飛行艇から脱出した他のメンバーも欠けることなく進んで行く。ハンナ・アボットとシェーマス・フィネガンの二人もたまたま途中で合流できて、そのまま旅路を辿った。しかし、特にイベントも何もあるわけではない。
こちらはラベンダーらと違い、あまりに生真面目かつ草食系なペアだったのだ。
キルヒアイスは単身で向かっている。生真面目に目立たぬよう、列車と箒の飛行を織り交ぜている。
残ったもう一人はロイエンタールだった。こちらも単独だが、不真面目といえば不真面目な行動をしている。
「ホグワーツではまるで艦隊勤務のようだった。たまには自由もいい。ミッターマイヤーとワインが飲めないのは不満だが、あのエルフリーデがいないのは良い」
実のところ元の世界では、髪が乱雑で思い込みの激しそうな目をしたエルフリーデ・フォン・コールラウシュに少しばかり参っていたのだ。
プレイボーイで鳴らしたロイエンタールがうかつにも地雷を踏んでしまった。しかも最後は妊娠と聞いて、マイホームパパになってしまうだろう未来を呪ったものだ。さすがに子供を殺すことは自分も親に殺されかけたトラウマのあるロイエンタールにできるはずもない。意外に進退窮まるところまできていた。カイザーに叛旗を翻したのも自分で意識しない自暴自棄なところからきてしまったのかもしれない。
今、元の世界だけでなくこちらの世界でもモテる利点を最大限に生かし、存分に羽根を伸ばしアバンチュールを楽しむのがロイエンタールらしい。
そして数日後、全員が欠けることなくロスアラモス近くの草原で落ち合う。
予定通りだ。その場所を間違えることはない。
なぜならそこでは既に闇払いと死喰い人の戦闘が始まっていたからで、魔法使いには眩しいほどその撃ち合いが分かる。
ラインハルトらが出発してから、アメリカ大陸の魔法界にもゴーレムの情報が伝わり、パニックを招いた。そのためアメリカの魔法省は動員できる全ての闇払いを集結させ、ここロスアラモスで死喰い人たちとの決戦を挑んでいたのだ。
ラインハルトの見たところ闇払いたちは五十人ほどもいる。だが、それぞれが決死の思いで戦いに挑んでいるのは分かるが、やはり戦術に疎い。数は多いのに持てる戦力を有効に生かしていない。
腰の辺りまで草の伸びた広い草原だ。その向こうにぽつんとガラスと鉄骨でできた近代的な建物があり、他に建物はない。
防御側である死喰い人らはそれを背にして展開していた。
闇払い達は散開して撃ちかかるが、バラバラに魔法を使っているだけであり防御側の陣に空しく弾かれるばかりだ。集中砲火など知らないのだろう。
逆に防御側から時折強力な攻撃が来る。
まばゆいばかりの赤い軌跡を曳きながら一直線に飛んでくるのだ!
その威力は凄まじく、一撃で数人の闇払いがまとめて薙ぎ払われているではないか。
それを見たラインハルトはヤン・ウェンリーの使ったような融合魔法による要塞砲でもあるのかと訝しんだ。しかし、強力ではあるがそこまで問答無用の圧倒的火力ではなく、建物に何か据え付けられている様子もない。
注意深く観察しているとようやく理由が分かってきた。
「む、あれは姉上の敵シュザンナ・フォン・ベーネミュンデではないか! ここに奴がいたのか。なるほど、さすがに魔法力が強いな。これでは闇払いが蹴散らされるのも無理はない」
その通り、このロスアラモスの守りを任されていたのはシュザンナだった。フレーゲルも付けられている。
先日、ルドルフ大帝から二人へ直々に命令が下されたのだ。
「シュザンナよ、そちにロスアラモスを任せる。ゴーレムを製造する予定の場所だ。そのための強力な魔法力の核が運びこまれている。それを何としても死守せよ」
「大帝陛下、仰せとあらば喜んで妾はその任に就きましょうぞ」
「期待しておる。そうだ、そこのフレーゲルも連れて行け」
フレーゲルはひっくり返ったが否応なく命令を受ける。
こうしてシュザンナらはロスアラモスに赴き、アメリカにいた二十人ほどの死喰い人を指揮しながら守っていたのだ。
「ふん、妾に向かってくるにこんな弱き者しかおらんのか。たわいもないものじゃ。一刻で全滅させてくれる」
その呟きの通りシュザンナの魔法力は別格に強く、これに抗し得る者はいない。
ラインハルトらが来るまでは。
「うっ、な、何じゃ!」
シュザンナが赤い砲撃を撃ち終わった直後、油断をついて反撃が来た。
それは金色の砲火だったが、顔からわずか50cmもないところを通過していった。
「く、遠距離からこれほどの魔法を撃ってくるとは何奴!」
「久しぶりだな、姉上の敵」
「何と!! あの女の弟じゃったか!」
