ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第二十六話 激突

 

 

 さすがにラインハルトである。

 どんな状況にも驚きは最小限にして、躊躇なく対応を実行するのだ。

 

「キルヒアイス! これはルドルフの罠に違いない。ホグワーツから連れ出すため、こんな手段を考えたとは」

「ラインハルト様、そのようですね。船ごとの移動を仕掛けられました。ではここに留まっていたら先んじられるばかりです。早く外に出て情報を集めませんと」

「そうだ。いったん身を潜め、向こうの出方と意図を観察しよう」

 

 

 ラインハルト一行はダームストラングの船から急いで出ようとする。

 それ以外の生徒についてどうしようか一瞬迷ったが、状況の分からない一般の生徒は置いて行くことにした。ルドルフの目的は自分であり、他の生徒にまで無差別な殺戮はしないだろうと思ったのだ。

 

 そしていざ戦いになれば一般生徒は足手まといになる。

 

 ラインハルト、キルヒアイス、ロイエンタール、オーベルシュタイン、ファーレンハイト、ルッツが船から出る。そんな動きを見て、たまたま船に一緒に乗っていたハーマイオニーとラベンダーがついて行きたがった。

 

「え、ハリー、どうして慌てて外に出るの? この船が何か行先を間違えただけかもしれないじゃない。きっとサプライズよ」

「ハーマイオニー・グレンジャー嬢、そんな面白いようなことではない。危機が迫っている、としか言いようがない。説明は少し面倒になる。禁じられた森にいた敵のことから話したいが、そんな時間はなさそうだ」

 

 やむなくその二人も連れて出た。

 他にヤンとシェーンコップ、もう一人フィッシャーが船から出て来た。ラインハルトらの動きを見て、何か感づいたことがあったのだろう。

 

「ローエングラム公らの動きがおかしい。何か敵襲のような急ぎぶりじゃないか。我々もいったん船から出た方がよさそうだ。フィッシャー提督、シェーンコップ、一緒について行こう」

 

 船から出ると、皆は付近の森に身を潜める。ハーマイオニーなどもわけが分からないながら同じようにした。

 

 

 そのわずか一分後、複数の人影が現われて船を囲んだではないか。

 一斉に船に向かって杖をかざし、何かの呪文を唱え始める。

 

 すると船はけたたましい音を放ち、遠目に見ても激しい振動を始めた。

 その意図をラインハルトは簡単に見抜く。

 

「なるほど、船体を揺らすことで一気に無力化を図るわけか。敵も考えたものだな」

「そうですね。あの方法を取ればおそらく中にいる人間は船酔いするか失神するかのいずれかでしょう」

 

 一般生徒はそうなったのだろう。あれから船の外に出てくる者はいなかった。

 

 そして注意深く見ると、人影の一人が何か言った。

 

「よし、この辺でいいだろう。カルカロフ、お前は中に入って確かめてこい。ハリー・ポッターなる者がいるか見てくるのだ。そして報告は迅速にせよ」

「何を偉そうな! 命令するなルックウッド」

「何か言ったかカルカロフ。お前はつまらない過去に捉われているようだな。俺は今大帝陛下の友にして臣下である。そんな名で俺を呼ぶことは許さん。リッテンハイムと呼べ」

 

 そしてぎゃっという声がした。

 カルカロフと呼ばれた方はローブの右袖を切り裂かれていたのだ。そんな脅しを受け、命令通り一目散に走って船に入る。

 

 その場を見ていたもう一人が言う。

 

「相変わらず苛烈だな、リッテンハイム。あれらの者たちは帝国軍の艦隊将兵ではない。訓練も修羅場を潜った経験もない以上、戦いの場における動きが分からんのだ」

「だから躾をしてやっている。しかしブラウンシュバイク、お前もずいぶん人が丸くなったものだ。俺より三十年も長生きしたらしいから、そうなったのか。以前なら俺の方が止めに入ったくらい部下に厳しかったお前が」

 

「まあそれもそうだ。ともかくやるべきことをやろう。付近の捜索だ。船からいち早く出た者がいるかもしれん」

「確かにな。俺が逆の立場ならきっとそうする。この船はポートキーとしては大き過ぎて移動座標が正確にはならなかった。そのため俺もブラウンシュバイクも駆けつけるのが遅くなった。その時間差を利用して脱出した者がいるはずだ」

 

 そして二人は死喰い人を使い、付近の探索に向かわせる。「マクネア、カロー、続いて行け!」

 

 

 会話を聞いてラインハルトらの心臓が一気に高鳴った!

