ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第二十八話 圧倒

 

 

 戦いの最中、皆が気付かないところで変化が生じている。

 空だ。

 急に紫がかってきた。そして雲が渦を巻いている。それが次第に大きくなり、そして速くなる。天井のような厚い雲の壁、それが目が回るようなダイナミックなものに変わってきた。

 

 オーベルシュタインと戦っていたリヒテンラーデが叫ぶ。

 

「大帝陛下! 大帝陛下がお見えになられた!」

 

 そして何かの一つの塊が渦の中心からやってくる。

 黒いフードを被った人間のようにも見えるが、少なくとも箒に乗っている姿ではない。

 それはぐんぐん地上に近付いてきた。そして誰の耳にも聞こえる大音声を発する。

 

「止めよ。静まれ!!」

 

 謎の声の一喝で戦いは止まった。死喰い人が攻撃を止め、もちろんブラウンシュバイクなども同じだ。

 それと戦っていたロイエンタールらも自然と様子を見る。

 

「余がルドルフである! 今回、策を弄して招き寄せたのは理由がある」

 

 ついにルドルフは地上に降り立った。

 ラインハルト側の皆が驚いたことに、その姿は輪郭が不鮮明で煙で縁取られている。

 顔もぼんやりして分からない。声ははっきりしているが、人間ではないのだ。

 

 

 誰も声を発せなくなった雰囲気の中でただ一人、畏怖を知らないラインハルトの声が響く。

 

「お前がルドルフか! 銀河帝国を作り上げ、五百年後に腐った王朝たらしめた張本人か。お前のために幾多の人間が迷惑を受けてきたのだ。詫びる言葉があるなら今すぐ言え!」

 

 腐った銀河帝国ゴールデンバウム王朝、そのために姉アンネローゼ、自分やキルヒアイスも運命を捻じ曲げられた。

 その全ての原因がここにあった! 弾劾するのは当然だ。

 もちろん覇王ラインハルトはこんな天変地異にも驚くことはない。

 

 その言葉を聞きながら、ヤンもまた考えた。

 

(なるほど、ローエングラム公が戦っていたのは太古のルドルフ大帝が相手だったのか! それで納得だ。確かに相容れるものではないだろうな。ゴールデンバウム王朝を倒して成り立ったのがローエングラム公の新帝国だから)

 

 やれやれといった表情は崩さないが、内心には決意というべきものがある。

 

(しかし一言いいたいが、ルドルフを相手にするのは、むしろ自由惑星同盟の我々にこそ優先権があるんだけどなあ。分かってくれるとは思えないが)

 

 民主共和制の敵、ヤンにとってもルドルフこそ究極の敵といえた。

 

 

 その時、冷笑と共にルドルフが一方的に告げてくる。

 

「よく吠えるな。小童。貴様に用事がある。余に命を捧げよ。余の体が完全でないのは、ハリー・ポッターなる者が以前死の呪文を跳ね返し、それが余に当たってしまったためと聞いた。そしてハリー・ポッターが血と肉をもって贖った時、余の肉体が完全復活する。早くひれ伏し、余を賛美せよ。自らを余のために投げだす喜びのうちに死ね」

 

 何と、ルドルフ大帝が未だ煙の塊のような姿なのは、ハリー・ポッターが原因だった。そしてハリーが命を捧げればすっかり人間に戻れるということだ。だから策を弄してここに生かして連れてきたのだろう。ただ殺すだけならホグワーツ内部で暗殺すればいい。

 

「ふん、面白くもない冗談を止めろ。お前には冗談のセンスがないぞ、ルドルフ」

 

 ラインハルトはきっぱりとルドルフに言い放った

「中途半端はやめて煙でも塵にでも還ったらどうだ。どのみちそうしてやるつもりだが」

「威勢はいい。恐怖に震えぬことは褒めてやろう。ただし結論は変わらぬ」

 

 ルドルフは余裕をもって続ける。

 

「抗うのは無駄なことだと、やはり打ちのめされた後でないと分からぬか」

 

 

 面白げにルドルフが言うと、突如として恐ろしい現象が巻き起こった。

 

 天地が捻じれるように動いていく。そして付近の小石などが重力を無視して地表から立ち昇る。とてつもなく異常なことであり、地上と空中の境があいまいになったのだろうか。

 雷鳴にも聞こえる轟音が響き渡り、その合間に断末魔の悲鳴にも聞こえるしわがれた音がする。

 空中に赤い炎のような灯が突如現れては消え、突風がそれに加わる。

 

 もはや魔法で一つ一つの現象を引き起こしているのではなく、精神力が具現化して一帯を地獄に変えつつある!

 

 原因はもちろん大帝ルドルフただ一人である。

 人類史上空前の大帝国を作り、最強の独裁者となったルドルフ・フォン・ゴールデンバウムだ。

 そこにいた死喰い人はもはや誰も立っていない。震え上がり這いつくばっている。極限の恐怖に気を失っている者も多い。

 さすがに向こうの世界からの部下、ブラウンシュバイク、リッテンハイム、リヒテンラーデは片膝をつき、畏まった姿勢を保ち臣下としての礼を崩さない。

 逆にフレーゲルなどはもはや意識を飛ばし転がっているだけだ。

 一方、ラインハルトらの側ではうろたえている者はいないが、超常現象に少なからず驚きがある。

 

 だが、ここで場を切り裂く声がする。もちろんラインハルトの声だ。

 

「その程度か、ルドルフ。笑わせてくれる。お前の銀河帝国は俺が倒し、作り変えた。ついでにお前自身に対しても勝ってやろう」

 

 今こそラインハルトが本気で覇気を展開しだした。

 黄金の覇王の覇気だ。

 

 

「勝負だ、ルドルフ!」

 

