ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第二十五話 ルドルフの罠

 

 

 一方、ダンスパーティーで最大の注目を集めるフラー・デラクールは何とビクトール・クラムとペアを組んだではないか!

 いったい何で対抗試合の出場者同士が、と皆はざわめいたが、それをしてはいけない法はない。

 もちろん、当人たちはロマンスの1ミリもないことは当たり前である。

 

「シェーンコップ、ありがたい申し出だが私と踊っても何も面白くないんじゃないのかい?」

「男と踊らなくてはならないのなら、別に誰でも一緒ですよ。それにヤン提督がボロを出さないかそっちの方が心配で。こんなことならユリアンと一緒に運動神経を鍛えてあげればよかったですな」

 

 これにはヤンも言い返せない。ビクトール・クラムともあろうものが簡単なステップも踏めずに転んだらあまりに奇異だろう。ここはシェーンコップのリードに期待するしかない。

 対抗試合出場選手としては親善パーティーに出ないという選択肢がない以上は。

 

「まあそれはいいとしてちょっと話がある。ダームストラングの校長カルカロフに何か不審な点があるんだ。いくつかの根拠は挙げられるが、まだ決定打はない。だが用心に越したことはなさそうだ」

「どんな話ですかな、ヤン提督」

 

 

 さて、もう一つの争奪戦があった。もちろんハリー・ポッターが騒ぎの中心、ポッターとペアを組みたがった女生徒は多い。むろんハーマイオニーもそう思っていたがあからさまなアピールはしなかった。はっきり言ってアプローチを仕掛ける女生徒が多すぎたのだ。

 

「ハリーはうちの兄ととても仲がいいわよね。だったら私と踊るのが最善だと思うわ」

 

 ジニー・ウィーズリーが周囲にそう宣言して機先を制する。

 

「どんな理屈よ! グリフィンドールはやたら押しが強くて困るわね。身の程知らずってこのことよ。ハリーはレイブンクローと高尚な話をするのがお似合いだわ」

 

 そう言ってレイブンクローのチョウ・チャンが反論する。先の戦い以来、ジニーと何かと張り合う。

 

「レイブンクローなら私よ。少なくともチョウよりはハリーを昔から知ってるわ」

 

 ちゃっかりレイブンクローのパドマ・パチルもアピール合戦に加わってきた。

 

 

 ハリーことラインハルトとしては誰と踊ろうが構わないが、最もうるさくない女生徒を選びたかった。妙な思惑などうっとおしい。

 

 それに適任な女生徒が一人だけいた。

 ルーナ・ラブグッドである。

 天然系の最たるもので邪心がない。しかし、残念なことにルーナにはネビル・ロングボトムという先約があった。

 結果的にラインハルトは一番古くからつきあいのある女生徒、ハーマイオニーを選ぶことになる。パーティーではここ数年の思い出話やら、昨年の戦いの様子やらを話して楽しく過ごせた。

 だがその会話の中身というのが問題なのだ。

 

 

「中央突破からの背面展開は相手に読まれていないことが前提になる。そのために一度攻勢を強め、それからいったん退いてみせるという擬態をしておくのが有効なのだ」

 

 そういった戦術論を語り続けるではないか。

 パーティーのダンスという場にふさわしい話題とはとうてい言えない。

 女の子の扱いがまるで成長していないのは、半分はラインハルトの責任、半分はヒルダの責任であろう。

 しかしそれでもハーマイオニーにとって魅力的に映る。いつも心の深い所を見せないハリーが、戦いの話をする時だけはとても純粋で、あえて言えば少年らしい。

 

 もちろんハリーが言っていること自体は少ししか分からない。逆に言えば少しは分かる。それがハーマイオニーの自信になるのだ。他の女生徒なら全く分からないだろうから。

 

「敵の伏兵に対しては、初めに叩いてしまうのも一つではあるが、あえて乗せられたふりをするのがいい。その方が選択肢が増える。あ、戦術論を語り過ぎてしまった。そちらには退屈な話だったろう。申し訳ない」

「いいえハリー、なんだか不思議な話ばかりだけど、面白くないことはないわ」

 

 ハーマイオニーの気遣いに気分を良くしたラインハルトはちょっとしたミスを犯す。

 

「むろん饒舌に語れる者が上手く戦えるということはなく、机上の戦術論ばかりでは役に立たない。それは幼年学校でも言えることだった。自分に戒めるべきだな」

 

 この時ハーマイオニーが「幼年学校」という言葉を問いただしたら、当然ラインハルトはうまくごまかしただろう。

 しかし、ハーマイオニーはその言葉を心に留めておいたのだ。

 

 

 一方、フラー・デラクールと踊るという甘い甘い夢を砕かれた男子生徒は多く、大なり小なりしょげかえっている。そのうちの一人、ディーン・トーマスは精神的にダメージを受けただけではなく、直後に物理的な打撃まで受けた。

 

「はん! あんたがフラーと踊れるとでも思っていたわけ? どんだけ自分の姿を見たことがないの?」

 

 そう言ってラベンダーが案外強い蹴りまで入れてきたのだ。

 

