一行の目的であった結界修復は無事終わり、もうホグワーツがこれ以上ディメンターの侵入を許すことはないだろう。
意気揚々と帰路を進んでいくが、さすがにこの時間ともなると陽は傾きやや薄暗くなる。
「蜘蛛どもが仕掛けるとすればこの当りでございましょう」
感情を一切見せずオーベルシュタインがそう言う。わずか一分後、その懸念が現実になる。
先を塞ぐように蜘蛛の重なった壁のようなものが見えてきた!
しかも偵察隊が前回見たものよりも高く、幅も広い。カサカサとした音が多数重なり合い、不気味な音楽を奏でている。そして直ぐに迫ってくるのではなく、ますます横に広がっているではないか。
ラインハルトの目が輝きを増し、果断に指示を伝える。
「皆、注意せよ。おそらく敵は半包囲の陣形をとろうとしている。タイミングをみて一気に包み込む気だろう」
この戦い、宇宙の艦隊戦と同じだ。頭脳と勇気を使い、相手の手を読み、撃破するのだ。
そしてキルヒアイスも皆に指し示す。
「あれは! あれが蜘蛛の頭目、アラゴグなのでは!」
その方向にひときわ重厚な布陣が見えるが、その中央には5メートルはあろう大蜘蛛がいた。
その気持ち悪さに皆は息を飲む。
ここでラインハルトが勝利への一手を見出す。
「よし、作戦を伝える。向こうが帰路に位置している以上、基本は中央突破である。その上で敵陣の半包囲を有効になさしめないためスピードが要求される。それを可能にするため、今から言う通りの攻撃方法をとるのだ」
ラインハルトはこの世界に来てから気付いたことがある。
魔法使いの戦いというものは基本一対一、相手をしっかり見て、防御しながら、狙って攻撃を仕掛ける。
しかしそれでは集団戦において通用しない!
集団戦ではそれと大きく異なり、部隊の指揮官に従い統制をとって攻撃するのだ。最も有効にするためには味方の攻撃目標と重複しないようにする必要がある。
「目標を見る必要はない。むしろ味方の攻撃をよく見て、重ならない付近に攻撃魔法を次々と撃ち込むのだ。これがすなわち弾幕である。それを敵陣地に応用すれば広域制圧となる」
ディー・エーの皆は理解が追い付かない。
広域制圧? それは何だ? どこの言葉だ?
手本を見せてやる必要があった。実際に見なければ要領が分かるはずもないだろう。
ルッツ、ファーレンハイト、オーベルシュタインらはラインハルトの考えは分かり過ぎるほど分かることで、手本を示せる。
陣の前に出て並び、整然と杖を揃えた。
「ファイエル!」
ラインハルトの声が一閃する。これは今まで艦隊戦において幾度繰り返した言葉だろうか。
斜め上に向けられた杖の列から次々と攻撃魔法が吐き出される。これは目標を見て狙っているのでは不可能な速さだ。
何をしているのかやっと理解してきたシェーマスやジャスティンが加わった。
ついにはディー・エー全員がそれにならう。総勢二十人近い集団からの速射だ。
この光景を見ながら、キルヒアイスに思うところがある。
(今分かりました。私たちが呼ばれたのは、こういった戦い方を実践するためかもしれません。この世界の者は平和に慣れ、戦法の思考や実践からは遠いところにいます。それでは強い敵との戦争になればどうしようもないことでしょう)
雨あられとなって降りかかる熾烈な攻撃呪文に蜘蛛が蹴散らされ、皆の前方に通路が形成された。
「今だ、突撃し、敵陣を突破せよ!」
全員走って蜘蛛の群れを通り抜けた。
ただし、それで逃げ切れはしない。
蜘蛛は遠い方から壁を順次崩し、素早く移動している。獲物を逃さないため、先回りしてあくまで学校への退路を遮断するつもりのようだ。戦いはまだ終わりではない。
ラインハルトの覇気が増大する。黄金の覇王は戦いにあって輝くのだ。
「そうこなくてはな。しかし、予想の範囲内だ」
戦い方を一気に変える。
「中央突破したら直ちに背面展開! ここからは皆、二人一組で散り、散兵陣を作るのだ。そして常に移動する機動性を持て。これで敵陣を撹乱し無効化する」
出陣前に決めてあったペアで動く。
ディーンとラベンダーが見かけは嫌そうにペアを組むが、際立った働きを見せた。
「ラベンダー、右の奴が一番早いぞ、モメンタム!」
「そうね、コンフリンゴ! もっとまとめてやっちゃって!」
ディーンがいったん多くの蜘蛛の動きを止め、そこをラベンダーが粉砕する。防御と攻撃が一体だ。先ほどの諍いはどこへやら、見事なコンビネーションである。練習での醜態は何だったのだろう。甘えからの擬態だったのか。
ハーマイオニーはルーナと組み、これもまた動きがいい。優等生らしく、堅実で危なげない戦いを見せる。
ハンナはシェーマスと組んでいる。何かを振り払うかのように鬼気迫る形相で戦う。
