ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第四十四話 戦いの火蓋

 

 

 一方、魔法省で戦いが始まった少し前、アメリカにいたラインハルトらも引き返し始めていた。今度は皆でロスアラモスからブリュンヒルトのあるエリー湖まで行き、そこから飛ぶのだ。

 急ぎルドルフの足跡を追い、イギリス魔法省を目指した。

 

 

 ブリュンヒルトから遠く見えたものは、正にルドルフの軍勢が魔法省の建物に突入を始めている光景だった。

 ゴブリン、ドワーフ、吸血鬼、狼人間などが次々と入って行くではないか。

 すぐさまブリュンヒルトを魔法省近くの森に降下させて、建物へと急ぐ。

 

「もはや一刻の猶予もない! キルヒアイス、ロイエンタール、突入するぞ!」

「ラインハルト様、他の生徒らはどうしますか?」

「これはルドルフとの戦い、前の世界の後始末だ。そしてここから先の戦いは段違いに危険なものになるだろう。この世界の者たちを無用に危険に晒すわけにもいくまい。ハーマイオニー嬢らにはこの場で待機するように言っておいてくれ」

 

 そしてキルヒアイスがその通りに説明した。

 一応、戦闘で生じる怪我人の治癒魔法に専念するという名目を付ける。

 だが、それに対するハーマイオニー、ラベンダー、ディーン、シェーマス、ハンナの反応は半ば予期されたものだ。

 

「ポッターが戦うのに、私が下がるわけにいかないわ!」

「何のためのグリフィンドールだと思ってんのよ!」

「おい何だよ、今さら仲間外れはないよな? ここからパーティーが盛り上がるってのにさ」

「パーティーだったら人が多い方が面白いだろ。俺もお開きまで付き合うぜ」

「私も頑張るわ!」

 

 此処まで皆の決意が固いとラインハルトにはもはや致し方なく、連れて行く羽目になる。

 

 

 そして魔法省の中は正に戦場だった。一番大きい広間が激戦地だ。

 見えてきたものに対してラインハルトが感想を述べる。

 

「や、何だ? オーベルシュタインがいるが、何か連れているではないか。まさか、あれは犬か! どうしてそんなことになっている。それはともかくルッツとファーレンハイトはどうしたのか」

「ラインハルト様、状況を聞いて参ります」

 

 キルヒアイスが行き、オーベルシュタインの話を伝え聞く。

 

「ラインハルト様、ルッツ提督とファーレンハイト提督は重傷を負ってしまわれたそうです。魔法病院での手当てが必要なくらいに」

「分かった。あの二人のことだ、激戦だったのだろうな。ゆっくり休むように言ってくれ。よし、ともかく敵を片付けるぞ!」

 

 味方で残っているのは、オーベルシュタインと犬を除けばいくらかの魔法省職員、ホグワーツからやってきた教員たちだった。

 そこへ加勢してラインハルトたちは魔物に対峙する。

 

 

 いきなり放った。

 ラインハルトの黄金の魔法は魔物を薙ぎ払う。その輝きだけで広間がいっとき光に満ちる。

 目の覚めるような強烈な魔法力だ。もうそれだけで形勢は一気に有利になった。

 魔物たちが怯んだ隙を見て、それぞれが攻勢に出る。

 ハーマイオニーは、ロコモータス、動け! インセンディオ、燃えよ! などと言って自在に多彩な魔法を使いこなす。

 ラベンダーは、コンフリンゴ、砕けよ! と自分の最も得意な破砕魔法を渾身の力で繰り出す。他の生徒も得意な魔法をそれぞれ使いこなしての攻撃だ。

 

 生徒らの的確な戦いぶりを見て、驚く者たちがいる。

 

「ど、どうしたというの。生徒たちがあんなに戦えるなんて! ハーマイオニーは優等生だから分かるけれど、ディーンやハンナまで」

 

 それはミネルバ・マクゴナガルだ。

 ホグワーツの生徒たちが思ってもみない勇姿を表わしたのは、嬉しい驚きだった。

 

「なに、ハリー・ポッター、これほど強力な魔法を使えるとは! なるほどお前は規格外なわけだ。さすがにリリーの忘れ形見だ」

 

 セブルス・スネイプもまた自分勝手な解釈をしながら、ハリー・ポッターの持つ別格の実力を認めざるを得ない。

 

 

 もはやほとんどの魔物は片付いた。ルドルフの先陣による魔法省への突入は阻止され、前哨戦では勝利に終わりそうだ。

 だが、それだけで終わったわけではない。

 ラインハルトだけを斃さんとチャンスを伺い、粘り強く待っている者がいたのだ。

 

 掃討戦の終結直前、いきなり柱の影から撃ってきた。

 それは過たず、ラインハルトに当たるはずだった。しかし、それを身を挺して守った者がいる。

 セブルス・スネイプだった。

 横合いからの攻撃に気付かなかったラインハルトに代わりその身を投げ出した。

 

