

「学校を攻撃するためだろう。そしてもっと重要なことに奴らは闇の帝王ヴォルデモートの配下だ」

「何だって! そんなことが!」

 

 鋭い声があちこちで漏れた!

 ラインハルトはシュザンナ、フレーゲル、そしてルドルフ大帝の名は出さない。しかし、充分皆にとっては衝撃的なことだ。

 あの恐るべき闇の帝王が関係しているのか。

 そして森にいるのがその配下、つまり死喰い人なのだろう。そんな者が待ち構えているとは。

 

 再び動揺を始めた皆をラインハルトが鎮める。

 

「だが、そう心配することはない。その者はおそらく自分しか狙わない。皆は直接対峙することがないようにすればいい。とばっちりを避ければいいだけだ」

 

 言葉自体は、皆は素直に受け取った。全く別の意味合いで。

 皆は考える。

 かつて闇の帝王を唯一破った者、生き残りの男の子、ハリー・ポッターこそ恨まれているだろう。とすれば死喰い人はハリー・ポッターを倒せば闇の帝王からの恩賞は間違いない。ハリー・ポッターを一番に狙うのは当然だ。きっとそう言いたいのだろう。

 

 しかし、そこでハーマイオニーが素早く思考をまとめ、意を決して反対を言った。

 

「ポッター、それはやめて。危ないわ。学校の教師に任せましょう。マクゴナガル先生や、沢山の先生に事情を話してついてきてもらえばいいわ。ポッターが死喰い人と戦ったりしたらだめよ」

 

 ハーマイオニーには分かっている。

 

 そう言えばおそらくポッターは気を悪くするだろう。

 自分が狙われるだろうと分かっていても平気で出撃をするポッターだ。死喰い人を微塵も恐れていない。そのポッターの矜持に触れるようなことを言えば、今まで女子生徒の中では一番仲の良いハーマイオニーでも嫌われるかもしれない。

 

 大変に気が重く、本当は言いたくないに決まっている。しかし敢えて言わねばならない。それはポッターを守るためなのだ。

 

 ラインハルトが答える前に、キルヒアイスがそのハーマイオニーの心を読んで答えた。ハーマイオニーの相手を思う優しさとそこから出る勇気を分かったからだ。

 

 これこそが本物の勇気だ!

(強い方ですね。なぜかあのヒルデガルト・フォン・マリーンドルフ嬢を思い出しました。ラインハルト様のためを心から考え、あえて反論もいとわない、優しさを貫く強さがありました)

 

「そのお心遣い、感服いたします。とてもありがたいですね。ですがあまり心配はないでしょう。そして教師ならば実はロックハート先生が同行することになっています」

 

 尚も言いかけたハーマイオニーとは別の方向から声が掛けられた。

 

 

「その通りですグリフィンドールの嬢。万一の時は我らが助けるゆえ」

 

 ハーマイオニーも含め、皆はあっと驚いた。

 何と、ここにスリザリン生が入ってきたのだ!

 

 それも三人だ。ドラコ・マルフォイ、クラッブ、ゴイルだった。

 すぐさまスリザリンと犬猿の仲、グリフィンドールのラベンダー・ブラウンが反応する。

 

「何しに来たのよ! ここはディー・エーの会合よ。スリザリンなどお呼びじゃないわ!」

 

「何しにと言われるのは不本意。これはもちろん学校の問題。学校の危機ならばスリザリンもまた駆けつけて何も不思議なことはないはず」

 

 全く表情を伺えない顔でドラコが答える。絶対零度の雰囲気が崩れる様子はない。

 逆に不本意な表情をありありと浮かべているのはクラッブとゴイルだった。この二人は他の寮生との共闘などしたくないことを隠そうともしない。

 ただし黙っている。二人は既にドラコ・マルフォイことオーベルシュタインに掌握され手下のようになっているのだが、ここに来る前にドラコに言いくるめられていたのだ。

 

「グリフィンドール生に学校を守る実績を作らせ、ヒーローになさしめることは避けなければならない。それは相対的にスリザリンの名声を下げるのと一緒である。そのため、是非ともスリザリン生として戦いに加わっておく必要があるのだ」

 

 クラッブとゴイルは根が単純で深く考えることがなく、素直にその言葉を信じた。というより、ドラコの言うセリフが回りくどくてややこしいために理解を放棄している。

 出撃メンバーの雰囲気はやや剣呑なところもあったが、これで全ての寮から生徒が出て戦いに臨むことになった。

 

 

 

 そして次の日の授業が終わった直後、まだ明るいうちに集合した。

 禁じられた森へ出撃するのだ。

 

 森に入って一時間、いきなりディメンターからの攻撃が来た。それは予想より多く、十体以上を数えられる群れだった。

 

「エクスペクト・パトローナム、守護霊よ来たれ!」

「エクスペクト・パトローナム、守護霊よ来たれ!」

 

 間髪入れずその呪文をロジャー・デイビース、スーザン・ボーンズ、アーニー・マクミラン、ケイティ・ベル、ラベンダー・ブラウンの五人が唱えた。守護霊を安定して出せる者が最初から選ばれて任についていたのだ。

 たちまち白銀色の守護霊が飛び出る。

 

「なんだありゃ?」

 

