ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第二十四話 パーティーのペア

 

 

 ロックハートことロイエンタールは人気者であり、この三校合同クリスマスパーティーでペアの相手など選び放題だと思われた。

 しかし、ロイエンタール本人は別に楽しみとも思っていない。

 その発想こそ人気者の人気者たるゆえんだ!

 一言で言えばがっつく必要がない。それが余計に人気を生むのだが、どうでもいいことに思っている。

 

 何と安直に教師同士でミネルバ・マクゴナガルとペアを組んだのだ!

 だがその結果、意外な情報を得ることになる。

 

 パーティーのダンスの途中、二人の会話が自然に一昨年の蛇騒動のことに及んだ。

 すると驚いたことにマクゴナガルがうっすらと涙ぐんでしまったではないか。凛とした雰囲気と毅然とした態度を決して崩さない教師のはずなのに。

 

「マクゴナガル教師、どうされました? 蛇は退治され、脅威は去りました。生徒にも全く被害は無かったと記憶していますが」

「それは、今の生徒たちについてはそうでしょう」

「その通りですが、それでは何の懸念が」

「わたくしの考えているのは、今ではなく昔の生徒のことです。マートルが死んだ後もゴーストになっているとは。そして未だにトイレから離れていないとは、なんと可哀想なことか」

「『嘆きのマートル』、そう言われているゴーストのことですか」

 

 マクゴナガルが思っていたのはマートルについてだったのだ!

 そして由縁を話し出す。

 

「そう、あの生徒はちょうどわたくしがホグワーツに赴任してきた時に入学した生徒の一人でした。皆とあまり馴染めず、グリフィンドール生なのにいつも泣いてトイレに閉じこもっていました。だからあんな悲劇に。」

「それがマートルが亡くなったことに関係があると」

「一人でトイレにばかりいるから、偶然にも『名前を呼んではいけないあの人』の犠牲になったのです。ホグワーツで唯一の犠牲者でした」

 

 マクゴナガルが唇を噛む。

 その滲んだ涙は世の女の千倍も希少で、感情の込められたものだった。

 

「その日もマートルはトイレにいました。それを知っていながらわたくしは手を打てなかった。もっと目を留めてやるべきだったのです。あの時、わたくしが」

 

 ロイエンタールはマクゴナガルという一人の真摯な教師、その隠された痛みを知った。

 それは長きに渡って心を傷つけ、血を流させているものだった。

 

 

 

 ドラコ・マルフォイことオーベルシュタインはこんなダンスパーティーに来ることはないと誰もが思っていた。それはもはや完全な確信だ。

 しかし、何とペアでパーティーにやってきたではないか!

 相手はスリザリンのミリセント・ブルストロードだ。

 オーベルシュタインを知る者は皆一体何がどうなってそういうことになったのか、目を白黒させるしかない。

 

 しかも、しかも、驚いたことに会話が弾んでいるように見えた。

 

「その猫はいつも横で寝ていたと」

「そう、それで寝返りを打つとフニャッと言って逃げるんだけどすぐまた寄ってきて。起きるとどこにでもついてくるのよ。先回りしてはひっくり返って妨害しようとするの」

「それは大変うらやましい。猫はよほど信頼しないとそういう態度はしないものです、ブルストロード嬢」

「分かる? うちの猫はお馬鹿だけどほんと飽きないわ」

 

 ミリセント・ブルストロードは猫を飼っていた。

 使いとしての動物も猫を選んでいるが、ホグワーツに来る前から家でも飼っていたのだ。

 二人の会話はほとんどその猫についてばかりで、正に親馬鹿のようなものである。ミリセントは本当に楽し気に話す。

 オーベルシュタインの方が退屈しているかというとそんなことはない。猫の話に本気で相槌を打っている。決して相手に合わせているのではない。

 普段心中を他人に見せることのないオーベルシュタインからはとても考えられない姿だ。

 心からうらやましそうにしたり、猫の仕草を想像して相好を崩す。

 

 

 オーベルシュタインが本当に動物好きだからだ。

 

 それは深いところでオーベルシュタインの生い立ちに関係があった。

 オーベルシュタインはもともと眼に病気を持って生まれた。むろん帝国ではそういう者は排除すべき対象である。

 両親はさすがに自分たちの息子を当局に突き出したりしていない。ただし、元が貧乏貴族なのに息子のため高価な義眼を闇ルートで買わざるを得ず、ますます貧しくなった。

 両親はそのせいで不仲になり、息子に当たり散らす。家の中で両親どちらからも鬱憤をぶつけられては息子はどこにも逃げ場がない。心を塗り込めて奥底にしまうことでやり過ごす、それが習い性になった。

 ロイエンタールも眼のせいで不幸を背負ったが、その比ではない。

 オーベルシュタインはそれ以上に眼によって不幸な幼少時代を過ごさざるをえなかったのだ。それは誰にも語らず、ロイエンタールを始めとして誰も知らない事実だった。どれほどルドルフ王朝を憎んだか、その根源はここにあったのだ。

 

 そんなオーベルシュタインの唯一の心の慰めは動物だった。

 

 両親に隠れてこっそり虫を買ったりしていた。近所の池の魚に餌をやり、ネズミや小鳥にも餌を用意したものだ。

 そんなある日、オーベルシュタインは死にそうなほど衰弱した子犬を拾った。ダルマチアン種のまだ子犬だったが、無情にも病弱のため捨てられたのだろう。

 弱いものは死ねと帝国は犬にさえ言うのだろうか!

