この三校対抗試合は、それぞれの学校の代表選手を一人出し、その者が様々な試験に挑んで点数を付けられる。
正直学校の実力がそれで計れるとは言い難いものだ。ほぼ全ての生徒は観戦者でしかないのだから。一つのイベントを楽しむという意味では丁度いいし、もちろん交流の方が主であるといえばそうなのだろう。
その試験は長く続き、途中のクリスマスには交流舞踏会まで予定されている。
注目の代表選手を選ぶのは炎のゴブレットという選抜装置だ。
ほぼそのことだけに存在する特異な魔法装置であり、普段はホグワーツに置かれていても誰も気に留めない無用の長物である。三校対抗試合の前に選手の名前が書かれた紙を出すのがその唯一の役目だ。
ゴブレットの選出の結果、ボーバトン校からはフラー・デラクールが選ばれた。
このゴブレットが完全に正しいという保証はなく、その意味でも公平な対抗試合ではない。ただし、フラーが選ばれたことにはボーバトン校の者のみならず誰もが心から納得した。フラーは美しさだけではなく相応の強さを持ち、魔法力、胆力共に優れている。
肝心のフラー自身はちょっと肩をすぼませただけで、あまり反応もない。学校の栄誉など気にもせず軽くやってやるとでも言いたげな自然体だ。ただし嫌がっていないことから、目立つことにはまんざらでもないのだろう。
ブルガリアからやってきたダームストラング校の代表はビクトール・クラムになった。本来ならこの人選も納得のいくものだったろう。しかし、クラムは昨年からひどく体調を崩したという噂だ。それまで国家代表クィディッチチームのキャプテンとして輝かしい活躍していたのだが、それも長く出場していない。そして代表選手に選ばれたことに対し、フラーとは真逆の反応を示した。クラムは露骨に嫌がったのだ。できたら逃れたいという意志を示し続けた。
フラーが男子生徒に絶大な人気を誇るなら、女子生徒にはクラムが人気だ。今回の対抗試合を楽しみにしている女子は多かった。クラムは見かけも立派だし、それにクィディッチでは正に英雄である。ブルガリアチームが常勝を誇るのもクラムという圧倒的飛行技術を持つシーカーがいるからだ。
本当ならホグワーツ中の女生徒から写真やサインをねだられたろう。
しかしダームストラング校が到着し、実際のクラムを見て、盛り上がることはなかった。いや、クラムは充分に見栄えはいい。しかし期待ほどではなかったのだ。ビクトール・クラムはちっとも堂々としたところがなく、肩を細くしてきょろきょろ見回しながら歩いていた。
ダームストラングの生徒は杖を振り下ろしリズムを取りながら整然と行進していたのだが、クラム一人がつまづきかけて列を乱してしまったことも一度や二度ではない。
そんな動きをしていたのではとうていアイドルとしてのオーラがない。
やはり体調が悪いのだろうか。だがゴブレットが選んだ以上は必ずダームストラングの代表として動かなくてはならない。
そしてホグワーツからはハッフルパフのセドリック・ディゴリーが選ばれた。
セドリックは確かな魔法力と穏やかな人格を持っている優等生だ。けっこうな人望もあり、誰もが納得した。もちろんハッフルパフ寮は大喜びだ。日頃目立たないハッフルパフ生が一躍脚光を浴びるとは、喜びもひとしおである。その人選には他の寮も文句は言わない。スリザリンさえ何も言わない。スリザリンにとって自分の寮でなくともグリフィンドールから出るよりはよほどいいからだ。
だが、ここで重大なトラブルがあった。
あのゴブレットが炎と共に、紙をもう一枚出してきたのだ。
何とハリー・ポッターという名を続けて吐き出した!
