ハリー・ポッターと帝国元帥   作:おゆ

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第四十九話 思わぬ妨害

 

 

 一方、魔法省外部に残されたブラウンシュバイクは自分の役割を分かっている。

 自分の配下の魔物はゴブリンや狼だ。一匹一匹はそう強くないかもしれない。しかしその数は多く、しっかり群れを統率すれば大きな力になる。それで敵の戦力を削り取っていくのだ。

 

「数も機動力もあるが、決定的な打撃力には乏しいな。戦術としてはいわゆる亜急戦スタイルを取るのがこの特性に最も合うやり方だろう。攻め込みは鋭く、掻き切る。しかし全体として急がず、繰り返しながら時間をかけて相手を弱らせる。本当なら部隊を細かく編成して入れ替わりながら攻撃していきたいが、信頼できる下級指揮官が居ないのが辛い」

 

 そんなことを言いながら、最適の布陣を作り上げていく。

 さすがにルドルフ大帝のゴールデンバウム王朝を盤石にした銀河帝国軍第二艦隊司令である。かつて、帝政初期に反抗して蜂起してきた共和主義者どもを幾度となく討ち平らげて、決してオーディンに近寄らせることはなかった。

 この世界の戦いは艦を使うものではないが、遺憾なくその才を発揮している。

 

 

 だが、自信を持って攻めかかるもその都度跳ね返されてしまうではないか。

 仕掛けていく途中まで抵抗は弱いが、しかし最後に激しく反発を受ける。魔法の弾幕が急に濃密になるのだ。それは退く時にまで続き、損害は無視できない。

 それはたまたまではない。

 相手はそれを狙ってやっている。こちらの波状攻撃を読んで、逆に利用しているのだ。

 

「敵は攻守にバランスがいい。なかなかやるな。面白い、この前森で戦った奴かもな」

 

 その通りだった。魔法学校の生徒らを率い、相手をしているのはオスカー・フォン・ロイエンタール、新銀河帝国の双璧である。

 

「では戦術の変更だ。犠牲は多くなり、最悪軍団は消失するかもしれないが奴を斃せばお釣りがくる」

 

 ブラウンシュバイクは決してロイエンタールを侮らず、戦術を迷うことなく変えて一気に突撃をかけた。一角を突き崩せば、戦いに慣れていない魔法学校の生徒らは浮足立つだろう。乱戦になってしまえばロイエンタールを討ち取れると計算したのだ。

 あっという間に紡錘陣形に変え、ためらいなく突撃していく。

 

 しかしこれも読まれている!

 突入寸前、さっと避けられ、そればかりか横撃を受ける始末だ。

 だがそんなことで動揺するようなブラウンシュバイクではない。

 

「いや、勝機が失われたわけではない。これは逆に乱戦を恐れている証拠だ。つまり充分な戦力がないのだろう。急速運動で巻き込んでくれる!」

 

 回旋運動をかけながら隊を分散させた。ほとんどゼロ距離まで近づいていたため目論見通り乱戦になる。

 

 防御側の指揮をとっていたロイエンタールもこの鮮やかさには驚かざるを得ない。

 

「これは凄いな。始祖のブラウンシュバイク、昔の双璧とやらもなかなかやる。だが乱戦で指揮官が討ち取られるというのも古今東西よくある話だ」

 

 指揮官をどうにかすれば勝てると踏んでいたのはブラウンシュバイクもロイエンタールも同じだった。

 ロイエンタールはブラウンシュバイクを探し求め、ついに見出す。

 邪魔をする狼などを打ち倒しながら、そこへ向かって一直線に進む。

 

 それを見据えブラウンシュバイクも逃げない。

 互いの目論見は一致している

 戦術戦のステージは終わり、ここに一対一の魔法決闘が始まった。

 

 

「俺も結局は個人技とはな。この場合、背中を預けるミッターマイヤーがいないのはちと寂しいが」

「銀河帝国を斃した不埒者の手下、貴様もそう言いながら仕掛けるのだから自信があるのだろう。お互い、指揮官が倒れれば負けだ。ではさっさと決着をつけよう」

 

 軌跡を描いて飛び交う。見た目に美しい光の筋だが、それぞれが必殺の魔法だ。

 撃ち、躱し、また撃つ。

 間合いに踏み込み、また外す。

 実力者同士、互いに渾身の魔法を繰り出して戦う。簡単には決着が付きそうにもないと思われた。

 

 だが、ここで二人の他に動いた者がいる。元からブラウンシュバイクの陣にいたのだが、なぜかブラウンシュバイクの背後に回り込むではないか。

 その者は小さく振りかぶり、ブラウンシュバイクに向かって攻撃魔法を撃ちかけた!