 自分のせいではない運命であっても。

 

 一生懸命看護して持ち直し、それから犬はオーベルシュタインが心を通わせる唯一無二の友となる。両親はむろん犬を飼うことに反対だ。

 

「犬だって! 犬の餌代ももったいない!」「どうして家がこんな貧乏になったのか分からないの? あんたが生まれてきたからよ!」

 

 それでもオーベルシュタインは自分の食事を減らしてまでも犬に餌を与えて飼い続けた。そして何年もの間共に過ごし、お互い友人としてかけがえのない存在になる。

 家が貧乏のため、オーベルシュタインは進学先に無料の士官学校を選んで試験を受けることにしたが、ある日突然犬がいなくなったことに気付いた。

 あわてて聞くと両親は当たり前のように話し出す。

 

「ああ、あの犬は何でも猟犬の血統で、珍しいもののようだった。高く売れたよ。それで義眼を新しく買ってきた。士官学校の試験では何の不都合もない義眼でないと通らないからな。良かったじゃないか、あんな犬でも役に立って。少しは元が取れたってもんだ」

 

 そこに何の罪悪感もない。

 両親は一緒にいたというだけで、今の今まで息子の内面や心というものを一かけらも考えてこなかった。それが残酷な形ではっきりと判明した。

 

 オーベルシュタインはこの時もまた無表情のまま、泣き叫びも狂乱もしていない。

 

 しかし、士官学校に入学後、その性能のいい新しい義眼を叩き壊したのだ。

 そしてあてつけのように古い義眼に入れ替え、時々調子が悪くなっても頑として使い続けてきた。時折視界が失われ、周りの人間には目に赤い光が入るのを見られ、そのため義眼と知られたとしても。絶対にそこは変えない。

 オーベルシュタインが帝国軍で出世を続け、金銭に不自由しなくなってもそれは続いていた。

 何と大将、上級大将、軍務尚書という地位についた後まで同じだ。

 周りの者は軍務尚書ともあろうものが壊れかけの義眼を使うことに驚くと共に不思議がったものだ。副官フェルナーは早く完全に壊れて新品に交換しないかと思っていた。

 

 

 オーベルシュタインの両親はその後、あのリップシュタット戦役の際右往左往したが、行動力に不足したためオーディンに留まった。

 そしてあっさり時代の波に飲まれ、踏み潰され死んでいる。

 オーディンの大混乱の中、貴族家はみな生き残りのために密告や粛清、ついには殺し合いにまで及んでいたからだ。

 オーベルシュタインはそれに際し、公私混同をすべきでないという理由でもって自分の家族からの情報を遮断している。両親が自分に助けを求めているかどうか知ろうともせず、何ら動こうともしなかった。

 

 軍務尚書にまで昇進したある日、一匹の老犬を拾った。

 

 ダルマチアン種のそれは若い時は貴族の猟犬として使われていたのかもしれないが、もはや毛の抜け始めるほど年老いてしまい、役立たずとして捨てられたのだろうか。

 少し病気のようにも見える。

 軍務省前の階段にいたそれは、オーベルシュタインを見つけると吠えるどころかおぼつかない足取りで必死に近付こうとしていた。オーベルシュタインが慌てて駆け寄れば嬉しそうに擦り寄り、頬を押しつけてくる。

 

 訝しく思い、かつての名を呼んでみた。

 すると声にならない鳴き声を上げて返してきたではないか!!

 

 病気の老犬を抱きかかえたままオーベルシュタインは家に連れて帰り、執事ラーベナルトに最上級の獣医師をすぐさま呼ぶよう申し付けた。

 

 それからオーベルシュタインはどんなに業務が忙しい日でも決して犬との散歩を欠かさず、いくらかでも新鮮なエサを与えたくて業務の後の深夜、毎日買いに行った。そして買ってきた鶏肉を自分で柔らかく煮て食べさせるのが日課になった。

 それだけでも異常なまでの愛犬家と言うに値するが、最後の最後に軍務尚書としての失態ともいえる形になってしまう。オーベルシュタインがテロにより最期を迎えた際、老犬のエサについて副官フェルナーに頼んでいる。フェルナーが上官の毎日の行動を知らないわけはなかったのに。

 予め遺言書を残しているとはいえ、軍務尚書が言い残すべきことは他にいくらでもあるのだが。

 

 逆に言えばそれほどその犬を大事にしていたのだ。互いに友と思っていたほどに。

 

 

 オーベルシュタインの葬儀の後、副官フェルナーは遺言を忠実に守り、執事に任せることなく老犬の世話をした。しかしその期間は決して長くない。

 犬の寿命はもう間近かった。

 一ヶ月ほど経ってから犬は姿を消したのだ。

 その犬が次に見つかったのはオーベルシュタインの墓のところだった。

 

 墓石のすぐ隣にうずくまり、穏やかに冷たくなっていた。

 

 

 

 

 

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