ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第三十六話 新大陸

 

 

 本来の純白とは似ても似つかないがブリュンヒルトと名付けられてしまった快速艇が大西洋を渡り、アメリカ大陸上空に差し掛かった。

 

 そのとたん熾烈な対空砲火に襲われてしまう!

 もちろん高射砲ではなく攻撃魔法によるものだ。ルドルフはアメリカの海岸線に厳重な警戒網を敷き、いかなる魔法力も探知するよう準備していたらしい。

 もう夕暮れ時である。空は赤から薄紫に変わってきていた。

 その薄暗闇の中、長い尾を引く光が地上から艇を目指して伸びてきては、至近に交錯する。こちらから応戦しようにも艇からは地上にいる敵をうまく視認できず有効な攻撃ができない。ほとんど一方的な戦闘だ。

 

 キルヒアイスの操船でしばらくは持ちこたえていたが、ついに被弾してしまう。

 艇に張られた結界は弱く、このままではいずれ同時着弾によって破られ、損害が出る。爆散とは言わないまでも墜落は免れない。

 

「ラインハルト様、艇の結界はもう持ちません! いったん強行着陸なさいませんと」

「止むを得ん、ブリュンヒルトを守るため水上を選んで降下、安全のため着水の寸前に各人は箒で脱出するのだ。そして狙い撃ちされないよう散開せよ」

 

 この艇は手近にあった大きな湖に着水した。五大湖の一つエリー湖である。その浅瀬に盛大な水飛沫を上げて突っ込んだが、艇自体は奇跡的に無事だった。しかし乗員は散り散りに脱出している。

 そしてこの薄明の中、再集合しようとしても時間がかかり、その間に囲まれてはたまらない。

 闇の帝王がゴーレムの製造を企んでいるのはロスアラモスという場所であると全員が知っている。むしろ散開したまま個別で目的地に向かい直前で集まった方がいい。

 

 

 そしてラインハルトは今、キルヒアイスとはぐれている。

 キルヒアイスは艇に最後まで居残り、皆の脱出を確認するといってきかなかったのだ。ラインハルトはキルヒアイスの責任感が分かる。またキルヒアイスならばルドルフ以外のどんな敵にもやられるはずはないと信頼している。そのためいったん離れた。

 ほどなくラインハルトは近くで箒に乗っていたハーマイオニー・グレンジャーを見出すことはできた。他には誰もいそうになかったので必然的にハーマイオニーと同行し、とりあえず二人でロスアラモスを目指していた。

 

「申し訳ない、ハーマイオニー嬢。対空砲火が熾烈なことは、敵にとって重要な何かがあることを意味している。だがのっけから作戦に支障をきたすとは自分の甘さに腹が立つ。不甲斐ないことだ」

「いいわ、ハリー。戦いなんだもの。全て順調なわけはないわ」

「そう言ってくれると助かる。しかし、まるで戦闘指揮官の鏡であるかのようなセリフだな」

 

 

 ここでハーマイオニーが満を持して言葉を投げかけた!

 

「そんなことを言うのはハリー、幼年学校で戦いを習ったから?」

 

 ラインハルトはその意表を突く言葉に驚いた。

(いつから知っていた!? この嬢は俺がこの世界の者ではないことを気付いていたのか! なぜだ!)

 

 実は自分から幼年学校という失言をしてしまったのだが、ラインハルトはそれを覚えていない。あのクリスマスのダンスパーティーのことだ。ハーマイオニーはそれから幼年学校というものを調べ、それが外国にある軍事エリート養成機関の呼び名であることを突き止めていた。

 

「そうか、ハーマイオニー・グレンジャー嬢、知っていたのか。俺が本来ホグワーツなどにいるはずがない者であることを」

 

 この世界でのハリー・ポッター、ラインハルトは素直に認めた。この後に及んでごまかそうとは思わなかったからだ。

 

「ええ、そうねハリー。でもそんなことは関係ない。どんな経緯でホグワーツにいるのか聞かないし、聞く必要もないわ」

「何者であるのか気にならないのか」

 

 ハーマイオニーは全く気にならないといえば嘘である。ハリーがどんな経歴を持ち、どんな仕掛けでホグワーツに来たのか知りたい。しかし、ハーマイオニーはだからといって自分の感情を変えるつもりはない。

 ハリーがハリーであればそれでいいのだ。

 目の前にいるハリーこそ自分の好きな相手なのだから。

 

「今は魔法界を守る方が大事だもの。むしろホグワーツにいてくれて感謝してもし切れないわ」

 