 

 出た名は門閥貴族としてよく知った名だからだ。

 何とシュザンナなどの他にも、ルドルフ陣営には向こうの世界から来た人物がいた。

 しかし不思議なことにラインハルトの知るブラウンシュバイクやリッテンハイムは何も戦い方など知らないはずだ。

 そもそもこんな精悍な男たちではなく、自尊心のみ肥大した無能な者ではなかったか。しかも、ブラウンシュバイクとリッテンハイムは二大派閥の領主として大変仲が悪かったはずなのに、それが気安く呼び合って共同作戦をしているとは。意味が分からない。

 

 そして考え込んでいる者がもう一人いた。

 ヤンはこの緊迫した状況と、有名な二人の帝国貴族の名を聞いて、ある程度の予測をしている。

 ラインハルト・フォン・ローエングラムと敵対するものがこの世界にいるらしい。

 そしておそらくは民主共和制から最も離れた思想を持っている者たちであろう。専制政治とはいえ最良の政治を実践してのけたラインハルトのような者ではなく、もっと悪い専制政治の。

 さすがにヤンの洞察は正しい。

 とすれば傍観ではなくラインハルトらと共同歩調をとった方がいい。

 

 

 ヤンはラインハルトに近寄り、知っている情報を話す。

 

「あのカルカロフという者はダームストラングの校長で、実は少し前から行動がおかしかった。ついでに死喰い人という噂がつきまとっていた。この状況から察するにそれは真実であり、しかも帝国貴族の名を自称する者たちと同じ陣営とは」

 

 そこへ徐々に死喰い人らの探索がのびてくる。ラインハルトらはゆっくり移動しつつそこから逃れていくしかない。

 だがラインハルトらとすれば、ポートキーの船でやってきたここの位置が分からない以上、ホグワーツに帰るには必ず船に戻らなくてはならない。またポートキーとして船を使うために。

 つまりいずれは逃げずに戦う必要がある。しかし、しばらく時間をかけて状況を把握した方が有利になるだろう。

 

 そんなところへ先に船に入ったカルカロフからの声が響いた。

 

「見つからなかった! この船の中にハリー・ポッターはいない!」

 

 ブラウンシュバイクとリッテンハイムはさもありなんという調子でうなずき合ってから、森の捜索に自身も加わり、網を絞っていく。

 

 しかしそれらの者がラインハルトを見つけたのではない。

 突然にかくれんぼの時間は終わった。

 

「ここにいたのかあの女の弟! さっさと妾に命を差し出すがよいぞ!」

 

 声が響いた。

 もちろんベラトリックス・レストレンジことシュザンナだ。シュザンナはブラウンシュバイクらより遅れて到着したため、却って別の方向からラインハルトらを見つけることができたのだ。

 

 そして迷いもなく極大の攻撃呪文を放ってきたではないか。

 

 ラインハルトはシュザンナの実力を甘く見ていない。隠れることを止め、キルヒアイス、ロイエンタールらと複数で防護呪文の壁を重ね合わせる。

 

「プロデゴ!」「プロデゴ!」

 

 それでも攻撃を中和するのが精一杯だった。

 薄暗い森に呪文のぶつかり合う光が一閃する。

 壮大な白銀の輪が広がった。

 

 

「やめろ! ベーネミュンデの子孫!」

 

 その様子を見て素早くやってきたブラウンシュバイクがシュザンナを制止した。

 

「大帝の命である。その者は殺してはならん。生かして連れていかねばならんのだ」

 

 ここで初めてラインハルトは理解した!

 ブラウンシュバイクはシュザンナに対して何と言った? ベーネミュンデの「子孫」とは、確かにその通りだが、呼び方としてはおかしい。あたかも元のベーネミュンデを知っていてそこから起算したかのようだ。

 

 つまりは時間軸がずれている!

 このブラウンシュバイクはラインハルトの知るあの惰弱な門閥貴族オットー・フォン・ブラウンシュバイクではない。それよりずっと前の時代、実力で地位を築いた始祖のブラウンシュバイクなのである。とすればたぶんリッテンハイムも同じなのだろう。これは無能どころか強力な敵手かもしれない。

 

 渋々シュザンナは従い、杖を降ろす。

 

 そこで逆にラインハルトが攻勢に出た。どうせ話し合いなどをしても意味がなく、間髪入れず攻撃して圧倒すべきだ。キルヒアイスらと目配せして攻撃呪文を放つ。

 

「スティーピファイ!」「コンフリンゴ!」

 

 そして辺り一面魔法同士のぶつかり合う多くの輝きで照らし出された。

 やむを得ずブラウンシュバイクらも戦いに加わる。

 

「もうじき大帝陛下も見えられる。リッテンハイム、こうなったら仕方がない。我らも支えるぞ」

 

 

 一方、あまりに凄まじい集団魔法戦にハーマイオニーとラベンダーは震えながら地面に這う。今まで複数の魔法使い同士が戦うところを見たこともないのだ。しかも相手は日刊予言者新聞で名前が出たくらいの有名な死喰い人たちではないか。

 ただし、二人とも臆病な女生徒ではない。

 何もしないのではなく、時折隙をみて魔法を撃ち掛け、また這いつくばり、移動する。自分でもできそうな一撃離脱に徹したのだ。

 

 

 ところがここに戦いが楽しくて仕方がないような表情を浮かべている者がいる。

 フラー・デラクールことシェーンコップだ。

 ヤンと同じような結論に達し、どちらの陣営に加勢すべきかもう決めている。

 

「ヤン提督、少しばかり運動会を盛り上げてきますよ。むろん、あなたは応援団でいい」

「助かるよ、シェーンコップ。運動会は昔から苦手なんでね」

 

 

 

 

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