ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第四十七話 一計

 

  

 リヒテンラーデ率いるドラゴンの部隊とヤン達が対峙する。

 

 そこへ箒に乗った一団が姿を現した。イルヴァモーニーの生徒らを中心にボーバトン、ダームストラングの生徒もいる。クィディッチが得意な者を選び、彼らを空中戦が行えるように教え込んだのだろう。見事な編隊飛行を見せている。

 三人一組の小隊を組み、ドラゴンへ空中戦を挑もうとしている。

 

 実はその数分前ヤンらの元に近付いてきた人物がいたのだ。

 

「ヤン提督、空中戦で機動運用する場面が出て来るでしょう。それを考えて部隊を編成しておきました。状況を楽にできると思うのですが」

「あ、あなたはメルカッツ提督でしたか!」

「近接戦闘ならば恥ずかしながら得意分野、少しはお役に立てるかもしれないと愚考しましてな。そして幸運にもイルヴァモーニーにはあのイワン・コーネフがおったのです。エースに率いられればより安全に戦いを進められるのではないかと」

 

 ヤンは先日ビュコック提督と再会した時にメルカッツからも挨拶を受けている。ただしそれは大げさなものではなくメルカッツらしい控えめなものだった。

 そのためヤンは前の世界の記憶が邪魔をして、見た目と名前が一瞬合わなかったのだ。

 だがここでメルカッツ提督がいることは大きな助けになる!

 その堅実な運用法は地味でありながら一級品である。この場合はドラゴン部隊をなんとかしなくては勝機はないのだが、空中戦の提案とは渡りに船だ。逆に言えば空中戦なら近接戦闘の達人メルカッツ提督以外に任せられる者はない。

 

「やって頂きましょう。イワン・コーネフがいるならなおさら心強い限りです」

 

 メルカッツは全体を大きく二つに分け、交互に飛び立ち休憩を取れるようにした。空中戦は疲労も大きく、そして疲労を覚えるような状況になれば一瞬で命取りになる。無理をさせないよう戦いを組まないといけない。最終局面のみ一斉攻撃に出ればいいのだ。

 また、三人一組で飛ぶように班を編成している。攻撃力と索敵、機動性のバランスを考えた合理的なものだ。メルカッツは大まかな指示を出し、いったん飛び立てば飛行経路や攻撃順序はイワン・コーネフに任せる。

 

 

「さて、ポプランの奴がいれば撃墜数を競ったんだろうが…… ドラゴンはスコアに入れていいんだろうか。ワルキューレじゃないからダメだとか言われそうだ」

 

 そんな独り言を言いながら、コーネフは初めに敵陣へ軽く突入、ドラゴンの反応を見る。先ずはその反応速度や間合いを探らなくてはならない。すると意外にもドラゴンはすばしっこく厄介なのが分かった。巨体にも関わらず羽根を上手く使って旋回できるのだ。

 次の段階として攻撃をかけてみると予期した通り魔法耐性を持っている。簡単に墜とせるような相手ではなかった。三人一組でも攻撃魔法をよほど同期させない限り、皮膚に傷つけることすらできない。まして斃すのは不可能に近い。

 もちろんドラゴンの武器は火炎の他に爪や体そのものを使った近接攻撃もある。

 

 これは予想よりはるかに困難な戦いになる。

 イワン・コーネフは少し考え、撹乱に徹した。

 ドラゴンは非常に闘争本能が高い。なのでその身につきまとっては小賢しく攻撃してくる相手を無視することはできない。いくらリヒテンラーデの統率能力をもってしても勝手気儘に戦おうとするため、必然的に隊形はバラバラになる。

 なんとか時間稼ぎだけは可能になった。

 その状態であれば、当面の脅威はなくなった。ドラゴンのビームが地上の生徒らに及んだとしても、単発ならなんとかなる。生徒らの作る防護魔法でも多重に重ねていれば、ギリギリ中和が可能だ。

 ただしそれでもドラゴンが退治されたわけではなく、物理攻撃に入られる前に次の策が必要だ。

 

 

 ここで魔術師ヤンに一つのアイデアが閃いた!

