ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第三十二話 ボーバトン攻防戦

 

 

 次の日、二度目の攻勢が始まった。

 前回と違うところがある。巨人たちはそれぞれ巨木を抱え、多少かがみこみながらダームストラングの城を目指す。

 つまり巨木は臨時の盾の代わりなのだろう。またしても巨人の戦法には進化があった。恐るべきことであり、この調子で次々と武具を教え込んだらうなぎ上りに脅威は増大する。

 だが、城の方でも守りを新たに加えていた。

 今度はあちこちに落とし穴が仕掛けられていたのだ。直ぐに何体かの巨人が落ち、仕込まれている杭で傷つけられ行動不能になる。

 

「なるほど、シンプルだが巨人には効果的だな。だがその程度は計算の内だ」

 

 リッテンハイムはほくそ笑む。何も慌てず、巨人に命じて地面を巨木で叩かせる。それには盾以外の使い道もあった。その振動で隠してある落とし穴が露わになり、策は破れた。

 

 そして今回の総攻撃の要というべき部隊を動かした!

 

「次は急襲だ。空から侵攻せよ」

 

 何とリッテンハイムは巨人だけではなく、ドラゴンの群れも指揮下に置いていた。

 ドラゴンも人間から忌み嫌われる魔法生物だ。もちろんそれは人間にとっての視点にしか過ぎず、ドラゴンたちにとって不当な扱いである。必然的にドラゴンは人間に対し決して快く思っていない。それがルドルフの甘言によって味方した下地になっている。

 

 先の攻撃でドラゴンを使わなかったのは過剰戦力と判断していたせいである。しかし、二回目は温存などしない。思いっきり最大戦力で叩き切るとリッテンハイムは決めている。

 

 しかも使い方としてはむしろ巨人を囮に使ってドラゴンで決着をつけるつもりだった。

 

 実力充分のドラゴン六匹が編隊を組み、空中からぐんぐん城に迫る。

 そして城に充分近付いたら火を噴く。一匹でもドラゴンの火炎は並みの火とは比べ物にならない高熱なのだ。それがドラゴンが人から恐れられる所以である。ましてその斉射ともなれば凄まじい威力を持つ。

 たちまち城の一角が焼き払われてしまい、辺りにも即座に引火して激しく煙を吹いている。もはや鎮火などできるようなものではない。

 

 満を持してリッテンハイムは巨人に新しい武器を使わせた。

 それは投石機だった。

 袋の付いた丈夫なロープと大きな石を使う。手投げの簡単なものだったが、巨人の暴力的な力で使われれば恐るべき威力を持つ。巨人たちは易々とそれを振り回し、大石を飛ばしてくる。

 きれいな弾道軌道を描いて落下してきたそれは城のあちこちに命中し、当たったところの外壁をまるで紙のようにやすやすと貫通していく。その威力は穴を開けるだけではなく衝撃で周囲まで崩していくのだ。これで城の防御力は無きに等しくなる。

 そして最も外壁が壊れた所を狙ってドラゴンと巨人がなだれ込んでいく。

 

 見事なリッテンハイムの戦術だった。

 だが、間を置かずして異変に気付く。城からの反撃が全く見られない。いくらドラゴンの急襲が見事だとしても抵抗が無いのは変である。

 

「まさか!? しまった!」

 

 慌ててリッテンハイムは自身が城に寄って確認した。

 城はもぬけの殻だった。

 そこには誰もいない。そして始めてリッテンハイムは相手が恐ろしい指揮官なのを理解した。

 

「これは凄いな。普通、一回勝てばまた大丈夫だと思って動かないものだ。しかし、この相手は違う。勝っていたのに撤退を選んだ。予定通りのことを予定通りできるとは、大した奴だ」

 

 その通り、ヤンの統率の下、ダームストラングの生徒らは既に前夜のうちに城を抜け出していたのだ。向かう先はボーバトンである。

 

 ヤンはダームストラングよりむしろボーバトンを最重要拠点と位置づけていた。

 ダームストラングはなるほど交通上の要地でありそれを掌握すれば有利ではあるが、ホグワーツとはいささか離れ過ぎている。つまりお互いの戦線の連携はできないのだ。

 しかしボーバトンなら、ホグワーツ攻略を成し遂げようとする敵にとってすれば背中を扼されてしまう位置であり、絶対に獲らなければならない。

 ボーバトンで食い止めることが戦略上大きな意味を持つのだ。

 

