その逆にラインハルトからハッフルパフ寮の生徒をハーマイオニーなどに紹介することもあった。
ハッフルパフの一年生、ハンナ・アボットなどは勝ち気なハーマイオニーと反対の性格で、幼くほんわかとしたものだったが、むしろそのためにウマが合いそうだった。
「キルヒアイス、このハンナなる者は、思うに姉上のところにいた侍女の一人に似ているのではないか」
「そうですね、それは確かマリーカという娘だったと思います」
「そうだった。ついでに向こうに見える娘はスーザン・ボーンズなる者だが、大柄で女傑のような感じだ。まるであのヴェストパーレ男爵夫人の若い時を思わせる」
「ラインハルト様、少し失礼なのでは。我々より年齢が上といってもヴェストパーレ男爵夫人はまだまだお若いのではありませんか。メックリンガー中将と同じ程度のお年だったかと」
そんなたわいもないことだが、ラインハルトとキルヒアイスは密かな楽しみとした。ここホグワーツの者を二人が知っている人間になぞらえるという、本人が聞いたら少々失礼な遊びだった。
魔法動物学の飼育係兼森の番人であるハグリッドを目にすると、二人は同時に同じことを考えた。
「装甲擲弾兵をさせてみたい! トマホークを持たせたら、あのオフレッサーに勝てるだろうか」
そして二人がホグワーツにもようやく馴染み始めた頃、学校中を騒がすとんでもない事件が起きたのだ!
いつものように大広間でテーブルについて食事をしていたら、闇の魔法対抗術の教師クィレルという者が駆け込んできて、そのままバッタリ倒れ込んだのだ。頭のターバンが不釣り合いなほど大きい教師で、体格は華奢で性格もそれに似合って細い。なぜそんな教師ができるのだろう。
それだけでも事件になる奇妙な行動だが、倒れる前に言った言葉で生徒はパニックになる。
「ト、トロールが校舎内に!」
トロールというのは誰しも知っている。
知能は高くないが、人間より三倍も大きく、力はそれ以上に強い化け物だ。話は通じない。それだけでも厄介なのに、攻撃魔法に対して結構な耐性を持っているのだ。
並の魔法使いではとても勝てるものではなく、教師の中でも強力な魔法使いでなければ対処は不可能だ。もちろん生徒には無理、出会ったらトロールに狩られる獲物にしかならない。
それが校舎に入ってきたとは、封じるまでどれほど暴れ回るだろうか。
校長であるダンブルドアが威厳を持って命ずる。当然、生徒を守る避難が最優先だ。
「生徒は全員、監督生に従ってそれぞれの寮に避難じゃ。漏れがないか各教師が点呼し調べること」
しかし広間はパニックが広がりもはや四つの寮生が入り混じっている始末、速やかな移動すら困難に見えた。
ここで広間に凛とした声が響く。
「駄目だ! そうではなく戦術的に成すべきことがある!」
それはラインハルト、いやハリー・ポッターの声だった。その中には歴戦の指揮官の持つ気迫がほのかに感じられるものだ。
広間は静まり返る。
ラインハルトは越権とは知っているが、何か危急の事態が生じていると認識した以上見過ごすことはできない。それがラインハルトだ。姑息に黙ってやり過ごすのではなく、皆のため能力を使う。
「敵は少数であると推察する! ならばその戦力、位置、進行速度を知るのが先であり、戦術の根幹となる。すなわち優先順位としては偵察を第一とすべきだ。現状の把握もせず避難を始めれば、もし移動途中で遭遇した場合対処ができない。寮が安全なのは分かるが、分散しての移動は敵にとって好餌となり、襲撃を受ければ被害は甚大なものとなろう」
この言い方もさることながら、洞察はとても一年生の言うようなことと思えない。
生徒も教師も皆が圧倒されて思考停止する。
「偵察は基本通り最大機動をもって成す。箒に乗り、空戦の隊形で索敵を行なうのだ!」
皆は呆然としたところから醒めると、ダンブルドア校長の方を見る。
ダンブルドアの目はきらりと光ったようだった。
「ハリーの述べた意見も尤もじゃ。生徒は全員ここにとどまり、教師はトロールを見つけに行ってほしい。儂が生徒を保護する」
そしてダンブルドアは杖を抜いて高く差し上げ、呪文を唱える。
それは教師はともかく生徒が初めて見るダンブルドアの魔法、最強魔術師と謳われる者の放つ魔法だった。
「マキシマル・プロデゴ!」
杖の先から圧倒的な光の渦が飛び出し、天井に向かう。当たった光はゆっくり広がり、広間の壁沿いにシャワーのような幕となって降りて来た。説明されるまでもない。これはダンブルドアの作り出す絶対保護の壁である。広間が崩れようと、トロールが百人全力で棍棒を当てようとびくともしないに違いない。
アルバス・ダンブルドア、普段は物分かりのよい面白い校長だ。しかし生徒を守る絶対強者の顔を持つ。
その幕が降り切る前、教師たちが箒を呼び寄せ、それに乗って広間を飛び出る。「アクシオ、箒よ来い!」という唱和があちこちで響いた。
その教師たちに混ざって、何と作戦を言いだしたラインハルトも広間を飛び出ている。
それを認めたダンブルドアが言う。
「ハリー・ポッターの咄嗟の戦術に対し、ハッフルパフに50点、しかし命令違反でマイナス30点!」
ラインハルトが出て行ったのを見ると、慌ててキルヒアイスも後を追う。
やがて追い付き、二人は並んで飛行するはずだった。
ところが、もう一人が加わって三人になったではないか!