ゴブレットから一つの魔法学校から二つの名が出されるなど前代未聞だ。錯乱させられたのだろうか。そんなことを防ぐため、かなりの魔法力をもって入念に作られ、魔法耐性を持たされたゴブレットなのに。
校長ダンブルドアはハリーを呼び、それを正直に話した。試合に参加するか内々の打診を行なう。
だが、この相談を受けたラインハルトことハリー・ポッターはあっさり一蹴した。
「そのゴブレットとやらのために対抗試合があるのではあるまい。そのようなルール、人が定めただけであり、宇宙開闢以来の法則であるものか。校長、対抗試合は公平に行わなければならないのは自明である。それが最重要であるならば迷う必要など最初からあるまい。ホグワーツからはただ一人、先に選ばれたセドリックのみが出場すべきである」
ラインハルトにとって当たり前のことではないか。
人間がそんなゴブレットごときに従う必要がどこにあろう。
「ハリー、なるほどの。確かにゴブレットは単に選手を選ぶ道具。道具に振り回され、公平さを欠いてはいかんの」
校長アルバス・ダンブルドアもそれで納得した。だがそれは心からではなく渋々のようだ。校長にはまた別の思惑があったのかもしれない。ゴブレットが名前を二人出すとは誰かの策謀に違いなく、いったんそれに乗るのがダンブルドアの狙いだったのだろうか。
各校代表選手の最初の試験が始まる前に、一つのイベントが開催された。
この三校で総当たりのクィディッチ親善試合が行われたのである。
もちろん対外試合、ホグワーツも気合い充分だ。メンバーにはラインハルトやファーレンハイトは加わらず上級生を中心に組まれている。
それはスリザリン生も加えてベストの布陣で挑む。対抗試合とあっては普段の寮同士の争いなど小さなものだ。もちろん親善試合とはいえ手を抜くつもりはなく、本気で勝ちに行く。せっかくのホームゲームであるからにはホグワーツの実力を見せつけてやるつもりである。
さあ、第一試合はボーバトン対ホグワーツだ。
ホグワーツ生は皆応援席に陣取る。これまで見たことがない豪華なオールホグワーツ選抜チームに信頼はするが、相手のボーバトンはどんな戦い方をしてくるか予測がつかず、期待と不安が交錯する。
そして試合が始まったが、最初から大荒れになった。
原因はたった一人、フラー・デラクールだ。
彼女は何と当たり負けしない体力が必要なビーターとして出場しているではないか!
観戦するホグワーツの男子生徒は大ブーイングだ。
「何であんな美少女をビーターにするんだ! 可哀想だと思わないのか!」
「危ないじゃないか! もし顔に怪我させた奴がいれば殺すぞ!」
「ブラッジャーを俺が代わりに受けてやる! フラーの身代わりなら本望だ」
それを聞いた女生徒はいきり立つ。
「いい加減にして! うちの男子どもはどっちの味方なのよ!」
観覧席も大興奮だが、試合が始まって直ぐに別種の興奮に包まれる。
フラー・デラクールがあまりに見事な飛行と、ビーターとしての華麗な技を披露したのだ。
それは超一流の技術だ。
もはや箒に乗っているというレベルではない。自在に空中を舞う猛禽のようだった。そしてビーターとしてブラッジャーを自在に操り、引き寄せ、ぶつけてくる。
ホグワーツの誇る最強のビーター、ハッフルパフの二連星アーニー・マクミラン、ジャスティン・フィンチなどブラッジャーを奪うどころか追い付けもしない。業を煮やして強引なタックルを仕掛けるも余裕で躱されてばかりだ。それどころかフラーは狙いすました動きでその二人の同士討ちまで演出してのけた。
フラーはビーターなのにチェイサーよりもはるかスピードが乗っている。
ホグワーツのチェイサーはグリフィンドールの稲妻三人娘、アンジェリーナ・ジョンソン、アリシア・スピネット、ケイティ・ベルだ。普段は見事な連携を見せ、悪魔のトライアングルとも形容される三人がフラー・デラクール一人のためにさんざん搔き乱される。そしてあっさり陣形を切り裂かれ、ゴールを次々と決められていく。
ホグワーツのキーパーは緑の鉄壁、スリザリンのマイルズ・ブレッチリーだったが全く防げていない。
ホグワーツチームのキャプテンはシーカーのロジャー・デイビースが務めている。
色々と陣形を変え、なんとかフラー・デラクールを抑え形勢の立て直しを図ろうとしたが全て無駄だった。もはや逆転は無理だ。ここはホグワーツの誇りをかけ、レイブンクローの流星シーカー、ロジャー自身がスニッチを取るしかない。
結局のところそれも無理だった。
ホグワーツは大差で敗れてしまった。
だが悔しさよりもあっけにとられたのが本当だ。見とれてしまうほどフラー・デラクールが見事過ぎる。
「またやーてくれましーたー。フラー抑えるーの無理ねー」
ボーバトン校長マダム・マクシームは満足のようだ。
ホグワーツチームは茫然とするが、素早く切り換えなくてはならない。
次の試合はホグワーツ対ダームストラングだからだ。
この試合は白熱した。
ホグワーツチームは先の試合のショックは大きかったが、気合いを入れて勝ちに行く。
一方、驚いたことにダームストラングチームには何とクラムが出ていないではないか!
「よし、勝つぞ! いいかみんな、ホグワーツ最強! ホグワーツ無敵! ホグワーツ世界一!」
ロジャー・デイビースがひときわ吠えたける。
クサい。クサ過ぎる。熱血もそこまで行くと滑稽なだけだ。
しかし皆は真面目である。ここで負けたらホグワーツはどうにもならない。勝敗で同数になったら各試合の点差の合計で判定するというルールがある。だからここで負けたら最下位確定、しかし大差で勝てばまだ一位になれる可能性が残されている。