 攻撃魔法がスネイプの胴体に吸い込まれ、一瞬置いて血を吐き出す。

 ゆっくりと膝をつき、倒れた。

 

「おい、大丈夫か! 魔法薬学の教官が盾になってくれたとは」

「お前のためではないぞ、ハリー・ポッター、断じてお前のためではない……」

「何を言っているのだ? 現に俺のために盾になったのだろうが」

「お前がリリー・エバンスの息子だからだ。それ以外に理由はない」

「……意味は分からないがとにかく感謝する」

「感謝などいらん。吾輩はリリーの瞳を守っただけだ…………」

 

 ラインハルトにはスネイプ言っていることがちっとも分からない。

 だから何だというのか。

 ラインハルトはスネイプの過去も、それによる屈折も理解できるわけがない。

 セブルス・スネイプが幼い頃リリー・エバンスに出会い、淡い恋心を抱き、それからずっと生涯を捧げてきたことも。

 そのリリーがあろうことかスネイプと対立するジェームズ・ポッターになびき、スネイプの真摯な愛が報われぬものになったことも。しかし、リリーの死後も変わらず愛を持ち続け、そのためリリーの子として産まれてきたハリーへ複雑な感情を持ちつつ守ろうとすることも。

 

 だが、全てひっくるめてラインハルトからすれば意味不明だ。

 とにかく魔法薬教官が敵の攻撃によって重態だ、という事実だけは理解する。

 

 応急の治癒魔法をかけようとしたところで、広間に哄笑が響いた。

 

「ラインハルト・フォン・ローエングラム、命拾いをしたな! 今度はそうはいかんぞ! 俺はニコラス・ボルテック、貴様に利用され捨てられた者だ。貴様を斃す日をどんなに待ち望んだことか! 前の世界では惨めに死んだが、今ここで復讐を遂げられるとはこんなに嬉しいことはない」

「ニコラス・ボルテック? ああそうか。フェザーンを手に入れようと分不相応な野望を抱いた者がいたな。確かそんな名だった気もする。自分から売り込んできて、暫定でもフェザーン自治領主になり、そして最後はどうなったのだろうか」

「なっ!? 貴様、俺のことを憶えてもいないのか! 俺は帝国の傀儡としてフェザーン中の恨みを買い、そしてあっさりと切り捨てられた。悪辣にも貴様の策で。その俺が貴様にとっては憶えてもいない手駒だと! どこまで見下すローエングラム、赦さん!」

 

 それを聞きながら、オーベルシュタインが表情も変えずに呟く。

 

「無駄口を叩く者は死ぬと、そんなことも分からない者が多過ぎる……」

 

 

 そしていきなりラインハルトに攻撃魔法が飛んでくる。

 驚いたことに空中からだ。

 それを間一髪で躱したラインハルトへ更に第二撃、第三撃が放たれてきた。

 

「む、これはどうしたことだ」

 

 ラインハルトが驚くのは無理もない。攻撃はまるで別方向からやってきたからだ。これは敵が高速移動をしているに違いない。しかも空中で。

 ラインハルトといえど攻撃を躱すのに精一杯になり、反撃は後回しになる。

 

「見たか、俺の実力を! この世界で俺はようやく自分の力を手に入れた。どこまで躱せるかな、ラインハルト・フォン・ローエングラム!」

 

 ニコラス・ボルテックは空中を高速移動しながら攻撃を仕掛けられる。

 どうしてそんなことができるのか、示したくなったのだろう。わざわざ止まって姿を現した。

 

 驚くべきことにその姿は漆黒の翼を持つコウモリだった!

 いや、普通は吸血鬼なのだろう。吸血鬼はコウモリを眷属としているため、そっちへ変化して飛ぶことができる。ただしコウモリと違うところは、大きさもそうだが翼の途中の鍵爪を使って杖を持っている。

 ここから攻撃を飛ばしてくるのだ。

 

「理解したか。そしてこの広間には柱が何本もある。俺は柱を全く苦にせず飛び回ることができるのだ。この場所で戦うことになったのが貴様の運の尽きだ!」

 

 その通り、広間にはゴテゴテと飾りのついた柱が多い。

 そこをボルテックはヒラリヒラリと急旋回しながら飛び回れるのだ。ひとしきりデモンストレーションをして満足したのか、一気にそのスピードを上げた。もうラインハルトらも目で追うことすら難しくなる。確かにこの場所ならボルテックは圧倒的な優位を保つ。

 

「どうだ。手も足も出まい。ラインハルト・フォン・ローエングラム!」

 

 

 だがラインハルトは何も慌てていない。いや、むしろどうでもいいものを見ているような目だ。

 

「愚か者の相手をしている暇はない。オーベルシュタイン! ロイエンタール! さっさと引導を渡してやれ」

 

 もうラインハルトはボルテックから目を離し、スネイプの治療をまた始める。

 