ラインハルトもキルヒアイスも訝しく思って見れば、それはスリザリン生の一員として見たことのある銀髪の陰気な者だ。記憶の片隅しかなく、もちろん話したことはない。
その者が驚くべきことを言った。
「おやめ下さい。このような小さな戦いで陣頭に立つなど不必要のみならず有害です」
「な、何、お前は一体…… 何を言っている」
「任せられる者に任せればよいと申し上げているのです。皇帝陛下」
突然の意外な言葉だった。
ラインハルトもキルヒアイスも箒から降り、その者を視線で射る。
表情の乏しい顔であったが、しっかり目を見据えて、ラインハルトの覇気にたじろぐ様子は微塵もない。この者も只者ではない。そんな者はラインハルトの知っている中で多くはなく、いや、何か既視感がある。
「まさか、卿は、オーベルシュタインなのか!」
「御意。皇帝陛下。確証を得るまで申し上げませんでした。先ほどの陛下の言葉でようやく申し上げられます」
「この世界に三人目がいたのか! オーベルシュタインもまた……」
「話はまた後ほど。先に申し上げますが、この世界では小官をドラコ・マルフォイという名でお呼び下さい」
その頃トロールは地下のトイレで発見され、マクゴナガル先生とスプラウト先生の共同作戦でようやく捕縛された。スプラウトの使った急速成長ツタで足を封じ、マクゴナガルの超連続失神呪文を叩きこんだ結果だ。
そんなことよりラインハルトとキルヒアイスはオーベルシュタインの話を聞く。
さすがにオーベルシュタインの的確な情報収集能力は二人に役に立つ情報を蓄えていた。
「最も重要なことは、その『名前を呼んではいけないあの人』なる者は死んではいないことです。今は潜伏せざるを得ない状況ではありますが、機会を見て復活を図っていることは確実です。しかもそれに手を貸す『死喰い人』と言われる者が多数存在するとか」
「厄介だな。地球教のような連中か。狂信者とはどこにでもいるものだ」
「御意。ただし地球教と違うのはその首領がケタ外れの魔法使いだということです」
そういえば、とラインハルトは一つ懸念を口にした。オーベルシュタインならではの心配だ。
「よし、オーベルシュタイン、引き続き情報収集に当たれ。そうだ、卿は魔法の方は大丈夫か。人一倍現実主義者の卿のことだ。余以上に戸惑っているのではないか」
「魔法とはただの能力、例えて言えば手を動かすのと何ら違いはございません。使う者の意志により行使する一つの能力に過ぎず、良きにも悪しきにもなりえます。しかも万能ではございません。今、小官にとっては義眼でなくても見えるという方がよほどありがたいことに感じます」
「なるほど確かにそうだ、オーベルシュタイン」
ラインハルトは感心してしまった。
実にオーベルシュタインらしい冷徹な考えでこの世界に適応を果たしているではないか。
「小官は現状魔法の成績でいえば中の中程度、しかし幸いなことに魔法動物学では上位におります。小官が以前、犬を飼っていたゆえかと」