 

 少なくとも自分よりは魔法力の高いジェシカとラップの二人に協力してもらい、ある一つの奇妙な物体を作り上げた。直径50cm程度の楕円形のものだ。

 その物体をメルカッツに預け、コーネフがいったん地上に戻った時に渡してもらう。

 それを小脇に抱えてコーネフは再び飛び立つ。

 

「ヤン提督、コーネフ隊長に預けたあれはいったい何ですかな」

「メルカッツ提督、それは間もなく判ります。実は少し前、三校対抗試合というものに無理やり出させられまして、その時にドラゴンと対峙したことがあるんです。もう柄にもなく。その時は死んだかと思いました。その時の経験をちょっと応用したんです」

 

 確かにヤンはドラゴンと否応なく対峙させられたことがあった。その時の嫌な記憶を振り払うかのようにヤンはくしゃくしゃに頭を搔いた。

 

 そう言っている間にもコーネフは神業のような飛行術を見せる。

 さすがに第十三艦隊で艦載機戦の天才オリビエ・ポプランと撃墜数を争っていたほどのエースだ。全くスピードを落とすことなく、上下左右から次々に迫る火炎をひらりと躱し、突き進んでいく。たちまちドラゴン部隊の最深部へ辿り着いた。

 ついにドラゴン部隊の指揮官リヒテンラーデが見えるところまで来る。リヒテンラーデはドラゴンの再統率を苦労しながらも進めていた。その最中、コーネフの接近に気付き自分も攻撃魔法を撃ちかける。

 

「む、決死の突撃とはの。なるほど指揮官を倒しに来るとは、発想としては陳腐じゃが有効なのはもちろんじゃ。しかし無理があろう」

 

 だがコーネフの飛行術はリヒテンラーデの予想より上だった。

 攻撃魔法を鮮やかに躱し、コーネフは急上昇をかけた。

 上昇の頂点で抱えた物体を離し、まるで爆撃の要領でリヒテンラーデにぶつける。

 

「何じゃ、魔法器具か? それとも爆弾でもぶつけようというのか?」

 

 弾道軌道で落下していく物体がリヒテンラーデに迫る。さすがにコーネフは正確に狙いをつけていた。

 だが、リヒテンラーデは難なく迎撃に成功する。

 破壊魔法を放ち、物体が辿り着く前に見事に当てた。この距離ではそれも難しくない。結果的に物体は砕け、幾つかの破片となる。

 

「笑止な。そんなもので儂を攻撃とは甘いのう。ん、何じゃこれは!」

 

 物体は確かに砕けたが、そこから粘度の高い物体になって空中に四散した。なぜか液体のようなものが中に入っていたようだ。ここでリヒテンラーデは一瞬、中に強酸か毒でも仕込まれていたのかと思ってヒヤリとした。途中で壊されることを見越しての攻撃なのか。

 しかし、結果的にそれは少しもリヒテンラーデにかかることはなく、ただ雫となって落ちただけだ。物体が破壊されたのはリヒテンラーデから充分遠く、何の意味もない。

 それを見て再びリヒテンラーデは余裕の笑いを浮かべた。

 

 

 だが、反応は意外なところで起きていた。

 その様子を見ていたドラゴンの数匹がピクリと反応した。

 

 人間ではないので表情は分からないが、驚き、そして怒りがあるようだ。

 そして一瞬おいて大音量で咆哮を上げた。

 その咆哮は不思議にも次々にドラゴン達に連鎖していく。ドラゴン達はたちまち狂騒状態に陥った。

 

 その様子を見て、ヤンは作戦の成功を確信した。

 安堵のため息をつき、メルカッツに説明の続きをしていった。

 

「作戦はいたって単純なことなんです。あの物体はドラゴンの卵を模写して作った偽物です。ドラゴンはおそらく強大な種族なだけに繁殖力は低いんでしょう。そのため非常に卵を大事にするんです。三校対抗試合ではそれで苦労しました。ドラゴンは卵を守るためなら何でもしますからね」