「言ってくれるぜラベンダー、そういうお前はどうなんだ? まさか相手がいないってことはないよな?」

 

 ディーンは軽く言い返し、自分ではやり込めたつもりだった。

 

「ディーン、お生憎様。相手がいない? 誰に言ってるのよ」

「ええっ、まさかもう相手がいたのか?」

 

 咄嗟のことに皮肉で返すこともできず、ディーンが驚いた。実はラベンダーを予備として心に置いておいたのに。

 

「誰なんだラベンダー? シェーマスか、ロジャーか、まさかアーニーの奴じゃないだろうな」

 

 そんなディーンの驚きをたっぷり楽しんでからラベンダーが話す。

 

「嘘よ。相手はまだよ。だって、ダンスは不得意で別にパーティーに出なくったって構わないから」

 

 ディーンは怒るのも忘れて安心する。

 

「クリスマスに寮の中に籠ってても面白くないだろ。まあ、飯を食うだけでも出て来いよ。お前の好きなチキンもあるだろうさ。ペアの相手が必要なら、俺がしてやってもいい。ダンスはさておきチキンを食おうぜ」

「まあ、そんなに言うなら、ペアになってやってもいいわよ」

 

 二人とも相手に合わせてやったんだというポーズを取り、不思議に丸く収まった。

 

 

 

 クリスマス・パーティーが終わると、また一つのイベントがあった。

 ボーバトンの空中船とダームストラングの水中船を紹介するというものだ。

 

 これも互いの親善の一環である。

 

 それぞれの船は大きいだけではなく、大変高度な魔法技術を駆使して作られた装置である。

 多くの魔法をうまい順番で重ねていって初めて船ができあがる。

 見せる方は自分たちの魔法技術を誇示し、自慢できることになり、見せられた方は今後の魔法開発の参考にできるだろう。ホグワーツは城自体を見せているので、船を見ることぐらいの権利は当然ある。

 ホグワーツの生徒はみな船に乗ってみたがったが、一応三年生以上とされた。しかも一回につき十五人以内の制限が設けられた。意図しなくても下手に触って船にダメージを与えてはならないからだ。

 

 ラインハルトらも好奇心旺盛、魔法の船を見ない手はない!

 さっそくボーバトンの空中船の方から乗り込みしげしげと観察する。

 

 その船は見かけも内部も優雅に作られていた。曲線が多く、白を基調としながら金線で装飾されたインテリアで、とても品がいい。天井の全面が柔らかく光っている。

 特に驚いたのは空中を移動する時の滑らかさだ。振動は全くなく、滑るように動く。これは大層な魔法技術で入念に作られた船だという証だ。

 

「素晴らしい船だな! キルヒアイス、ブリュンヒルトの艦橋のようではないか」

「そうですね、ラインハルト様。どういう方法か分かりませんが、重力制御が完璧のようです」

「ああ、船はいい。俺たちは船に乗ってこそだな。オーディンの地上もいいが宇宙も懐かしい。キルヒアイス、この船はひょっとして宇宙にも行けるのではないか?」

「それはどうでしょうか。少なくとも恒星間ワープはどうかと」

 

 キルヒアイスは苦笑するしかない。郷愁に誘われ、とんでもないことをラインハルトが言うからだ。しかし同時に、今いる世界が本来いるべき場所ではないことを思わざるを得ない。

 

 

 次はダームストラングの水中船に乗る番だ。

 ラインハルトはもちろん喜び勇んでいの一番に乗り込む。まるで子供のようだ。慌ててキルヒアイスが追い、他の生徒たちも入る。

 内部は想像した通りのインテリアだった。

 ところどころに飾り気のないランプが置かれているが全体的にやや薄暗い。踏み込むと木のきしむ音が聞こえ、気のきいたBGMのようだ。太い木の柱で丈夫に作られ、正に質実剛健、余分な装飾は一切無い。いにしえの海賊船のようなあんばいだ。

 

「ん、船が動き始めたようだ」

 

 中を見て回っていると、船が動き出したような音がした。

 だがそこに違和感がある! デモンストレーションに水の中を進むというのとは違い、振動などではない妙な感じがするのだ。

 

「一体何だ? 空間が歪曲しているような感触、この船はそういう駆動法なのであろうか」

 

 それこそワープのような微妙な違和感だ。

 その後、船の外の光景が一変していることに気付いた。

 船はいきなり針葉樹の木が生い茂る森の中にいるではないか。

 この移動は通常のものではなく、ポートキーによる瞬間移動だということがそこで分かる。

 

 

 この船そのものがポートキーだったのだ!

 

 ホグワーツにそんな魔法道具を普通は持ち込めるはずがない。結界によってポートキーなど弾かれるからだ。

 

 だが、この交流試合のための船が通る時だけは特別に結界が開けられていた。

 それが盲点だった。

 この大きな船自体がポートキーとは、誰もが予想しない大胆な戦術だ。

 

 こうしてラインハルトらはあっさりと大帝ルドルフの罠に落ちた!

 

 

 

 

 

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