 

 ヤンらは早めの撤退が功を奏し、無事ボーバトン校まで辿り着く。

 

 ボーバトンの立地はホグワーツやダームストラングとはいささか異なる。

 その城は低い山の中腹にあり、周りは柔らかな草の生える美しい草原が一面に広がる。

 四方への見晴らしの良さは防御に適しているとも言えるが、これほど起伏がなければ伏兵を隠しておく場所がない。

 そうなると用兵のバラエティは攻守ともに少なくなってしまう。防御側の取るべき戦法は学校に籠っての迎撃しかない。

 

 そのボーバトンは今やフラー・デラクールことシェーンコップが指揮をとっていた。

 校長のマダム・マクシームはシェーンコップのあまりに戦慣れした姿に圧倒され、自分が指揮をとることを諦めている。フラーは微塵も動じることなく前線に立ち、蛮勇でも狂奔でもなく、ひたすら戦い続ける美少女なのだ。先の見えない戦いにあっても恐れもせず腐りもしない。実力もさることながらその精神力が凄い。シェーンコップを皆が崇めるのは当たり前である。

 

 尤も、シェーンコップは別に恐れを隠しているわけでもなんでもなく、本当に恐れていない。

 かつて百万の敵兵がいる要塞に負傷兵を装って乗り込んだこともあるシェーンコップである。魔物相手の戦いなどどうということもない。格下相手に単純作業をこなしているだけのつもりだった。

 

 

 そのシェーンコップがダームストラングから到着したヤンを迎え入れると同時に、これからボーバトンの防御戦をヤンが指揮するという宣言した!

 

 逃亡民ともいえるダームストラングの生徒を同じ魔法学校のよしみで庇護するのは当たり前としても、防御の指揮を預けるというのはいくらなんでも非常識だ。

 だがボーバトンで最後まで反対する者はいなかった。

 それはシェーンコップからの説得だけが理由ではない。あのクィディッチ対抗試合、そこでヤンの指揮が見事だったことを憶えている生徒も多かったからだ。

 

 さっそくヤンは作戦を練り上げる。

 時間を無駄にはできない。既にボーバトンにも小規模な敵襲は幾度もあったが、ダームストラングから追撃してきた敵も到着するはずで、それらが合流すれば本格的な攻防戦になるだろう。

 

 

 ヤンが観察するところ、敵襲は小型で快速の竜を使っての反復攻撃のようだった。それはこちらの戦力や反応性を測っているように見えた。つまり、単なる力押しではなく敵も戦争というものを知っている。

 むろんヤンに慌てた様子はない。

 

「最大限効率よく、撃退するんだ。向こうに攻め切る意図がない以上、消耗を防ぐのが一番だよ」

 

 周りにいるボーバトンの生徒は拍子抜けする。難しい戦法を命じるのでもなく、精神論で鼓舞するわけでもない。まるで化学実験をするかのようだった。

 結局、敵の攻撃はいつまでも続くものではなかったが、そこで初めて敵味方の戦力を正確に見切っていないとできないことだったと分かってくる。

 ボーバトンの生徒らはヤンの実際の指揮を目にして、能力を改めて認めた。

 

「だから言ったろ。負けなんかあり得ないって」

 

 そう言ってダームストラングから来た生徒たちは自分のことのように自慢する。

 一方のヤンは見た目に分からない緊張をしていた。

 

「そろそろ頃合いと思われたかな。次は敵も総攻撃を仕掛けてくるはずだ」

 

 

 

「小気味のいい防御をしてくる。一見地味だが実力のある指揮官がいるようだ。では敬意をもって叩き潰してやろう」

 

 今、ボーバトン校攻略のために攻撃側の指揮をとるのはブラウンシュバイクである。

 配下の魔物の立てる喧騒を聞きながら城に遠く眼差しを向けた。

 

 二日後の日没の瞬間、これまでにない熾烈な攻撃がボーバトンを襲う。

 

「何だ、あれは!」

 

 誰かが空を指指した。

 そこには細かい粒が散りばめられているように見えた。しかし、やがて魔物の大群であることが分かる。

 それは吸血鬼だった!