 

「な……」

 

 ロイエンタールばかりを見据えていため、ブラウンシュバイクはその気配を感じることはできなかった。背中を撃たれる。

 それだけなら致命傷ではなかったろう。

 しかし、直後に襲ってきたロイエンタールの攻撃魔法を躱せなかったのだ。それは見事に当たり、ブラウンシュバイクは膝から崩れ落ちた。

 

 ロイエンタールも思わぬことに驚き攻撃を直ちに止めるのだが、最後の一撃だけはその前に放っていた。

 

 

「この武人の勝負に土足で踏み込むとは、痴れ者が!」

 

 ブラウンシュバイクは残った最後の力を振り絞り、片膝のまま振り返りロイエンタールではなく決闘の妨害者へ撃つ。

 

「決闘を邪魔されたことは俺も無念だ。ブラウンシュバイク、お前は強かった。何か言い残すことはないか」

 

 ロイエンタールも武人、堂々たる勝負を邪魔された怒りがある。つまらないことで決着がついたのは残念極まる。ブラウンシュバイクが致命傷を負ってしまった今、逆に同情する気持ちに変わっていく。

 

「無い。ルドルフ大帝陛下に二度も仕えられて満足だったぞ。戦いでも特に最後の決闘は面白かった。相手が貴様だからこそ、本当に良かった。感謝する」

 

 そこでブラウンシュバイクは口から血をこぼし、今度こそ倒れ伏した。

 

「ああ、そうだ、伝えられたら伝えてほしいこともある。リッテンハイムの奴に、これからはワインを俺の分まで飲めと……」

 

 言葉はそこまでだ。安らかな顔のまま息を引き取る。

 

 

「や、やったのかっ、ブラウンシュバイクを!」

 

 この言葉は先の卑怯者の言葉だ。

 ブラウンシュバイクに撃たれて倒れたが、そこから顔だけ上げて見ていたのだ。

 

「俺はクロプシュトック侯爵! あのブラウンシュバイクを今度こそ……」

「クロプシュトック? あの爆破テロを起こしたクロプシュトックが、なぜここに……」

 

 その名をロイエンタールは知っている。銀河帝国でも珍しいダンスパーティー中のテロ事件の犯人だ。ロイエンタールは貴族に対しあまり良い感情はないが、それでもこのテロには憤りを感じている。その場には、いけ好かない貴族ばかりでなく見目麗しい婦人や幼い令嬢までいたのだ。その日の社交界デビューを心待ちにして、胸躍らせて参加した令嬢が無念の内に斃れたかもしれないではないか。

 

 それは、ブラウンシュバイクとどんな因縁があろうとも赦されることではない。

 

 ロイエンタールはクロプシュトックを攻撃魔法で永遠に沈黙させた。

 本来なら倒れている者を攻撃するロイエンタールではない。しかし、この場合は別だ。前の世界の罪に加えて、今、卑怯な手で武人同士の決闘を汚した罪を赦すことはしない。しかも横やりを入れた原因は、何かの信条を背負ったり、忠義などとは全く関係がない。つまらない私怨ではないか。

 

 結果的にルドルフの戦力の一角が崩れた。

 

 だが掃討戦をしている場合ではなく、ロイエンタールは素早く魔法省内部に駆け込む。むろんラインハルトを支援するためだ。

 

 

 

 魔法省の外部の戦いは、しかし別のところでも続いている。

 リッテンハイムが吸血鬼を率いて激しく防御側を攻め立てているのだ。ゴールデンバウム王朝設立期、ルドルフの持つ帝国艦隊、その第三艦隊司令長官の任にあった才を遺憾なく発揮している。

 その特徴は息をもつかせぬ攻勢だ。吸血鬼たちは目まぐるしく機動力を発揮している。

 

 そこに対峙しているのはキルヒアイスである。

 生徒たちを鼓舞し、慌てさせず、陣形をコンパクトに堅持している。それもまた非常な才だ。

 しかしリッテンハイムにはまだ隠し玉があった。

 

「よし、頃合いだ。とっておきの戦力を出そう。これでどうだ」

 

 タイミングを計り、新たな戦力を加えた。

 手を動かして指示すると、薄い影が上空からやってくる。

 それは10体ものディメンターだった。

 これは魔法使いにとっては強敵、守護霊を出さなくては対抗できない。絶対に近付けさせてはならない者たちだ。わずかな油断で近付けば、魂を吸い取られ、一巻の終わりになる。

 

「パトローナム! 守護霊よ来たれ!」

 

 この困難な事態にも生徒たちは落ち着いて対処できた。しかし、誰かが守護霊を出し続けなくてはならない以上、その人手の分だけ戦力は確実に落ちる。リッテンハイムは防御陣が弱体化し、どこかに破れ目ができると踏んでこの手を打ったのだ。

 

 キルヒアイスの努力に関わらず、リッテンハイムの目を誤魔化しきることはできなかった。防御陣の乱れを掴み、此処が勝機と見たリッテンハイムは更なる猛攻を加える。

 

 

 

 

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