「なるほど。だからコーネフにその偽物を敵の指揮官に向けて投げさせたのですか。そしてわざと破壊させるよう仕向けると。そうなれば、ドラゴンの目からはあたかも自分たちの卵を壊されたと見えるでしょうな」

 

 メルカッツは元の世界と同じように、魔術師ヤンの真骨頂を見た。そのヤンは戦術よりも悪戯に近い作戦をしたとばかりに茶目っ気たっぷりだ。

 

「あとはもう、ドラゴンは勝手に自滅するでしょう。お見事な作戦ですな、ヤン提督。またしても」

 

 リヒテンラーデはドラゴンたちの立て直しにやっきになっていたが、もうどうにもならない。

 

「な、これは一体どうしたのじゃ! これお前ら、暴れるな。儂の言うことを聞かぬか!」

 

 それどころかあっという間にドラゴンはリヒテンラーデを取り囲み、狂暴に吠え猛った。卵を壊されたと思い込んでいるドラゴンに理屈は通らない。

 次の瞬間、リヒテンラーデへ恐るべき火炎で攻撃した。さすがのリヒテンラーデも慌てて回避せざるを得ない。

 逆にあくまでリヒテンラーデに従おうとするドラゴンも少数ながら存在する。

 それらがとばっちりの火炎を当てられ、怒って報復をやり返す。

 

 空中に無数のビームが飛び交う。沢山のオレンジの線が描かれては消えていく。

 さながらドラゴン同士の戦争のようになり、火炎だけに収まらずドラゴンは爪や体当たりを使って互いに攻撃している。

 

 

 ドラゴン部隊は魔術師ヤンの機略の前に自滅した。

 傷ついたドラゴンがバタバタと墜落していく。

 

「チッ、使えぬ畜生どもが!」

 

 もはやこれ以上打つ手もなく、リヒテンラーデは要らぬ一言を言って撤退にかかった。作戦継続を断念し転移魔法を使って離脱を図る。

 もちろんそれもまた指揮官としての最良な判断だが、惜しむらくは一瞬遅かった。

 

 オレンジの火炎が一筋、転移魔法で姿が薄くなり始めるリヒテンラーデに直撃してしまう。それは最悪のタイミングだ。完全に転移は終わっておらず、しかし防護魔法も張れない状態である。

 

「ひぎゃアーーー!」

 

 尾を引く悲鳴を残しリヒテンラーデは消えた。

 しかしその一瞬後、近くの空中に再び出てきた。転移魔法が半端に終わり、目的地のはるか手前で出てきたのだ。

 そこからゆっくり墜落していく。

 遠目に見てももう消し炭のように焦げて、ドラゴンの火炎によって既に死体に変えらえたことは明白だ。

 

 空中からの攻撃はこれでヤンらの勝利に終わった。

 

 

 

 だがそんなことはルドルフにとって小さなことだった。

 その頃、ルドルフは余裕をもって戦略を実行していたのだ!

 

 ルドルフの目的はただ一つしかない。

 魔法省地下に到達し、そこにある魔法の根源を手に入れることである。それで全ての覇権を握れるのだ。

 それを実現するため、ここに一人の協力者がいる。

 小太りで背が低く、脂ぎった姿だ。何やら自信ありげな笑みを浮かべている。

 

「魔法陣出力安定!」

「第一から第八まで同期完了!」

 

 手下であろう死喰い人から報告を受けて更に指示を飛ばす。

 

「よし、魔法力充填、80%以上を維持。目標確認、座標軸固定!」

 

 その者はルドルフに向き直って告げる。

 

「大帝陛下、大規模転移魔法、準備整いました」

「そうか。ご苦労であった。これで魔法省地下に突入できるのだな」

「そうです陛下。この技術を用いれば、ポートキーのような受け入れ装置がなくとも、一度にどんな人数でも、そしてどこにでも転移できるのです。今の目標は魔法省内部、古来から張られた結界はとても強く、建物の隅々にまで染み透っている場所。普通なら転移などとうてい不可能なところでしょうな。しかし、これであれば結界すら紙のように破ることが可能に」

 

「これで一気に勝てるか。面白い。面白いぞ、シャフトよ」 

 

 

 

 

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