 ハーマイオニーは思う。

(たぶんハリーは外国にいたのね。考えてみたら闇の帝王から生き残りの男の子は匿う必要があるもの。イギリスではなく、なるべく遠くに置くのは当然だわ。魔法省あたりが考えたのね。ハリーはたぶんそこにある幼年学校という学校に行ってた。気になるのはホグワーツの前に学校に行ってたなら、年齢が合わなくなるわ)

 彼女にとってそこだけが疑問だ。だがそこに自分で答えをもってきていた。

(きっとタイム・ターナーを使って時間を巻き戻したのよ! それの大規模なものがあったのかもしれない。それで数年も戻って。そうに違いないわ。でもそれなら何歳になるのかしら。そんなに離れてなければいいのだけれど)

 

 ハーマイオニーはハリーがまさか別世界から来たとは思いもつかない。

 優等生であるだけにハーマイオニーは魔法の知識が深い。自分の知っているタイム・ターナー、すなわち時間巻き戻し器という魔法器具の知識と結びつけて考えてしまったのだ。

 

 少しばかり迷ったが、しかしハーマイオニーはたった一つだけ聞いた。

 

「でもハリー、教えて。本当の歳はどうなってるの?」

「……25歳になる。皆を偽って済まなかった」

 

 ここでもラインハルトは正直に言った。

(この世界では自分はただの異分子だ。最初から皆に公言すべきだった。こんな時に指摘を受けてしまうとは失態だな)

 

 なぜ元の世界のことを詳しく聞かれずに年齢だけ問われたのかは分からない。

 本当なら元の世界の様子、とりわけ軍事や技術のことに関心を持たれるべきではないか。魔法に関しては確かにこちらの世界にしかないものと思えるが、他のことは元の世界の方が進んでいる。

 しかしよく考えたらホグワーツという学校の同級生にとっては年齢もまた大事なポイントなのだろうと思い直す。

 

「そうだったの! 思ったより上だったけど、それで納得できたわ。ハリーの考えは大人だもの。そう、25歳なのね」

 

 ハーマイオニーはハリーが25歳であることに納得した。本当は25歳の人間にしてはあまりに子供っぽいところが残っているのだが、まだ16歳のハーマイオニーにそんなことが分かるはずもない。

 

「ハリー、まだみんなにこのことは言ってないわ。言うつもりもない。ハリーであれば、それでいいもの」

「そうだな、そうしてくれると助かる。今は戦いこそ大事であり、集中すべきだ。戦いが終わった時こそまた考えよう」

 

(この嬢が言いたいのは、何よりもルドルフを倒すのが先決だということだろう。正にその通り、全てはそこにかかっている。他の世界から来た者の責務として何としてもこの世界を奴から守らねば)

 

 ここまできていながら、二人の理解は若干すれ違ったまま終わってしまう。

 

 

 

 他のメンバーもそれぞれ進んで行く。

 ディーン・トーマスはやはりラベンダー・ブラウンと共にいた。

 

「ちょっと、何であんただけが一緒なのよ!」

「仕方ないだろ。脱出の時にたまたま近くにいただけだ」

「ただの偶然だって言うの? なんか私の側にうろうろしてることが多かったようだけど、気のせい?」

「そんなことない! ラベンダーこそ何でこっちを見てたんだよ!」

「見たくて見たんじゃないわ! まあ、敢えていえば同じグリフィンドールだから、ディーンが下手を打たないか心配だったのよ」

「それはこっちのセリフ! ラベンダーがグリフィンドールの恥になられたんじゃたまらない」

「あんたこそ!」

 

 この口論でせっかくの二人きりがほとんど台無しになりかけた。

 

「けどまあ、一人よりはマシかもね。あんたでもいないよりいいわ」

「こっちこそ、料理もできない口ばかり達者な女でもいないよりはいい」

「またケンカ売ってんの? 何よ、ひょっとして照れ隠し?」

「そんなわけあるか。照れ隠しはそっちの方だろ。素直に俺の魅力に参ったとでもいったらどうなんだ」

「ふざけないで! 誰があんたになんか! ははあ、ディーンは自分がそうだからってごまかしてるんだわ。私に惚れてるのに。勇気が無いのね」

 

 するとラベンダーが戸惑うくらい、無言が続いた。この漫才は急に終わったのだ。

 夜が二人の距離を縮める。

 

 後日、洞察力のない友人たちはディーンとラベンダーの二人が急によそよそしくなったのをまたケンカでもしたのかと思った。しかしごく一部の洞察力に優れた者だけが、二人はもう一体になり、周りに気取られないよう分かり易いごまかしをしていると見抜いたのだ。

 

 

 

 

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