 誰かがそう言った。

 守護霊はそれぞれ動物の形を模したものだが、その中に猫やダチョウまでいたからである。そして出現時を見ていなければ誰がどんな守護霊を呼び出したか分からない。

 守護霊は皆の陣形の周囲をぐるぐる周り、全てのディメンターを退けるように動いている。

 

「一つだけ分かるぞ。一番変なやつ、たぶんダチョウがラベンダーの守護霊だ。守護霊を出す時には楽しいことを思い浮かべるというが、ラベンダーのことだ。おそらくチキンを喰うことでも考えたんだろうさ」

「ディーン、後でぶち殺すわよ!」

「ラベンダーにとっちゃあ、人生で一番楽しい瞬間だからな。もちろん、恋愛なんかの楽しみを知るわけがないラベンダーならそうだろうとも。同情するよ」

 

 ラベンダーは悔しがる。

 守護霊を出しているうちは他の魔法を使えず、それを分かって憎まれ口を叩くディーン・トーマスをとっちめられない。

 しかも言っていることは的外れである。

 守護霊は本人の深い意識から形が決まるもので、何を考えて出したかには関係がない。

 

 おまけに冤罪だった。実際ダチョウを出したのはケイティ・ベルであったが、素知らぬ顔をしている。ラベンダーとディーンのへっぽこ漫才を聞いていたい気持ちがあったからだ。

 

 

 結局のところディメンターを危険なところまで近付けさせることはなく、進撃を進めることができた。

 作戦は今のところうまくいっている。

 次は蜘蛛の攻撃か、と思ったが意外に一匹も遭遇することはない。

 

「おそらく罠でしょう。蜘蛛が消失している理由がありません。こちらを油断させ、森の深部で一気に襲ってくるものかと」

 

 ドラコ・マルフォイことオーベルシュタインがラインハルトにそう言った。

 

「まあ、そうだろうな。しかしそうすると蜘蛛の知能もなかなかだということになる。策を用いるのだから。目の前のエサに食らいつく貴族連合軍などよりよほどマシではないか」

「愚劣さの比較はともかく、この策は蜘蛛だからとも言えます。蜘蛛は獲物が糸にかかってから直ぐに襲うのではなく、遠巻きに絡めとり、力尽きたところを狙うものだからです」

「そうか、なるほど。魔物でも一応蜘蛛、元の性質を残していればそうするのも道理だ」

 

 オーベルシュタインは動物全般に詳しかったのか。

 

 

 一行はかなり森の深部まで到達した。

 唐突に木々が途切れた場所に出る。

 

 見るとそこには木どころか草もなく、不自然に開けた広場になっている。そして何より魔法力が色濃く立ち込めているではないか。

 ラインハルトが新たな指示を出す。

 

「ここがおそらくホグワーツの結界を破ったところだろう。しかしそれをした人間が見当たらないということは、何かに魔法力を込めて置いてあるのだろう。それが結界に裂け目を作っている。つまり魔法力を発揮しているものを探し出し、破壊すれば結界は修復され、ディメンターが入ってくることもなくなる」

 

 納得できる言葉に皆は結界を破っているものを探し始めた。間もなくそれは見つかる。

 眼鏡や時計、髪飾りだった。

 つまり人の身に付けている物だ。おそらく人に長く触れて思念を受けているからこそ魔法具に使えたのだろう。こっそり置かれていたそれらを次々見つけては渾身の火炎魔法で滅していく。

 

「インセンディオ!」

 

 魔法具の最後の一つまで滅すると、心なしか広場の空気がゆらめき出したように感じた。

 力が渦巻いている。

 

「む、危ない! 全員ここから素早く退避せよ!」

 

 ラインハルトの言葉を聞いて皆が動き出した直後だ。急激にあたりの空間がねじれ、方向や重力の感覚がなくなる。

 気が付いた時、見るとその広場が丸ごと消失しているではないか。

 

「危のうございました。あの広場が既に作り物だったのでしょう。それが消え、結界が戻ったのでしょうが、巻き込まれずに幸いでした」

 

 キルヒアイスがそう言ったとたんに声がした。

 

 

「ぎゃっ!」

 

 何事、と全員がそちらに目を向ける。そこでは惨事が起きていた。

 ハンナ・アボットが茫然自失だ。

 たまたまハンナは最後尾にいて、結界修復に巻き込まれたのだ。上着と下着、どちらも右半分がちぎれて失われている。体に作用はなく怪我などはないようだ。しかしそういう問題ではない。

 

 慌てて女生徒たちが何とかしようとした。

 

「レバロ! 直れ!」

 

 下手に魔法使いなだけに魔法で対処しようとした。

 しかし一瞬で直るようなものではない。

 

「ラベンダー、お前のパンツ貸してやれよ。汚いけど仕方ないだろ。俺は絶対嫌だけどな」

「ディーン、絶対にぶち殺すから覚悟しときなさい!」

 

 皆はディーンが嘘をついていると思う。おそらくディーンならラベンダーのパンツを欲しがっているだろうと考えた。

 

 そしてなんとかハンナの服は修復され、ショックでふらふらしながらも歩き出す。

 もちろん皆を記憶消去魔法にかけるにはどうすればいいか一生懸命考えていた。 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。