「会いたくはなかったが会ってしまった。潔く降伏しろ」
「誰がじゃ! お主こそ死んで詫びよ!」
しばらくシュザンナとラインハルトが撃ち合ったが、やがて終わりを告げる。
「おのれ、また手加減でもしておるのか!」
そう捨てセリフを言いながらシュザンナは身を翻し後ろの建物に駆け込む。
ルドルフ大帝がシュザンナに授けた任務はラインハルトを斃すことではないのだ。
この建物自体を守り切ることは難しいかもしれない。だが、魔法力の核を破壊されたり奪われたりされてはならない。その核の近くで防御し、旗色が悪ければ持ち去る必要がある。
「逃げるかっ!」
それを見て取るとラインハルトも飛び出して建物に迫った。もちろんこちらも目的は建物の中にある。
そして建物の外では闇払いたちの大半が打ち倒されてしまった。
しかし、死喰い人も壊滅した。シュザンナがいなければ最初から数で劣っていたのだが、更にホグワーツからやってきたメンバーが集団戦で片付けたのだ。
「ディーン、右から回り込んで! 十字砲火をかけるのよ。それまでハンナ、細かい連射で牽制しましょう」
「よし、頃合いだ。ラベンダー、一緒に撃ちかけるぞ。それっ」
ラベンダーやディーンが声を掛け合って戦いに臨む。
シェーマスとハンナは「何よあの二人、やけに張り切っちゃって……」と言いながらももちろん協力する。
「草原だったらこんなやり方もありね」
ハーマイオニーは遊撃を担当していた。そんなことを言いながら、わざと死喰い人らの前方に破砕魔法を撃ち込む。舞い上がった土埃で敵の視界を奪い取った。
それを見ながら、キルヒアイスが微笑みを浮かべた。ようやくこちらの世界の者も戦い方を学んできている。
ようやく安心できるというものだ。
そもそも魔法とは戦うための方法ではなく、人に向けて使っていいものではない。しかし、悪を倒すためならば別だ。その時には最大限魔法を有効に使い、敵に立ち向かわなくてはならない。
「わたくしは傷ついた闇払いの治療をしてから向かいます。ロイエンタール提督、ラインハルト様の援護射撃をお願いします」
シュザンナに続き、ラインハルトが建物に飛び込んだ。
ロイエンタール、シェーマスらがそれに続く。
建物の中は複雑な階段が続いていた。そこを上がったり下がったりしながら進むと、結界の張られたドアの前に着いた。
「む、ここか。破って進むぞ!」
ラインハルトが魔法で結界を破壊しようとする。追い付いたロイエンタールらも杖から魔法を出してそれに合力した。
そして結界は破られる。
躊躇なくドアから入ると、そこは大きな工場のような広間になっていて、清潔な壁と無機質な白い光がある。
「何だここは。そうか、これがゴーレムの製造工場らしいな。ならば破壊するまで」
シュザンナのことはイレギュラーだったが、ラインハルトらの本来の目的はゴーレムを作るのを止めることにある。
ようやく見つけた工場だ。ラインハルトの号令の下、素早く破壊しようとする。しかし、ほどなくして気付いたことがある。そこには大げさな機械がいくつかあるものの、作りかけのゴーレムなど全く無かったのだ。
情報では完成一歩手前まで進んでいたはずだ。
おかしい。
それを怪しむ間もなく視界に入ってきたものがある。
シュザンナとフレーゲルが何かの箱を広間から持ち出そうとしていた。それは一辺が1m近くある木の箱らしいが、それには結界付きのいかめしい錠前が掛けられているのが見える。
シュザンナが浮遊魔法でそれを浮かせて、フレーゲルがそれを押して運び、もう少しで広間の対角線にある扉から出ようとするところだった。
「姉上の敵、逃げるのか!」
「ふん、お主など妾がそのうち殺してやるわ! だが勝負はお預けじゃ!」
シュザンナは一瞬ラインハルトの方を振り向いたが、すぐに顔を戻す。
やはり逃げる気だ。
だがロイエンタールの攻撃魔法が一歩早かった。シュザンナの通りかけた扉の先を撃つ。壁の一部を崩し破片が散る。それでシュザンナらは足を止めさせられた。
そこへラインハルトが金色の強力な魔法を撃ち込んだ。
「やめんかおのれらっ! どうなるか分かっておるのか!」
慌てたシュザンナが木の箱をいったん置き、防護魔法を張り巡らす。
だがそれは逆効果にしかならない。
尚更ラインハルトらはそれを破るため次々と魔法を撃った。
その同時着弾でついにシュザンナの防護が弾かれ、無力化された。
そこへラインハルトの強力な一撃が伸びる。
シュザンナをかすめ、偶然にも木の箱の真正面へと向かっていった。
「それに攻撃するなッ! ば、馬鹿者---っ!!」