 金色に輝く帯と白銀の微粒子がラインハルトの体の周りから出現した。

 それらは急激に辺りを巻き込んでいく。

 ルドルフによって魔界のように変えられた場所を蚕食してルドルフが起こした超常現象を無力化していく。

 

 

「なあ!? 何じゃ、これほどの力が? 奴め、妾に対して手を抜いておったというのか!」

 

 そう呻いたのはシュザンナだ。

 今、力を解き放っているラインハルトは自分と戦っていた時の比ではない。その覇気の強さは段違いだ。もしもこんなラインハルトが相手なら、シュザンナといえども対抗できなかったに違いない。

 

 実はラインハルトはシュザンナ相手の時に手加減していたのではない。

 ラインハルトは無意識のうちに力をセーブしてしまっていたのだ。それはどうしてもシュザンナへの憐憫が心の片隅にあったからである。

 

 ラインハルトは知っている。

 

 かつてシュザンナもアンネローゼと同じく無垢の少女であったろう。

 

 それがいきなり後宮に閉じ込めらた。最初はどんなに嘆いただろうか。自分の身にふりかかる運命を呪ったことだろうか。

 しかしその生活が長く続くうちに精神が変化したのだ。あたかも皇帝の気を引くことが自分の意志のように思った。それが目的にすりかわった。自分が好んで寵姫になったかのように自分をごまかしたのだ。

 それは、自分の心が悲しみに潰れないよう守るための悲しい手段なのである。

 シュザンナとアンネローゼ、お互いの立場は何も変わらない。理不尽に人生を踏みにじられた。

 それが長くなったから可憐な少女は夜叉に変わってしまった。

 ラインハルトはそれを薄々感じ、シュザンナへ完璧な非情を見せることができなかったのだ。

 

 しかし今は違う!

 幾多の悲劇の出発点、全ての諸悪の根源、ゴールデンバウム王朝初代皇帝ルドルフが相手である。絶対的に打倒すべき敵なのだ。

 黄金の覇気が具現化した帯がまるで槍のように伸び、ルドルフに迫る。

 

「よかろう小童。では己が力の限界を思い知るがよい!」

 

 今度はルドルフが本気で覇気を解放した。

 人類社会をその手に握り、銀河帝国を打ち立てたルドルフだ。

 それもまた尋常な覇気ではない。ルドルフを中心に暗紫色の渦が巻き起こり、たちまち大きく広がる。高速の渦は完璧な防壁であり、強力な攻撃でもある。ルドルフの覇気から生じた攻防一体の戦陣だ。

 

 それがラインハルトの覇気と激突した。

 黄金の覇気が弾かれ、捻じ曲げられる。

 

 ラインハルトは驚く。全力の覇気が通用しないとは。今まで自分の覇気に疑いを持ったことはなく、その強さは当たり前のことと思っていた。しかし今、それと同等以上の覇気があることを突き付けられた。

 

 一方、ルドルフもまた予想外だった。

 簡単に弾けると思っていた向こうの覇気が、実はすんでのところまで貫いていたのだ。阻むことも中和もできなかった。ただ方向を逸らすばかりだ。

 

「おのれ小童!」

 

 今度はルドルフから仕掛ける。

 暗紫の渦巻きが形を変え、先端をラインハルトに向けてきた。動き始めるとそれは途中幾つもに分裂し、四方から同時にラインハルトに襲い掛かる。

 そこへ白銀の微粒子がまとわりつく。苦しんだようにうねる渦巻きを黄金の帯が切り裂いた。そして渦巻きも帯も空中に消えていく。

 ラインハルトもルドルフも覇気の具現化をいったん失う。

 思わぬことに内心驚いたが、どちらも再び闘志を燃やして準備を始める。

 

 覇気対覇気、激しくぶつかり合っても勝負がつかない。

 

 

 こんな光景に誰しも言葉を失い、呆然とするばかりだ。

 しかし、ここをチャンスと見た者がいる。

 ヤンが素早くシェーンコップに近寄り耳打ちする。

 

「シェーンコップ、今だ。船を占拠しよう。そこで船にいる死喰い人の掃討を頼みたいんだが」

「なるほど、黄金の皇帝を陽動にして離脱を図ると」

 

 シェーンコップは素早くダームストラングの水中船に乗り込んだ。そこにはルドルフの覇気を恐れて船に逃げ込んでいた死喰い人がいたが、もちろんシェーンコップの敵ではない。相手に魔法を使わせる間もなく体術で打ち倒した。もちろん殺さぬよう手加減はしている。

 そしてヤンは持ち前の洞察力でポートキーとしての中枢を探り当て、動作しうることを確認した。

 ヤン一行はまた船から出て、ホグワーツからやってきた面々をなるべくこっそりと船に招き入れる。

 

 まずはハーマイオニーやラベンダーから入れ、他の人間にも伝える。そして頃合いを見計らいロイエンタールなども一気に船に走り込む。

 それに気付いたブラウンシュバイクらが叫ぶ。

 

「おのれ、逃げる気か!」

 

 同時にキルヒアイスが叫んだ。

 

「ラインハルト様、お早く!」

 

 意図を理解したラインハルトがルドルフから目を逸らし、船に駆け込む。

 

「しまった! 船をすぐさま破壊するのじゃ! 魔法を撃ちかけつつ囲め。逃がすでない!」

 

 リヒテンラーデの指示により、攻撃魔法が船に撃ちかけられる。

 徐々に外壁が壊され、裂け目から内部が見えるくらいにまでなった。

 

 だがそこまでだ。

 船は唐突に消えた。船を破壊する攻撃は間に合わず、ポートキーの機能で船はホグワーツに戻されたのだ。

 ルドルフ達にもうそれを追う手段はない。

 

 

 

 

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