 

 今やルドルフ側では世界のあらゆる魔物を取り込み、味方としているのだ。人間の敵とされ、弾圧されてきた魔物は今やこぞってルドルフの呼びかけに応じ、人間に復讐をしようと襲い掛かってくる。

 それがルドルフの戦略の大きな柱である。魔物を扇動し、いいように使役する。もちろん魔物にとっては碌なことではないがそれを悟らせないのはルドルフの圧倒的に優れた政略のゆえである。

 

 

 ボーバトンは怯むことなく吸血鬼の群れに応射する。段々と魔法の集団射撃に慣れてきたのだ。

 

「敵本隊に掃射をかける! やり方は分かるな。総員、撃ちかけつつ10時方向から2時方向まで狙点移動!」

 

 この時、最前線に立って迎撃する生徒を指揮するのはウランフ提督だ。

 さすがにウランフ提督、かつての同盟軍随一の猛将にふさわしく最適解の反撃を即座に実行した。

 

 だが、それでも撃ち漏らしが出てしまう。

 結果的に城のあちこちで白兵戦が展開されることになった。

 ヤンは自分が戦力にならないことを充分自覚しているので、ラップらに守られながらなんとか安全確保を図る。

 

「これでは自分で言うのもなんだがカッコ悪いなあ」

 

 ヤンとしてはラップはともかくジェシカにまで守られるのがたまらない。

 

「何言ってるのヤン。あなたはおとなしく守られてなさい」

 

 言葉通りジェシカは群がる吸血鬼を次々打ち倒す。

 気の強さも昔の通りだ。それが魔法力の強さに直結している。

 

「あの時のハイネセンスタジアムよりよっぽどマシよ! それを考えたら吸血鬼がクリスチアン大佐に見えてきたわ。今度はぶちのめしてやるんだから!」

「ジェシカ、君の反戦主義はどうしたんだい?」

 

 こんな時にと自分でも呆れながらヤンが軽口を言ってしまった。

 

「こんな連中に反戦もクソもないわ!」

 

 まあ当たり前、魔物達は反戦を語るべき相手ではない。ヤンもその奮戦のおかげで、ジェシカも口が悪くなったんじゃないか、と思うゆとりはできた。

 

 

 そしてもちろんボーバトンにはあのシェーンコップがいる。

 こういった白兵戦で遅れをとるなど万が一にもあり得ない! 相手が魔法使いではなく魔物なら、杖を持っての戦いなどをする必要はないのだ。

 トマホークを振るった方が断然早い。たちまち周囲に魔物の血と死体が量産された。

 

「ガアァ!」「グェッ!!」

 

 二体の魔物が断末魔の短い叫びを上げて倒れる。またしてもシェーンコップは前後に挟まれながら同時に片付けたのだ。

 周りからすれば神業にしか見えない。

 元々シェーンコップは筋力に頼るのではなく、天性の反応速度と正確な予測で戦うタイプの戦士だ。それゆえフラー・デラクールの体でも不足はない。むしろ柔軟性が加わったことで攻撃のバリエーションが多くなったくらいだ。

 

「趣のない戦いだな。おおっと、またトマホークが折れてしまった。どこかに炭素クリスタルのトマホークはないものか」

 

 白に近いブロンドを血で赤髪に変えた美少女、それを月明りが照らす。

 この世のものとは思えない凄惨な光景に見とれ、そのつまらない独り言を聞いた者はいなかった。

 

 城に取りついた百を超える吸血鬼も危なげなく撃退できた。すると勝機がないことを悟ったのか、それきり敵勢は綺麗に退いていった。

 

 

 そして様子を遠くで眺めている指揮官、ブラウンシュバイクが呻く。

 

「むう、ボーバトンの抵抗がこれほどとは、個人技も集団戦も優れ、全体指揮も予想を超える」

 

 そんな苦い独り言を耳にして返してきた者がいる。

 

「苦戦しているようだな、ブラウンシュバイク」

「お前が来る前に陥としたかったのだが、計算違いになった。リッテンハイム」

「いいじゃないか。明日は俺とお前で総攻撃だ。昔のようでむしろ俺は楽しいぞ」

 

「昔のようか…… なるほどそうだ」

「ルドルフ大帝陛下は各艦隊を縦横に動かし、大兵力を駆使するのがお得意であらせられた」

「そうだな。それで敵を追い詰め、何度殲滅させたことか」

 

 何とこのときダームストラングから追ってきたリッテンハイムがブラウンシュバイクと合流してきたのだ。これで攻める側の戦力はいきおい増大した。

 もはやボーバトンの城を陥とすには充分だ。

 

 

 

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