「御意、陛下」

 

 オーベルシュタインがさっそく対峙する。

 ボルテックの変化した巨大コウモリを片付ける方法などじっくり考えるまでもない。

 いきなり広間の天井に向け、破砕魔法を放った。それをオーベルシュタインは続けざまに何度か撃つ。

 

「ローエングラム、部下に丸投げとは恐れ入ったな。しかも部下は下手くそときた。どこを狙っている。俺にかすりもしないぞ」

 

 大きくまた哄笑した。しかし何度も続けられればボルテックも何か変だと気付く。

 

「いったいどういうつもりだ……」

 

 広間の天井から細かく砕けた破片が無数に舞い落ちる。

 一瞬の間を置き、ボルテックの顔が歪んだ。

 

「貴様、そんな方法を……」

「ニコラス・ボルテック。やはりな。もう今までのように飛ぶことは無理になった。おそらく超音波を出して柱を感知することで自在に飛び回っていたのだろう。コウモリだからか。それをこのロルフが教えてくれた。犬は超音波を聞くことができるのだ」 

 

 オーベルシュタインが見事な手でボルテックの機動力を封じた。

 上から落ちてくる細かい破片に超音波が搔き乱され、ボルテックはもう柱を感知することができず、避けて飛ぶことができなくなった。狭い場所で顔に破片を受けながら右往左往する始末だ。

 

「だがしかし、飛んで上を取っている俺の方がまだ有利だ。死ね!」

 

 ボルテックは気力を振り絞って攻撃魔法を放ってくる。ラインハルトはあっさり躱し、反撃を始めようとする。

 その時、スネイプが倒れていながらも薄目を開け、自分の着ているローブの裾を探り、手に小瓶を掴んで差し出してきたではないか。

 

「ハリー・ポッター、これを使え。これを空中でまき散らせば霧になり、動くものを絡めとる。本当はいたずらをする生徒を捕まえるためのものだが、今お前が対峙している奴には効果は絶大だろう。吾輩自慢の特製魔法薬だ」

「なに、そのようなものがあるのか」

 

 その小瓶を渡すと、スネイプは安心したように意識を失う。

 一命はとりとめたが、気を緩めると気絶するほどの重傷だったからだ。

 

 ラインハルトはその小瓶を受け取ると、ロイエンタールに投げ渡した。

 そしてロイエンタールは適切にそれを使う。

 大きく腕を振り、ボルテック付近の空中に薬をぶちまけた。

 すると魔法薬の散った雫がいきなり拡散し、急激に一帯を覆うもやに変化していった。薄い灰色の霧のようなものだ。

 

 その妙な様子に、ボルテックも訝しがる。

 

「何だこのおかしな霧は。煙幕にするつもりか?」

 

 そしてひとまず怪しい場所から退避しようとした。

 すると、動き出したボルテックに対し、いきなり霧が変化したのだ。

 それは何十何百という細い糸になる。

 

「なっ!? これはいったい!」

 

 動いて逃れようとする度に霧がどんどん糸に変わる。そして体にくっついて離れない。もはやボルテックは糸に絡めとられ、空中に固定された。この霧は動くものを感知して糸になるものだった。

 

 ボルテックは慌てながら、自分に対しロイエンタールが杖を向けて狙いをつけているのを見て取った。とりあえず急ぎ逃れなくてはならない。こんなところに止まっていたら格好の的だ。懸命に脱出しようとするが、糸が細いながらも思いのほか強靭で一本たりとも切れないことが分かると、もう最後の手段に出る。

 自分の杖を投げ捨てた。

 そして体が急激に縮んでいく。おそらく普通サイズのコウモリに変化すればロイエンタールの攻撃も当たらないし、糸から逃れられると思ったのだろう。

 

 ロイエンタールは皮肉っぽい笑顔になると、軽く狙いをつける。

 そして撃った。

 もはや普通のコウモリ並みの姿であるボルテックへ直撃する。そしてボルテックは床へ落ちた。細かく痙攣し、瀕死の状態だ。ロイエンタールの攻撃は狙いも魔法の威力も充分だった。

 

「悪かったなボルテック、俺の射撃の腕が下手でなくて。まあ、ルッツであれば飛び回っていても墜とせただろうが」

 

 オスカー・フォン・ロイエンタールは空戦術でも格闘術でも、そして射撃術でも一流だ。もっとも、射撃に関してはルッツに及ばないのは自覚している。

 

 

 コウモリのままで死にゆくボルテックへラインハルトが声を掛ける。

 

「ニコラス・ボルテック、執念だけは褒めてやる。だが終いには攻撃手段を投げ捨て、命からがら逃げようとするとは貴様らしい行動だ。それなら貴様にふさわしい最期を甘受すべきだろう。しかし、せめて名前くらいしっかり憶えておくとしよう。わずかで済まないが、俺なりの供養だ」

 

 

 

 

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