一風変わっているのは、スーザン・ボーンズとネビル・ロングボトムのペアだ。
「そっち! ネビル、見えてんの? もっと早く! 肥大呪文なんて使ってどうすんのよ! せめて火炎呪文使って! え、知らない? 何が使えんの? いや考えて止まらないで! もう何でもいいわよ!」
すっかり指揮官と一兵卒のごとく金切り声の命令が響く。
ネビルが一方的に従わされているのだが、それはそれで効率的と言えなくもない。
そんな見事なぺアだけではなくぎくしゃくしていたペアも存在した。ジニー・ウィーズリーとチョウ・チャン、連携が全然取れていない。
「チッ、どこ向いてんのよ! ハリーから見えるところで頑張ろうったって、そうはいかないわよ!」
「そっちこそ、ハリーを探して目が泳いでるわ! 蜘蛛にあなたの色目が通用しなくて残念だわね。もしそうなら直ぐに片付くでしょうに!」
ラインハルトはもちろんキルヒアイスとペアを組んでいる。期せずして二人は同じことを考えてしまったのだが、むろんあの初陣の氷惑星カプチェランカだ。
それはともかく戦いながら頭は素早く次の手を考える。
そこへ、クラッブとゴイルのペアを捨ておいたオーベルシュタインが近付く。
「陛下、このような戦いは長く続けられず、いずれ犠牲が出ます。その前に頭目を倒すのが最も早道でしょう」
「やはりそう思うか、オーベルシュタイン。だが蜘蛛の頭目ともなると魔法耐性があるだろう。弾幕では片付けられず、接近戦が必要になる。それを成し遂げる方法は」
「蜘蛛はこの薄暗闇を利としているつもりでしょう。なまじ目が良いばかりに。しかしそれは逆でございます」
「む、そうか。なるほど分かった。確かにそれは逆だな」
ラインハルトは正確に理解を共有した。そしてキルヒアイス、ロイエンタールと共に蜘蛛の頭目アラゴグを見定め、突撃体制をとる。
そして全員に向けて叫んだ!
「総員、指し示す方向に極光魔法を準備!」
皆はぐずぐずしない。ラインハルトへの信頼がそうさせる。しかも必ず何かをするだろうと思っていたのだ。こんな切りのない戦いなど続けるはずがないと確信を持っていた。
ラインハルトは皆の準備が整ったのを見て間髪おかずに指令する。
「よし、撃て!」
「ルーモス・マキシマ!」
唱和し、一斉に極光魔法を放った。
皆はやっとラインハルトの指示する斉射に慣れてきたのだ。
アラゴグの目の前は光の渦で満たされた。
いきなり薄明からの光輝だ。もはや何も見えず、思考停止する。
そこへラインハルトら三人が走り込み攻撃をかける。
「ディフィンド!」
三人は同じ切り裂き魔法を使った。一撃必殺、同じ部分を狙う。オーベルシュタインから事前に狙いどころを聞いていた。
「蜘蛛などは頭と胸、胸と胴体、この二ヶ所の区切れ部分は極端に細いのでございます。そこなら分断できるでしょう」
「オーベルシュタイン、卿はどこまで動物に詳しいのか」
たまらずアラゴグは胸と胴を寸断され、倒れた。だが魔法動物らしくそれでも絶命していない。
ここで他の蜘蛛どもが攻撃を止めたのに気付く。
頭目をやられて、手下にも動揺が走っているのだろうか。
「む、どうすべきか。ここで頭目に止めを刺すか。魔法動物である以上、やがて再生するだろうから。いやしかし殺せば他の蜘蛛が怯むのではなく怒り狂って攻撃してくる可能性もある。それはかえって危険だ。ではこのままにして恩を売るか。それを理解できる知能があるか分からんが」
「陛下、では蜘蛛の頭目へ小官が交渉して参りましょう。我々が無事にこの森を出られること、そして今後も人間を襲わないこと、森に死喰い人が現れた時には味方せずいち早く教えること、これくらいを条件に致します。助命の条件には妥当でしょう」
「それでよかろう」
そしてオーベルシュタインが今や動きのままならないアラゴグの元に行き、話し合いを持った。戻って結果を伝える。
「交渉は成功しました。これで蜘蛛が人間を襲うことはありません。ついでにシュザンナらと組んでいた件ですが、やはり学校の人間を後でくれてやるという約束で同盟を持っていたようです。ディメンターが魂を抜き、体は蜘蛛のエサに、とのことで」
戦いは決着し、ディー・エーは全員無事に学校へ帰り着いた。
「勝った! また勝ったぞ!」
皆が勝利に沸いた!
結界は修復され、ホグワーツの危機は去ったのだ。おまけに禁じられた森から蜘蛛の脅威までなくなった。
「良かったな。今度はラベンダーもチビらないうちに終われて。トイレ要らずのラベンダーなんて言われたくないだろ?」
またしても余計なことを言ったディーンが攻撃され地面にのびる。
皆は毎度のお約束ごととして呆れるばかりだ。